キレスジレドへ 船上の悪巧み
◼️ 葉山無双
この宿屋は怪しいのにゃ。
僕のレーダーがビンビン反応してる。
そう、僕はGが大嫌いなの。この世界にいるのかは知らないけど、この宿屋は出そうにゃ。
ボロい、汚い、臭い、三拍子揃っている。
こんな部屋でお金取ろうとか、酷すぎる!
Gはもちろん、ゴキ…ひぃ、名前呼ぶのもいやなんだ!
じゃあ他の虫さん達、もちろんGは除いて、手伝ってもらうんだ。
よし、虫さん達、この宿屋で僕が嫌そうな奴がいないか、色々探ってきてね!
集まっていた虫達が散っていく。
そして…話し声だ…
(そのイストリアの女共は、ここにいるんだな?)
(はい、ここに入るまで付けてきましたんで、間違いなく)
これ、さっきのズボン下がってたひとにゃ。
僕の新しいスキル、感覚共有だっけ?
役に立ってるのにゃ!
(という事は、多分朝の船に乗るって事だな)
(そうですな。船の上、しかも我らの仲間だらけ、沖合で襲えばひとたまりもないですよ)
なんか、悪い事を話してる。
許せないのにゃ。
(私めに良い案があります…)
葉山が書いている事も知らず、計画を話す悪党ども。
全部を聞き終えた葉山は、和田の元へ向かうのだった。
── 翌日
「さて、船に乗りますか。あー、言っておくが、みんな下手に動かなくていいから」
「僕はね、珍しくおこってるんだからね」
葉山プンプンだな。
「だって、イカ焼き食べてから乗ろうと思ったのに、あいつらのせいで時間なかった!」
「まあまあ、帰りのお楽しみにとっておけよ」
昨日、夜中に葉山から叩き起こされた。
何が起こるのか、どうするかはすでにみんなに共有済みだ。
「小生も、奴隷商人とか思うところあるでやんす。うちらパーティに手を出したらどうなるか、ふふふでやんすな」
「タク殿も、葉山殿も、少し冷静になってくださいね」
ひとまず、俺らのアドバンテージは、何が仕組まれてるか丸わかりだ、という事。
やつらの思い通りにはいかないさ。
◼️ 仕掛けられた悪巧み
俺らは一纏めで、一室に押し込められた。
まあ、その方があいつらの仕事もし易いって事なんだろうな。
── コンコン
扉がノックされる。
「ドリンクサービスをお待ちしました」
「どうぞ、入ってください」
黄色のドリンクを四つだな。
「こちらは、ロークス連邦から取り寄せました、アデネをふんだんに使ったジュースとなります。乗船の記念にどうぞ召し上がってください」
「ウェルカムドリンクってやつ、美味しそうでやんすね!」
「わーい、ぼくジュース好き」
そそくさとジュースを届けた男が出ていったな。
── 出てきた男の肩には、小さな羽虫が乗っていた
(ジュース届けてきましたぜ!)
(よし、飲んでたか?)
(はい、大丈夫です)
(薬はすぐに効くやつだが、念のため少し待ったら突入するぞ)
(昨日のお返しもしないとな!)
── しばらくの後、和田達の部屋の前
ずらりと取り囲み、ドアを見つめている。
ソドと言っていた猫人が頷き、ハギムと呼ばれていた狐人がドアを開けた。
部屋の中には、案の定倒れ込んだ人の足が見えていた。
注意して入った。
女が二人と、男一人倒れている。
おかしい、一人足りない。
「兄貴、一人いやせんぜ」
「どうした、寝込んでるのか?」
「はい、寝てやすが、一人小僧が消えてます」
寝ていると聞き、ドヤドヤと数人が入ってきた。
ふむ、薬は効いてるようだが、小僧どこに行った?
── ゴゴゴゴ
ドアを覆うように、土壁が現れた。
「な、なんだこりゃ!」
「小生のスーパー圧縮の土壁はお気に召したでやんすか?」
土壁の外から外山が煽る。
襲撃に備えて、外山のみがこっそり外に抜け出して隠れていたのだった。
壁に剣を突き立てるが、ほんの少し欠ける程度で、大きく崩すにはどれくらいかかるだろうか?
「あれれ、僕のこと攫おうとしてた?」
「それはいけませんね、私たちを攫ってどうしようとしてたのかしら?」
葉山とタエの声も土壁の向こうから聞こえる!
アポーツで瞬間移動させていたのだった。
部屋の中には和田のみが立っていた。
「残念でした、薬入りのジュースはオーダーしてないんでな。全員吐き出したぜ。タクちん、アポーツ頼む!」
「ガッテンでやんす!」
和田が目の前で消えた事で、さらにパニックになる。
「まあ、大人しくしてろよ。攫ってからの人身売買は大罪なんだろ? 船ついたら役人に引き渡すからな」
先程まで中にいた和田の声が、壁の外から聞こえていた。
── 悪党を閉じ込め、船長室へ向かう一行
船長達と話をした結果、次のようなことがわかった。
ソドと呼ばれる不良商人たちは、この船を使用しているだけで、船長以下、船の運行には関わっていないという事だった。
いつも料金を値切ったり、時には脅すような事もあったため、船長と船員たちはウンザリしていたらしい。
「和田殿、これでキレスジレドまで安心ですね」
「まったくだな。あ、葉山、奴らの様子確認できるか?」
「わかるよ、虫たくさんいるからね…」
何かぶつぶつ言ってるな。虫に指示でも出してるのか?
「和田にゃん、ガチャガチャ聞こえるだけだよ」
「なんだって? タクちん、あの壁大丈夫だよな?」
「問題ないと思うけど、いくでやんす!」
様子見行ってみるか。
── ガチャ
壁は問題無さそうだが、諦めたのか?
「おい、お前らなしてんだ?」
「捕まえられるもんなら、来てみろよ!」
ん? 確か今のは狐人の声かな。
それ以降、何も聞こえなくなったな。
「葉山、中に虫いる?」
「あ、奴らについてた虫、海に落ちてる!」
「タクちん、この壁解除できるか?」
「任せるでやんす」
── ガチャリ
タクちんに続かないとな。
どうだ? やっぱり誰もいないな。
窓全開になってるな。
「窓から飛び降りたのか?」
「そうとしか考えられないでやんすね」
逃げられたか。
まさか飛び降りるとはなぁ。
「みんな部屋片付けといてくれる? 船長に話してくるよ」
◼️ 動き出した影
「レッサードラゴンはどうしておる?」
「は、キレスジレドの国境で暴れ回ってます。イストリアとの国交に支障が出ております。冒険者や商人が襲われて、誰も近づかない状態です」
目深にフードを被った男の表情は見えない。
わずかに覗く口元は、微かに笑っているように見える。
「イストリアのゴールド以上の冒険者を、他方へ引き摺り出せておるからな。くくく、ハルアット! 少しずつ真綿で締め上げられる気分はどうであろうな?」
「この状況であれば、あと三ヶ月は釘付けにできるかと」
フードの男は満足げに頷いている。
「まもなくじゃな。ハルアットには存分に楽しんでもらい、最後には特別な舞を舞ってもらおうか」
「では、そちらは例の男に依頼をかけておきます」
跪く男の顔には、冷や汗と恐れが張り付いている。
フードの男が無慈悲であり、容赦ない人物であることを誰よりも知っているからだ。
「では、この後の手筈も抜かりなくな」
「は、直ちに手配致します」
一礼すると慌ただしく部屋を出ていく。
相変わらずフードの男の表情は読めない。
ただ、口元は不気味に歪んでいるのだった。
◼️ 船旅
幸い天候に恵まれて、大きな揺れもなく快適に進んでいく。
甲板の上で心地良い風が外山の髪の毛を巻き上げる。
── 初めて乗ったけど、帆船はいいでやんす
乗り物好きの外山にはたまらない。
あまり船には縁がなかった事もあり、知識もほとんど無いため、何を見ても新鮮だった。
「タク殿、ここにいたんですね」
「風がとても気持ちがいいでやんす」
タエも心地良さそうにマストを見上げた。
眩しい太陽と心地良い海風に、目を細める。
「タエ様、小生すこし悩んでるでやんす」
「え? 何を悩むんですか?」
少し言い淀んでいたが、意を決したように口を開いた。
「和田っちの質問…和田っちはイストリアに移住するって宣言したでやんす」
「そうですね…」
「小生、この世界が大好きで、ワクワクするし、とっても楽しいでやんす」
タエもその気持ちはよくわかる。
命の危険もあるが、何より生きている実感も強く感じられた。
「でも、見たいアニメも、欲しい模型も、やりたいゲームもたくさんあるでやんすよね」
少し遠い目になってる外山が首を振る。
「いや、実は過去形になったのかも。たくさんあるじゃなくて、たくさんあった、でやんすな」
くるりとタエの方を振り返った外山の顔には、とても清々しい笑顔があった。
「小生、この世界がたまらなく好きでやんす!」
タエも外山も、しばらく無言で海を見ていた。
船は静かに航路を進んでいった。
本作品の世界観や設定の補足情報、登場人物についてまとめました。
あれ、これなんだっけ、誰だっけ、そのようなときにご覧ください。
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