異世界は最高です!
◼️ 再会
「最低限確認したら、今後の事話そう」
「わかったでやんす」
タエちゃんと葉山も、無言で頷いた。
一カ月も不在だから、確認して今後の事整理したら、すぐイストリアへ戻る予定だ。
すこし前までは、不気味だと思っていた歴代倉庫も、今では何とも思わない。
「あれ、食堂の電気って消して出たよな?」
「小生、ちゃんと消したでやんす」
── カタン
音もしているが、誰かいるのか?
「ど、泥棒でやんす?」
「しぃ」
和田が口を開かず、指を口に当てて、食堂に自分が入るとジェスチャーで示す。
そろりと食堂の扉からすこしだけ覗く。
誰だろう?
女性が一人座っている。
── ブゥゥゥン、ブゥゥゥン
女性のスマホが震える。マナーモードになっているようだ。
「はい、長野です」
長野!? やっぱりか、似てると思ったが…
「皆さんいないようです。…はい、全部の部屋は見ててません。…いいえ、暗すぎるんです。部屋もたくさんあるみたいだし…」
相手の会話内容がわからないが、これは何かあったな、どうしようと考えていた時だ。
「あ!」
外山が食堂に入ってしまう。
「葉山殿が押すからでやんす!」
「ぼ、僕知らないって…」
「ひっ、誰ですか!?」
突然入ってきた外山に、長野が驚く。
「課長、今皆さんが帰ってきたみたいなので、事情聞いたらかけ直します」
慌てて通話を切る長野。
こうなっては出て行くしかないな。
「あの、お久しぶり。てる、いや長野さんだよね?」
「お久しぶりって、あなた方どうしてたんですか? 秋田営業所からも、総務部からも、ずっと連絡してたんですよ?」
困った事になったと焦る。どう言い訳をするべきか、考えるが説得力ある言葉が和田には思い浮かばない。
「いや、あの、葉山室長が倒れまして、病院にですね…」
「そうでやんす、お腹が死ぬほど痛いと、大変でやんした」
二人がしどろもどろで説明するが、怪しい事この上ない。
「二週間以上も連絡とれないって、普通じゃないですよ? それに折り返しもないって、どういうつもりなんですか?」
正論である。
怒るのも当然だ。ただ、どこか安堵しているようにも見えた。
「「…」」
こうなっては、下手に言い訳するのも意味がないだろう。
「あの、信じられないかもしれないけど、俺たち異世界に行ってたんです」
もう、何言っても説明にもならない、そう腹を括っていた。
「和田さん、私のことからかっているんですか? それともバカにしてますか?」
「まあ、そうなりますよね… でも、本当なんです」
和田は穏やかに、そして真剣に話すことに決めた。
(あ、この目、前にも見た事あったな)
── 長野は昔の事を思い出していた
◼️ 別れの日
(いけない、遅くなっちゃった… キミさん待ってるよね)
長野は雨の中を小走りで急ぐ。傘を差しているが、あまり役に立たず、雨の染みが服に広がっていく。
会社の側のいつもの待ち合わせする公園。
和田は傘も差さず、ずぶ濡れで待っていた。
「キミさん、ごめんお待たせ。傘持ってないの? こんなにずぶ濡れで…」
なんとなくいつもの和田ではなかった。
静かな眼差しは、悲しみが滲んでいた。
「てる…いや、長野さん、あなたにとって僕は相応しくない。僕なんかよりも…」
悲しみと、どこまでも真剣な眼差しだった。
「え、何言ってるの? どう言う事なの?」
「…」
和田は何も言わずに見つめている。
「あなたは幸せにならなきゃ、僕じゃダメだ。さよなら」
そして、和田は振り返りもせず、走り去った。
(もしもあの時、私が追いかけていたら何か変わったかしら?)
その後は、なんだか自分の人生だけど、どこか他人事のように見ていたような気がする。
親が決めた見合いで、たいして好きでもない、真面目そうな人と結婚した。
別に和田のせいにするつもりはないが、あれから何事にも本気になれない自分がいた。
そして五年前に離婚した。
子供ができなかったからだ。子供を楽しみにしていた夫と、その両親は、長野が子供ができないと知ると、あからさまに態度が変化したのだった。
そんな事だから、離婚を切り出されても、何も困らなかった。
それからは会社と自宅の往復。人生は消化試合になったの?
そんな思いが消えなかった。
(結局私は、あの雨の日に追いかけなかったまま、あそこに立ち尽くしているだけなんだわ…)
◼️ 百聞は一見にしかず
「長野さん? どうかしました?」
長野がはっと我に帰る。
「あの、アニメや漫画じゃありませんよ? そんな事大人ならわかりますよね?」
「もちろん、私も、みんなも最初そうでしたよ」
長野は複雑な表情をしている。信じられるわけない、と言う気持ちと、本当なら証明して欲しい、そう問われているように感じた。
「なら、行きましょう! すぐ済みますから」
和田は長野の手を引くと、グイグイと引っ張る。
「あの、やめてください。そんなのおかしいですって、本当に怒りますよ?」
しかし、和田は止まらない。
「いいですよ、いくらでも怒ってくれて構わないです。ただ、扉の先を見てから、それでも僕が言ってる事が嘘だったなら、ですよ」
そしてとうとう歴代倉庫前につく。外山をはじめ、すべてのメンバーも着いてくる。
「え、どう言うことなの?」
「いきます!」
辺りの空気が震える、陽炎のように空気が歪む。
そして、体の内側に収縮する感覚が襲う。
「え、これ…」
── シュン
── スタン
── ガチャリ
扉が開き、眩しい光で目が眩む。
「眩しい…え、これ、トカゲ?トカゲって飛ぶの? ねえ飛ぶの?」
長野の目の前に、大賢者の使い魔であるドラゴンが飛んでいのだった。
「それトカゲじゃなくてドラゴンね、あ、そうだこっち来て」
信じられないと、ドラゴンに釘付けのまま、鏡の前に連れて来られる。
「これ、見てくれる?」
「え、キミさん? え、私、なんなの?」
長野が若返った和田と、自身を見て完全にパニックになっている。
そこでさっと葉山が、長野の手を握る。
「なんじゃ、えらく早く戻ったな?」
ネズミと目が合って、長野の驚きはピークになる。
心に直接の聞こえてる老婆の声。おかしな事だと思ってるが、ネズミが話してるって、理解している自分がいた。
「え、なんでネズミが話してるの?」
「まあ、今は訳あってこうなっておるが、これでも大賢者と呼ばれておるものでな…」
なんとなく、長野は諦めた感が見て取れた。
「みんなで私を騙そうって事よね。テッテレー、ドッキリでした、って、そうなんでしょ?」
「長野殿、これは本当なんでやんす」
「そうだね、僕も信じられなかったけど、こっちのお肉は最高だよ?」
そして、和田が自分の腕を剣で切りつけた。
「信じてもらうには、これしかないな」
浅く切り込んだ傷口から、すーっと血が流れる。
「痛っ、ちょっと痛いな。タエちゃん、ヒールお願い」
「和田殿、何も切らなくても」
増山が手をかざしてヒールをかける、すると傷が消えて行く。
その一連の出来事を、長野は驚きの表情で見つめていた。
(もう何が本当で、何が嘘なのかわからない…)
「長野というのかな。お前さんも、もう目で起こった事を見たわけで、心ではわかっておろう。ワシの見立てでは、お前さんの心に大きな後悔が見えるの」
(え、そんな事あるの? 偶然よね?)
「あの雨の日こと、後悔しておるのじゃろう? 追いかけたなら、とな。信じぬならそれでよい。じゃが、この先どうするのじゃ? また虚しい世界で生きて行くのか? わかっておるなら、追いかけるのなら、これが最後になるぞ」
(そうなんだわ、私も前に進みたい。もう意味のない毎日に、希望を探すことを続けたくない)
「ワダアよ、その娘もここに来た意味、わかっておるのか? まあよい、お主こういうところは抜けておるからな。一旦帰ってよう話してこい」
── 再度戻って食堂の倉庫
和田をはじめ全員が食堂のテーブルに座る。
「どうだったかな? これが嘘偽りない答えでさ…」
長野の顔が赤くなってる? 何があった!?
ちょっともじもじしながら、迷っていたようだったが、すうっと息を吸い込んだ。
そして──手を握り締めた長野が言葉を放った。
「異世界は最高です!」
あまりに意表を突かれて、皆がフリーズした。
本作品の世界観や設定の補足情報、登場人物についてまとめました。
あれ、これなんだっけ、誰だっけ、そのようなときにご覧ください。
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