真の黒幕
◼️ 黒死教を操るモノ
「マズルフ殿、いったいいつまで待てばよろしいので?」
「ふん、カルア殿、口を慎むがよかろう。我々も力を尽くしておるわ」
カルアと呼ばれた男の口元に、蔑んだ笑みが浮かぶ。
「困りましたなぁ、わが皇帝陛下がお怒りなのですよ。いつになったらイストリアは無法地帯に戻ると?」
「まもなくだ、少々予定が狂っておる。大賢者は確実に無効化したし、あとは取り巻きだけだ」
カルアはさほど期待していない、そんな素ぶりが見える。
「このまま黒死教には任せられぬ、そう皇帝陛下はお考えです」
「まあ、待たれよ。次こそは、このワシ自ら赴くゆえ、皇帝陛下にお伝え願う」
カルアがほうと、ため息を吐く。
「まあ、皇帝陛下にはお伝えしておきますがね、もう後がありませんよ?」
「カルア殿、くどいぞ。次はワシが全て片を付ける」
「皇帝陛下は失敗をお許しにはなりません。吉報をお待ちしておりますよ、では」
そう言い残し、カルアは部屋を出た。
── バババーン
マズルフの前にあった、分厚い木材で作られた頑丈な机が、一瞬で弾け飛んでいた。
それほどの、凄まじい怒りが叩きつけられたのだった。
「奴らめ、次こそは消し去ってくれる」
黒死教の信徒が数名控えていたが、恐怖で何もいえずただ頭を垂れていた。
◼️ 契約
「みなさま、また何処かでお会いできる日を、楽しみにしております!」
桟橋から船上のザルツに手を振る和田達。
また、桟橋の突端にホストルが顔を覗かせ、葉山がそっと触れていた。
(あなたとはきっとまた会うと思うの。その時までお別れね。そうだわ、契約をしましょう)
「え、契約? なんの??」
ホストルの提案に、戸惑う葉山。
(盟友の契約よ。あなたに従属はしないけれど、私とあなたとの絆を作っておきましょう)
「よくわかんないけど、わかったにゃ」
(ふふふ、相変わらず面白いわね。あなたの額を私の口に付けて…)
葉山が言われた通りすると、なんだろう?
胸の奥がざわついている。
身体の中心から光が溢れるような、さらに神秘的な音がするような、そんな感覚に包まれる。
(うん、終わったわ。これで何処にいても、感じる事ができる)
葉山の心に何かが刻み込まれ、きちんと息づいているそんな感覚があった。
「うん、ホストルも、ファディも気をつけて行くにゃ!」
(また会いましょう…懐かしき子よ)
ホストルが静かに潜り込んだ。
それを見届けたザルツが、出港を指示する。
「それでは、みなさまにご武運を!」
敬礼をするザルツに、皆手を振る。
「ザルスさん、またにゃ!」
(まあ、期待はしてなかったが、今度会う時は存在ごと忘れられてそうだ!?)
そんな疑問を抱くザルツを載せ、ホストラーダは全速で離れていった。
◼️ 罠
ホストラーダを見送ったレッドアイの面々は、王都へ戻ることとした。
旅の物資補給と、今後の計画を練る必要もあったためだ。
アポーツにより、瞬時に王都の拠点へと戻る。
荷解きや、飼っている馬の状況など調べていると、人が駆け込んできた。
「ああ、ワダア様、良かったいらっしゃった!」
「あの、何があったんです?」
冒険者ギルドの職員が、息を切らせている。
嫌な予感がし、和田は少し覚悟する。
「ここでは話せませんので、戻ったばかりで恐縮ですが、冒険者ギルドへお越しいただけますか?」
「わかった、すぐに行きます。葉山とてる美もスキルチェックしておこう」
葉山と長野が黙って頷く。
「豊明さん達は、旅の支度をお願いしていいですか?」
任せろと豊明。外山と増山三人で、買い出しに向かった。
「じゃあ、冒険者ギルドへ行きますか」
── 冒険者ギルド応接室にて
「これが届けられました。見てもらっても?」
神妙な面持ちのロンギスタンに、いやな予感が当たったと思う。
テーブルの上には、鳥と爬虫類が混ざったような魔物の頭部と、不気味な草が置いてある。
草の不気味さが異様で、ごぼうのような見た目で、歪んだ顔が浮き出ており、叫び声を上げているように口が開いている。
「ハルにゃんが、コカトリスの頭と叫ぶ草だって言ってる」
「やはり、そうであったか…もしかしたら、偽物の可能性も考えましたが」
渋い顔のロンギスタン。
「それと、このような物が一緒にありまして…」
テーブルに木の板がカランと、乾いた音をたてて置かれる。
── その板には次ような事が刻まれていた
解毒薬を作ろうとしていることは知っている。だが、嘆きの雫だけは、どうしてもわからないはずだ。
ここに、のこり三つのうち二つを用意してやる。それから、嘆きの雫についても情報をやろう。
欲しければ、常夜の平原まで来るように、そう刻まれていたのだった。
これを読んで、和田は葉山の肩に手を触れた。
ロンギスタン、バストール、長野も手を繋いだ。
「大賢者さんよ、この内容どうなんだ?」
葉山の目を通して内容を確認した大賢者/ワーラットが頷く。
「間違っておらんな。つまりこれは、全員をおびき寄せる黒死教の罠じゃろうな」
「なんだって、そんな事…」
「ワダアよ考えてもみよ、誘き出すのに嘘で騙すよりも、本物を出す方が確実じゃろう? それに、やつらはこちらが素材をどこまで集めたか、しっかりと把握しておる」
確かにそうなのだ。
時間も無い中で困難な材料が揃い、最後の難関素材の情報まであるのだ。
「罠とわかっても行くしか無い、そうなるよな」
和田の言葉には苦渋が滲む。
「まあ、ここは考えどころかの。ワシの命はどのみちあと六年。このまま放置も一考じゃな。まあ、チュー吉には気の毒じゃが」
「まだ何も終わっちゃいないし、あんたが必要だろう!」
和田の言葉が叫びに近い。
「ハルアット様、この国には…まだあなたの力が必要です」
ロンギスタンが囁くように弱々しく発する。
「ならば、ワダアよどうするのじゃ?」
「そんなもん、決まってるさ。ご指定通りにしてやろう」
和田の言葉に黙っていた長野も口を開く。
「私、まだ本当の大賢者さんに会ってないのよね。ここまできて、何もしないで諦めるとか無理だわ」
◼️ 覚醒の時
議論が交わされたが、結果は満場一致に近い。
「指定場所へ行って、嘆きの雫の情報を得る。これでいいな!?」
和田が一同を見渡すと、全員が力強く頷いた。
「なら早速出発と行きたいが、葉山とてる美はスキル見ておこう。黒死教とやり合うからには、こちらも戦力を確認しておきたいからな」
和田には確信があった。
シーサーペントの件も含め、うまく説明はできないが、葉山も長野も雰囲気が変わったと思う。
ロンギスタンが黙って"見通すモノ"を差し出す。
葉山がさっと"見通すモノ"に触れる。
"見通すモノ"の目が見開き、コトリと札が落ちる。
名前 ハヤマ レイ 性別 女
年齢 二十歳 職業 エルダーテイマー
魔法適正 精霊、幻獣、魔物 スキル 感覚共有
称号 海龍の友
「エルダーテイマー! 私がギルドマスターに就いて以来、初めて見ました」
ロンギスタンが唸る。
「なんか凄いことにゃ?」
葉山は割とどうでもよい、そんな感じだった。
「これは私もわかりませんし、もちろん記録もございませんので、断言はできませんが、おそらくはテイムの技を確立させた最初のテイマーと同等なのではないか、そういう推測しかできませんが」
つまりは、詳細は不明である、そういうことだ。
ただ、これまでの葉山を見ていると、具体的にテイムをするというより、どちらかというと勝手に協力してくれる、そんな印象がある。
それが古のテイマーということなのかもしれない。
「そうそう、もう一つ見逃せないのが、称号が発現しています。海龍の友と」
「ああ、本当に海龍のほうから、契約を持ち掛けてきたんだ」
さらに驚くロンギスタンが、やれやれと首を振っている。
「驚きました。誇り高い海龍がですか…そのあたりが、やはりエルダーの本領ということろですかな」
仕切り直しとばかりに、今度は長野へ向かって"見通すモノ"を差し出す。
「これ気持ち悪いのよね」
長野が恐る恐る"見通すモノ"へ触れる。
"見通すモノ"がカッと見開き、コトリと札が落ちた。
名前 ナガノ テルミ 性別 女
年齢 二十四歳 職業 狩人
魔法適正 隠密・探索 スキル 英雄の左手
「スキルが出てるわね、英雄の左手?」
「なるほど、これはワダア様の英雄の右手と対になるというか、同じような効果があるのか…あなた方はなんとも」
やれやれとロンギスタンが首を振る。
「これはやはり推測になりますが、ワダア様と同じような強力な攻撃なのか、あるいは、左手と言えば盾を持つ手です。つまりは、強力な守備を発動するスキルかもしれません」
長野がまじまじと自分の左手を眺めている。
「何をどうすればいいのかしらね」
「そればかりはな、俺も最初は偶然みたいな感じだったしな」
いずれにしても、のんびり解明なんて時間はない状況だ。
ただ、和田のスキルの実績を考えれば、かなりの希望は持てる。
「よし、黒死教のやつらの罠に大人しくハマるつもりはないからな」
「罠をぶっ壊すにゃ!」
「ええ、もちろんそうよね」
和田の決意に満ちた宣言に、葉山、長野が応える。
黒死教とのケリをつけるため、闘志を漲らせる和田であった。
本作品の世界観や設定の補足情報、登場人物についてまとめました。
あれ、これなんだっけ、誰だっけ、そのようなときにご覧ください。
https://ncode.syosetu.com/n8527mg/




