バストールの決意!?
■ 指輪
緑の月が夜空を幻想的に染めていた。
こんなにじっくりと夜空を見上げたことなんて、何年振りなんだろう?
常夜の平原までのルートの確認、嘆きの雫に関して議論は続いていた。
ある程度結論が出たところで、和田は独り外へ出て庭の階段に腰掛けていた。
「キミさん、隣いいかしら?」
確認を待たず長野が隣に腰掛ける。
「こっちの世界に来て、まだそんなに経ってないのに、何年もいるんじゃないかって、そんな風に思ったりしちゃった」
クスリと長野が笑う。
「まあ、そうだな、色んな事あったもんな」
和田も指輪を触りながら呟くように答える。
「ねぇ、”英雄の左手”って、どうしたらいいのかしら?」
「そうだな、俺もそこはあまり力になれない…あ、そうだこれ付けてみて。最初はさ、これを付けたときに色んな情報が降りてきたから」
和田は赤い大きな石のついた指輪を長野へ手渡す。
「これって、色んな事がわかるってことよね」
少し大きめのルビーを思わせる赤い石。
思い切ってはめてみる。
── ズン
長野の頭の先から、つま先まで衝撃が走る。
ぞわぞわと鳥肌が立ち、電流が流れるような衝撃。
── キーン
遠くから音が聞こえている。いや、耳鳴りなのだろうか?
目の前の和田が歪んで見えてきた。
はっと気が付くと、緑の月はなくなり、満天の星空にが見えた。
パチパチと焚火の音が聞こえ、焚火に薪を入れる後ろ姿が見える。
「あの…」
控えめに長野が声をかける。
ゆっくりと焚火に向かう背中がこちらを振り返る。
「やあ、やっと来たね。待ってたよ」
子供の声だったが、頭の先から足先まで真っ白な光に覆われていて、顔もよくわからない。
「待ってた? 私を?」
「うん、そうさ。君にどうしても伝えなきゃならないから」
相変わらず光に覆われた顔は、表情もわからない。
ただ、どこかホッとするような、安心感だけは感じられた。
「僕の力はとっても弱いけど、長野てる美さん、君ならちゃんとできるから。いいかい、行くよ」
── ビュン
光がひと際強くなり、光の矢のように鋭く尖った光の影が空高く舞い上がった。
「え、なんなの? これってどういう…」
長野が戸惑う間にも、光はぐんぐんと上昇し、やがて流れ星さながら尾を引いて落下してくる。
あまりの速さに、長野は一歩も動けない。
── シューン
落下してきた光が、長野の左手に吸い込まれる。
衝撃を覚悟したのだが、風すらも感じない。
音もなく、光は消えた。
だが、じわじわと左手に暖かさが感じられ、何か力が集中してくる、そんな感覚があった。
(うん、このまま左手を上に。そして、君が守りたい人を思い浮かべるんだ!)
言われるがまま長野が左手を上にあげる。
── キミさん、タエさん、タク君、レイちゃん、豊明さん、そして大賢者さん
言われるがままに、全員の顔を思い浮かべる。
── シャキーン
金属的な音とともに、魔法陣のようなものが地面に浮かぶ。
くるくると光がめぐり、光が煙のように舞い上がる。
速度がどんどん増していき、長野を中心として半球の光が包み込む。
まるでシャボン玉のような、虹色の光沢を帯びた光の半球だった。
(うん、いいよ! これはかなりいい。僕の力を長野てる美、あなたに託します)
心に直接響いてくる声に、長野はハッとして応える。
「ねえ、あなたはいったい誰なの?」
(まあ言ってもわからないだろうけど、僕は悪いもの。すごく悪いものの残りカスみたいなもんさ)
「悪いもの?」
(僕は悪くないけど、僕が生まれたのは悪いものからなんだ。ごめんね、もう僕は力がなくなっちゃった…)
「ちょっと、まってよ。どうすればいいのよ」
(本当にごめんね。でも僕はあなたと一緒だから…)
(じゃあ、頼んだから… )
「おい、てる美、どうしたんだって?」
── 気が付くと、和田が長野の肩を揺すっている
「あ、え、私は… あの子は?」
「急に黙ったと思ったら、うんうんとうなされてるし、もしかして寝てたのか?」
── 長野が白い子供とのやり取りを説明する
「なるほどな。俺の時と似てるかもな。俺もユウノシンが色々教えてくれたしな」
「そうなの? でも、教えてくれたって感じでは無いのよね。大丈夫なのかしら」
和田が心配そうに長野を覗き込む。
「本当に大丈夫なのか? なんか、顔赤いぞ?」
「だ、だ、大丈夫よ」
(もう、そんなに顔近づけるからだよ…)
「なあ、覚えてる? プラネタリウム前見たよな。これってさ、それよりも凄くないか?」
緑の月を見上げて、和田が呟く。
「ふふ、そうね。そんなこともあったわね」
「あのさ、もし、その指輪てる美がはめてても、みんな普通に話できるならさ。その、なんだ…」
和田が急に口籠る。
「ん? 指輪?」
指輪に長野がそっと指で触れる。
「それ、はめたままにしておいてくれるか?」
「え、そうなの?」
そっぽを向く和田。
「和田殿、やっとなんですね」
その声に振り向くと、タエちゃんが久しぶりのサムズアップを長野へ返していた。
「その指輪、あ、こっちの世界でかなり形変わってますけど、和田殿がてる美さんのために買ったみたいですよ」
その言葉に、あたふたする和田と、顔真っ赤な長野。
「邪魔者は消えますね!」
そういうと、増山は拠点へ戻って行った。
目も合わせられない二人だったが、緑の月が二人を優しく包み込んでいた。
◼️ 祝福か呪いか
「おさらいするぞ、まずは距離を稼ぐ為にキレスジレドの砂漠までアポーツで飛ぶ」
ここ数日話し合って決めた内容を、和田が整理して行く。
キレスジレドの砂漠から北上し、ロークス連邦に入る。
ザルツが去り際にくれた通行証があるためだった。
ザルツが身元を保証する形の通行証となるため、旅の速度を考えるとウェガルガンへ入るよりは、ロークス連邦を通るという必然的な経路だった。
ロークス連邦を経て、最終の目的地アフテンスラット皇国の"常夜の平原"へと向かうこととする。
「経路については、この通りでいいかな?」
そこまで来たときに、独り立ち上がる影があった。
「俺も行く」
バストールの短いが低くなった声に、気迫が乗っている。
「あれ、バストールってこの国を出られないんじゃ…」
「ああ、だがもう関係ない。この状況で独り国で黙っているなど、できるわけがない」
バストールの握った拳に血管が浮き、ぷるぷると震えている。
「ハルにゃんが、なんで死に急ぐってさ…」
葉山がハルアットの言葉を代弁している。
その言葉に、和田が葉山の肩に手を置いた。
それが合図のように、皆が手をつなぐ。
「大賢者さん、それってどういうことか説明してくれよ」
和田がバストールに目を見据えたまま聞いた。
「うむ、ワシとバストールが”時の雫”の祝福を受けておることは知っておるな?」
大賢者/ワーラットへ一同が頷く。
「これは祝福と言っておるが、そもそもは”時の牢獄”での仕組みでな、”時の門番”が永遠に守護をするための仕組みじゃ」
足をとんと踏み鳴らすワーラットが、不思議とハルアットに見えるようだった。
「”時の門番”は定期的に”時の雫”を得る。だが、”時の牢獄”に魂を縛り付けられておる。それと同じで、ワシやバストールはイストリアで”時の雫”を使ったからな。イストリアに縛られておる」
大賢者/ワーラットが深くため息をつく。
「以前、少しだけ試してみたんじゃ。イストリアから少し離れてみた。三日目には意識が朦朧としてきたし、立ち上がることも困難じゃった」
── ダンッ
バストールが机を叩く。
「だからってな、この国でみんなの帰りを大人しく待てと? ユウノシンもラーリニアも…先に逝ってるんだ。そして、黒死教の奴らとやりあうってのに、お留守番だと?」
再度、大賢者/ワーラットが深くため息をつく。
「バストール、お主のことじゃ、何を言っても聞かんのだろうな」
「当然だろう? 何年の付き合いだ?」
バストールはどうあっても着いてくる、その覚悟であることはわかった。
「あの、今の話だと大賢者さんはどうなるんだ? すでに砂漠に出てるよな?」
和田が疑問をぶつける。
「うむ、恐らくだが、ワシの本体は死なない程度に生きておるな。祝福であり、呪いであるものが効いておるからじゃ。こっちのワーラットにおるのは、魂だけじゃ。あくまで対象は一つということだろう」
カラカラと大賢者/ワーラットが笑う。
「ダハハハ、となるとこの豊明はどうなると? 散々あちこち歩き回ってますぞ!」
豊明も笑い飛ばしていう。
「まあ、お主はスキルの"不干渉"があるからの。例外的に効果以外のものを打ち消した、ということであろうな」
豊明が何気に一番規格外なのではないか? そんな空気が流れる。
「バストールも一緒に行くんだな?」
「おう!」
色々と言いたいこともあるが、長い間の積み重ねもあるだろう。
それを尊重することにして和田が締めくくる。
「よし、じゃあ明日出発と行こうか!」
本作品の世界観や設定の補足情報、登場人物についてまとめました。
あれ、これなんだっけ、誰だっけ、そのようなときにご覧ください。
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