キレスジレドへ 英雄達の記憶
◼️ 破釜沈船
『目覚めよ…』
『…』
『起きろ!』
ここは?
とても暗い。だが、星空が見える。
いつの間にか夜になってたのか?
『起きたか? ずいぶんとやられていたな』
『ん…!? あんた、ユウノシンなのか?』
え? いつのまにか、焚き火あるぞ。
『まあ、こちらへ来て座るがよい』
『…』
『ここは現実世界ではない。私の残滓とでも言うか、指輪に残された記憶のような物だ』
よくわからないが、ここにずっといた、ということなのか?
『レッサードラゴンが出てさ、逃げるしかできなくて。今バストールにしごかれてる』
『なるほど、お主は逃げるしかできなった、そう言うのだな』
焚き火、全然熱くないな。
これって本物なのか?
『いや、ドラゴンというだけあって、あれはとてもじゃないが…』
『勝てない、そう言うのだな。 破釜沈船だ』
そうだな、そのメッセージは受け取ってる。
『背水の陣みたいなことだよな。後に引かない覚悟というか』
『意味を知ることと、意味に生きることは違う』
つまり、俺は何もわかってない、そう言いたいのか?
『正直、どうしていいかわからないよ』
『お主はイストリアで生きるので無いのか? ダメなら日本に帰れば良い、そう思って無いか?』
俺の内側まで見てるみたいだ。
目を逸らしたくなる。
『俺はイストリアで生きると決めてるよ』
『ならば魔物であろうと、人であろうとお主の前に立ちはだかる物は超えなければならん。勝てない、では無い。勝たねばならん』
ユウノシンの顔が怖いくらい青白いんだが。
『そんな事言われても、どうすりゃいい? 俺だってどうにかできるなら、とっくにやってる!』
『この指輪の力を、全く引き出せておらんようだな』
── ユウノシンは語る。指輪の記憶を
この指輪はいつから存在するのか、誰が作ったのか、それは誰にもわからない。
ただ、はるか古の世から脈々と続く系譜の記憶が流れている。
これを感じろ、ユウノシンが指差す方を見る。屈強な戦士がまさに渾身の一撃を放つ瞬間だった。
隆起する筋肉、迸る気迫、対する敵への憎悪…
次はか細い女性であった。細身の流れるような剣を舞うように操る。流麗でありながら、力強くもある、このような細身から繰り出されているとは思えない。
そうやって、次々と過去の記憶が展開され、それが全て和田に流れ込むような、目には見えないが身体の奥で何かが起きあがろうとしている。
人が次々と変わってゆく。その都度、体のあらゆる部位がビクッ、ビクッと痙攣するかのような衝撃が走る。
あたかも同じことをしているかのように。
じわじわと膨らんでいく風船のように、少しずつ膨らんでいるのと同じだった。和田に流れ込む記憶が膨張して限界を感じていた。
頭も心も悲鳴を上げている。ヒリヒリと焼けつくような痛みを伴っている。
── もう無理だ… 頭が破裂しそうだ…
『どうだ? 何か掴んだか?』
ん? いったいどのくらい時間が経ったんだ?
『この中は時間が無限に流れておる。外での経過は全く無い』
『俺の考えてること…わかるのか?』
『指輪で全て繋がっておる』
なるほどな、じゃあ今までにの全部わかってる、そんな感じかな。
『良いか、記憶があるのと無いのとでは、雲泥の差がある。無はどこまでも無であり、存在すらも無い。それはつまり、事実が無いのだ。記憶が流れ込んでおれば、それは事実が明白なのだ』
『何だか難しいな。わかるようでわからない』
頭が痛いし、考えがまとまらない。
『つまりは、道があれば先がどうなっていようとも、先に行くことはできよう。だが、道がない、わからないのであれば、どこへも行くことはできんのじゃ』
『なるほど、じゃあ俺の中に過去の偉人や英雄の技や、知識が入ったと言うことなのか?』
ユウノシンは笑ったのか?
『まあ当たらずとも、遠からずかな。これから先に兆しがあるはず。そこから掴み取れ。知識が入ったのではない、すでに同じなのだと知れ』
『やっぱり、まだ難しいよ。もう少し教え…』
あれ、ユウノシンがボヤけてきた。
焚き火も、星空も、薄くなってきてる。
『 破釜沈船だ、もう迷う暇はない。お前は前だけを見て進むのだ…』
── バシャ
「小僧、いつまで寝とるか、起きるんだ!」
「え、ユウノシン?」
焚き火は? 星空は? どこにもなかった。
冷たいな、水浸しじゃないか。
バストールがニヤニヤしてる。
「小僧、本当にあの世行ってきたか? ユウノシンはもうこの世におらん」
■ 成長
「ふむ、小僧、お前のそのなんだろう、はっきりとわからんのだが、違和感があるな」
「もうそろそろ休んでいいか、顔が爆発する」
何回落ちたかわかんないし、もう痛みを通り越して妙な痺れが出てきた。
「まだ一度も反撃できておらんぞ、ほれ、ほれ、ほれ」
「く、ちょっと…」
いい加減にしろ!
── バシュッ
「あ、当たった」
「やっぱり小僧、おかしいな。ほんとに稀にじゃが、恐ろしいのが出てくるぞい」
ん、そうなのか?
「もう、疲れすぎてよくわかんない」
「まあ、初日じゃしな。この辺にしておくか」
── どうやって部屋に戻ったかわからない
「うわあぁぁぁぁっ」
バストールの一撃が来た!
なんだ、夢なのか。
夢にまで見るなんて、相当トラウマになってるな。
(そこから掴み取れ。知識が入ったのではない、すでに同じなのだと知れ)
ユウノシンの言葉だ。
すでに同じ、なのか?
目を閉じて見ようか。
ユウノシンが見せた過去はどんなだったかな?
名も知らぬ英雄達、英雄というよりは美姫、普通の老人、そんな面々がいたはだ。
『良いか、この斬撃は力を抜いて打つのだ、この辺りから…』
ん? なんだこれは?
『お願いいたします、師匠、どうか今一度…』
『我の前に立つとは笑止、後悔するがよい…』
彼らの記憶だよな?
ユウノシンの時の比じゃないぞ。
── 身体のあちこちを震わせ、和田の眼球は瞼の下で蠢いている
「疲れた…」
日が差し込んでいた。
もう朝になっていたのだ。
何か変わったと思うが、具体的に説明はできない。
自転車に初めて乗れた時に似てるかな?
どうやったら乗れるかは、説明できないが乗れてる、そういう感覚なのか?
後から考えても、なぜ失敗してたのか? 説明なんてできないからな。
異世界の太陽、眩しいな。
サンキュー、ユウノシン!
── 二日目の訓練場で和田、奮戦する
「ガハハハ、小僧! 見込んだ通り面白い。本気で行ってもよさそうじゃの」
「勘弁してくれよ、手加減してくれ」
そうやって、軽々と突きを流し、反撃を打ち込み、蹴りも交えていく。
「これならどうじゃ? ほれ、よっと」
く、さすが本気だと全部避けとか無理ゲーか。
「何があった? 昨日まで嘘ついておったか?」
「まあ、色々ありましてね」
── バシュ
「ガハハハ、また当たったぞ、痛いのぉ。これは久しぶりに、燃えるわい」
「いやー、萌えなくていいからさ」
俺自身びっくりだよ。
でも、一度乗れたら、自転車なんて簡単なんだ。
それと同じさ。理屈なんぞ知らん。
ただな、転ぶ時は転んじまう。
── ぐはっ
腹に深くて重いやつが入った。
吐きそうだ。
「ガハハハ、愉快愉快、ここまでやれる奴も久しぶりだ」
「お手柔らかにお願いしたいもんだ」
「何を、これからみっちり行くぞい」
── バストールの笑い声と、不気味な肉を叩く音が訓練場に響き渡っていた
◼️ 新スキル
和田が鬼の特訓をしている間、他の面々も特訓を受けていた。
外山とタエは魔法の強化をうけている。
(僕は訓練するにも魔物がいないにゃ)
独り冒険者ギルドをぶらぶらしていると、ロンギスタンに声をかけられる。
「ハヤアマ様、見通す者でチェックされてはいかがでしょう?」
「うん、僕も暇してたし、いいよ!」
ロンギスタンについて応接室へ入る。
机の上に、緑の不気味な卵が置かれる。
「さ、どうぞこちをお触りください」
「気持ち悪いにゃ」
手を置くと微妙にブルッと震えが伝わる。
手を離すと、筋が入り目が開いた。
コトリ、と情報が記された板が落ちる。
名前 ハヤマ レイ 性別 女
年齢 二十歳 職業 ■■テイマー
魔法適正 精霊、幻獣、魔物 スキル 感覚共有
「ハヤアマ様、スキルが発現してますぞ!」
「感覚共有?」
「テイマーには実に相性のよいスキルかと。テイムした者と感覚を共有できます。例えば、鳥系をテイムすると、空から見る景色が共有されます。当然、共有されてますから、指示もできます」
興奮するロンギスタンだが、葉山はあまり興味も無いといった感じか。
「僕はもっと、ドドドドってなんか手から出たり、そういう派手なのがいいにゃ」
「まあ、使ってみてください。そのうち良さがわかります」
「ギルマスさん、ありがとうでした。そろそろ行くのにゃ」
そう言うや、勢いよくソファーから立ち上がる。
「あー、まだテイマーの種別が確定してません。またいらしてくださいね」
手を振って答えると、紙工房へ向かって行った。
この時、本人はもちろん自覚してもないが、このスキルによって偉業を成し遂げることとなるのだった。
本作品の世界観や設定の補足情報、登場人物についてまとめました。
あれ、これなんだっけ、誰だっけ、そのようなときにご覧ください。
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