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定年間近の左遷先が冒険者ギルドなんだが!?  作者: Jiru-man
第二部

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32/33

異世界は最高です!

挿絵(By みてみん)




◼️ 再会


「最低限確認したら、今後の事話そう」

「わかったでやんす」


タエちゃんと葉山も、無言で頷いた。

一カ月も不在だから、確認して今後の事整理したら、すぐイストリアへ戻る予定だ。


すこし前までは、不気味だと思っていた歴代倉庫も、今では何とも思わない。


「あれ、食堂の電気って消して出たよな?」

「小生、ちゃんと消したでやんす」


── カタン


音もしているが、誰かいるのか?


「ど、泥棒でやんす?」

「しぃ」


和田が口を開かず、指を口に当てて、食堂に自分が入るとジェスチャーで示す。

そろりと食堂の扉からすこしだけ覗く。


誰だろう?

女性が一人座っている。


── ブゥゥゥン、ブゥゥゥン


女性のスマホが震える。マナーモードになっているようだ。


「はい、長野です」


長野!? やっぱりか、似てると思ったが…


「皆さんいないようです。…はい、全部の部屋は見ててません。…いいえ、暗すぎるんです。部屋もたくさんあるみたいだし…」


相手の会話内容がわからないが、これは何かあったな、どうしようと考えていた時だ。


「あ!」


外山が食堂に入ってしまう。


「葉山殿が押すからでやんす!」

「ぼ、僕知らないって…」

「ひっ、誰ですか!?」


突然入ってきた外山に、長野が驚く。


「課長、今皆さんが帰ってきたみたいなので、事情聞いたらかけ直します」


慌てて通話を切る長野。

こうなっては出て行くしかないな。


「あの、お久しぶり。てる、いや長野さんだよね?」


「お久しぶりって、あなた方どうしてたんですか? 秋田営業所からも、総務部からも、ずっと連絡してたんですよ?」


困った事になったと焦る。どう言い訳をするべきか、考えるが説得力ある言葉が和田には思い浮かばない。


「いや、あの、葉山室長が倒れまして、病院にですね…」


「そうでやんす、お腹が死ぬほど痛いと、大変でやんした」


二人がしどろもどろで説明するが、怪しい事この上ない。


「二週間以上も連絡とれないって、普通じゃないですよ? それに折り返しもないって、どういうつもりなんですか?」


正論である。

怒るのも当然だ。ただ、どこか安堵しているようにも見えた。


「「…」」


こうなっては、下手に言い訳するのも意味がないだろう。


「あの、信じられないかもしれないけど、俺たち異世界に行ってたんです」


もう、何言っても説明にもならない、そう腹を括っていた。


「和田さん、私のことからかっているんですか? それともバカにしてますか?」


「まあ、そうなりますよね… でも、本当なんです」


和田は穏やかに、そして真剣に話すことに決めた。


(あ、この目、前にも見た事あったな)


── 長野は昔の事を思い出していた


◼️ 別れの日


(いけない、遅くなっちゃった… キミさん待ってるよね)


長野は雨の中を小走りで急ぐ。傘を差しているが、あまり役に立たず、雨の染みが服に広がっていく。


会社の側のいつもの待ち合わせする公園。

和田は傘も差さず、ずぶ濡れで待っていた。


「キミさん、ごめんお待たせ。傘持ってないの? こんなにずぶ濡れで…」


挿絵(By みてみん)


なんとなくいつもの和田ではなかった。

静かな眼差しは、悲しみが滲んでいた。


「てる…いや、長野さん、あなたにとって僕は相応しくない。僕なんかよりも…」


悲しみと、どこまでも真剣な眼差しだった。


「え、何言ってるの? どう言う事なの?」

「…」


和田は何も言わずに見つめている。


「あなたは幸せにならなきゃ、僕じゃダメだ。さよなら」


そして、和田は振り返りもせず、走り去った。


(もしもあの時、私が追いかけていたら何か変わったかしら?)


その後は、なんだか自分の人生だけど、どこか他人事のように見ていたような気がする。


親が決めた見合いで、たいして好きでもない、真面目そうな人と結婚した。


別に和田のせいにするつもりはないが、あれから何事にも本気になれない自分がいた。


そして五年前に離婚した。


子供ができなかったからだ。子供を楽しみにしていた夫と、その両親は、長野が子供ができないと知ると、あからさまに態度が変化したのだった。


そんな事だから、離婚を切り出されても、何も困らなかった。


それからは会社と自宅の往復。人生は消化試合になったの?


そんな思いが消えなかった。


(結局私は、あの雨の日に追いかけなかったまま、あそこに立ち尽くしているだけなんだわ…)


◼️ 百聞は一見にしかず


「長野さん? どうかしました?」


長野がはっと我に帰る。


「あの、アニメや漫画じゃありませんよ? そんな事大人ならわかりますよね?」


「もちろん、私も、みんなも最初そうでしたよ」


長野は複雑な表情をしている。信じられるわけない、と言う気持ちと、本当なら証明して欲しい、そう問われているように感じた。


「なら、行きましょう! すぐ済みますから」


和田は長野の手を引くと、グイグイと引っ張る。


「あの、やめてください。そんなのおかしいですって、本当に怒りますよ?」


しかし、和田は止まらない。


「いいですよ、いくらでも怒ってくれて構わないです。ただ、扉の先を見てから、それでも僕が言ってる事が嘘だったなら、ですよ」


そしてとうとう歴代倉庫前につく。外山をはじめ、すべてのメンバーも着いてくる。


「え、どう言うことなの?」

「いきます!」


辺りの空気が震える、陽炎のように空気が歪む。

そして、体の内側に収縮する感覚が襲う。


「え、これ…」


── シュン

── スタン

── ガチャリ


扉が開き、眩しい光で目が眩む。


「眩しい…え、これ、トカゲ?トカゲって飛ぶの? ねえ飛ぶの?」


挿絵(By みてみん)


長野の目の前に、大賢者の使い魔であるドラゴンが飛んでいのだった。


「それトカゲじゃなくてドラゴンね、あ、そうだこっち来て」


信じられないと、ドラゴンに釘付けのまま、鏡の前に連れて来られる。


「これ、見てくれる?」

「え、キミさん? え、私、なんなの?」


長野が若返った和田と、自身を見て完全にパニックになっている。

そこでさっと葉山が、長野の手を握る。


「なんじゃ、えらく早く戻ったな?」


ネズミと目が合って、長野の驚きはピークになる。

心に直接の聞こえてる老婆の声。おかしな事だと思ってるが、ネズミが話してるって、理解している自分がいた。


「え、なんでネズミが話してるの?」

「まあ、今は訳あってこうなっておるが、これでも大賢者と呼ばれておるものでな…」


なんとなく、長野は諦めた感が見て取れた。


「みんなで私を騙そうって事よね。テッテレー、ドッキリでした、って、そうなんでしょ?」


「長野殿、これは本当なんでやんす」

「そうだね、僕も信じられなかったけど、こっちのお肉は最高だよ?」


そして、和田が自分の腕を剣で切りつけた。


「信じてもらうには、これしかないな」


浅く切り込んだ傷口から、すーっと血が流れる。


「痛っ、ちょっと痛いな。タエちゃん、ヒールお願い」

「和田殿、何も切らなくても」


増山が手をかざしてヒールをかける、すると傷が消えて行く。

その一連の出来事を、長野は驚きの表情で見つめていた。


(もう何が本当で、何が嘘なのかわからない…)


「長野というのかな。お前さんも、もう目で起こった事を見たわけで、心ではわかっておろう。ワシの見立てでは、お前さんの心に大きな後悔が見えるの」


(え、そんな事あるの? 偶然よね?)


「あの雨の日こと、後悔しておるのじゃろう? 追いかけたなら、とな。信じぬならそれでよい。じゃが、この先どうするのじゃ? また虚しい世界で生きて行くのか? わかっておるなら、追いかけるのなら、これが最後になるぞ」


(そうなんだわ、私も前に進みたい。もう意味のない毎日に、希望を探すことを続けたくない)


「ワダアよ、その娘もここに来た意味、わかっておるのか? まあよい、お主こういうところは抜けておるからな。一旦帰ってよう話してこい」


── 再度戻って食堂の倉庫


和田をはじめ全員が食堂のテーブルに座る。


「どうだったかな? これが嘘偽りない答えでさ…」


長野の顔が赤くなってる? 何があった!?

ちょっともじもじしながら、迷っていたようだったが、すうっと息を吸い込んだ。


そして──手を握り締めた長野が言葉を放った。


「異世界は最高です!」


挿絵(By みてみん)


あまりに意表を突かれて、皆がフリーズした。


本作品の世界観や設定の補足情報、登場人物についてまとめました。

あれ、これなんだっけ、誰だっけ、そのようなときにご覧ください。


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