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定年間近の左遷先が冒険者ギルドなんだが!?  作者: Jiru-man
第二部

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穿孔虫

挿絵(By みてみん)




◼️ 戦闘準備


ホストラーダは快調に進み、かなり沖合まで出ている。

その時、再度右舷からホストルが顔を出す。


葉山がホストルに触れる。


(見つけた。この下深くにね。引っ張り出してくるけど、準備はいいかしら?)


「みんな、ホストルがクラーケン引っ張り出すって。準備はいい?」


その言葉に、ザルツと乗組員達も慌ただしく動き出す。


「皆んな、クラーケン来るぞ! 仕留めて帰ろう!」


和田の言葉に、豊明、増山、外山、長野が頷く。


「ホストル、準備できてるから、お願いした通り頼んだにゃ!」


(じゃあ、行ってくるわね!)


── ザザン


波飛沫を上げて、ホストルが海底を目指す。

ザルツが流れるように指示を出し、混乱もなく乗員が配置に着く。


さすがは大国の海軍だ。

訓練が行き届いている事は、乱れもない動きに現れている。


「豊明さん、樽とクラーケンじゃ違うけど、本当大丈夫ですか?」


「ダハハハハ、まあ少し勝手は違うだろうが、何も心配はないんですぞ!」


先程はサバイバルナイフだったが、クラーケンは肉厚なのだ。そのため、和田の予備の剣を使うことにした。


「タエちゃんは、状況に応じてヒールシャワー準備しておいて。タクちん、この作戦のキモだからな、タイミング頼むぞ」


増山も、外山も頼もしく頷く。


「てる美は臨機応変にサポートしてくれ!」

「キミさん、任せて!」


これで配置確認ができ、準備は整った。

万が一豊明が失敗した時は、和田が飛び込む覚悟だ。


「葉山念のため、大賢者さんに何か不足無いか聞いてくれ!?」


「ハルにゃんも、今のところは無いってさ。ただ、心臓取った後が一番大変だって言ってる」


なるほど、まあでも心臓取らなきゃ意味もないし、取ったら取ったで考えるしかない。


さあ、クラーケン、来い!!


◼️ 深海の覇者現る


数分が何時間にも感じられる。

海面を皆が注意深く見つめていた。


まだか…少しの変化にも、皆反応してしまう。

そして、ようやく暗い影が大きくなってきた。


── バシャ、ザザン


物凄い波飛沫と共に、ホストルが飛び出してきた。

ホストルの口には、クラーケンの足を咥えている。


挿絵(By みてみん)


しかし、クラーケンも足でホストルの胴体を絡めており、ホストルも動きにくそうだ。


そうこうしていると、ホストルが海中に沈む。

数分後に少し先に再度ホストルが現れる。


「微速前進で面舵!」


ザルツが指示を出す。

ホストラーダが微妙に右舷側に動き、絶妙な場所へ移動する。


ザルツ以下、ホストラーダはまさしく海軍の中の精鋭なのだろう。


今度はホストルがうまくクラーケンを抑え、海上にかなりの部分を露出させたまま保持している。


「豊明さん、頼んだ!」

「任せるですぞ!」


── ブォン、ブォン、ブォン、ブォン


剣が唸り、クラーケンへと撃ち込まれ、素早く戻ってくる。

クラーケンの心臓は胴体の中央やや下寄りにある。


これは、乗組員でクラーケン解体経験者に、確認済みだった。


その心臓の周囲を、剣で切り開こうという算段だ。


剣がクラーケンへ吸い込まれ、少し肉がめくれてきている。


── これは行ける!

── ギシャン


そう確信した直後、クラーケンの足が伸びてきて、剣を弾いた。


クラーケンも、学習したらしい。

だが、再度狙いをつける豊明。


── ブォン


剣がクラーケンへと伸びる、またしてもクラーケンの足が迫る。


── シュン


剣に足が当たると思われたその瞬間、矢が脚を捉えクラーケンに縫いつけた。


「やった!」


長野がガッツポーズしている。


そうこうしている間に、クラーケンの心臓がかなりむき出しになってきた。


── ドク、ドクドク、ドク


クラーケンの心臓が脈を打っている。


「タク! 頼んだぞ!」


豊明が叫ぶと、最後の一刀を放つ。


── ベシャ


布団をめくるように、心臓を覆っていた肉と粘膜がペラリとめくれる。


脈打つ心臓が見えている!


「見えたでやんす!」


外山が叫んだと同時に、アポーツをかける。


── ドサッ

── ドク、ドク、ドクドク


外山の目の前に、クラーケンの心臓があった。

外山が心臓に触ろうとした瞬間、葉山が叫ぶ。


「ダメ、触ったら!」


── ブッ、ジャシャー


心臓から何かが飛び出す。

外山の手の横を、何かがかすめて飛び出した。


── ドスッ


飛び出したものは、甲板に食い込んでいた!


「うわー、気持ち悪いでやんす!」


外山が叫ぶのも仕方ないだろう。


赤いぬらぬらしたものが蠢いている。ゴカイを巨大化させたようなものが、強力な顎で甲板に食らいついているのだ。


「ハルにゃんが、下手に近づくと穿孔虫に食い破られるって」


大賢者の心臓取った後が大変って、この事なのかと皆んな納得していた。


「よし、じゃあタクちん、凍らせちゃって」


挿絵(By みてみん)


外山が無言うなずくと、アイスブリザードで心臓もろとも凍らせる。


カチカチになった心臓を見て、外山は座り込む。


「タク殿、腕から血が出てます。治療します」

「痛っ、気が付かなかった。タエ様お願いでやんす」


穿孔虫が飛び出したとき、外山の腕をかすって行ったようだ。


◼️ 名付け親


今回のクラーケン討伐の取り決めとして、和田達は討伐に協力してもらう代わり、穿孔虫以外は辞退し、他は全てザルツ側へ提供することとしていた。


心臓を取り出した後、回収の指示を出して、瞬く間に解体までが完了した。


その一部を乗組員と和田達含め、甲板上で調理すると言う。


「我々の故郷でよく食べられる、代表的な料理を作りたいと思います」


そう言うと、ザルツが兵士に合図する。

大きな鍋が用意され、色々なものが鍋に注がれる。


どうやら、煮込み系の料理と思われた。


「出来上がるまでしばらくお待ちください。それで、ハヤマ殿にお願いがありまして…」


葉山は鍋に入れられたクラーケンに釘付けで、それどころではないようだ。


「ハヤマ殿?」

「おい、葉山聞いてやれよ。じゃなきゃ、クラーケンお預けな」


和田の言葉に、キッと振り返る。


「ザルスさん、何にゃ!」

「ハハハ、いや、なんでもないです」


(ザルスって、ハヤマ殿…もう、諦めました…)


葉山の目が血走っている。

チラチラと、鍋から目が離せないようだ。


「し、仕方ないですね。食べながらでいいので、後で聞いてください…」


「すみませんね、こいつの胃袋は恐ろしくてね」


和田が代わりに謝るが、葉山はどこ吹く風である。


「しかし、トヨアケ殿、ナガノ殿、お二人とも素晴らしい技でした」


ザルツが感心しきりだ。


「ダハハハハ、少林寺知ってるか? 縄鏢(じょうひょう)って技なんですぞ!」

「あ、なんか子供のころ、見たことあるかも!?」


「ダハハハハ、三年も練習した甲斐があったんですぞ!」


いや、普通そんな練習しないだろう、増山と長野は引き気味である。


(しょうりんじ? 全くこの方々はなんなんだ?)


ザルツの予想を全て覆してくる結果に、少し恐ろしくもあった。


「あの、心臓を取ってくるのも、アポッツでしたか? 我々には想像もつきません」

「ザルっち、アポーツでやんす」


(ざるっち? これも言い間違いなんだろうか?)


「タクちん、ザルツさん困ってるよ。すみません、こいつ大体そんな呼び方するので、気になさらないでください」


「和田殿、そうなんですね、な、なるほど」


(とはいえ、この方々は並の冒険者ではあり得ない。なるだけ我々のいい印象を与えねば)


鍋はしばらく煮込む必要があるので、前菜と酒が振舞われた。


「こら! タク、お前も飲め! …なんですぞ」

「いや、小生お酒は…」


豊明はわずかカップ半分で、かなり出来上がっていた。


騒がしくなってきたところで、葉山待望の鍋が出来上がる。


葉山が思い切り鼻で匂いを吸い込む。

なんのスパイスかはわからないが、食欲を刺激することは間違いない。


スープを一口飲むと、ニンニクと胡椒のような味わいで、クラーケンの出汁も相まって、シンプルだが味わい深い味だ。


葉山の胃袋にターボがかかったようだ。


「おい、葉山あまり飛ばさすなよ、ちゃんと話も聞けな?」

「なへも、おいひぃんだね、僕これすき」


和田も呆れて何もいえない。


「あの、葉山殿? お願いなんですが、あの子の名付け親になってくれませんか? 我々は彼等が何を思ってるのかもわからないので」


ザルツはホストルの子が休む檻を指差す。


「んー、そうにゃ…」


葉山はゴクリと、クラーケンを飲み込む。


「ホストルって、何語になるの?」

「ロークスの古代語になります」


スープを少しずつ飲みながら、考える葉山。


「じゃあ、古代語で友達ってどう言うの?」

「いくつかありますが、ファディ、ですかね」


ザルツの答えに、満足そうな葉山。


「ならそれぇ!」


決めた途端、突然立ち上がると、後方の檻へ向かう。


「うん、今日から君はファデイだよ」


── キュー


わかったとでも言うように、ファデイが応える。


ホストラーダの甲板の上は、あちこちから笑い声が響き、美味しそうな匂いと、芳醇な酒の匂いに満ちていた。


ホストラーダの右舷からは、ホストルが優しく見つめている。


一時の安らぎが、満天の星空の元に優しく満ちていた。


本作品の世界観や設定の補足情報、登場人物についてまとめました。

あれ、これなんだっけ、誰だっけ、そのようなときにご覧ください。


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