イストリア建国秘話 決起
■ ギルドの医務室
━━ 待ってくれ!
え?どうしたんだ。
猛烈に悲しい気持ちだ。なんだこれ。記憶がない。
「このパターン二回目でやんす!」
「え、なんで!?」
タクちん、タエちゃん、葉山、みんな心配そうだ。
「角が刺さってたよな?治ってるのかなぁ」
「和田殿、ほんとに大丈夫ですか?」
「和田にゃんさ、泣いてるよ?」
……そういえば、何か悲しい夢を見ていたような?
モヤモヤする。
「なんだろな、か弱いオッサンに無理させないでくれ」
「勝手に無茶したのは、和田っちでやんす!」
そうなんだっけ?
最近、なんか変だよな。
「身体がさ、勝手に動くっていうか。止められないんだよ。自分でもさ」
あの時、胸の奥が疼いてた。
痛みでも焦りでもない、なんとも言えない感情。
しいて言うなら──衝動。
「和田殿、回復魔法で傷は治ってますが、無理はしないでください」
「タエ様の言う通りでやんす!」
「和田にゃん、もう少し寝たらいいよー」
眠気が強すぎる。抗えない。
「悪い、寝るわ……」
まただ。無性に悲しい。
誰だ?俺に話しかける声か?
微かに聞こえた気がした──
━━ 再び眠りに落ちた。
■ 過去
暗い。月明かりだけ。
誰もいないのか。
起きるか。
「おっと、、危なかった」
ベッドから落ちるところだった。
ダメージはないが、フラフラだな。
えっと、大賢者さんの部屋は……こっちか?
あ、あそこか? 灯りが漏れてる。
━━ ガチャリ
━━ ビンゴ!
「なんだ、動いて大丈夫なのか?」
「なんとか、な」
ハルアット? 木の板を読んでいたのか。
「早くカミィが欲しいぞ。読むのも、保管も、持ち運びも、すべて面倒じゃ!」
「そうだろうな。でも製造には入れるから、あと少し辛抱してくれ」
「そう願いたいがの……」
「どうした?なんか言いたそうじゃないか?」
ため息なんかついてるな。
いつもと様子が違う。
「いずれわかる話じゃて、お主には話しておくかの」
「ん?なんの事なんだ?」
「この国のこと、それからワシな事じゃな」
── ハルアットは少し考えてから、語り始めた
イストリアという国は、本当に脆弱だった。
弱小ゆえに、他国からの干渉・侵略・謀略を何度も受けてきたこと。
その度にハルアット一行が危機を退けてきたこと。
経済的に特色のないイストリアを、
“冒険者が集う国”として発展させてきたこと。
領土を広げられない代わりに、
技術と魔法を発展させてきたが、それも限界であること。
「そう言うわけでな、お主らを呼んだのよ」
「なるほどな、なかなかキツイみたいだな」
表情が読めないな。
「一つ聞いていいか?」
「なんじゃ?」
「大賢者さんには家族とかいるのか?」
「そうじゃの、かつてはな。夫も息子もおったよ」
歯切れが悪いじゃないか。
「すまん、聞かないほうが良かったのかな」
「別に、かまわんさ」
「こう見えて、ワシの若いころは王侯貴族から求婚殺到じゃったんじゃぞ」
「大賢者さん、そういえば歳いくつなの?」
急に真顔になるんだな。
「三百二十六歳かの。歳だけは正確に覚えておるよ……」
「え、人間だよな?」
「もちろんじゃよ。ところで──」
え、大事なところは?
急に話を変えるのか?
「マッドライノの件、お主どう見る?」
「んー、奴らが勝手に攻めてきた、とも思えない。かと言って、後ろで糸引いてる奴がいるなら、半端過ぎる感じかな?」
「ふむ、お主アホウではないな」
「それは褒められてるのかな?貶されてるかな?」
ニヤニヤすんな。
「まあ、褒めておるよ。お主には期待しておる」
「ほんとかよ!?」
「多分これは、様子見じゃな。ワシを試しておる。真の狙いは、お主らじゃよ」
「どういう事だ?」
「ワシの動きは監視されておる。いくら内密に動いても、お主らの事は漏れておる、そう言う事じゃ」
「なるほど、どんな輩がやってきたか?ってか」
「まあ、向こうからすれば“ちゃんと監視してるぞ”という挨拶じゃな」
「で、話しておきたいって?もっと他にあるんだろう?」
何か迷っているのか?
── 意を決してハルアットが口を開いた
「うむ、ワシはな、お主に全てを託そうと思う」
「・・・」
「ただ、話すよりも、もっと手っ取り早い方法があっての。お主の指輪があるなら、ワシの記憶を共有できるのじゃ」
ん?大賢者さん?手を握れってことか?
「わ、わかった。握ればいいんだな?」
「うむ」
■ ハルアットの記憶
俺は空を飛んでる。
雲よりも高いところだ。
それが雲を抜け、荒野が見えてくる。
そして、二人の冒険者が見えた。
「この先に本当にあるのかい?」
「ああ、間違いない」
紫がかった艶のある髪を束ねた女性と、黒髪で筋骨逞しい彫の深い顔立ちの男。
「ハルアット、待て。何か来る」
「ユウノシン?」
慌てて物陰に身を隠す二人。
なるほど、この二人が大賢者さんと、旦那さんなのか?
ハルアットの若さ、美貌、ちょっと驚きだ。
── ヒャハハハハッ!
── 今日の獲物は最高だぜ!
いかにも、凶悪そうな荒くれ者が乗る馬の群れが走り去る。
数十人程度。革袋や、縛られた女性?などを連れていた。
やがて罵声が小さくなり、完全に闇に消え失せた。
「ハルアット、やはりこの先のようだな。いったん、仲間が合流したら出発しよう」
「本当に腹が立つね。ああいう輩は直ぐにでも蹴散らしたいもんだ」
── そして、場面が切り替わる
また俺は空へと舞い上がり、とある村へと飛び降りる。
「皆さん、もう我々は我慢しなくても良いのです!」
村の広場の真ん中で、一人男が叫んでいる。その周りには、村人であろうか、十数人が取り囲んでいる。みな血色も悪く、粗末な恰好の者が多い。
「トスル!お前の戯言は聞き飽きたんだ」
「そうだ、良くなることなんぞありゃしねぇ」
「そうよそうよ、あたいの旦那を返してよ!」
周囲から非難の声が殺到する。
「確かに、これまでは有効な手が打てなかった。でも、私は解決できる人物をようやく探し当てた」
トスルと呼ばれた男は振り返り、手招きをする。
トスルの横には、ハルアット、ユウノシン、それから、ドワーフ、ダークエルフが進み出た。
「こちらは、腕の立つ冒険者の方々だ。私の全財産を使って依頼をしたのだ。この名もなき荒野に平穏をもたらすために」
トスルはユウノシンに目配せをする。ユウノシンは一歩前に出た。
「私は銀の月のリーダー、ユウノシン・オオツキと申すもの。皆さんにお約束する、必ず荒くれ者どもを掃討すると」
朗々と響くユウノシンの声とは対象的に、周囲の人々は完全に白けている。
「今までなぁ、そういって何人が帰ってきたんだ?」
「どうせまた同じだよ・・・」
── また場面が飛んだ。
今度は岩陰に舞い降りた、そして冒険者を眺めている。
焚火が爆ぜ、辺りにゆらゆらと影を生み出す。
荒野の僅かな岩場の隙間で休む人影が四つ。
「ガハハハ、もうあと少しで奴らの巣窟か」
「バストール、あまりでかい声だすのはおよし」
ハルアットはうんざりしたように吐き捨てる。
「そうよ。あんたの声でバレちゃいますわ」
「ラーリニア、てめぇグタグダうるせぇぞ」
仲が悪そうというよりも、このメンバーでの冒険にすっかり慣れているのだろう、そう思った。
「無駄話はやめだ。いいか、夜明け前に夜襲をかける。あの岩山の麓だから、あと一刻も歩けば着けるはずだ」
ユウノシンがこれからの作戦を整理する、そんなところか?
「ガハハハハ、おうよ。俺が突っ込む。それで終わりだな」
「あんたは単細胞だねぇ。あたいがいなきゃ、ほんと何回あの世に行ってるかね」
「ラーリニアのヒールよか、酒のほうが効くわ!」
無駄口、罵り合いに見えるが、なんだか信頼しているようにも見える、そう思えた。
「いいかい、私がエクスプロージョンを打ち込むから、やつらが出てきたらバストールとユウノシンが突撃、ラーリニアはアクセルとディフェンスで援護たのむよ」
── そして視点が飛んだ
俺は飛び上がり、岩山の洞窟へと向かった。
怒号と火の爆ぜる音、逃げ惑う荒くれ者が、岩山の洞窟から走り出してくる。
そこにユウノシンとバストールが襲い掛かる。もちろん、ハルアットも魔法を打ち込み、ラーリニアも弓を引いた。
面白いように荒くれ者が倒れていく。完全に寝込みを襲われた形だ。捕虜となった女性は、外の檻のついた馬車に閉じ込められていることは確認済みだ。
荒くれ者どもの叫び声がしばらく響いていた。
── また場面が切り替わった。
俺は最初の村の広場へ戻っていた。
「あなた!」
「おお、良かった。本当に無事なんだな」
村は歓喜に包まれていた。
略奪された家財や女性が戻ってきたからだ。
「皆、これでこの名もなき荒野に平穏が訪れる!」
トスルはまた叫んだ!
── また場面が変わった
翌日であろうか?朝になっていた。宿屋なのか?どこかわからないが、テーブルに座っている。
「この名もなき荒野に私は国を作りたい。ユウノシン殿、どうかあなたが王となり、皆を率いてくれませんか?協力は惜しみません」
「トスル殿、私はそういうものには興味がありません。私にはあなたが適任だと思うのだが。もちろん、今後も協力は惜しみません」
ユウノシン・・・明らかに日本人だよな。名前も、黒髪も、日本人の特徴だ。何をしに来たのか?何か隠しているようにも見える。
── 場面が消えて行く。そして歓声が聞こえる
俺は人々の上にいた。眼下には多くの人が集まっている。
「余はトスル・ライノー・イストリアである、この名もなき荒野を平定し、国となすことをここに宣言する」
まだ、数百人程度しかいない村に毛の生えたような都市。だが、トスルはにこやかに笑っていた。
── そして情報が早送りのように流れ込む
なるほど、これから徐々に国としての体裁ができて行くんだな。
大賢者さんたちも、かなりのクエストをこなしているようだ。
「ハルアット、私の妻となってくれまいか?」
「ユウノシン、本気なのかい?」
見つめあう二人。おっと、このまま見てていいものなのか?
── 二人はぼんやりと消えていく
赤ん坊の泣き声が聞こえる。
「ユウノシン、元気のいい男のだわ」
「よくやった、ハルアット」
息子を抱いたハルアットを引き寄せるユウノシン。ハルアット、幸せそうじゃないか。
このことを伝えたかったのか?
いや、あの顔はそんなことじゃないよな・・・
影が少しずつ忍び寄ってくる。そんな気がしてならかった。




