アフテンスラット皇国 入国編
◼️ 入国審査
「和田にゃん、これ何時間待つにゃ!」
「…」
焦れる葉山に何回も聞かれた質問に、和田も何度も答えていたが遂に諦めて無言になる。
アフテンスラット皇国の東側のアブデフの街で、かれこれ二時間ほど列に並んでいた。
「キミさん、ざっと確認してみたけど、多分あと三時間はかかるわよ」
「三時間!? いったい何があるんだろうな」
長野に行列の先など見てもらったのだが、和田の答えはうんざり感が込められていた。
なんでも、今年は六年に一度のアフテンスラット神皇の光臨の儀が開催されるということで、大陸の各地より信徒が集うとのことだ。
そのため、入国審査のために普段では考えられないほどの人が押し寄せ、大行列を作っていたのだった。
アフテンスラット皇国の国土はそこまで広くなく、周囲を山脈に囲まれた盆地の中に存在する。
山間の部分には、このように関所となる街が設けられ、山脈と街によって周囲から完全に隔離されているのだった。
黒死教やウェスガルガン帝国は、アフテンスラット教と反目しており、過去にはテロ行為も行われていた。
そういった経緯もあり、入国には審査が設けられている。
「入国しないと決着も付けられないからな…」
「ダハハハ、せっかちな和田くんにはつらいんですぞ」
ここまで快調に進んでいただけに、このブレーキに和田は苛立っていた。
「ダハハハ、それロンなのですぞ! リーチ、一発、メンタンピン、ドラドラ!」
豊明が外山の造形魔法で麻雀パイを作らせ、麻雀を打っていた。
雀卓も、もちろんお手製だ。
「ひぃ、豊っちは麻雀も恐ろしいでやんす!」
「ダハハハ、どれどれ、裏ドラは… 二枚乗って跳満ですぞ!」
跳満を振り込んだ外山は、頭を抱えている。
卓を囲んでいるのは、他はバストールと増山だ。
バストールは、揃えるだけで全く理解が及ばず、増山もバストールと同じ感じなようで、本当に暇つぶしという状況だ。
なんだかんだで、和田と葉山以外は楽しそうに暇つぶしをしていた。
── 四時間後
「疲れたなぁ…いったい何待ちだったんだろうな」
疲労困憊の和田がボヤく。
散々待たされたが、審査はあっけなく終わったのだ。
このような時の為に、イストリア国王からの依頼書を持参しており、ゴールドのギルド登録証と合わせると、人員数と顔をチラ見しただけで完了した。
これには裏があり、実は行列に並ぶところからアフテンスラットの諜報員による確認が入る。
怪しい者はその時点で目星がつけらていた。
「ガハハハ、まあこの先まだ待機があるからな」
既に入国経験のあるバストールが解説する。
指定された宿屋で、一日待機させられるのだという。
「大人しく一日待てば、ようやく国内に進めるって訳だ。まあ酒でも飲んで待つさ」
経験している分、バストールは余裕なものだ。
■ 情報収集
指定された宿の周囲から出ることはできず、基本は宿の中と宿にある食堂兼酒場で時間を過ごすこととなる。
昨晩宿入りしたので、結局は二晩泊まることとなっている。
情報収集も兼ねて、三組に分かれて酒場で食事をすることとした。
そのほうが、色々な噂など聞けると判断したためだ。
── なんでも、”常夜の平原”あたりで不気味な声が聞こえるらしい
── 黒死教が暴れてるって噂だぞ
── 黒い化け物が、ウェスガルガンのほうからいっぱい飛んできてるってさ
── 神皇様のお命を狙ってる輩が潜入したとか
本当かどうかはわからないが、やはり酒場では様々な噂が流れていた。
「やっぱり黒死教が動いてそうだな」
「ガハハハ、それは絶対に間違いないな!」
和田の言葉に、バストールが意気込んで応える。
「ようやく敵討ちだぜ。ユウノシンもラーリニアも、黒死教が絡んでるからな。自分の手で決着をつける。どれだけ思ってきたか…」
酒場から戻った後、どのような話が聞けたか確認すると、どの組からも同じような内容であった。
「ダハハハ、やはりどんな世界でも宗教関連は色々あるんですぞ!」
「まあ、そうですね。無宗教の俺にはよくわかないけど、戦争まで起きるんだし」
あっけらかんとした豊明に対し、和田が応える。
ただ、総合的に考えると”常夜の平原”で黒死教が待ち受けている、そういうことなのだろう。
解毒薬の最後の情報をただ教えるだけ、そんなことはあり得ない。
「明日は早めに行くぞ! だからもう寝る」
そういうと、バストールはさっさと部屋に籠った。
「まあ、そうだな。明日は早めに出よう。みんなも早めに休んでくれ」
和田の言葉で解散して、それぞれの部屋で休んだ。
── 翌朝
「おら、起きろ!」
バストールが各部屋を回り、全員を叩き起こす。
待機が解けたこともあり、早々に宿を引き払うつもりのようだ。
全員早めに休んだこともあり、すんなりと起きて準備に取り掛かる。
経路としては、アブデフを西に二日も走れば”常夜の平原”へとたどり着ける。
名前の由来としては、平原のすぐ後ろにある山脈へ湖を越えて吹いてくる風が当たり、濃霧が発生しやすいのだ。
「”常夜の平原”はな…」
一度訪れたことのあるバストールが説明をした。
晴れていることが少なく、かなりの頻度で濃霧が立ち込め、いつでも薄暗いことから付けられた名だ。
名前の通り、真っ暗でじっとりとした湿気もあり、かなり不気味な場所なのだった。
■ 待ち受ける者たち
それから邪魔が入ることなく、草原の中の一本道を爆走するTTタンク。
二日目に入っても、特にも問題はなかった。
道路状況は悪くなかったが、前方がどんよりと暗くなり濃霧が立ち込めているのが見える。
そろそろ何かが出てくる可能性はあるが、この状況では前方の確認が難しい。
外山からの報告で、前方の濃霧が発見されたところで停止した。
「これは…てる美、索敵を頼む。葉山もテイムで調べられればやってくれ」
すぐさま隠密からの索敵に入る長野と、周囲でテイム可能か確認する葉山。
── しばらくして長野が戻る
「キミさん、ここから十分くらいのところにいるわね。百人ほどいるわね」
かなりの人数を隠しもせず投入してきたということだ。
それとも、陽動で隠した勢力も他にあるのだろうか?
「和田にゃん、あんまり頭いいのがいなかったから、よく見えないけど、てるにゃんと同じことかにゃ。結構いるのが見える」
これで待ち受けているのが確実になった。
あとは、他に何か隠し玉があるかどうか、ということだろう。
「その規模からすると、本気で叩きにきてるな」
「ふん、俺がいる限り何人いようが関係ない!」
和田の言葉に、すでに走り出しそうなバストールが興奮している。
「てる美と葉山は、そのまま索敵を続けてくれ。あとは、バストールと俺が先に進む。豊明さん、後衛の指揮頼みます」
「ダハハハ、任せるんですぞ。タク、いつでも壁作れるようにな! タエさんは、先に祝福くだされ」
「わかってるでやんす」
黙ってうなずいた増山が、祝福を掛ける。
後衛の様子を見た和田とバストールが前進を開始した。
── 前線の和田とバストールの目に、薄っすらと人の塊が目に付く
「来たな愚か者どもが、ここが墓場と知れ!」
ズラリと並んだフードの信徒たちの一段後ろに、ひと際豪奢なフードの男が叫び手を振り下ろした。
並んだフードの信徒たちが、一斉に魔法の詠唱を始める。
魔法陣が煌めき、炎、氷、そして風の魔術が練られてゆく。
「トヨアケ、みんな魔法がくるぞ! 備えろ」
バストールが叫ぶ。
「タク、壁を早々に作っておけ。最大強度で二重にするようにな」
バストールの声に豊明が指示を入れる。
「任せるでやんす!」
── ズゴゴゴゴゴゥ
豊明、増山、外山、葉山の周りに壁がせりあがってくる。
経験を積んだ外山の造形魔法は、かなり強度が上がっている。
── グォォォォォ、ドス、ドス、ザザザザ
出来上がった壁に、炎や氷、風が同時に殺到する。
かなりの数が襲い掛かったが、楽々と壁が遮っている。
「ダハハハ、タク! でかした、いい感じですぞ」
壁の防御に満足した豊明も絶賛しているようだ。
後方の様子を確認したバストールがニヤリと笑う。
「待ってろよ、こいつを叩きこんでやるからよ」
バストールのウォーハンマがキラリと光ると、ハンマーを中心に風が起こる。
「じゃあ遠慮なく行くとしようか!」
うなりを上げるウォーハンマーが、高く振り上げられ、バストールが走り出していた。
本作品の世界観や設定の補足情報、登場人物についてまとめました。
あれ、これなんだっけ、誰だっけ、そのようなときにご覧ください。
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