アフテンスラット皇国 邪神の鼓動編
■ マズルフの自信
── バフッ、シュゥゥゥゥゥゥッ、ドドドドォォォォン
定期的に凄まじい斬撃が襲っていた。
その都度、数人の信徒たちが舞い上がり吹き飛んだ。
「おのれ、ドワーフめ! 大賢者がすべての元凶だ!」
マズルフがギリギリと歯を嚙み鳴らす。
「猊下、ここは我々が食い止めますので、どうか退いてくださいませ」
残り少なくなった信徒が言い残し駆け出して行く。
「ふん、ここで退けるわけがなかろう。このマズルフ、負けると思っておらん。おぬしらとは力が違うのだ。せいぜい奴らを疲れさせろ…」
誰に言うともなく、苦々しくマズルフが吐き捨てる。
マズルフは信徒たちを冷ややかに見つめていた。
── シュゥゥゥゥゥゥッ、ドドドドォォォォン
次の斬撃で、残っていた信徒たちが全て吹き飛んだ。
独りになったマズルフは、微動だにせずに仁王立ちとなっている。
濃密な霧がねっとりと絡みついてくるのが鬱陶しい。
掴めそうな濃い霧がゆらゆらと揺れ、誰か歩いてくるのが見える。
ゆっくりと歩み出る人物は、ウォーハンマーを肩に担いでいる。
「よぉ、お前が黒死教の頭か? え?」
バストールの目がすっと細められ、鋭い視線をマズルフに送る。
「ふん、ドワーフ風情がっ!」
マズルフの豪華なフードには汚れもなく、優雅に振る舞う風で毒づいてくる。
「ドワーフだが!? それが何か?」
そういうと、バストールがウォーハンマーを構える。
それが合図だったとでもいうように、マズルフは地面に飛び込んだ。
「え、なんだって!?」
遅れてやってきた和田が、まるでプールに飛び込むかのうように地面に飛び込んだマズルフに目を丸くしている。
「なるほどな、奴の自信はこれか? 地行術ってやつか、小僧もみんなも気を付けろ、どこから出てくるかわからんぞ!?」
バストールが辺りに注意を向ける。
「地行術? なんだそりゃ??」
「地面の中を自由に動き回る術さ」
── バスッ
いきなり和田達の後方からマズルフが飛び出す。
── ブゥゥゥゥン
マズルフの手から渦巻く闇のような球が飛んでくる。
── バシュッ、カラン
「な、なんだ、この玉重いぞ!」
和田が闇の玉を払おうを剣を突き出したのだが、剣に闇の玉が触れた途端、あまりの重さに剣を落としてしまう。
「ちぃ、こいつ面倒だな。重力弾かよ」
バストールが舌打ちしながら毒づく。
口元だけに笑みを浮かべるマズルフは、再度地面へと潜り込む。
── バスッ
先ほどと同じ場所からマズルフが現れる。
同じ場所から出ると思っておらず、また不意を突かれることになる。
── ブゥゥゥゥン
またもや重力弾が飛んでくるが、今度はバストールが打ち返す。
ただ、よほどの重力なのか弾き返しても、よろよろと飛んで消える。
それを見届けると、再度マズルフが地面へと消える。
「厄介だな…」
苛立つバストールが辺りを見回す。
辺りを沈黙が包む。
なかなか姿を現さないマズルフ。
流石に邪教の親玉として、心理的な隙を狙うのに長けているようだ。
── バスッ
和田やバストールの待ったく予想だにしない箇所から出現するマズルフ。
── ブシュッ
重力弾を出そうとしていたところ、マズルフの右のつま先に矢が刺さる。
地面につま先が縫い付けられている。
「この距離なら外さないわよ!」
弓を構える長野が姿を現す。
── ブシュッ、ブシュッ、ブシュッ
次々と矢が放たれ、肩や腕、反対のつま先、足など、面白いように矢が刺さる。
粘り強く射程距離に入る時を、隠密で機会を待っていたのだった。
「よし、ナイスだ、てる美! だが、致命傷は避けてくれよ」
和田がマズルフに駆け寄る。
先に走り出したバストールが思い切り振りかぶっている。
「てめぇだけは許さねぇ!」
「待て、バストール、手加減しろよ?」
── ドゴォッ
和田が叫ぶが、バストールの一撃がマズルフの顔面にヒットする。
「マジか、凄い音したぞ? 頼むぜバストールさんよ、情報聞かなきゃ…」
マズルフの鼻血が噴出し、顔が紫色になってきている。
だが、ゲホゲホと血を吐き出し、なんとか起き上がる。
「ふん、忌々しい奴らよ」
マズルフは忌々しそうに横を向くと、ペッ、と血の混じる唾を吐く。
顔だけ見ると、ゾンビさながらの崩れっぷりだ。
だが、もう反抗する状況では無くなったことは確かだ。
「あんた"嘆きの雫"の情報もってるんだろう? 吐いてもらうぞ?」
和田が静かに、だが威圧の籠った声で聴く。
「ハハハハハハハ、もちろん教えるとも!」
マズルフは嬉しくてたまらない、そんな感じで答える。
その反応に、和田とバストールが顔を見合わせ困惑する。
そこへ、豊明をはじめ後衛の面々が合流する。
「苦労してここまできたようだが、"嘆きの雫"は手に入らんぞ?」
崩れた紫色の顔でニタニタ笑う。
あまりにも凄惨な微笑みだ。
「フフフ、”嘆きの雫”は”時の雫”の呪いの無い完全なる雫なのだ。お前らに完全な雫を抽出するなど不可能、大賢者は寿命を迎え朽ち果てるのみ」
── ウハハハハハハハハハ
してやったり、そう高らかに笑うマズルフだった。
「なんだ、そうなのか。うん、それって知ってた」
ピタリと笑いを止めるマズルフ。
「なんだと、ど、どういうことだ!?」
マズルフは明らかに狼狽している。
「いや、大賢者さんが多分そうだろうって、聞いてたからな。驚きもないな」
和田がどうでもよいといった感じで吐き捨てる。
「で、それ以外になんか情報ないのか? そうしないと、あのドワーフさんが怖いよぉ? ほら、見なよ」
和田が顎でバストールのほうをしゃくる。
「もうよ、この拳をまた叩き込みたくてよ、ウズウズしてるんだわ」
手を握ったり開いたり、拳を摩ったりと、バストールが落ち着かない。
■ 邪神の鼓動
「なんということだ、くそ、どこまで私を……」
マズルフは下を向いてブツブツ言いながら震えだした。
和田もバストールも警戒に入る。
突然マズルフがいきなり両手を上げる。
そして、声高に叫び声をあげる。
「あぁぁぁぁぁぁ、この身を、この身をぉ、ドグマガガル様へ捧げます!」
叫び終わると、懐から何かを取り出し口に含む。
数秒の沈黙があり、ガタガタと震えだすマズルフ。
唐突に身体中から血が噴き出す。
やがて、全身が赤い霞に包まれ、徐々にどす黒く変色していく。
どす黒い靄は、次第に頭のほうへ移動する。
徐々に大きくなる暗黒の霞。
ゆらゆらと揺れながら回っていたが、突然空へと舞い上がった。
それと同時にマズルフが倒れる。
周囲の濃霧を吹き飛ばし、一直線に登っていく。
そして、ウェスガルガン帝国の方向へと飛んで行った。
一同は呆気にとられ、飛び去った黒い靄を見つめていた。
どれくらい時間が経ったのだろう?
長い時間が経過したように感じられたが、実際には数分にも満たないだろう。
やがて、足元からガタガタと揺れを感じていた。
徐々に揺れは大きくなり、立っていられないほどの揺れになっていた。
マズルフの異様な行動のあとだけに、何らかの関連性を感じずにはいられない。
ドグマガガルとは何なのか?
濃霧に覆われていた”常夜の平原”に突風が吹いてきた。
乾ききったマズルフの身体は、風に乗って散っていった。
マズルフが何を飲み込んだのがしらないが、どうやら死霊となっていたようだ。
パタパタと揺れる豪奢なマントだけが、かつて黒死教という邪教が存在していた唯一の証となった。
本作品の世界観や設定の補足情報、登場人物についてまとめました。
あれ、これなんだっけ、誰だっけ、そのようなときにご覧ください。
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