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災華の縁 ~龍が人に恋をしたとき~  作者: エージ/多部 栄次
第三章 二節 人と龍の想い
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17.生きて君の下へ還る

 着いた場所は霊峰サルタリスの頂上にして奉神アマツメが降臨する聖域「高天の地」だった。

「リオラ、なんでこんなところに?」

 サクラが訊く。

「ぜぇ……上、見てみろ」

 往く途中、鉱物や植物等を摂取したのだろう、リオラは辛うじて回復したようだ。だが、体はもう限界を通り越している。再生力も極端に低下している。

 いつこの体が崩れ、壊れるかはわからない。


「……なに、あれ」

 真っ白い太陽のような球体エネルギーに一点の黒がくっきりと見える。それが何なのか、ウォークはとうに気がついていたようだ。

「あれが王龍か?」

「ああ」

 辛うじて見える小さな黒点。それは王龍が浮かした、どこかの地方の名もない岩島。山峰から地盤まである小さな島は白い太陽の重力によって吊るされたように浮いている。熱からか、黒焦げに炭化していたことは、視力が千里眼並みに鋭いリオラしか把握できないことだった。


「何する気なの……?」

 この状況においてこのあと起きることをまだ把握していないサクラに対し、ウォークは親切に説明した。

「……あの白い太陽のようなものを創り出したのは王龍です。王龍はあの白い太陽をどうするのかはまだ明確ではありませんが、あれが落とされるとすれば……おそらくですが、あの大きさでしたら、アミューダ地方はクレーターになって、その衝撃で世界の大半が壊滅するかと」

「……世界を滅ぼすトドメを刺すってこと?」

「ええ、その通りです」

 サクラは相当のショックを受けたようだ。「そんな……」と呟く声が微かに聞こえた。


「まだあんな力を出せるのかよ……!」

 リオラは悔しそうに噛み締める。

 だが、あれが最後の力だとリオラは察する。お互い限界は何度も通り越している。あれをなんとかすれば、王龍はもう力尽きるはずだと考えた。

「あんなの……どうやって対抗しろと……」

 そう嘆くウォークも、流石に駄目だと思ったのだろう。

「だけど、これで最後だ。これを切り抜ければ――! 岩陰に隠れろォ!」

「えっ」

 ウォークはリオラの言葉を反射的に従った。乗竜のナウルから降り、使い物にならない軋む脚を無理矢理動かして、とっさにサクラの手を引っ張る。傍にあった大きな岩に隠れ、身を屈めた。


 その瞬間、高天の地の中心に目が眩むような白い爆発が生じる。雷のように墜落しては噴火のように膨大な熱と光を拡散がら爆破する。大気が振動し、ビリビリと肌を刺激する。地面が大きく揺れる。生じた爆風に危うく吹き飛ばされるところだった。

 上を見上げると、白い太陽から放電するかのように無数の白い雷がこの大陸に降り注いでいた。落雷した瞬間、噴火のように大爆発する程の威力。強い電磁波のエネルギーが肌に伝わる。


「くそ! ここにいてもダメだ! さっさとケリつけねぇと!」

 だが、王龍のいる場所は標高約50km。中間圏だ。

 標高1000メートル弱の霊峰サルタリスから見ても遥か高くに位置する。

 そもそも、この壊れそうな体で飛べるのか。

 しかし、あそこまで行ったとしてもどうすればいいのか。何をすればあの光る球体を消滅できる。

 考えれば考える程、自分の欠けた頭は混乱するばかり。

 正直、どうすることもできない。


「はは、流石に参ったな、こりゃ」

 初めて弱音を吐いた。なんとかできると思いつつも、かなり難しい、という意味でリオラは口にした。

「リオラ……もう、どうすることもできないのか?」

 ウォークは何とかしてくれと言わんばかりの表情で訊く。

「バカ言うなよ、何もしなかったら人類ぜんいん滅ぶぞ」

 ウォークは絶望と焦りの為に少しばかりの憤りが込み上がってくるが、必死にその感情を抑え、冷静に話そうとする。

「じゃあ――」

「オレのカラッポな頭で考えたって何も出てこない。バカらしく、正面衝突で白い太陽ごとあいつをぶっ飛ばしてやるよ」

「でも……それじゃ勝てないと思う」

 サクラが話に割り込んできた。リオラは苛立ちをみせる。

「じゃあなんか方法あんのか?」

「それは……」


 沈黙が走る。

 こんな時間はないのに。

 今すぐにでもこの状況を何とかしないといけないのに。

 世界が滅ぶカウントダウンは始まっているのに。

 そう思うも、最善の案は出てこない。焦るばかりだった。


 しかし、この沈黙を打ち破ったのはウォークだった。

「……なぁリオラ」

「なんだ?」

「あの球体の爆発を最小限に抑えることができるか? それか、一方の方向へ逸らすか」

「やってみなきゃわかんねぇ。決して楽なことじゃねぇぞ」

「なにか策でもあるの?」

 サクラが訊く。ウォークは少し躊躇い気味に話し始めた。


「いえ、策というほどではありませんが……あの白光の太陽は莫大な熱や磁力、核融合、そして化学エネルギーなどが内部で反応、膨張して密度が高くなって、質量が多くなって落ちていく仕組みだと思います。見た目や質材からして太陽そのものだと。にしてはやけに熱量が低くて、攻撃的な太陽ですけど」

「何が言いたいんだよ。わけわからん言葉並べやがって」

「うん」と同調するサクラの言葉にぐさりとしつつも、そんな余裕はないとウォークは説明を続ける。


「ごめん、僕も混乱しているから。つまり、あれの性質も太陽といっしょだと思う。ということはおおよそ水素を燃焼として使われている。そして、地軸がある」

「で、結局何なんだよ」


「地軸を極端に歪めれば球体の形を保てなくなる。その軸を保っている中心核を歪めれば、この不安定な太陽は崩壊する。だけど、それによって膨張してこの大陸……この惑星ほしごと飲み込まれるかもしれないし、爆発すれば、あまりのエネルギーでブラックホールができてしまうかもしれない」

「それじゃあ……」

「最善の方法はありません。リオラの言う通り、真っ向勝負で立ち向かうしか……」


「なんだよ、聞いて損した。結局やることは変わりねぇじゃねぇか」

 眉を寄せたリオラは舌打ちし、背を向ける。


「……けど、確信はできた。助言ありがとな」

 振り返り様にウォークの顔を見た後、真剣な顔つきで白天の空を見上げる。そして、歩き出す。


「リオラ……気をつけていけよ」

「ああ、あとは任せろ」

 振り向かず、中央へと向かう。

 白色の雷が降り続く。霊峰から見える景色せかいは白い爆発で溢れかえっている。

 リオラはその元凶を見上げる。

 天を覆う白炎の太陽に君臨する王に立ち向かう。


「――リオラ!」

 呼んだのはサクラだった。雷鳴が煩く、彼女の声が通りにくい。

「なんだ!」

 サクラに聞こえるようにと、リオラは大きな声で返事をした。

 サクラは息を大きく吸い、目を合わせて叫ぶ。しっかり伝わるように。


「――絶対に! 世界を救って! 生きて帰ってきて!」

 リオラの何かが弾けた。底から湧き出し、噴き出す体の中の何か。それが感情を高揚させ、力が増幅される。

 まるで栄養を――ドーピングを大量に投与されたような感覚。しかし、その栄養はどんな養分や食材よりも遥かに、莫大な力を与えた。

「――ああ! もちろんだ」

 リオラは踵を返し、振り向いて答えた。ほんの少しだが、不器用な微笑みだった。

 大地を踏み込む。否、薄い地殻では頼りない。伝わる力はマントルに達する。この惑星の核を土台に、リオラは踏み込んだ。

 高天の地に無数の深い罅が爪痕として刻まれたと同時、リオラの姿は大空へと消えた。一瞬遅れて突風が起き、山脈の標高が数センチ沈降した。

 サクラとウォークは真っ白な雷星を見上げながら、ただ彼と世界の無事を願う。今の自分たちには、厄神に祈ることしかできなかった。

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