異世界に永住することになったんだが!?
◼️ 同志
「私、ネットフリーダムで異世界モノのアニメ!すんっ……ごい、大好きで!」
「なんと、てるっち、同志よ!」
もはや、外山と長野が意気投合で話し出している。
「さっき、長野殿って呼んでたよな」
「いや、怒られてたでやんすから、あ、てるっち、あれはみたでやんす? あの…」
(てる美、アニメ嫌いだったよな。何があった? しかし、これは止まらなさそうだな)
和田はやれやれと、咳払いをする。
「あ、ごめんなさい私ったら、なんだかベラベラと…恥ずかしい」
長野は顔が真っ赤なまま、俯いている。
だが、顔を上げると再び話し出す。
「現実生きて行く上で、会社にも何処にも居場所が無くて…」
長野は遠い目で過去を見てるようだった。
「でも、魔法とか冒険とか、ワクワクするでしょ? 私の生活では味わえ無くなったことだから…異世界だけは私を裏切らなかったの。アニメを見てる時だけは、つまらない現実を忘れられるって」
(あの後、何があったんだ? 気になるのは山々だが、決める事は決めないと、これから先の事も大事だ)
「じゃあ、とりあえず今後の事を話しておきたい。長野さん、会社への連絡はこの話の後にお願いできますか?」
黙って頷く長野。
「この前言った通り、俺はもうイストリアで生きて行く。だから、今日総務の人もいるし、退職届を出す事にする」
「えっ、そうなの?」
長野が驚き和田を見ている。黙って頷く和田。
「皆んなはどうする?」
「和田っち、小生がいないと困るてやんしょう? 一緒に行ってあげるでやんす!」
スルーする和田に、外山が不満そうだ。
「タエちゃんと葉山は?」
「僕は、こっちより向こうが楽しいと思うから。行くよ」
「私は迷ってました。でも、やっぱり皆さんと離れると、楽しく生活できないと思うので、一緒に行きます!」
みんなの顔を順番に見て、和田も含めて全員が頷く。
「というわけで長野さん、みんなの退職届預かってもらえますか?」
「ちょっと、勝手に決めないでもらえますか?」
意外な反応に、戸惑う和田。
◼️ 和田の日記
「先に謝ります。本当にごめんなさい」
「え、なにがごめんなの?」
「実は…」
長野が何があったかを話しはじめた。
── 長野が赤島倉庫の中を探索している時まで遡る
(みんなどこなんだろう? 悪いけど、部屋見せてもらうしかないわね)
それぞれの部屋を見て回る。
スマホはみな電源が切れていて、電源も入らないようだった。
ただ、それ以上の手掛かりはありそうも無い。
(あら、何かしら…)
机に古めの日記があった。
悪いと思ったが、手掛かりになることが書いてあるかもしれないので、パラパラとページを開く。
いつも開いているのか? そこだけ強い力で開こうとするページがあった。
『今日会社で偶然てる美の話をきいてしまった。俺のことで悩んでいると、気が付かない間に、別れたいのか、他にも好きな人でもできたのかもしれない』
(そんなこと一度もなかったのに……あ、あの時だ。パントリーで同僚に照れ隠しの冗談で“和田さんのことで悩んでる”って言った、あの会話……)
さらに、次のページには、思い詰めた言葉が並んでいる。
『やっぱり、俺なんか釣り合わないって、そう思ってた。てる美に好きな人ができたのなら、彼女が幸せになるのなら、身を引くべきなんだろう』
(やだ、何これ、勘違いからのこんな結末なんて、なんで聞いてくれなかったのよ!)
(キミさんに初めて会ったのは、自転車のチェーンが外れて困っていた時、手を真っ黒にしながら直してくれた。鼻にまで油がついて、思わずハンカチを貸した──あれが、私たちの始まりだった。)
そうなのだ、和田は本当に優しい性格なのはわかる、でもこれは誤解も良いところだった。
(後悔が残るけど、一つの救いは謎が解けたこと。スッキリとしたことはたしかね)
── 和田は今にも沸騰しそうな顔で固まっている
「わかった? 勘違いなのよ。私にはそんなつもり全然無かった」
「…そうなのか…日記読まれたのか!?」
みんなが、驚きの表情となる。
「和田殿、反応するのそこ? なのですか?」
(俺にだってわかるさそのくらい、でも、めちゃくちゃ恥ずかしいじゃないか!?)
「ふふふ、キミさん本当に相変わらずなのね」
「いや、まあ、なんだなその…」
どうしていいかわからない和田を、みんながニヤニヤ見ている。
「もうね、私色々諦めてた、このまま年老いて行くだけなのか? ってね。でも、色々わかっちゃった。もう、立ち止まらないって、追いかけなきゃって」
「え、つまり、なに??」
和田は本当にこう言うところが抜けていた。
「私は人事部ではないので、退職届は受け取りません。私の分も一通追加でお願いします!」
(そっか、俺も守れなかった過去を今度こそ… もうに逃げないぞ)
◼️ 改めてよろしく
「よし、準備いいな?」
食堂のテーブルに並んだ退職届が少し異様に見える。
退職届は五通ある。
一番左は外山だ、表書きの字が読めないくらい字が汚い。
二番目は増山だ、流麗で達筆な文字は、さすが料亭の元経営者ってところだ。
三番目は和田のもの。男らしい角張った無骨な整った文字だ。
四番目は葉山のだ、意外と綺麗な筆跡だが、自信のなさが文字に見える。
五番目は長野のものだが、整ってバランスの良い綺麗な文字だった。
おかしな事かもしれないが、みな個性があって、なんだか少し誇らしく思う。
あれから自室に戻り準備して、皆んな食堂のテーブルで退職届を用意したのだった。
「念のため聞くけど、異世界に永住することになったんだが!? 大丈夫なんだよな?」
外山、増山、葉山、そして長野を見る。
みんな無言で頷く。
「てるっち、本当に大丈夫でやんす?」
「ええ、逆にワクワクしちゃって、大変よ」
(もう戻ることは無いと思う。不思議と不安もないし、期待のほうが強いわね)
そして、みな食堂を後にした。誰も振り返る者はいなかった。
── 歴代倉庫の扉を開けて、異世界へと踏み出した
■ 情報過多
「いやあ、忙しかったな。やること多すぎだろう」
「キミさん、この馬車って車みたいよね。すごく乗り心地がいい!」
長野はなんでも感心し、見るものすべてに感動していた。
今でこそ落ちつたが、イストリアへ戻った直後は様々な処理に忙殺された。
永住を決めたことで、紙工房の一角の拠点から正式なものへ変更もした。
紙工房の隣の敷地の使用許可が下り、外山が拠点を作って内装を準備したのだった。
そして、長野の冒険者登録も行った。
結果は以下の通り。
ギルド登録情報
名前 ナガノ テルミ 性別 女
年齢 二十四歳 職業 狩人
魔法適正 隠密・探索 スキル ■■■■
スキルは判明していないが、狩人は意外だと思ったのだが、本人曰く「私、弓道部だったのよ」とのことで、それが影響しているのだろうか?
今は解毒薬の素材最初は”暗黒蠍の尾”を求め移動中であり、いったんサザルの村へ向かっている。
暗黒蠍は西のサウドレシグの砂漠に生息しているため、サザルの村は通り道なのだった。
ここで、サザルの村で消えた村人達について、チュー吉・大賢者からの情報共有があった。
話しをするため、馬車の運転は増山に任せている。
「お主ら、サザルの村で来た住民のこと忘れておらんか?」
「確かに、ラーリニアが浄化されて、特に何もなかったから、そのままだったな」
「こうなったからには、ある程度情報は共有せんとな。これは間違いなく闇の勢力、邪教の連中が絡んでおる。奴らは黒死教という教団でな、古の邪悪な王の復活を目的として活動しておる」
「邪悪な王の復活と、大賢者さんはどんな関係があるんだ?」
「イストリア建国前の名もなき荒野と呼ばれ、人々から忌み嫌われていた時、流れ者や犯罪者、ならず者たち、それら定したのは銀の月じゃからな。当然恨まれておる」
「それで、村人が消えることと、どんな関係が?」
「邪教のやつらはな、大量の贄が必要なんじゃ。古の邪悪な王が復活するためのな。おそらくラーリニアの精神操作で人々を呼び寄せて贄としようとしていたのではないかな。サザルからならば、地形的にサウドレシグの国境を通る必要があるでな、国境の砦は調査が必要じゃろう」
地図に目を落とし確認すると、先に国境の砦に着きそうだ。
消えて村人たちの情報が掴めるといいのだが・・・
サザルの村へ向かい、馬車が静かに進んでいった。
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あれ、これなんだっけ、誰だっけ、そのようなときにご覧ください。
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