魔改造
◼️ チガンの実
「おお、あれですぞ!」
豊明が指差す先に、濃い紫の実が夜空の星のように、木々の間から覗いている。
下から断崖を見上げるかたちだった。
その断崖の岩棚にチガンの木が密生しているのだった。
「豊明さん、あれどうやってとるんです?」
「ダハハハハ、ロープで伝って降りるんですぞ!」
豪快に笑い飛ばす豊明に、またこのパターンかと苦笑いの和田。
しかし、目測でも断崖から岩棚は二十メートルほど、かなり難しいのではないか、そう思われた。
そして、豊明に導かれ、先程の断崖の上に来た。
下を見ると、やはり二十メートルはありそうで、岩棚のしたにも断崖はつづいている。
そのため、かなりの高さに感じられていた。
「あのー、豊明さん、これってやっぱりロープで降りる感じで?」
「ダハハハハ、おまかせあれ。いつもやってるですぞ」
そういうと、近くの丈夫な木にロープを巻き付ける。
ロープを引っ張って、確かめているその時だった。
それなりに大きな影が、豊明の目の前を滑り落ちる。
── キィイイイ
紫のチガンの実を爪で摘み、そのまま急上昇してくる。
── バサバサバサバサ
大きな鷹が葉山の前に降りてくると、チガンの実を葉山の方へ置いた。
「ダハハハハ、なるほど! これがテイムなんですぞ!」
「葉山、その鷹って…まさか?」
葉山は何事か鷹に話しかけていたが、くるりと振り返る。
「そうだよ、この前オロチの時テイムしてたんだ。着いてきてるから、お願いしたにゃ」
これなら安全にチガンの実がたくさん取れる。
── キッキィイイイイ
鷹が一声鳴くと、やがて呼び寄せられた数匹の鷹が現れる。
すかさずテイムした葉山が、何やら話しかけると、鷹達はどんどんチガンの実を取ってくる。
十五分ほどでチガンの実が山盛りになった。
葉山がテイムを解除して、鷹達は去った。
「ダハハハハ、これは愉快な! これだけあれば、燃料がかなり取れるですぞ!」
「解毒薬の材料としては、二個くらいでいいってハルにゃんが言ってる」
結局のところ、なんとも簡単に集まってしまった。
豊明がチガンの実を処理したいとの事で、再度遺跡に戻る事にした。
◼️ 師弟コンビ
「なんだろな、こんな温泉三昧でいいのかね」
「キミさん、これ最高すぎる。良いに決まってるわよ!」
チガンの実の処理が終わると、豊明と外山は馬車の改造にシフトした。
阿吽の呼吸でまるで昔からの相棒なのか? という感じである。
── 少し前に遡る
「そういえば、タクも同じ会社なんだよな? どこの部署にいたんだ?」
「豊っち、実は小生は開発室に所属してたでやんす!」
目を丸くする豊明。そして、バシバシと外山の肩を叩く。
「ダハハハハ、ということは本当の後輩ですぞ!」
ただ、どうかしたのか? 話すのを躊躇うような外山。
「ん? なんだタク、言いたい事あるなら聞くんですぞ?」
「いやー、それが小生いじめられてたでやんす」
話し出すまで、豊明は黙って聞いている。
静かに頷き、外山を促す。
「長田室長以下、ほとんどの人からイジられる、馬鹿にされる、そんな日々だったでやんす…」
「なにぃ、長田か! オッサーめ、ずいぶんと偉くなりよって。やつはな、新人のときやらかしてな…」
なんでも、長田という室長は、新人の時にテスターもまともに扱えず、回路から火花を飛ばしてブレーカーを落とすという粗相をしたらしい。
長田は、その時より豊明にオッサーと呼ばれ、ほぼ雑用しかさせてもらえなかったらしい。
「タクよ、そんなもんだ。新人の時なんぞはな。というか、オッサーよりタクの方が確実に上だ。自信をもて」
そう言うって、軽く外山の胸を拳で打った。
「豊っち…もう小生も気にしてないでやんすが、本当に嬉しい」
「ダハハハハ、まあ、楽しむんですぞ!」
二人はますます盛り上がって、まるで師弟コンビのように熱いことこの上なしだ。
そんなわけで、魔改造に没頭しすぐ出来上がるから温泉でもはいっていろ、そう豊明が言った。
そして、二日目が過ぎていた。
◼️ もはや馬車ではなく…
「和田くん、みんな! できたんですぞ!」
興奮した豊明がやってきて、皆を外へと駆り立てる。
「ダハハハハ、これは傑作ですぞ! タク、見せてやれ!」
ドヤ顔の外山が頷く。
操縦桿のようなものが足元から伸びており、そのレバーを自分方へ倒す。
そもそも、馬車とは呼べない形状と、この世界にそぐわないものになっている。
その見た目とは裏腹に、剥き出しの運転台は昔のトロッコを思わせる。
滑らかに走り出す馬車だったもの。
通常のエンジンなどと比べると、音も無く速度はギアの切り替えで上がっていくが、これは瞬時に速度が上がっている。
気がつくと、すでに外山はかなり先まで行っている。
「タク! もう良かろう、こちらへ戻ってこい!」
くるりと向きを変え、音も無く移動してくる。
初めて見ると、瞬間移動でもしているように見える。
「しかし、とんでもないもの作ったな」
度肝を抜かれ、驚きの表情で見ている和田。
「和田っち! これなら今後かなり楽になるでやんしょ?」
「ダハハハハ、どうだねTTタンクは!? 和田くん、賞賛していいんですぞ!」
馬が不要であり、かなりの速度は出そうである。
「うん、かなりびっくりだ。で、どのくらい距離走れるのかな?」
「確実に一日は走り続けられる。夜にタクが少し充填すれば満タンにできるはずだ」
増山の砥石が、かなり役立つ"電池"になった。
アポーツと組み合わせれば、言うようにかなり楽になる。
「ダハハハハ、安心せい。今後もこの豊明が同行して整備するですぞ!」
豊明は十五年もこちらでフィールドワークしているわけで、かなり頼もしいと思う。
「豊っち、これからよろしくでやんす!」
「あの、勢いスルーしてしまったが、TTなんとかって?」
瞬時に和田が後悔する。
豊明も外山もニヤリとし、頷いている。
「ダハハハハ、もちろ豊明のTと」
「タクのT合わせて、TTタンクでやんす!」
二人してドヤ顔である。
「うん、なるほどね。豊明さん、よろしくお願いします」
あまりに無感動な和田に、外山が問い詰め、豊明も豪快に笑う。
女性陣も、苦笑いが広がっていた。
◼️ 次の素材へ
王都までアポーツは使わず、TTタンクの試乗をする事になった。
「これ、奇天烈な見た目だけど、乗り心地は車よりも良いのにゃ」
「ダハハハハ、そうだろう? サスペンションもついとるし、動力は魔法だから揺れもガスもない、完全クリーンですぞ!」
馬車は葉山が御者担当だったが、ゆったり乗れるのでご機嫌である。
和田は外山がメモした解毒薬のメモを眺める。
・コカトリスの嘴
・叫ぶ草
✓暗黒蠍の尾
✓死霊の砂
・穿孔虫
✓チガンの実
・嘆きの雫
「みんな手を繋いでくれ、葉山たのむぞ」
豊明は少し慣れないようだが、ワーラット/大賢者の話をするにはこうするしかない。
「大賢者さん、残り四素材になったけど。次どれが良いだろう?」
「先に一つ言ってお…チ、チュ…くがな、チュー吉とワシの固着も、かなり進んでおるな」
チュー吉の声が、かなり弱々しく感じられ、気のせいなどのレベルではない。
「リミットはあとどれくらいなんだ?」
「ふーむ、それははっきりわからん。じゃが二、三ヶ月といったところかの」
あまり時間がない事に、一同驚きを隠せない。
「わかった、急がないとな。なら、難易度とか置いといて、ここから一番近い素材で行こう」
「わかった、であれば…じゃな、この中なら穿孔虫じゃな」
虫と聞いて、長野が顔をしかめる。
「それはどういう虫なんだ?」
「うむ、この虫は厄介じゃぞ? こやつはクラーケンの心臓に寄生しておる」
葉山の目がキラリと光る。
「この前どんだけ食ったよ? 遊びじゃないからな」
先手を打って和田が釘を刺す。
「まだ何も言ってないにゃ…」
異様な目をしている葉山は、一応そこで口を閉じた。
だが、流れ出る唾を止められないようだった。
「大賢者さん、何がどう厄介なんだ?」
「まずは、クラーケンは沖合におるでな、簡単に遭遇できん。見つけても、戦うのはかなり困難じゃ」
確かに沖合でどうやって戦えばいいのか? 和田に答えは無かった。
「さらに、一番厄介なのは、心臓が止まって血の流れが止まると、すぐに外に出て次の寄生先を探す」
つまり、クラーケンを倒せても、すぐさま心臓から穿孔虫を取り出す必要がある。
「わかった、かなり難しいな。ただ、諦めるわけにもいかないしな。よし、一番近い港町ソルに行くか」
TTタンクが音も静かに走り抜ける。
静かさと裏腹に、巻き起こす風はかなりの勢いだ。
巻き上げられた木の葉が風に乗り、高く舞い上がって行った。
本作品の世界観や設定の補足情報、登場人物についてまとめました。
あれ、これなんだっけ、誰だっけ、そのようなときにご覧ください。
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