64話 テンマ⇔ローザス連絡船計画
出立直前。
「若様、この町の安全は爺らにお任せくだされ」
「うん、言われなくてもそのつもりですよバルクさん」
「なんと……! その信頼に、必ずや答えてみせましょう」
見送りにやってきてくれたバルクら警備隊たちと話をしていると、待ち望んでいたそれは沖の方からやってくる。
「龍の旦那、準備できてますぜ」
船を停泊させた後、船首まで出てきてこう呼びかけてくれるのは、元海賊のドドリアだ。
今回操縦している船は、元ギルド長らを退治する際に利用した大船より、いくらか小ぶりな船である。
とはいえ、最短時間で船を岸まで寄せるのだから、さすがの航海技術である。
「うん、ありがとう。じゃあ、行こうかシンディー」
「はいっ! でも、いいですねぇ。船旅みたいで! 漁船とはいえ、ディル様と一緒に乗れると思うと、るんってします。わたくし」
わざとらしく、片足を跳ね上げるシンディー。そのポーズは、『るんっ』の擬音をまさしく体現していた。
彼女はうきうきした様子で俺の手を引き、船に乗り込む。
「……わ! こんなに椅子があるなんて、なんか壮観ですね」
船首から中に入ってすぐ、それは驚きの声へと変わった。
無理もない。そこには横5席ずつの立派な木づくりの席が縦に何列も並んでいるのだ。
元は漁船であり、椅子などは最低限の設備しかなかったから、大改造を施してある。
椅子などは俺が錬金術で生成し、据え付けなどの工事はドドリアたちが行ってくれた。
なぜこんな改造を施したかといえば……
「だろ? この船は漁船じゃなく、連絡船にしたいんだ。テンマとローザス間で、定期運航させるつもりだよ。そうすれば、行き来がしやすくなる」
「えっと、移動くらいだったら白龍とかに頼めばいいのでは?」
「毎回、呼び出すわけにもいかないだろ。それに、船なら俺たちだけじゃなくて住民たちの往来もしやすくなる。そうすれば、テンマにもローザスにも人が流れて、富が片方の町にとどまらずに分散する。人の流れが、富の流れだからな」
「なるほど……! さすがディル様です……。経済の細かいことはともかくとして、さすが! すごい! 分かりますよ、わたくし!」
うん、たぶん全然わかっていないのだろうけれど、まぁいい。
得意な分野でその力を発揮してくれればいいのだ。
「ついでに観光化したい目的もあるんだ。今度飾り付けとか、お願いしてもいいか?」
「それはもちろんです!! その依頼、とっても嬉しいです!」
シンディーはさっそく、壁や床、席などを細かく確認して、レイアウトの検討をはじめる。そうしているうちに、船は陸を離れて、だんだんと遠ざかっていく。
窓からバルクらに手を振りしばらく、俺は前を向く。
さて、感傷的な気持ちはこの程度にして、切り替えなければならない。
テンマ城の計画や、農地改革、警備体制強化、さらにはとんでもない話もある。
とにかく、まだまだやることは山積みなのだ。
テンマへと帰る船の中で俺は気持ちを新たにするのであった。
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