サウドレシグへ 悪戦苦闘
◼️ 想定外
「タクちん、どうだ!?」
「わ、どこに! 速過ぎて狙いが定まらないでやんす!」
砂地で土壁を出しても倒れる、魔法をかけるにも早過ぎる。
どうやっても暗黒蠍を止められないのだった。
暗黒蠍の動きに合わせ、砂塵が舞っている。それだけ素早いという事だ。
葉山のテイムも効果無しで、かなりの苦戦状態だ。
(ふむ、これはおかしい。ここまで素早くはなかったはずじゃ)
「にゃ? ハルにゃん? 何か気がついたかにゃ?」
── ガキーン
暗黒蠍のハサミが和田の盾を打つ。
「盾が無かったら終わりだったぞ…」
── ガンガン、ガキーン
瞬く間に防戦一方に追い込まれる。
「なんで小生達の戦闘って、いつもこんなんでやんす?」
「知るかよっ!」
── ガーン
和田が力を込めて打ち返す。
(これじゃユウノシンに顔向けできないな…)
「よし、戦法変える、援護してくれ!」
盾を増山に渡す。
和田が深呼吸して、集中に入る。
(お願い、当たってよ!)
わずかに長野の弦にあたる指が震える。
── カン
暗黒蠍の眉間に当たり、矢が跳ね返る。
「難しいわね。目が体に対して小さ過ぎなのよ!」
長野も慎重に狙いを定めるが、初めての魔物との対面でプレッシャーを感じる。
それに、動きの速さと的の小ささに苦戦していた。
和田は意識を研ぎ澄ますことに専念する。
数回の深く長い呼吸、そして目を開いた。
周囲の音が少しずつ吸収されていく。そして完全なる無音。
不意に、満天の星空と焚き火が目の前で燃え盛っていた。
だが、もうユウノシンはいなかった。
(あの時を思い出せ、早く動く、正確に斬撃を繰り出す…)
目を見開くと、砂の上とは思えない踏み込み、それから瞬発力が炸裂する。
── ザッザッ、バシュッ
暗黒蠍の右の後ろから二本目の足が吹き飛んだ。
「「「「やった!」」」」
皆んな一斉に歓声が上がる。
「油断するな、まだあと足七本、ハサミ二本あるぞ!」
「和田っち、ハサミじゃなくて、鋏角でやんす!」
「ごちゃごちゃ言ってないで、援護よろしく! 動き鈍くなったら、アイスランスぶち込んで凍らせるぞ」
◼️ 巻き返し
(こいつは、なんだか消耗が激しいな…あと数回斬撃が叩き込めるか? 慎重に決めないと)
和田の額には汗が滲み、大きく肩で息をしている。
疲労感が半端ない。だが、更に集中していく。
「次はお願いよ!」
長野が狙いをつける。その時、弦にかかる指の震えが止まった!
── ビュン、グシャ
「ビンゴ!やっぱり目は柔らかいのね!」
暗黒蠍が鋏角を振り回す。だが、刺さった矢には届かない。
片目を失い、動きが鈍った暗黒蠍に和田が切り付ける。
── ザザザザッ、バシュ、バシュン
一気に右の前足、返す剣で左の前足も吹き飛ばす。
暗黒蠍の動きが、さらに緩慢になった!
── ギギギ
暗黒蠍は鳴くのか?
いや、どうやら歯ぎしりのようだ。
怒りなのか、威嚇なのか不明だが、命の危険を感じているのかもしれない。
「タクちん、ぶち込んでくれ!」
「イェッス! 行けぇ!」
── ドス、ビキキキキン
「和田殿、完全凍ってます!」
最前衛の増山が確認したから間違いないだろう。
「よっしゃ、タエちゃん剛腕でぶん殴れ!」
「行きます!」
── ゴシュ
鈍い音が響いた、様子がおかしい。
「和田殿、ダメです。凹んだだけです!」
行けると思ったが、ダメなのか!?
他に何ができる…
「熱衝撃にゃ! バーベキューにするにゃ!」
「え、葉山どういう!?」
まさか葉山から何かアドバイスが来ると思わず、一瞬戸惑ってしまった。
「イエッス、和田っち行ける行ける、あとで説明するでやんすよ。燃えろ!」
── ゴォォォォォォォォォッ
ファイヤーストームが巻き起こる。
何か弾けるような音が聞こえ、パチパチと音が鳴っている。
── ピキ、ピチィ、ピシッ
「和田殿!ひび割れが出てきました!」
「おっしゃ、今度こそタエちゃん、剛腕でぶちかませ!」
「行きます!」
── バリン、バシャッ
増山が拳を暗黒蠍の頭を打ち砕く。
ひび割れが大きくなるのを見た和田が動く。
── バシュ、ドサッ
全体が割れる前に、暗黒蠍の尾を切り落とす。
「これで一つ目の素材獲得だな、みんなお疲れ!」
「良かった、矢が当たってほっとしたわ」
独り難しい顔をしてるのは葉山だった。
「そういや、葉山さっきのは助かった! たくちん、説明してくれ」
「短時間で低温から高温に激しい差があるとき、膨張するでやんすよ」
「葉山、意外と物知りなんだな」
「たまたま知ってたんだ。僕だってテイムだけってわけじゃないにゃ!」
今回は葉山の活躍がなかったから、葉山なりに焦っていたのかもしれない。
「あ、ちょっと待つにゃ、ハルにゃんが話あるって」
手をつないで意識を共有する。
「浮かれておるところ悪いがの、これはちときな臭いことじゃ。まず、暗黒蠍は強い魔物じゃが、レッサードラゴンとは比べ物にならんくらい弱い」
一同は顔を見合わせる。
「そんな、嘘だろ!?」
「そもそも、暗黒蠍の動きは緩慢じゃ。じゃが、ここにおるやつは早すぎる」
── カサカサ、カサカサ
砂を棒で素早く抜き差しするような音が無数に聞こえてくる。
「ん?」
振り返った和田の目には、悪夢の光景が浮かんでいる。
その反応にメンバー全員が振り返る。
「おいおいおいおい、なんだこりゃ」
「ひぇ、和田っち、蠍軍団でやんす」
そこには、無数の暗黒蠍の群れがこちらに向かってくるところだった。
「和田殿、素材は確保しましたし、一旦退きますか?」
「そうだな…一匹であれだけ苦戦したからな」
撤退するしかないように思えたその時だった。
「和田にゃん、さっきモグラがいてテイムできたんだけど、あそこ何かいるみたい」
「ん? 何もなさそうだがな…」
── ピュッ
「じゃあ念のため、矢を放ってみたわ」
── グサッ
砂地に血が広がっていく。
どういうことなんだ?
「タクちん、あそこアイスランス撃ち込んでみてくれ」
「イエッス、行けっ!」
── ドスッ
やはり何かに突き刺さる。
だが、一瞬後に砂が盛り上がり、何かが立ち上がる。
「フード!?」
布を被りその上から砂をかけて潜んでいたらしい。
立ち上がったものの、すぐに倒れた。
倒れたと同時に暗黒蠍の動きが鈍くなる。
「和田にゃん、ハルにゃんが言うには、暗黒蠍を操っていたやつじゃないかって」
「なるほどな、じゃあ術が解けたってことか。葉山、テイム試してみてくれ」
■ カニよりもサソリ
ぞろぞろと暗黒蠍が帰っていく。
大半はあっさりとテイムされ、葉山の命令に従ったのだった。
だが、数匹はそのまま近寄ってきている。
「やるしかない、今度は遅いからなんとなくなるはずだ!」
── ドサー
砂が下から吹き上がる。
暗黒蠍も持ち上げられている。
何か長いもので、巨大なヤツメウナギのようだ。
── ドサー
次々と砂が吹き上がり、暗黒蠍が捕食されていく。
「あれ、サンドワームだって、ハルにゃんが言ってる。逃げた方がいいみたい!」
「よし、この辺から撤退する! 急げ!」
葉山が何か拾ってる?
「葉山、何してる、急げ!」
── 砂に足を取られつつ、懸命に走る
「一時はどうなるかと思ったがな。良かった…ん、なんだろうこの臭い」
「あー、あれにゃ! さっきの暗黒蠍が焦げてきてる!」
葉山が駆け出した。
辺りには香ばしい匂いが立ち込めている。
葉山が手にしているのは、黒い殻からはみ出る白い肉だった。
「これ、匂が…カニだよ、カニぃ! タエにゃん、何かあったら浄化とヒールよろしくね」
カニ、いや蠍にかぶりつく葉山。
ちゃっかりと、蠍の肉を持ってきていたらしい。
「うーん、これ僕一番好きなやつ、タラバも目じゃないにゃ」
一同呆れ果て、葉山が美味しそうに食べるのを見つめている。
「毒とかないのかな、ちょっと匂いはいいが、さすがに食べるのはなぁ」
「そうですね、葉山殿あんまり食べ過ぎないでください」
やれやれと、和田が葉山の肩に手を置く。
大賢者と話をしたいからだ。
「大賢者さんよ、黒死教ってやばくないか?」
「さっきの見たか? アイスランスが刺さった直後、もう自決しておる」
「え、自決?」
「そうだ、奴らは捕まっても口を割らん。捕まりそうになれば、すぐに自決をする。徹底的に闇に潜むやつらじゃ」
なんとも不気味な集団だということはわかった。
今もどこかで見られている、そんな気配を感じる。
「これからも、気が抜けんぞ。ワシはそれを三百年余り続けてきたでな…」
増山と長野が反省会をしている微笑ましい会話も、外山の誰に話しているのかわからない蘊蓄も、全てが耳に入らない。
この会話が聞こえているから、葉山も食べるのをやめていた。
「大賢者さんよ、キチンと覚悟するよ。素材も集めて、イストリアをもっと良くしたいと思う」
大賢者は何も返さなかった。
砂の囁きがサラサラと聞こえ、緑の月といつまでも話しているようだった。
本作品の世界観や設定の補足情報、登場人物についてまとめました。
あれ、これなんだっけ、誰だっけ、そのようなときにご覧ください。
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