7.彼らの馳せる思い
ウォーク
天地も、その狭間の地上も暴れ、歪みゆく中、僕は必死に走っていた。
そのとき、ひとつの軍の団体を見かける。どうやらあの軍の向こう側にリオラがいるのか。
ふと、馴染み深い青年の背中を見つける。もしかすると、と思い、その人物のもとへと走った。
「レインっ!」
僕は必死の思いで大勢の軍の中にいる親友に声をかけた。
親友は振り向いた途端、驚き、黒い防撃マスクを外し、僕の両肩をがしっと掴んだ。
「ウォーク!? まだこんなところにいたのかよ! それにおまえなんで王女を……いやなんでもいい、早く逃げろ! 殺されるぞ!」
「レイン、僕は――」
「ああ、その眼を見りゃわかる。見つけたんだな、やるべきことが。じゃあ尚更だ。さっさとこっから離れろ。こんな発狂した天地でもまだ抜け出せる。急げ!」
「だけどおまえは……」
「災龍を討伐するに決まってるだろ! 一人でも多くの兵力が必要なんだ。悪いけどさ、おまえとはいけない」
「……」
「そんなシケたツラすんなって。安心しろ、笑いとばしながらおまえんとこに駈けつけるからよ。約束だ」
その顔は無垢に笑っていた。
思わず涙が零れそうだった。
彼の変わらぬ笑顔が、飛び交う火の粉の光で夕日に照らされたかのように橙に染まっている。
声を絞り出し、僕も彼と同じ表情で言葉を放った。
「……ああ! 絶対、生きて戻ってこいよ!」
「あったりまえだ。生きて! 国を守ってみせるさ!」
「じゃあな、レイン」
「ああ。また会おうな! ウォーク!」
僕はその力強い彼の拳をゴツンとぶつけ合い、笑い合った。
最後に一瞥し、走り去っていった。
*
レイン
「これでよかったのか?」
そう言ってきたのはサニーだった。クラウも崩れた石壁から出てくる。
「なんだよおまえら、そんなところにいたのかよ。ウォークに何か言わなくてよかったのか?」
「……今あいつと会ったら、一緒に行きたくなるからな」
「俺もクラウと同じだ。それに会っちまったら寂しくなって戦いどころじゃなくなる」
「へへ、おまえらもらしくねぇこと言うな……じゃ、俺たちは集中して災龍に挑むぞ! 誇り高き国軍と共に!」
「「おお!」」
3人は拳を合わせる。
「じゃ、いつものいくか」
「あたぼーよ」
「当然だ」
「この戦いが終わったら、酒場でパーティーだ」
「お、いいね、それ」
「楽しみだな」
「時間もねぇ、覚悟して挑もう!」
俺たちは挑む。災厄に。天災に。
そう聞けば無謀にも思えるかもしれない。でも、やらなきゃダメなんだ。諦めちゃダメなんだ。
このまま人間の皮を被ったバケモノに殺されてたまるかよ。ましてや国なんて滅ぼされちゃたまったもんじゃねェ。
今交わした約束だってあるんだ。尚更じゃねェか。
俺は貴族の間で生まれ、王宮で育てられた。
そんときにサクラに出会って、仲良くなった。
今でもガキの頃から変わってねェ程のやんちゃ娘だったな。あのころの記憶が蘇る。
それにしてもウォークは本当にいい奴だった。最初出会って話しかけられたとき、こいつとは親友になれそうな気がしていた。
王宮でそんなふたりと過ごせたことは本当に楽しかった。
それに、サニーとクラウの軍人仲間3人でバカやったり一緒にいたりした。
訓練が苦しい時も、実戦で挫けそうになってもあの二人がいつも俺を支えてくれた。
今、口では言えないが、心の中でありがとうと何回も連呼したいものだ。それだけそいつらに感謝している。
ああ、楽しかったなぁ。
またそんな楽しい生活に戻りたい。そう願う。いや、戻してみせる。
そのために、俺らは、災龍を討伐する。
天が崩れる中、レインは3人の仲間の目を見つめ、声をかける。
「俺たちは!」
ガツン!と3つの拳がぶつかりあった。
「「「最強っ!!」」」
*
「なんだよくそ! 災害どころの騒ぎじゃねぇぞ! どうなってんだ!」
アーカイドはその光景を目の当たりにし、舌打ちをする。
災龍の事態の被害も相当だが、それ以上に二次災害による死傷者の数が桁違いに多かった。逸れる者、消息を絶つ者……確実に殺されたと認識されたそれよりも多いのは確かだった。
それは、アーカイド達龍材屋にも同じことが言えた。
煮え返る溶けた石畳。
浮上し、降り注ぐ街。
天を覆う爆炎の暗雲。
最早カオスに相応しい天災に重なる天災。これだけの被害、サルトに及ばずアミューダ地方、いや、この大陸をもかなりの被害をもたらしているだろうと誰もが感じていた。だとすれば、この国から逃げられたとしても安全が保障されない。誰もこの地獄から出ることはできない。
「あいつらとはバラバラになるし、早く合流しねぇと! ――ん?」
残酷な景色も山のような死体も地面の蠢きにより瞬く間に地中へ飲み込まれてしまう中、アーカイドは何もなくなった景色の少し先にいる何かに気が付く。
「――っ」
アーカイドの目に入ったのは王宮に務めていた、金髪の召使の姿だった。
「ウォーク!」
アーカイドは叫んだ。声が届いたのか、その王女の遺体を抱えた召使はこちらへ振り向いた。
「アーカイド!」
ウォークは足場が悪い中、アーカイドのもとへ駆けつける。墜ちてくる巨大な雹や雷、火山弾を避けながら、彼は目の前の仲間のもとへ駈けつける。
「生きてて安心した。けどなんでこんなところにいんだよ!」
「こんな環境だ。巻き込まれないように必死で逃げていくうちにこんなところに着いてしまったんだ」
「つーかおまえなんで――っ、いや言いてぇことは後だ。とにかくここから離れろ! 災龍がすぐそこにいる!」
「リオラが……?」
「リオラ? 誰だそりゃ――っあぶねぇ!」
瞬間、ガギィン! と音が耳元で鳴り響く。天から降った氷結した瓦礫。ここでじっとしているのも自殺行為に等しいといえよう。
「こんなんじゃ四方八方敵だらけじゃねぇか……ウォーク! いいから逃げろ! 災害に殺される前に!」
「だけどっ! おまえは――」
「いいから逃げろ! お前が死ぬとこなんて見たくないんだよ!」
天地の叫びに敗けないぐらいの声。それに、と付け足す。
「おまえの愛した人を落ち着いた場所で供養しなきゃいけねーだろ。その抱えている御方はなにもおまえのだけじゃねぇ、俺たち国民が愛した人だってことを忘れんじゃねぇぞ。……最後まで面倒みろよ」
「――ッ! アーカイド……ごめん!」
そう告げて、ウォークは反対方向へと走っていった。
「ったく、謝るんじゃねぇよ、バカ野郎が」
アーカイドは声を震わし、微かな声でそう呟いた。
あいつの顔だけでも見れて良かったと、振り返らないまま、逆さまの浮島へ目を向ける。
もうすぐだ。
「さっさと狩って、新妻に自慢してやろう」
そして、剣を構えた。




