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定年間近の左遷先が冒険者ギルドなんだが!?  作者: Jiru-man
第二部

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バストールの決意!?

挿絵(By みてみん)






■ 指輪


緑の月が夜空を幻想的に染めていた。

こんなにじっくりと夜空を見上げたことなんて、何年振りなんだろう?


常夜の平原までのルートの確認、嘆きの雫に関して議論は続いていた。


ある程度結論が出たところで、和田は独り外へ出て庭の階段に腰掛けていた。


「キミさん、隣いいかしら?」


確認を待たず長野が隣に腰掛ける。


「こっちの世界に来て、まだそんなに経ってないのに、何年もいるんじゃないかって、そんな風に思ったりしちゃった」


クスリと長野が笑う。


「まあ、そうだな、色んな事あったもんな」


和田も指輪を触りながら呟くように答える。


「ねぇ、”英雄の左手”って、どうしたらいいのかしら?」


「そうだな、俺もそこはあまり力になれない…あ、そうだこれ付けてみて。最初はさ、これを付けたときに色んな情報が降りてきたから」


和田は赤い大きな石のついた指輪を長野へ手渡す。


「これって、色んな事がわかるってことよね」


少し大きめのルビーを思わせる赤い石。

思い切ってはめてみる。


── ズン


長野の頭の先から、つま先まで衝撃が走る。

ぞわぞわと鳥肌が立ち、電流が流れるような衝撃。


── キーン


遠くから音が聞こえている。いや、耳鳴りなのだろうか?

目の前の和田が歪んで見えてきた。


はっと気が付くと、緑の月はなくなり、満天の星空にが見えた。

パチパチと焚火の音が聞こえ、焚火に薪を入れる後ろ姿が見える。


「あの…」


控えめに長野が声をかける。

ゆっくりと焚火に向かう背中がこちらを振り返る。


「やあ、やっと来たね。待ってたよ」


挿絵(By みてみん)


子供の声だったが、頭の先から足先まで真っ白な光に覆われていて、顔もよくわからない。


「待ってた? 私を?」

「うん、そうさ。君にどうしても伝えなきゃならないから」


相変わらず光に覆われた顔は、表情もわからない。

ただ、どこかホッとするような、安心感だけは感じられた。


「僕の力はとっても弱いけど、長野てる美さん、君ならちゃんとできるから。いいかい、行くよ」


── ビュン


光がひと際強くなり、光の矢のように鋭く尖った光の影が空高く舞い上がった。


「え、なんなの? これってどういう…」


長野が戸惑う間にも、光はぐんぐんと上昇し、やがて流れ星さながら尾を引いて落下してくる。


あまりの速さに、長野は一歩も動けない。


── シューン


落下してきた光が、長野の左手に吸い込まれる。

衝撃を覚悟したのだが、風すらも感じない。


音もなく、光は消えた。


だが、じわじわと左手に暖かさが感じられ、何か力が集中してくる、そんな感覚があった。


(うん、このまま左手を上に。そして、君が守りたい人を思い浮かべるんだ!)


言われるがまま長野が左手を上にあげる。


── キミさん、タエさん、タク君、レイちゃん、豊明さん、そして大賢者さん


言われるがままに、全員の顔を思い浮かべる。


── シャキーン


金属的な音とともに、魔法陣のようなものが地面に浮かぶ。

くるくると光がめぐり、光が煙のように舞い上がる。


速度がどんどん増していき、長野を中心として半球の光が包み込む。


まるでシャボン玉のような、虹色の光沢を帯びた光の半球だった。


(うん、いいよ! これはかなりいい。僕の力を長野てる美、あなたに託します)


心に直接響いてくる声に、長野はハッとして応える。


「ねえ、あなたはいったい誰なの?」


(まあ言ってもわからないだろうけど、僕は悪いもの。すごく悪いものの残りカスみたいなもんさ)


「悪いもの?」


(僕は悪くないけど、僕が生まれたのは悪いものからなんだ。ごめんね、もう僕は力がなくなっちゃった…)


「ちょっと、まってよ。どうすればいいのよ」


(本当にごめんね。でも僕はあなたと一緒だから…)

(じゃあ、頼んだから… )


「おい、てる美、どうしたんだって?」


── 気が付くと、和田が長野の肩を揺すっている


「あ、え、私は… あの子は?」

「急に黙ったと思ったら、うんうんとうなされてるし、もしかして寝てたのか?」


── 長野が白い子供とのやり取りを説明する


「なるほどな。俺の時と似てるかもな。俺もユウノシンが色々教えてくれたしな」


「そうなの? でも、教えてくれたって感じでは無いのよね。大丈夫なのかしら」


和田が心配そうに長野を覗き込む。


「本当に大丈夫なのか? なんか、顔赤いぞ?」

「だ、だ、大丈夫よ」


(もう、そんなに顔近づけるからだよ…)


「なあ、覚えてる? プラネタリウム前見たよな。これってさ、それよりも凄くないか?」


緑の月を見上げて、和田が呟く。


「ふふ、そうね。そんなこともあったわね」


「あのさ、もし、その指輪てる美がはめてても、みんな普通に話できるならさ。その、なんだ…」


和田が急に口籠る。


「ん? 指輪?」


指輪に長野がそっと指で触れる。


「それ、はめたままにしておいてくれるか?」

「え、そうなの?」


そっぽを向く和田。


「和田殿、やっとなんですね」


その声に振り向くと、タエちゃんが久しぶりのサムズアップを長野へ返していた。


「その指輪、あ、こっちの世界でかなり形変わってますけど、和田殿がてる美さんのために買ったみたいですよ」


その言葉に、あたふたする和田と、顔真っ赤な長野。


「邪魔者は消えますね!」


そういうと、増山は拠点へ戻って行った。


目も合わせられない二人だったが、緑の月が二人を優しく包み込んでいた。


◼️ 祝福か呪いか


「おさらいするぞ、まずは距離を稼ぐ為にキレスジレドの砂漠までアポーツで飛ぶ」


ここ数日話し合って決めた内容を、和田が整理して行く。


キレスジレドの砂漠から北上し、ロークス連邦に入る。

ザルツが去り際にくれた通行証があるためだった。


ザルツが身元を保証する形の通行証となるため、旅の速度を考えるとウェガルガンへ入るよりは、ロークス連邦を通るという必然的な経路だった。


ロークス連邦を経て、最終の目的地アフテンスラット皇国の"常夜の平原"へと向かうこととする。


「経路については、この通りでいいかな?」


そこまで来たときに、独り立ち上がる影があった。


「俺も行く」


バストールの短いが低くなった声に、気迫が乗っている。


「あれ、バストールってこの国を出られないんじゃ…」


「ああ、だがもう関係ない。この状況で独り国で黙っているなど、できるわけがない」


バストールの握った拳に血管が浮き、ぷるぷると震えている。


「ハルにゃんが、なんで死に急ぐってさ…」


葉山がハルアットの言葉を代弁している。

その言葉に、和田が葉山の肩に手を置いた。


それが合図のように、皆が手をつなぐ。


「大賢者さん、それってどういうことか説明してくれよ」


和田がバストールに目を見据えたまま聞いた。


「うむ、ワシとバストールが”時の雫”の祝福を受けておることは知っておるな?」


大賢者/ワーラットへ一同が頷く。


「これは祝福と言っておるが、そもそもは”時の牢獄”での仕組みでな、”時の門番”が永遠に守護をするための仕組みじゃ」


足をとんと踏み鳴らすワーラットが、不思議とハルアットに見えるようだった。


「”時の門番”は定期的に”時の雫”を得る。だが、”時の牢獄”に魂を縛り付けられておる。それと同じで、ワシやバストールはイストリアで”時の雫”を使ったからな。イストリアに縛られておる」


大賢者/ワーラットが深くため息をつく。


「以前、少しだけ試してみたんじゃ。イストリアから少し離れてみた。三日目には意識が朦朧としてきたし、立ち上がることも困難じゃった」


── ダンッ


挿絵(By みてみん)


バストールが机を叩く。


「だからってな、この国でみんなの帰りを大人しく待てと? ユウノシンもラーリニアも…先に逝ってるんだ。そして、黒死教の奴らとやりあうってのに、お留守番だと?」


再度、大賢者/ワーラットが深くため息をつく。


「バストール、お主のことじゃ、何を言っても聞かんのだろうな」

「当然だろう? 何年の付き合いだ?」


バストールはどうあっても着いてくる、その覚悟であることはわかった。


「あの、今の話だと大賢者さんはどうなるんだ? すでに砂漠に出てるよな?」


和田が疑問をぶつける。


「うむ、恐らくだが、ワシの本体は死なない程度に生きておるな。祝福であり、呪いであるものが効いておるからじゃ。こっちのワーラットにおるのは、魂だけじゃ。あくまで対象は一つということだろう」


カラカラと大賢者/ワーラットが笑う。


「ダハハハ、となるとこの豊明はどうなると? 散々あちこち歩き回ってますぞ!」


豊明も笑い飛ばしていう。


「まあ、お主はスキルの"不干渉"があるからの。例外的に効果以外のものを打ち消した、ということであろうな」


豊明が何気に一番規格外なのではないか? そんな空気が流れる。


「バストールも一緒に行くんだな?」

「おう!」


色々と言いたいこともあるが、長い間の積み重ねもあるだろう。

それを尊重することにして和田が締めくくる。


「よし、じゃあ明日出発と行こうか!」



本作品の世界観や設定の補足情報、登場人物についてまとめました。

あれ、これなんだっけ、誰だっけ、そのようなときにご覧ください。


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