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定年間近の左遷先が冒険者ギルドなんだが!?  作者: Jiru-man


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15/20

それぞれの過去 葉山編

挿絵(By みてみん)




◼️ 葉山の過去


「…」


話すって、黙りこくったままじゃん。 そんなに話しにくいのか?


「葉山、肉でも食うか?」


え、無反応?


「おーし、じゃあ肉串二本でどうだ?」

「…」


そんなにか? だいぶ深刻なのか?


「三本がいい…」


なんだよ、数の問題? まあでも、調子狂うよな。


「じゃあ、あのおじさんのとこ行こうか」

「…うん」


━━ トボトボ歩いて行く二人


「おじさん、串焼き三本ちょうだい。なんかさ、こいつ凹んでるみたいでさ」

「お嬢ちゃん、まってな、とびっきり上手いの出すからさ」

「…ありがと」


しかし、おじさんプロだなぁ。串に刺す、焼く、ひっくり返す、無駄が全くない。 俺も葉山も、おじさんの手元に釘付けだよ。


「はいよ、お待ちどうさん。これ、サービスしとくよ。うちの串食べたら、たちまち元気になるからね」

「おじいちゃん、ありがとう。僕またくるからね」


え、手に五本持ってるな。


「おじさん、これお金」

「三本分でいいよ。お得意さんだからね」

「え、悪いな、また来なきゃな」


さて、行くか…。

え? 葉山さんや、もう二串消えてるんだが。


「おじいちゃんのお肉、最高にゃん!」

「やっぱり、肉は正義なんだな」


一瞬元気になって、また神妙な顔になってんな。


「僕さ、さっきも言った通り、孤児院で育ったんだよね」


◼️ 壮絶な孤児院


━━ 葉山がポツポツ話し出す


『また野良猫が話してら』

『気を付けないと、色んなもの盗まれるぞ』


部屋のベッドに気力なく座る葉山。

投げかけられる言葉も届かない。

目は虚で、何処を見てるのかわからない。

頬はこけて、髪はボサボサ。全く子供らしさもない。


周りに何を言われても、言葉は素通りして行く。 全てを諦めて、期待も、希望も、捨て去った骸。


『野良猫は追い払わないとな』


ビチャっと音がする。 一回ではない、何回も音がする。 葉山の頭、身体、ベッドの上、全てにトマトや生卵が降り注ぐ。


昔はまだ泣き叫ぶ元気もあった。 だが、心を閉ざした少女は、ただ俯いて下を向いていた。


『ちぇっ、つまんないな』

『野良猫がびっくりしないとな』

『庭に出て遊ぼうぜ!』


賑やかな声が遠ざかる。 静かになった時、ようやく葉山がトボトボ歩き出す。


誰にも見つからないように… 辺りをキョロキョロする。うん、誰もいない。


ここは孤児院の裏手にある寂れた森の入り口。 その大きな木の下に、粗末な木箱が置かれている。


━━ ニャア


『元気だった? ニャン太、お腹すいたよね』


葉山は、木箱にかけられた薄汚れた布を外す。

ポケットからボロボロになったクッキーを取り出してみせた。

ニャン太はクッキーに反応して、ペロリと食べる。そしてまた、ニャーと鳴いた。


挿絵(By みてみん)


『ごめんよ、これだけしかないんだよ』


━━ ニャン、ニャー


『心配してくれるの? ニャン太は優しいなぁ』

『うん、そうなんだ、またアイツらにさ…』


ニャン太との会話は楽しかった。虐げられた少女の唯一の慰めだった。

葉山がニャン太と話している、そういう妄想なのか?


でも葉山言う。間違いなく会話できたと。

そう、ニャン太と会話できるという、決定的な出来事があった。


ある日、葉山は珍しく一人森をぶらぶらしていた。戻ればまたイジメに遭うのはわかってたからだ。


何気なしに、靴を蹴っ飛ばす。

靴はシュルシュルと飛び上がり、木の枝に引っ掛かる。

とても登れそうにない。


石を投げてみたり、登ろうとしてみたが、非力な少女にはどちらも無理な事だった。

諦めてトボトボ戻って、ニャン太に話しかけていた。


『ニャン太、靴なくしちゃったよ。僕…しばらく裸足なのかな』


孤児院の職員も、葉山には当たりがキツかったから、葉山はほぼ誰とも口を聞かない。

そんな状態だから、靴を無くした事を報告する気にもなれなかったのだ。


━━ ニャー、ニャニャ


『え? 取ってくれるの? あっちなの!』


葉山が先程の木のところに案内すると、ニャン太はスルスルと木に登ると、靴を咥えてポトリと落とす。


『ニャン太!ありがとにゃ』


━━ ニャンニャン


こんな風に、葉山とニャン太はお互いに慰め合って、静かに暮らしていた。


◼️ 覚醒


そんなある日の事、葉山はいつものようにベッドで虚に座っていた。朝食を終えて、掃除をした後のこの時間が、葉山には苦痛だった。

外に出ることもできないのだ。


『おい!野良猫!お仲間を連れてきたぞ!』


━━ シャーッ!


イジメっ子の手に押さえつけられたニャン太がいた!いつも聴くことのない、威嚇する声。


『やめて!ニャン太が苦しがってる!』

『ギャハハ、聞いたか? 野良猫はやっぱり野良猫の仲間なんだな!?』


一斉に起こる笑い、泣き叫ぶニャン太、絶叫する葉山。子供の悪ふざけなのか?

いや、悪ふざけなどという域を超えた仕打ちと、醜悪な笑みを浮かべた醜悪さが充満している。


━━ ニャー、ニギャー


ニャン太が助けて欲しい、苦しいと訴えている。葉山も、ニャン太に手を伸ばすが、複数の悪ガキに押さえ込まれていた。


そして、もがいていたニャン太は、グッタリとしてしまった。


『ニャン太、ニャン太が…』

『なんですか!騒々しい!』


職員が入ってくる。

その隙に悪ガキを振り払い、ニャン太を取り戻して睨みつける。


『うわぁぁぁぁ!おまえっ!』


葉山のどこにこのような力があったのか?

(ほとばし)る絶叫は、耳をつんざき、辺りを制圧した!


━━ ニャー、シャーッ


孤児院の外から、辺り一帯そこら中から、猫の鳴き声、威嚇する声が無数に聞こえてきた!

まるで葉山の怒りに呼応するかのように。


『ひぃっ』


孤児院の窓が、ビリビリと揺れた。

それから、窓という窓から猫が見ていた!


挿絵(By みてみん)


ニャン太を捕まえた悪ガキは、恐れ慄き、逃げて行く。

取り巻き達も、待ってくれと逃げ出す。

職員の方も、大丈夫かと、一応葉山に声をかけたが、明らかにお座なりだった。


グッタリしたニャン太は、虫の息だった。


■ 里親


それからというもの、葉山のイジメもなくなったが、誰一人として葉山に近づくものはいなかった。

職員も気味悪がり、必要最低限のことしか話さなかった。


葉山が独り森をぶらつくときは、猫はもちろん鳥や犬などがどこからともなく付いてきた。

誰からも無視をされていたが、葉山はもう独りではなかった。


今日も森に来た葉山は、こんもりとした土の上にポツンと岩がのった場所にいた。

そして手を合わせる。


『ニャン太、ごはん持ってきたよ』


あの日以降、すっかり弱り切ったニャン太は、起き上がることもなく息を引き取った。

外に出れば、他の犬や猫が寄ってきたが、ニャン太がいない悲しさは消えなかった。


『葉山さん、ちょっといいかしら』


とある日の午後、職員がやってきた。

応接室に連れていかれた葉山のまえには、老夫婦がいた。

二人ともに皺に刻まれた柔和な笑みを浮かべている。


『レイちゃんというんか? 寂しくないかえ?』


おばあちゃんの話に、おじいさんのほうは、笑顔でうなずくだけだった。


『…』


葉山は無言でうなずく。

葉山はすでに誰とも口を利かないことが日常なのだった。


『どうだい、うちに一緒にくるかえ?』

『…』


葉山は一瞬考えた。最近、森をうろつくことで大半の時間を過ごしている。

それはこの孤児院にいることに耐えられないからだった。


葉山は無言でうなずいていた。


それから、部屋に戻るように言われた。

特に何も言われず、どうなるのかもわからない状態だったが、二日後に例の老婦人が迎えにきたのだった。


── ここまで話し終えてた葉山は笑顔で言った


「僕さ、今すごく楽しいんだよね」


やっと笑ったな。まあ、そういう人生、キツイだろうな。


「今が楽しけりゃ、そりゃ良かった。で、その後は?」

「旅館に引き取られて、あ、赤島倉庫ね。ほんとは僕に旅館を継いで欲しいって事だったんだけど、僕は本当に誰とも話せなくて」


葉山、ほんと辛そうだな。


「僕もね、おじいちゃんとおばあちゃんには、ありがとうって、そう言いたかったけど。怖くて部屋から出られなくて…」


葉山の足元にポタポタと涙が落ちる。


「おじいちゃんとおばあちゃんは、優しいって、いじめたりしないって、ちゃんとわかってたよ。でも、どうしても部屋を出られなくて…だから、だから…」


そんだけ寄ってたかってイジメられりゃ、トラウマにもなるよな。


「わかった、葉山、もういいよ。帰ろうぜ」



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