63話 稀代のヒーラーちゃんとの約束。
「うん、こうして見ると街のシンボルにもなってくれそうだな」
イメージを一変させるため、建物の塗装をドワーフらに頼んで塗り替えてもらっていた。
港町らしい水色の建物は、すでに景色になじみはじめている。
その中で俺が会いに向かったのは、ギルド長の元だ。
もちろん、自分の利益のために善良な民を食い物にしようとしていたあの悪人ではない。
彼らは国へと引き渡したので、現在は牢屋の中にいるはずだ。
薬物の取引は、かなりの重罪にあたるから、もう何年も出てこられないだろう。
だから、今は新任の方がギルド長を務めている。
「あぁ、今日がここを発つ日だったかい。わざわざ、私なんかに挨拶しにくるなんて、あんたたちは律儀だねぇ」
元・商店街会長さんだ。
一度壊れてしまったギルドを立て直すには、ある程度の発言力や指導力のある方がトップを務める必要がある。
そうしなければ、また不正の温床となる可能性があるからだ。急に権力を得た人が、それまでと人が変わったように横暴になるなんていうのは、よくある話だ。
そこで彼女に白羽の矢を立てた。
「そうです、わたくし律儀なレディなんです……!」
と、シンディーは誇らしげに胸を張るが自分で言うものでもない。
俺は苦笑いしつつ、ギルド長さんに返事をする。
「いえ、あなたの方がよっぽど律儀ですよ。俺のお願いで、こうしてギルド長をしていただいているんですから」
実は一度、年齢を理由に打診を固辞されていた。
それでも彼女をおいてほかに適任はいないとお願いをしていたら、最後には、引き受けてくれたのだ。
「ほほ、領主様には恩義があるからねぇ。咳症状だって治してもらったし、なにより……。この老いぼれの身じゃあもう見られないと思っていた活気にあふれる商店街を、あんたは見せてくれた。その夢の続きを見たくなったのさ」
実にありがたい言葉だった。
その夢の続きを一緒に見たいと心の底から思う。
「この調子なら、叶いますよ。店が増えれば人が増え、人が増えて活気づけば、店も増える。これから、この街はもっとよくなります」
「ほほ、領主様からお墨付きをもらったんじゃあ、もうひと頑張りしないとねぇ」
彼女はそう残すと、ギルドを訪れていた商人の応対へと戻っていく。
曲がってこそいるが頼もしいその背中を見送り、俺たちが次に向かったのはギルド館に併設して建てられた小さな小屋だ。
「ふふん、なんとこれもわたくしデザイン!」
と、シンディーはノリノリで紹介するが、なにかに気付いたらしく、一気に真顔になると、その小屋へと飛び込んでいく。
疑問に思いつつ、後を追って中へと入れば……
「アポロさん、わたくしのデザイン勝手に変えましたね!?」
「……いらない飾りがついていたから取ったの。診療所に星やらハートマークの飾りはいらない。それだけのことよ」
「いらなくありませんってば~! 診療所の怖いイメージをちょっとでもなくそうと思って……!」
「では、診療所のどの点が怖いのか具体的に10点ほどあげてもらえますか」
「10!? 普通3くらいでは?」
「いいえ、10です。合理的な理由を、きっちりと理解ができるように因果関係を意識しながら述べて。なんとなく、は禁止よ」
「ぐ……! ディル様~~!!」
そこでは、シンディーとアポロが言い争いを繰り広げ、あっと言う間に決着がつく。何度やっても、この結果は変わらないらしく、シンディーは俺に泣きついてくる。
そうここは、アポロのために用意した診療所だ。
彼女もアリス同様、しばらくこのローザスに滞在する。例の薬物を盛られた人々の治療、ならびに経過観察がその目的だ。
「少しは患者の数も落ち着いて来たか?」
「いいえ、まだ。今は昼時でたまたま人がいないけれど、午前中は予約で埋まっていたくらいです。例の薬のせいで、後遺症に苦しむ人もいますから」
「少しは休むようにしろよ。根を詰めすぎて、アポロが倒れたら元も子もない」
「わきまえておりますよ。自分の管理ができてこそのヒーラーです」
そう彼女は、はっきりと言い切って見せるが、はたしてどこまで分かっているのやら。
言ってるそばから、パンをかじりながらにして、資料と向き合っている。
まぁでも、その顔が生き生きとしているのだから、変に水を差すのもよくないのかもしれない。
彼女の体調が心配であるなら、たまに顔をだせばいいだけのことだ。
「忙しいところ、邪魔して悪かったよ。じゃあ、もう俺たちは行くよ」
「……そういえば、今日が出立日でしたね」
アポロは顔を上げ、じいっと俺の顔を見つめる。
それがあまりに長いから、なにか体調確認でもされているのかと思ったが、どうやら違ったらしい。
「アポロとまた話をしてくれるでしょうか、……ディル様」
一転して資料に目を落とし、ぼそっとくぐもった声でアポロは呟く。
召喚してから今まで、彼女には「ディルック様」と呼ばれてきた。
それが突然の愛称呼びだ。かしこまった言葉遣いこそ変わらないが、少しは心を開いてくれたという証なのだろうか。
だとすれば、こんなに嬉しいことはない。勝手に表情がゆるんでしまう。
「あぁ、もちろんだよ。約束する」
ここまできたらもしかして、と俺は小指を差し出す。
すると彼女は、控えめに小指を絡めてくれた。……頑なにこちらを見てはくれなかったが、そこまでは望むまい。
彼女との絆が生まれていることは、この指先の熱が教えてくれている。
「で、ディル様~~!!! わたくしの目の前で、なんてことを!! そこまで!! ほら、アポロさんもそこまで!!」
「……辞める合理的な理由は?」
「それはなんというか、二人が大人の関係に見えて……って言わせないでくださいったら!!」
なにを勘違いしたのかシンディーは、俺とアポロの結んだ指の間に何度も手刀を入れて、切り離す。
結果的には、ほんの数秒結んでいただけだったが、約束が成立したことには違いない。
できれば、誓わなければならないような重たいものではなく、なんともなしに叶えられる約束にできれば、それが一番だ。
――そして、それを簡単に果たすための手立ては、すでに打ってあった。
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