アフテンスラット皇国 マズルフ狂乱編
■ 仲間への想い
「ウオォォォォォォォッ!」
バストールの雄叫びが響き渡り、ウォーハンマーを中心に暴風が乱舞する。
「この一撃はユウノシンの一撃!」
── バフッ、シュゥゥゥゥゥゥッ、ドドドドォォォォン
特大の風魔法を帯びた一撃が繰り出され、着弾した辺りのフードが数人吹き飛んだ。
「この一撃はラーリニアの一撃!」
── バフッ、シュゥゥゥゥゥゥッ、ドゴォォォォン
先ほどと同じくらいの一撃がさらに数名のフードを吹き飛ばす。
「食らいやがれ! 満足とはいかんが、大分スッとしたぜ。二人のためにも、もっと盛大に行くからな。最後はお前らを壊滅させる!」
バストールが凄みのある笑顔を浮かべている。
それと対照的に、豪華なフードの男とその周囲は狼狽していた。
「マズルフ猊下、どうかお下がりください!」
「あれはもしや!? あの、ドワーフなのか?」
黒死教の最高権力者である、マズルフ自ら出向いてきていた。
周囲の信徒が慌てて前線から下げようとしている。
「やつは動くこともできなかったはずでは? く、そうか、エルダードラゴンが絡んでおったのか。理を断ち切られれば、感知することもできん…」
「マズルフ猊下、ここは危険です!」
百二十名揃えていた魔法に優れた信徒が、もう半分に減っていた。
バストールの出現が想定外であり、ここまでの破壊的な攻撃はないと安心していたのだ。
「お、おのれ許さんぞドワーフ、大賢者め!」
豪華なフードを翻し、マズルフが後ろへ走る。
「あと少しでよい、者ども時を稼げ!」
走りながらさらに指示を出すマズルフ。
その間にも、バストールの斬撃が襲い掛かっている。
その言葉に、残り少なくなった信徒が集まり呪文を唱える。
結界が構築され、信徒の周囲に深い闇が形成される。
「闇の結界はそこまで持たんな、急ぎ召喚せねば…」
マズルフは何事か呪文を呟くと、空に向けて闇の玉を飛ばした。
ウェスガルガン方向へ凄まじい速度で飛び去る闇の玉。
── ドゴォォォォン
闇の結界がバストールの斬撃をなんとか凌いでいる。
だが、結界を展開する術者が、フラフラしていた。
「マズルフ猊下、もう結界が持ちません!」
限界が近いようだった。
空を注視していたマズルフが、少しだけ安堵した様子を見せる。
「でかした、間に合ったようだな」
黒い塊のようなものが、空に点々と表れている。
「ちっ、結界張りやがったから、なかなか崩せんな…」
いっぽうで、斬撃を打ち込んでいたバストールだが、さすがに疲れてきていた。
そこに索敵に出ている長野が前線へ現れる。
「空から何か来るわよ! 気を付けて!」
その報告を入れると、再び隠密に入って長野が消える。
長野には継続して索敵の指示が出ていたためだ。
「おい、バストールさんよ、あれなんだ?」
「ん? おいおい、ありゃ飛竜じゃねぇか?」
和田の指さす先を見たバストールが答える。
「この平原じゃ、かなり不利だぞ。俺らは逃げ場が無いが、奴らは狙い放題だからな」
バストールが少し思案する。
「小僧、ここは癪だが、一旦下がるぞ」
バストールの行動は迅速だ、退くときは直ぐに退く。
百戦錬磨の経験からくる行動なのだろう。
■ 飛竜来襲
── キィィィィッ
一転、和田達は守勢に回ることとなる。
絶え間なく襲来するワイバーンに翻弄されていた。
ワイバーンが五十匹は飛んでおり、空を埋め尽くすように見える。
素早いことこの上なく、高度もあるため矢も届かず、魔法も当たらない。
バストールは独り壁を出て、なんとかワイバーンを落とそうと奮戦している。
だが、バストールの攻撃も当たらず、傷が増えていくだけであった。
── キィィィィッ
── ガシュッ
ついにバストールの肩口に、ワイバーンの爪が食い込んだ。
鮮血が噴き出すバストール。
すかさず和田が壁から飛び出て、バストールを壁の内側へ引っ張り込む。
「タエちゃん、バストールにヒール頼む!」
必死の形相で和田が叫ぶ。
増山のヒールが発動し、バストールの傷が治癒していく。
── ワイバーンの猛攻で流れが変わった
「まあ、これでは奴らも手も足も出んわ! この平原を選んだからには、最適な攻撃方法を用意しておかんとな」
「さすがはマズルフ猊下!」
満足そうに笑うマズルフに、信徒も安堵の表情を浮かべている。
「よし、やつらの壁もワイバーンが崩してくれよう。残りの術者を集めておけ、壁が崩れたら魔法を打ち込んでくれよう!」
── ワイバーンの来襲に、葉山が動いた
壁から少し這い出して、ワイバーンの一匹にテイムを試みる葉山。
精神を集中するが、ワイバーンは呼びかけに応えない。
どうやら精神を操作されているようだ。
「これはダメにゃ!」
── ギィィィィ
壁に戻ろうとした葉山にワイバーンが襲い掛かってきた。
── ロークス連邦北部の海で、ホストルとホストラーダが帰還中
和田達とソルの港で別れた後、ファディの訓練を実施していたのだった。
ロークス連邦近海だと、海流の流れや荒れ具合が厳しいため、南の穏やかな海を選んで訓練をしていた。
獲物との戦い方など、ファディに見せながら訓練し終えた一行は、ロークス連邦への帰路となる航海をしていた。
(ザルツはなんだか浮かない顔をしているわね)
ホストルはそんな風に見ていた。
もちろん、理由には心当たりがあったわけだが。
ただ、葉山とのような完全なコミュニケーションは取れないので、いつもホストルはザルツを眺めているだけだった。
そんな時だった。
急にホストルの心がざわついた。
ホストルが海面に出て”止まる”の合図を送る。
合図を受け取ったホストラーダが帆を畳んで速度を落とす。
ホストルとザルツは意思疎通はできないが、簡単な合図は決めてあった。
(どうしたのかしら? これは…懐かしき子に危機が迫っているようね…)
ホストルが葉山の心に同調し、詳細を探っている。
(ワイバーンに襲われているようね。下等な種族が我が友に傷を付けることなど許さないわ)
ホストルがさらに深い集中に入る。
── 襲われる寸前の葉山
(しっかりしないさい、懐かしき子よ! あなたは誇り高き海龍の友。下等なワイバーンなど、退けてしまいましょう。さあ、立つのです)
(え、ホストル!? どうして!?)
(あなたのことはわかると伝えたはずです。これから海龍の加護を与えましょう。もう何も心配はいらないのですよ)
その言葉が終わるや、葉山の身体が金色に光輝く。
襲い掛かろうとしていたワイバーンは、慌てて飛び去った。
葉山の光は強くなると同時に、空に急速に暗雲が立ち込める。
暗雲のあちこちで、チラチラと稲光が見える。
── ドドドドォォォォン
いきなり、雷鳴が轟く。
その瞬間に数匹のワイバーンが雷に打たれ落ちてゆく。
明らかにパニックに陥るワイバーンたち。
さらに、葉山からあふれる神々しい海龍のオーラに気圧されている。
シーサーペントは上位の種族であり、ワイバーンなどはとても敵うような力はない。
力の差は歴然で、上位の龍種族に逆らうものはいないのだった。
── ギィィィィ
ワイバーンが少しずつ離脱していく。
── ドドドドォォォォン
雷鳴も轟いて、ワイバーンが雷に撃たれ行く。
そうこうしているうちに、すべてのワイバーンが逃げ散っていった。
「マズルフ猊下! これはいったい!?」
「……」
信徒の言葉に言葉も発せず、マズルフは茫然と空を眺めている。
── 雷鳴に驚く和田達
雷鳴が激しいため、壁に隠れていたが、恐る恐る顔を出す和田。
光り輝く葉山が見えるが、何が起こっているのか全く理解できない。
(懐かしき子よ。さあ、これで大丈夫ですよ)
(ホストル! ありがとにゃ!!)
葉山は見えるはずもないのだが、ちゃんとロークス連邦のホストルのほうを向いて微笑んでいた。
和田以外の他の面々も、恐る恐る壁を出てきていた。
「ホストルが助けてくれたにゃ!」
出てきた和田達に、葉山が満面の笑みでドヤ顔していた。
「まあ、凄いんだけど、冷静に考えると葉山の力じゃないよな?」
「ちょっと和田にゃん、いつも私に厳しくない?」
ワイバーンの襲来を退け、みんなの顔にも余裕が戻っている。
「さて、最後の仕上げと行こうか!?」
バストールがウォーハンマーを肩に掛けて歩き出していた。
本作品の世界観や設定の補足情報、登場人物についてまとめました。
あれ、これなんだっけ、誰だっけ、そのようなときにご覧ください。
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