キレスジレドへ 現地調査
■ 馬車の旅
━━ レッドアイ一向は、外山のアイテムの馬車に揺られていた。
「馬車で二日もかからないって事だけど」
「そうなると、明日到着でやんすかね」
いい感じで一日走ったんだけど。予定通りならいいんだが。
「しかし、この馬車って恐ろしく揺れないのな」
「もともと、電車にはアクティブサスペンションがついてるでやんす」
「それもこっちの何かに変異してて、それで揺れないって感じなのか?」
変異の法則なんて考えても、わからないからな。
「ノンノン、アクティブサスペンションなんて模型にはつけられないでやんす」
「ん? どういうことなんだ?」
まずい、タクちんがドヤ顔してるぞ。
「小生が持ってきたのは、台車が軽く浮いてるのが特徴で、フローティング台車って構造でやんす。線路の揺れやガタ付きを吸収して──」
「はい、ストップ。わかった、タクちんの模型は揺れに強い優秀なやつなんだよな」
まだ説明したりなくて、ぶつぶつ言ってるが無視だ。
まあ、原理はわからんが、その台車何とかがいい具合に変異して快適ってことにしよう。
考えたところで、わからないからな。
快適なら何も問題ない。
「和田殿、少し馬も休ませてあげないと。かなり体力ある馬ですが、怪我されると困ります」
「そっか、確かに結構走ってるな。快適過ぎるから、馬が引いてるって忘れてたよ」
━━ 街道脇から少し入ったところの広場に止まっている馬車
「葉山、お馬さんどうだ? 疲れて無さそう?」
「お水と馬草与えたし、少し休めば大丈夫見たいにゃ」
モリモリ草食べてるな。
多分先に見えて来た山々が、国境付近だと思う。
「和田殿、この馬ほんと良かったです。体力もスピードもかなりのものです」
「そうなのか? タエちゃん、馬に詳しいの?」
「専門家ではないですが、しばらく牧場の食堂で働いた事があって、そこで飼育の手伝いとかしてたので」
そうなんだ、それはお墨付きもらえたようだ。
「大賢者さんに感謝だな!」
馬の調子も良いし、ここまで順調だ。
── そういえば、馬を手に入れたのは三日前のことだ。
◼️ 商会の名は…
━━ 三日前に遡る
「もう!なんで猫猫プリンじゃないにゃ!」
葉山、謁見で城を出てからずっとプンプンだな。
というか、その名前は本当勘弁だ。
「まあ、落ち着けよ。肉食べるだろ?」
「肉食べさせときゃいいと思ってる? 僕は、そんなに簡単じゃないぞ!」
何がお前をそこまでさせるんだ?
「まあ、肉串三本以上なら、許す!」
「大概イージーだな。結局食うのかよ」
まあ、こんな奴だが、今の状況考えると葉山抜きだと、かなりキツイ気がするからな。
俺がテイムしとかないとな。
「大賢者さん、キレスジレド国境付近って、どのくらいかかるんだろう?」
「ふむ、この国自体が小さいでな。馬車で二日はかからんじゃろう」
なるほど。
それなら、一旦調査は正解だったな。
「馬車用の馬買わないとな。大賢者さん、馬ってどこで手配できるのかな?」
「馴染みの商会に紹介しよう。そうじゃ、ついでにカミィで紹介状を書いて、カミィの宣伝もせねばな」
なんだろ、大賢者さんが一番商人ぽくないか?
「その商会ってのは?」
「ルクルスト商会じゃな」
ん? なんか聞いた事あるような…
「あれ、ルクルストって、確か…」
「うむ、ワシの息子が作った商会じゃ」
やっぱり。聞き覚えあったからな。
「息子は、冒険者するには、力も魔法の才能もユウノシンにもワシにも劣っておった。じゃからな、商人として国に貢献したいとな。まあ、引け目を感じておったんじゃろうな」
大賢者さんが、遠い目になってるな。
「冒険者に向いておらんことにな。そのおかげか、ひたすら商売に徹して、この国最大の商会になったんじゃ」
それって、三百年前ってことか… なんだか、気も遠くなるよ。
三百二十六歳、そんなに生きたらどうなるのか?
「まあ、子供より長生きするというのは、辛いもんじゃ」
みんな黙ってしまうよな。辛すぎるから、なんも言えない。
「息子は戦いも好まんし、冒険も好きでは無かったな。聡明であったが故に、どんな物にも優しかった。ワシの一家の宿命も知ったから、結婚もせず独りじゃった」
ハルアット、笑ってるのか?
肩が震え、引き笑いのような声が一瞬聞こえる。
いや違う、嗚咽を抑えたんだ。
涙は流れてないが、不思議と涙が見える気がする。
泣けない人生だったんだ。きっと、今は凄く泣きたいんだろうな。
「ワシの命もあと少し、それまでと思えば、気も楽になる。さ、行くぞい!」
◼️ 実験
━━ 戻った一向は、ハルアットの紹介状を手に商会へ
ルクルストには子供がいなかったため、商会にはハルアットの子孫はいない。だが、ハルアットはお得意様であり、その紹介とあれば快適に買い物ができた。
「ワダア様、このカミィというものですが、素晴らしいです! ぜひ、当商会でも扱わせていただきたいと思います」
店主の圧力が尋常でないな。やはり、紙の利便性に気がつくのは、商売人なんだよな。
「紙については、大賢者さんに言って欲しい。我々が卸してるわけではないからね」
━━ どうかお口添えよろしくと、馬の値段を割り引いてくれた
「いやぁ、二頭ともいい馬だなぁ。割り引いてくれたし、良かった」
「艶もあって、筋肉も素晴らしいです。これは頼もしい馬です」
紙工房に馬房造成のリクエストはさっき出したけど。
タクちんなら、場所あればすぐできるからな。
「あ、そうだ、葉山ちょっとお願いあるんだが」
「ぷぅー、僕知らない」
肉買って食べる暇なかったからな。
不貞腐れてるな。
「だから、帰ったら肉買うって」
「もう、なんにゃ?」
「魔物以外もテイムってできるのか?」
これまで家畜的な動物にはやってないからな。
「わかんないけど、この馬の事かなにゃ?」
「そうそう、ちょっとやってみてくれよ」
葉山はぶつぶついいながら、馬の首を撫でている。
やっぱり最初はビクッとしてたな。
でも、なんだろ、だんだん気持ちよさそうにしてるな。
「大丈夫みたい。この子水飲みたいって言ってる」
「ほんとか、なんか何でもありだな」
「帰ったらすぐ用意するって、仲良くしといてくれ」
━━ 紙工房に戻ったところで、ハルアットに出くわす
「どうじゃった?」
「おかげで立派な馬を手に入れられたよ」
「そんなもん見ればわかるわい。カミィの事じゃ」
なるほど。まあ確かにこの馬を見逃すやつはいないよな。
というか、前から薄々感じてはいたが、大賢者さんかなり自己中だよな。
「商会からは、是非とも販売したいって伝えておいてくれってさ」
「ふむ、そうであろうな。これを見逃す商人なぞ、商売人ではないわ」
んー、商売する気満々だな。
「なんじゃ、お主金にがめつい、そう思うておるな?」
「このイストリアに、巨万の富を集めるんでやんすね」
うわ、タクちん急にどうした?
「なかなかじゃな、小僧は見どころある。ワシの目の黒いうちに、このイストリアを盤石にせんとな…」
大賢者さん、時間ないからなりふり構わずって事か。
「まあ、俺らもやれるだけやるから。任せて欲しい」
「うむ、そういうなら、早うゴールドになれ」
「ところで、馬房の作成はできそうなのかな?」
「それなら、もう話通しておる。好きにして良いとの事だ」
よし、紙工房には、俺らの部屋もあるし、馬房も確保なら、拠点として言うことなしだな。
「タクちん、馬房作ってもらえる?」
「もちろん、すぐとりかかるでやんす!」
━━ ゴゴゴゴ…
何回見ても壮観だな。
勝手にモリモリ湧いてくる土壁と、人の手で形作られてるような繊細さがある。
よし、タクちんに任せて、さらに実験だ。
「葉山ちょっといいか?」
「ガルル、にぃくうぅぅー」
うわ、葉山が魔物落ちしてやがる。
どんだけ肉食いたいんだ。
「わかってる、頼むこれだけやったら肉だって」
「もう僕待たないんだからね!」
かなり危険だな。早く済ませよう。
「あの馬、どの程度テイムが持続するのか確認したいんだ。まずは、城下町を門から出て、一周して戻ってくるように教え込んでくれ」
「そんなの、やるまでもなく簡単にゃ」
また何かぶつぶつ言いながら、葉山は馬の首を撫でている。
━━ ヒヒン
「凄いダッシュだな、葉山なんて仕込んだんだ?」
「そんな事ないよ。馬肉っておいしいのかにゃ? って聞いてみただけだよ」
なんとも、馬に同情するよな。
そうこうしてるうちに、馬房が完成しそうだな。
「タクちん、もう終わり?」
「小さめの馬房なんで、あとは藁とかそういうの入れたら完成でやんす」
なるほど、外枠はもうできてるな。
「大賢者さん、藁とかってあるのかな?」
「焚き付けも使うでな、工房の裏の納屋にあるぞい」
じゃあ、取ってくるか…
納屋、ここなのかな?
━━ ヒヒン
馬の嘶きだな。藁取ってる間に戻ってきたのか?
まあ、外周は1.5キロってとこだから、馬ならあっという間か?
じゃあ取ってきた藁を敷いてと、馬は繋いでおかないとな。
「テイムは切れないって事なのかな」
「チュウ吉も、色々歩き回って結構離れてるけど、切れた事はないよ」
なら安心かもな。ダンジョンなんかだと、連れて入らないからな。
ただ、繋いでると魔物襲われるかな。対策しないとな。
「ガルルルルッ、まだにゃ?」
━━ 葉山の魔物化が激しくなってきたので、肉を入手に市場へ
「肉コストが馬鹿にならんぞ」
「僕をずーっと待たせるからにゃ!」
結局肉串を五本要求されたしな。
まあ、褒賞の金貨はかなり高額だったみたい。
そうだ、お金についてだけど、最初はピンと来なかったが、肉串は十五シル。これは、日本円だと十五円って感じかな。
シルは銅貨で、百シルが、銀貨一枚。だから銀貨は百円、銀貨百枚が金貨一枚。
つまり、金貨一枚=百万円。俺らの褒賞は五百万円ってわけだ。
褒賞が高いのか? 安いのか?はよくわからない。
大賢者さん曰く、カッパーのパーティなら破格じゃろうな、という事らしかった。
大金も入ったし、必要な物買い込んで出発だ。
俺たちの進む道は、前にしか無いんだ。どうなろうとな。
レッドアイの初任務だ!
そう意気込んで、馬車に揺られてここにいるのだった。
そして、国境に付近に近づいているのだろう、吹き付ける風が冷たく感じられた。
本作品の世界観や設定の補足情報、登場人物についてまとめました。
あれ、これなんだっけ、誰だっけ、そのようなときにご覧ください。
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