大賢者に宿題出されたんだが!?
■ 翌朝・食堂にて
「和田っち、さっさと話すでやんす!」
「んー、そうだな……」
さすがに俺も混乱してるし、
昨日は“説明は明日”って言って強引に寝たんだよな。
「……」
回復したタエちゃんも興味津々でこっち見てる。
“話せ”ってジェスチャーしてるけど……いや、タエちゃんも話そうな。
「あのな、歴代倉庫の横掃除してたじゃん? そんで出たらさ……」
あ、指輪のことは話す必要ないよな。
「……ダメって言ったでしょ?」
「うわ、葉山、いつもいきなりだな」
ほんと気配がない。幽霊かよ。
「…私、前にあそこの扉が開くの見たのよ。変な音も するし、だから……」
葉山、意外としゃべれるじゃん。
でも暗いな。そして怖い。怪談かよ。
「あれに触れちゃダメだって!」
「え、もう入りました。ええ、入りましたとも」
「アンブィリィバボ、ほんとでやんすか!?」
タエちゃんがサムズアップして、首の横でスパッ。
いや、それ首切るジェスチャーじゃねぇの?
俺、生きてるからな?
「なんで!? 私、声も聞こえて、扉開けようとした ら弾き飛ばされたんだから!」
「んー、それって葉山だから? 俺は行けたんだよね。中にさ」
「嘘よ!」
「あー、葉山殿どこへいくでやんす!」
おいおい、どこ行ったんだ。
「それ、ほんとでやんすか?」
「まあ、そうなるのが普通の反応だよな」
俺だって最初は信じられなかったし。
「でも、このままにもできないしな」
「今日もいくでやんす?」
「そうだな、午前中に掃除終わらせて行こうと思ってる」
「和田っち、約束!必ず帰ってきて、キチンと話して欲しいでやんす!」
タエちゃんも手が止まってるな。
タクちん、ちらちら見んな。
「わかってるよ、ちゃんと話すからさ」
「当然でやんす、絶対でやんす!」
なら、掃除するか!
「ノンノン、和田っち、待つでやんす」
「ん?」
「時間がもったいないでやんす。写真だけ取って、すぐに行くでやんす」
「え、ちゃんと終わらせて、また写真いるだろ?」
部屋の前で“部屋番と本人セットの写真を送ること”って規則なんだよな。
「どうせ、そんな細かくチェックしてないでやんす。写真なら小生なんとでもするでやんす」
「そうなのか?」
「いままで一度もチェックとかないでやんす」
なるほど。
「ラララ♪異世界は、ドゥリィィィム、フォアンタスティィク♪」
……タクちんもうお腹いっぱいだぞ。
「和田っち、異世界こそジャスティッス!でやんす」
はいはい。
「わかった、俺も気になってたし、早いに越したことないよな」
「小生、見てていいでやんす?」
「もちろん」
タエちゃん、ごくり。
「早くいくでやんす、やばい部屋へ」
「荷物持っていくから、やばい部屋に行っててくれ」
「・・・」
── いつも間にか葉山もいるな。やばい部屋を遠巻きにする三人。
「お待たせ」
「これ、ほんとに開くでやんす?」
「まあ見てろって。じゃあ行いくぞ」
「気を付けるでやんすよ」
じゃあ、行くか!
── 指輪に触れる
「き、消えたでやん……」
■ ハルアットの部屋
── ストンと着地
「来たかね。じゃがすまんのぅ、もう夜だわい」
「いけね、時間違うんだった」
どれくらいズレるのか、まったくわからん。
「まあよい。呼んだのはこちらじゃからな。今日は“宿題”を渡そうと思っての」
「宿題?」
「うむ。頼みたいことは星の数ほどあるが……まずはこれじゃ」
部屋の隅には木版の山。
「……多くね?」
「多いわい。これ全部、書物じゃ。木に刻むのは手も痛いし、時間もかかるし、間違えたら全部やり直しじゃ」
そりゃそうだ。
「そういや、大賢者さん。紙ってないの?」
「カアミィ?」
「いや、紙。薄くて書き物に最適なやつ」
「やはり、召喚して正解じゃの……そんな便利なものがあるのか?」
「あるよ。今度来るとき持ってきてやるよ」
ハルアットの目がギラッと光る。
「なに、それはさっそくお願いしたい!」
「いや、紙って言っても作るの大変なんだよな」
「作る? お主の世界では作れるのか?」
「まあ、材料があればな。楮とか三椏とか……あ、こっちにあるのか?」
「コウジョ? ミツマタ? 聞いたこともないのぉ」
なるほど、原料がないのか。
「じゃあ、まずは紙の作り方を教えてくれんか? 材料はわしが探す。魔法でなんとかする」
「魔法でなんとかなるもんなのか……」
「なんとかする!」
元気だなこの婆さん。
「では宿題じゃな。 “紙の作り方”をまとめてきてくれ」
「わかった。和紙の作り方な」
「ワシ? わしの作り方?」
「いや、和紙っていう名前な」
「ややこしいわい!」
杖で床をトンッ。
「では帰るがよい。また来るのじゃぞ」
「はいはい。また来るよ」
「あ、ちょい待ち。ここには俺しか来れないのか? 前、扉に弾かれたってやついてさ」
「主が一緒なら入れるじゃろう」
「なるほど」
指輪ないとダメってことだな。
── 指輪に触れる
── ストンと着地
■ 歴代倉庫前
「和田っちぃぃぃぃ!!」
タクちんが飛びつく。
タエちゃんは“無事?”ジェスチャー。
葉山は腕組んで睨んでる。
「……で? どうだったの?」
「宿題もらった」
「宿題でやんす!?」
「紙作れってさ」
「カミィ?」
タクちん首かしげ。
タエちゃんは四角描くジェスチャー。
葉山はメモ帳を取り出す。
「……詳しく聞かせてもらうわよ」
葉山、やる気満々。
── そして、ハルアットの話を共有した
「みんな話聞いて、どう思うよ?」
「和田っち!フォアンタスティィクでやんす!」
タエちゃんもサムズアップ。
「……べ、別に信じたわけじゃないんだからね」
「和田っち、扉で消えてたでやんす。見間違いじゃないでやんす」
「まあな。異世界とか信じるか?」
「ノンノン、愚問でやんす」
「行ってみたい!」
珍しくタエちゃんが話した!
「……み、みんなが来てほしいなら、僕も……」
ツンデレか?
いや、四十路だぞ君。
「そ・れ・に、小生、和紙作りは自信があるでやんす」
「まじか! なら、ちょうどいいわ。作り方まとめてくれ」
「小生にかかれば、ちょちょいのちょいでやんす」
もう紙用意してるし。
■ タクちんによる和紙作り講座
① まず皮を蒸すでやんす
「楮ってやつの皮を、でっかい釜でホカホカに蒸すでやんす。柔らかくして“下ごしらえ”でやんす!」
② 次に皮をベリベリ剥ぐでやんす
「蒸したら冷水ぶっかけて、熱いうちにベリッと剥ぐでやんす。黒いとこ削って“白皮”にするでやんす!」
③ 白皮を天日でカラッと乾燥でやんす
「お日様でパリッと乾かして保存でやんす。干物みたいなもんでやんす!」
④ 使うときは水に戻すでやんす
「乾いた白皮を水にドボンでやんす。ふやかして柔らかくするでやんす!」
⑤ そんで煮るでやんす
「アルカリのお湯でグツグツ煮るでやんす。不純物を落として、繊維をフワフワにするでやんす!」
⑥ よーく洗うでやんす
「煮たら流水でジャバジャバ洗うでやんす。ヌルヌルがなくなるまで洗うでやんす!」
⑦ チリ取りでやんす
「細かいゴミやキズを手で取るでやんす。ここが職人の腕の見せどころでやんす!」
⑧ 叩いてほぐすでやんす
「木の棒でトントン叩いて繊維をバラバラにするでやんす。これが地味に腕にくるでやんす!」
⑨ トロを搾るでやんす
「トロロアオイの根っこを潰して、ネバネバを抽出するでやんす。これが“紙のつなぎ”でやんす!」
⑩ すき舟を作るでやんす
「水槽に繊維とトロを混ぜて、いい感じの粘りにするでやんす。ここで均一に混ざると仕上がりが美しい でやんす!」
⑪ 紙を漉くでやんす
「簀桁って道具でシャバッとすくって、前後左右にゆらゆらして紙の厚さを調整するでやんす!」
⑫ 水をしぼるでやんす
「重ねて一晩置いて水を抜くでやんす。翌日さらにギュッと圧搾するでやんす!」
⑬ 板に貼って乾かすでやんす
「一枚ずつ板に貼って乾燥でやんす。ここでピシッと乾くと美しい和紙になるでやんす!」
⑭ 最後に切って完成でやんす
「用途に合わせてチョキチョキ切って完成でやんす!いや?長かったでやんすな!」
「タクちん、君が詳しいのはわかった」
「でやんしょう?」
「……⑤のアルカリのお湯って……」
葉山ナイス。
「灰汁で代用できるでやんすよ」
「へぇ……タクちん、ほんと何者だよ」
「小生は“でやんす界の賢者”でやんす」
なんだよそれ。
「何だか知らんが、タクちん頼むな」
「ノーポーブゥレムゥでやんす」
「誰か和紙持ってない?って、今時和紙って無いよな」
「十二番倉庫で見た!」
タエちゃん拳を突き上げる。
「掛け軸かなんか見たでやんす」
「それ持っていこうぜ。戻せばバレんだろ」
「ところで、また行くけどさ、どうする?」
みんな目が逝ってる。
「笑止。行くでやんす!」
「行く!」
「……み、みんな行くなら…ぼ、僕も…」
結局、全員行く気満々。
「よし、なら明日朝飯食って、写真撮ったら行くぞ!」




