第1話 少し違う世界で
伏魔の森を抜けて見渡す限り平原の道を走り続けること数分、ルシアスはそそり立つ城壁を見上げていた。
その壁は煉瓦造り出会ったり岩が重ねられていたり、漆喰壁であったりと統一性の欠けらも無い。
その壁はルシアスがゲーム内で何度も見てきた壁であり、外敵から身を守るために急造された城郭であり、王国の防衛の要である。
テンプレである。テンプレという名の、くすんだ鉄の鎧を纏った人の良さそうな門番のおっさんが、俺の前に立ちふさがっているのだ。
◇■◇■
ロールス王国は種族差別はしない国である。それは初代国王が獣人に助けられ、その礼をしようといたところ、種族差別をなくして欲しいと言われた事に起因する。
そのため王国では身分証があり、犯罪を行った者でなければ、誰でも入国できる。日本であれば保険証や免許証、学生証などがあるだろう。
しかし今ルシアスがいるここは異世界だ。身分証などと言われても、ルシアスはどうすればいいか迷う。思考の泥沼に沈むルシアスは〝袖の下を通すか?〟なんて犯罪者思考を巡らせ始めた。しかし門番のおっさんの一言で思考の泥沼から脱却した。
「おめぇさん、ギルドのカードとか持ってねぇのか?」
「おっさん、ナイス。ちょっと待ってくれ。」
ギルドカードとは、冒険者ギルドや魔道士ギルドなど各ギルド事に作られる会員証のようなもので、ランクと職業が記載されるが、職業に関しては自由に設定できる。大抵運営が設定した100種類のジョブから選ぶ。
しかし引きこもり歴が長かったり、厨二病を引きずっていたりすると、『爆業の魔道士』や『無双剣士』『勇者』『変態紳士』etc.非公式のジョブを作るものがいる。
そしてルシアスの中の人である日向もそのクチで職業を『暗殺者』に設定していた。
ルシアスが運営より『暗殺者』にの二つ名を授与されて以降ルシアスと同じく職業を『暗殺者』とする者がいなくなったのは余談である。
ルシアスはシステムメニューからアイテムボックスを選びギルドカードを取り出す。
調合師のルシアスがなぜギルドカードを持っているかと言うと、当然登録しているからである。
RFOでは国に所属している職業一一戦士、騎士など一一でなければ誰でも冒険者ギルドに登録できる。
RFOで魔物を倒すと素材が残ったりする。そしてそれをギルドもしくは商店に持って行くと換金され金が手に入る。従来品のゲームのように倒しただけでは金が手に入らないのである。
ちなみに商店に素材を持って行くと、商人NPCとの値段交渉が始まる。とは言ってもただ台詞の選択肢を押すだけなのだが。
まぁ、そんな理由でルシアスもギルドカードを持っている。
そして出したギルドカードを門番の男に見せる。そこでルシアスの予想してない言葉が返ってきた。
「ええと、冒険者か・・・よし、偽造じゃねぇな。ありがとよ、しっかしおめぇさん随分と古いカード使ってるな。ギルドにいったら更新してもらえよ。」
門番の発言にルシアスは眉をひそめる。
「随分と古い・・・だって?」
ギルドカードはサービス開始時から変わっていない。1年前の大型アップデート『狂王の悪政』の時は硬貨と王国の政治形態以外変わらなかった。
ギルドカードには木のプレートに魔法で文字が彫ってある。本人の魔力に反応して光るという設定だった。ちなみに他人ギルドカードを盗んだとしても、本人から離れ十分程で文字が消える。
話が逸れた。ルシアスはギルドカードが古いと言われた理由を調べる事を決めた。もしかすると、ゲームとは違う何かがあるかも知れない。
ルシアスは門番の男からギルドカードを受け取ると王国へ足を踏み入れた。
◇■◇■
門をくぐり見た王都の景色は、ゲーム時代とは決定的に違う事が1つある。それは人口である。
RFOは他のVRゲームと比べNPCの人の量が多かったしかし今ルシアスが見ている景色の中は休日の浅草のようにひとがごった返していた。
「ここは、流石に通りたくないな。」
そう呟くとルシアスは行き止まりの裏路地に足を踏み入れた。
しばらく歩き行き止まりを見つけたルシアスは、行き止まりの壁目掛け走り出した。
普通ならそのまま激突するが、ルシアスは助走の勢いそのままに壁の出っ張りに足をかけ、飛び上がる。
次の出っ張りを見つけると手をかけ筋力ステータスの補正を使い腕だけで体を上方に移動させる。
壁から出っ張りがなくなるとルシアスは壁を蹴り隣の民家の壁を蹴り、赤い服を来たヒゲオヤジよろしく、飛び上がっていく。
そしてあっという間に地上5メートルの商店の屋根の上に立っていた。
ルシアスが行った動きが他のページワンや中位、下位ランカーから公式チートと言われるプレイヤースキルである。
このプレイヤースキルの名は『パルクール』同系統の『フリーランニング』に比べるとバク宙などのアクロバットを入れない為地味ではあるが、より効率を重視した技術だ。
高低差がある場所や障害物を最短距離、最高効率をもって踏破する技術である。なぜ前世では引きこもりネトゲ廃人の日向がこんな技術を持っているかと言うと、練習の賜物である。
日向は某動画サイトにおいて偶然パルクールの動画を見つけ、やってみたいと思った。そしてRFOが発売されるまでやっていた東京を舞台にしたゾンビシューティングで、ゾンビを狩ることなくひたすらに動画と同じ動きをするべく練習し続けたのである。
結果、日向はVR内での筋力補正を受けたパルクールの達人といえる領域まで上り詰めた。余談ではあるがルシアスが魔王を暗殺する時、魔王城に忍び込む為にも使っていた。
パルクールを使って独特の立体機動と毒と剣による一撃必殺のプレイスタイルを極めたルシアスは職業を『暗殺者』としたのである。
ルシアスがこのプレイスタイルを極めた当時、運営が最高難易度に設定した魔王を暗殺したルシアスは、運営から『暗殺者』という二つ名をつけられた訳である。
つまりルシアスは職業は非公式である。非公式ながら運営には認められていたのである。
話がを戻そう。
屋根の上に登った。ルシアスはゲーム時代の記憶を頼りに屋根伝いに冒険者ギルドに向かった。
◇■◇■
冒険者ギルドを見つけたルシアスは、屋根から降りギルドと扉を開けた。
ギルドの扉はルシアスがプレイしていた頃より真新しかった。
「ほとんど変わってないな。」
ギルドの中を見たルシアスの感想である。ギルドは内装もゲームの時と殆ど変わっていなかった。
扉からみて正面に成人男性の腰ほどの高さの受付のカウンターがあり、扉と受付のカウンターを繋ぐ通路が出来ている。カウンターには受付担当の職員が5人いる。
扉からみて通路右側には依頼書の貼ったボードがあり、通路の左側は冒険者ギルドの酒場となっている。ボードの前は依頼書を見る冒険者で溢れかえっていた。一方酒場は昼なので所々にしか人がいない。
ルシアスはギルドの中を見回すと、ゲームプレイ時よろしく受付に行く。受付嬢は依頼の難易度に合わせて受付が違い、区別をつけるため服の色が違う。
初級は緑、中級は黄 、上級は赤の服である。
ルシアスは迷うことなく赤の受付嬢のカウンターに向かった。黄色の髪が綺麗なエルフと思われるアーモンド型の目をしたメガネの受付嬢は、笑顔を浮かべゲーム時代と同じ対応をした。
「こんにちは、本日はどのようなご要件でしょうか?」
そう聞かれたルシアスは返答に詰まる。何せルシアスの中の日向は極度の引きこもり、対人で会話したのは何年前かも分からない引きこもりなのだから。門番の男とまともな会話ができたのは奇跡と言っていい。しかし、今回は相手が女だ。
少し考えたルシアスは門番に言われた事を思い出し口を開く。
「カードの更新を頼みたい。」
「かしこまりました。ではギルドカードの定時をお願いします。」
ルシアスはアイテムボックスから言われた通りギルドカードをだし、受付嬢に渡した。
が、受け取った受付の反応がおかしい。
なぜなら受け取ったギルドカードとルシアスの顔を見比べたり、メガネを外し目を擦ってはギルドカードを見たりをしている。
この反応に流石に驚かれルシアスは疑問を投げかけた。
「あの、なんかマズイことでもあった?」
「ふぇっ!え、あ、はい。あの私では少し判断しかねるのでギルドマスターを呼んでまいります。」
少々お待ちくださいと言い、ギルドカードを握ったまま奥に走っていった。
一 何が判断しかねるんだ?
これが今のルシアスの心情だった。
◇■◇■
受付嬢が奥に消えてから三十秒ほどでドタドタと走る音がルシアスの耳に届く。
ギルドの奥にルシアスが顔を向けると純白のローブを纏ったエルフがいた。年齢的には18歳程の見た目ではあるがその限りではないだろう。なぜならエルフ族の特徴である長く尖った耳が見えたからだ。
綺麗なアーモンド型の眼をし、肩に僅かにかかるライムグリーンの髪をなびかせながらルシアスの前に立つ。
するとギルドの中にいる者達は女を見るとギルドマスターがなぜここにと口々に言う。
その声を聞くルシアスはどこかで見た顔だと思いつつも、なぜギルドマスターがでて来るのかと疑問におもう。
次の瞬間、冒険者ギルドの中には女がルシアスを打った音が鳴り響いた。
◇■◇■
俺は女にいきなりビンタをされた。かなり痛かったが、痛いと言うのはなんだか負けた気がするから何も言わずにいたら今度は抱きつかれた。
「・・・っう、ひっく・・・たくさんたくさん・・・心配したんですよ。」
「・・・ごめん。」
勢いで謝ってしまった。いや、だってさなんか親しい人っぽいんだよ。しかしなんか見たことある顔なんだよなぁ。
・・・・・・っあ、思い出した。
自作NPCの『エリシア』じゃん、なんで思い出さなかったんだろう。
RFOはサービス開始1周年を記念して、5000円の課金をするとNPCを自作できるシステムが追加された。
このシステムは孤高の戦士達の「パーティーでプレイしたい」といった要望に答える為に作られた者で『最高5体まで』という規制があるもののキャラクターの設定をすることができる。出自からどんな人格はもとより、戦闘スタイルやプレイとはどういった関係などだ。
キャラクターのレベルはプレイヤーと同じように上げないといけなく、微妙といえば微妙なシステムだった。
が、もちろんキッチリ2万と5千円課金したさ。別にソロプレイが悲しいとかじゃない。純粋に効率を求めただけだ。その証拠に2体は男だ。俺は調合師だから店を出せる。俺自身は店をやってもいいがもんなものは非効率もいいとこだ。ゴブリンとの戦闘でも経験値はポーション20本製作するのと同じだ。
俺はただ、ただただ単純に純粋に効率を求めたんだ。純粋に効率を求めたんだ、大事なことだから2回言った。
そして俺のにいる今さっきビンタしてきたエリシアに謝った。ルシアスのロールプレイで。
「ずっと留守にしてて悪かった。悪ぃなエリシア・・・ただいま。」
「うっ・・・ぐす。・・・おかえりなさい、ルシアス。」
俺の胸から顔を上げたエリシアは涙で濡れた顔で笑った。
エリシアが俺の名を言ったその瞬間にギルドの中はざわついた。
「ルシアスだと!?」「ルシアスって魔王殺しのか?」「ルシアスって大英雄ルシアスか?」「馬鹿、200年前の人間が生きてるもんか。」「じゃあ、ギルマスの反応はなんだ?」「知らねぇよ。」「ホントに英雄ルシアスなら握手してもらいてぇ!」「てめえ絶対抜け駆けするなよ」「だが断る‼」
え?200年?そんな経ってんの?嘘だろ?
そんな事無いとこころで思っていた。だが頭は理解していた。
ここは200年後のリアルファンタジー・オンラインの世界だと。
呆然としていたのだろう。エリシアに呼ばれて正気にもどる。
「・・・アス、ルシアス!!」
「・・・っえ、あ、なんだ?」
「なんだじゃないですよ。200年もいなくなった理由をきちんと、しっかりと聞かせてもらいますからね。」
エリシアの顔は笑顔でだったが、凄く怖かった。ほんとに、怖かった。稲〇淳二の怖い話よりもよっぽど怖かった。
俺はエリシアには出来るだけ反抗しないようにしようと誰にいうわけでもなく誓った。




