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65話 とんでもない来客!



テンマへと船で着いた頃には、時刻はもう夕暮れにさしかかっていた。


「ディル様とわたくしが帰りましたよー……って、誰も見ていない⁉」


村へと戻れば、みなが慌ただしく宴の準備へと動いている。

村の中央にある広場に集まり、各種調理や、机・椅子の準備、さらには芸の練習をするものまで。


おかげであまり、帰ってきたことに気付かれなかったらしい。


「それ、裏手の山で罠にかけた猪か?」


肉の下処理をしていた村人男性にこう聞けば、彼は慌てて包丁を置いて、俺たちにぺこぺこと頭を下げる。


「領主様! いつのまに、お帰りに⁉ ご挨拶が遅れ、申し訳ありません!」

「あー、いいんだ。俺のことはいいから、作業を続けてくれ。時間がないよな」

「す、すいません……」


今回の宴はそもそも、俺がお願いをして急な準備を頼んだ。

もちろん、『俺が帰ってきたから』という理由で執り行うわけじゃない。大事な来客を迎えるために実施するのだ。


挨拶をしなかったくらいで責められるわけもない。


てんやわんや、と言った状態であった。

大鍋がない、火が付かない、椅子が足りないと問題もいたるところで発生していたが……


「あ、はいはーい! わたくしが作りますよー」


シンディーがフォローへと入ってくれる。


俺もなにか、と手伝おうとしたとき、後ろから肩を叩かれた。


「久しぶりね、ディルック様。せっかくのご帰還なのに、みんなが忙しそうで寂しい?」


振り返れば、肩口で手をひらひら振る女性が一人。

罠師であるとともに建築を得意とする召喚英霊・キャロットだ。


「いいや、仕事をしてもらってるんだ。そんなわけないだろー」

「あは、できた領主様は違うわね。器が大きい!」

「おだて方が適当すぎないか?」

「そんなことないない! 本心よ、一応」


俺の肩を一つ叩いた彼女は、今日も快活そうな雰囲気が全開だった。


だんだんと涼しくなる季節だ。

だというのに、相変わらずの薄着で、大胆なノンスリーブの服に、作業用の股下が膨らんだズボンを穿いている。


「それより……寒くないのかー、その格好」

「まぁね。うちは動いて身体あっため終わってるから。それが仕事だし?」


キャロットは、右腕を左腕ではさんで、ぐーっと伸ばす。


彼女には、古代に存在したという幻のテンマ城を再現する最前線に立ち、築城を担ってもらっていた。

今日も、その作業に精を出したのだろう。



本当なら、築城の進捗確認もしたいところだったけれど、今はその場合じゃない。


「じゃあ休んでてくれよ。俺も準備手伝わなくちゃいけないから、話ならまたあとで――」

「あぁ、待って待って。そうじゃないわよ、ディルック様。うちが声かけたのは、別の理由」

「別の理由?」

「そーよ。例の来客さん、到着が早くなったってさ。もう、市街に繋がる森の手前まで来てるみたい。さっき、早馬がきたの」

「……そういうことは、先に言ってくれよ」

「あは、ディルック様の顔見たらすっかり忘れてた。ま、その人の接待はなんとなくやっておくから、急いで行ってきたら?」

「言われなくても、そうするよ」


そう、いくら旧知の相手とはいえ、今回の来客は飛び抜けた貴賓だ。

俺はすぐに村を出ると、俺が王都から来る際に通った道を赤虎に乗り、一気に駆け抜ける。


「ちっ、乗り物扱いかよ。なんか壊させろよ、兄貴」

「ぜんぶ今度な。今はとにかく走ってくれ、頼むよ」

「……ま、そこまで言われちゃ仕方ねぇ。白龍より俺の方が早いって考えてくれたわけだしな」


……まぁ本当は、白龍に乗ると目立ちすぎるというのが大きな理由だが。


とにかく赤虎は、爆発的な脚力で駆け抜けて森を抜ける。


そしてそこで、その来客と出くわした。


「……ディルック、なの?」

「あぁ。ナターシャ、ずいぶん久しぶりだな」


ナターシャ・ウォーランド。

通称・「無の令嬢」とも呼ばれるウォーランド公爵家の長女だ。




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