アフテンスラット皇国 嘆きの雫編
◼️ 豊明無双
「ダハハハハ、おらおらおらおら」
笑いながら走るスピードを落とさない。
「なんだって、豊明さんは倒れないんだ?」
「スキルじゃ無いかって、ハルにゃんが言ってる」
これまでの深刻さが嘘のようで、和田は半笑いだ。
ゴーレムが触れると倒れ込むのは、何かしらの干渉が起こっている、そう大賢者が予想しているという事だった。
豊明だけ大丈夫ということは、その可能性は大きい。
「葉山は倒れてる仲間を見ててくれ、てる美は念のため隠密で一緒に豊明さんを追うぞ」
豊明を追って走り出す和田達。
豊明の背中が見えてきた。
その先に一際大きな鍾乳石が天井から下がり、先端には雫が溜まっている。
雫の下には、ちょうど洗面器ほどの窪みがあり、彫刻のような飾り見える。
明らかに何者かの手が加わっていた。
その窪みに取り付いた豊明は、ゴーレムを掴んだまま雫を手で掻き出している。
じゃぶじゃぶと掻き出すと、底が見えてくる。
キラリと光るビー玉のようなものが出てきた。
「たぶん、これなんですぞ!」
── バリバリッ
そのビー玉のような玉を取り出すと、思い切り踏みつけた途端、音を立てて砕け散る。
すると、豊明を掴んでいたゴーレムがどさりと落ちる。
「豊明さん! なんでわかったんですか!」
後から追いついた和田が、息を切らしながら笑う。
「いやー、その雫に近寄ろうとすると、ゴーレムがグイグイ力を入れてきたから、確信したんですぞ!」
隠密を解いた長野も姿を現す。
「ほんとに、頼もしい先輩ですこと」
しかし、肝心の雫はほとんど掻き出されてしまった。
「溜まるまで、しばらく待たないとな」
「まあ、疲れたし、みんなも休んだほうがいいですぞ!」
そう話していると、バストールを始め倒れていた仲間がやってきた。
「小僧、いったいどうなった? 最初に”時の門番”を破壊したところから、全く覚えてないぞ……」
バストールの言葉に、他の倒れていた仲間も頷いている。
「あれだけやったのに、覚えてないのか。ゴーレムに触られたらみんな倒れていって……」
これまでの経緯を和田がみんなに説明した。
「いずれにしろ、そんなところにコアがあるとはな、俺には全く想像もつかんな」
バストールがしみじみと語る。
「雫が回収できるほど溜まるのは、もうしばらくだな。それまで休憩だ」
── ピィィィィン
和田がそこまで話したとき、耳鳴りのような音が鳴り響いた。
気が付くと、洞窟から満点の星空へと変わり、焚火がパチパチと音を立てている。
焚火の前には、子供が一人座っている。
薪を折ると焚火に投げ入れる。
「あ、あの子って… 私に力を与えてくれた子だわ。なにか変ね、前は光っていたのだけど」
長野が疑問を口にする。
その子供は真っ黒なオーラを纏っている。
「オマエ、ワダ…ジャマモノ」
子供が立ち上がって、和田のほうへ歩いてくる。
それと同時に、和田は体が金縛りのように動けなくなる。
そして、バタっと倒れる。
睨まれただけだった。
”時の門番”は包み込んできたが、ただ睨んだだけで同じ効果があるようだ。
バタバタと倒れていく。
「あの子じゃないの? 何をしてるのか知らないけど、みんなを守らなきゃ」
長野が和田をはじめ、仲間の顔を思い出す。
── シャキーン
金属的な音とともに、魔法陣のようなものが地面に浮かぶ。
くるくると光がめぐり、光が煙のように舞い上がる。
シャボンのような半球が、輝く魔法陣から全員を包み込む。
「ナンダ、ドウシテ?」
子供が長野をみて驚いている。
「こいつは……」
和田は動けるようなったと同時に、右手が光を帯びてくる。
右手にひっぱられるように、走り出す。
和田はよくわからないが、直感に従おうと決めた。
守りの半球を飛び出ると、右手で黒い子供に触れた。
ビクッとのけ反る子供。
「ウアアアアアアアアアッ」
叫んだ後に、ガクッと座り込んだ。
黒いオーラが少しずつ薄くなっていく。
■ 時の支配者
何が起こっているかわからないので、うかつに動けない。
みんなが子供に注目している。
そして、黒いオーラは消え失せ、今度は真っ白に光りだす。
光が強くなったそのとき、子供が立ち上がる。
「長野てる美さん、ひさしぶりだね。ごめんね、この前は時間がなくて名乗れなかったね。ぼくはウェス。時の支配者、らしいんだけどね。よくわからないんだ」
悲しそうな表情のウェス。
「時の支配者? どういうことなの?」
長野がウェスに語り掛ける。
「見たでしょ? 真っ黒なぼくを。あの力は、今和田さんの力で抑え込まれてるんだ。だから、あまり時間がないんだ。でも、説明しなきゃね」
頷いてウェスが語りだす。
この大陸がいつできたのかわからないが、そのはるか遠い昔のこと。
この洞窟でウェスは目覚めた。
連れてこられたのかもしれない。
母親も、友達も、どこにいったのだろうか。
なぜ、こんな洞窟に一人いるのだろうか?
わからないが、何をするのかはわかっていた。
いや、自然と頭の中に見えてきていた。
大きな巻物がごろりと転がって、羽のペンがサラサラと勝手に動いて、いつの間にか絵ができている。
絵は勝手に動き出し、映画でも見るように物語が展開する。
ウェスはそれを見ていた。
物語には主人公や正義の味方、そして悪役が必要なのだ。
それをウェスがちょんと触ると、思い通りのものが誕生した。
そうやって、物語を創ってきたのだという。
最初は面白くて、夢中で物語を作ってきたのだけど、ある日自分の家族のことや、友達のことを思い出す。
すると、頭が痛くなって何も考えられなくなって、すべてを忘れた。
そしてまた物語を創ることに没頭する。
どれだけ時間を物語を創ることと、昔のことを思い出すことの繰り返すことに費やしたか?
ウェスはとても怖くなった。
母親に会いたい、友達に会いたい、そう強く思ったのだった。
すると、するりと流れ落ちた。
なんだろう、辺りを見回すと、白く輝いている自分の手足が見えた。
そして、真っ黒な煙のようなものに包まれたもう一人の自分。
怖くなって白いウェスは逃げた。
物陰に隠れ、黒いウェスのことを見ていた。
黒いウェスは、ウェスガルガンの皇帝を作りだし、黒死教を作り出した。
そうやって、悪いものだけを創るようになってしまったのだ。
白いウェスは力が弱かった。
でも、やらなきゃいけない、そう思っていた。
力を振り絞って、何かを創った。
そのとき、白いウェスは大賢者の部屋の扉を開ける和田の姿を見た。
「そうなんだ、僕が君たちをこの世界に創ったんだ」
疲れ切ったような表情の白いウェス。
「大丈夫なの? とても疲れてるみたいだけど」
長野が心配そうに白いウェスに手を伸ばす。
「ありがとう、長野さん。でもね、ぼくに触れてはだめだよ。うん、それに急いだほうがいい。黒いウェスをずっと抑えておけないんだ」
そういうと、白いウェスが小さいビンを手渡す。
「このビンに”時の雫”を入れたらいいよ。呪いはかからないからね」
長野がビンを受け取る。
「早く行くんだ。ぼくたちはここを出られないし、きみたちの時を止めることはできるけど、それ以上のことはできないから安心して」
長野はビンを持ったまま立ち止まっている。
「あなたを助けたいと思うんだけど、どうすればいいの?」
「ありがとう、きみは優しいんだね。でも、大丈夫だから、きみたちのおかけで、ぼくも力を取り戻したから」
── 白いウェスが手を振っていた
「一つだけお願い。どうかウェスガルガンを……」
── ピィィィィン
最後に白いウェスが悲しそうな顔をしていた。
ウェスガルガンを倒してくれ、そう言いたかったんだろうか?
だが、耳鳴りのような高い音が聞こえ、洞窟へ戻っていた。
「よし、雫を汲んで帰ろう!」
和田がいつまでも立ち尽くす長野を促し歩き出す。
「和田くん! 急がなければ、コアが復元してきている! ゴーレムが復活する前に出るんですぞ!」
雫の溜まる部分を確認していた豊明が叫ぶ。
長野の手を取ると、和田は走り出した。
本作品の世界観や設定の補足情報、登場人物についてまとめました。
あれ、これなんだっけ、誰だっけ、そのようなときにご覧ください。
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