8.餓鬼畜生がその腹満たすまで
一瞬だけ意識が吹き飛び、背に何度も強い衝撃――衝突が伝わる。そのつど速度は落ち、何かの壁に身を埋める程までに激突した。
場所は把握していなかったが、リオラのいる地点はケイオス地方ではなく、数百キロ離れたアミューダ地方の北西域「エルベス火山帯」に位置する成層火山の側面だった。
「――ハァッ……ハァッ……う、ぐ……どんだけ、馬鹿力なん……だよ」
大の字で倒れているリオラが瞬きをした瞬間、真っ暗な世界――否、巨大な口がリオラを喰おうとしていた。無数の牙の奥から見えるブラックホールのような喉奥。そこから何かの悲鳴のような音が幾つも重なり、不協和音となり、負の大合唱を奏でている。
この瞬間、ただの血肉と化す未来が見えた。
「――ッアアアアアアアアアア!!!」
全身をフルに使い、間一髪、回避した。
王龍の口は勢いよく閉ざされ、溶岩入りの岩石を果実に食らいつく獣のようにバクンと喰い、呑みこんだ。口を閉じたときの歯が重なり合う音が超音波となり、周りの岩を崩していく。
「――っ、ぁハァッ! はぁ……ぉごっ、がふっ!」
そのとき、再び意識を失いかけていたリオラは、その場所から数キロ先の火山麓の森にいた。辺りの木々は根こそぎ取られ、雑草の生えた地面が粉砕している。砂埃で鮮明に景色は見えない。
吐血し、横腹の激痛でリオラは把握する。避けた瞬間に叩きつけられ、墜落したのだ。おそらく、尻尾で打ち飛ばしたのだろう。
「――っ、また来たか!」
五感感度をkm単位かつ、μ単位の微細な部分まで察知できる以上、最早未来予知に等しいスペックを持ち合わせている。
何の音沙汰もなく、王龍がリオラの眼前に飛んで来ることも、瞬時に予測し、行動に移すことができた。
だが、予測しても相手が異常に早すぎれば話は別。精々、張り合うまでだった。
自転速度以上の一撃を何とかかわし、掌底突きを太い腕に向けて繰り出す。爆発音を越える響きは木々を仰け反らし、その小天体をも砕きかねん破壊力は王龍の腕を仰け反らせる。
――もう一発。
兵器的な筋肉構造により為せる収縮式衝撃波で、その威力の十倍以上の負荷が同じところに重なる。
排撃。
都市を地震で全壊させるほどのエネルギーを一点に加えたことで、王龍の腕が変な方向に捻じれる。王龍はゆっくりと呻き声を立てながら、瞬速で後ろ回し蹴りを繰り出す。
その動作は人間に近い。否、超人ともいえる。
「――っぶね……竜より人間に近い動きをしやがる」
龍と人が合わさったような……いや、竜人族に近いものとも考えさせる程だ。
そう思ったリオラは、回し蹴りの跡に繰り出されていた追撃に気づかず、直撃した。脳が揺れ、一瞬失った視界を取り戻したときには、また数キロ先の火山中央区に飛ばされていた。激痛が激痛を重ねる。
「……野生生物でここまでしてやられんのは久し振りだな。ヘッ、こういうのを待ってたんだよ」
しかし、それに屈するつもりは毛頭もなかった。
全力をぶつけられる相手。もしかしたら、これが体質を治す最善の方法かもしれないと、リオラは根拠ない案を頭の隅で考えるも、すぐに闘いに集中した。
岩肌荒い山の坂を駆け、降り注ぐ巨大な火山弾を走り抜ける。最後の火山弾を両手で掴んでは山頂へ身を飛ばす。
火山からあふれ出す噴煙から砲弾のように飛び出てくる王龍。黒鋼鎧麟の腕を機械のように展開させては排熱処理をしつつ、赤い炎熱光を滾らせる。
リオラを掴み、その腕を爆発させる。直下へ叩きつけられるも、リオラは怯まず、火山内の灼熱の洞窟を駆ける。リオラの速度と同速だろう、岩壁がそれに沿って稲妻のように罅砕け、中から王龍が出てくる。
「――は!?」
その右腕は、表現するならば穿孔機。自らの甲腕を回転軸として火山の超鋼金属を熱融合させている。
どういう仕組みで生物が機械的運動ができるんだ。
最早ステップドリルと化している腕に疑念を抱いたリオラは瞬時の判断を下す。
鳥獣武術。鳥人流土風術。
螺旋蹴りとも言い表せるその蹴り技は、足を切れ刃のようにし、その風をも巻き起こす衝撃波はツイストドリル型の風撃を発生させる。
先程の老王の腹に風穴を空けた、錐のような蹴りと王龍の工業機器のような切削腕がぶつかり合う。
火花が散り、風圧が周囲の溶岩を飛散させる。耳を劈く甲高い金属音が火山内部を響かせる。超鋼金属で形成された穿孔腕だが、しょせん付け焼刃。すぐに脆く砕け、ソニックブームの現象が発生したと同時に、リオラの左脚が王龍を火山の外へ吹き飛ばす。その軌道に沿って溶岩海から飛沫の壁が舞い上がる。
すぐに外部の火成岩地帯に出ては、相手の居場所を確認する。
「上か」
立ち直りの早い奴だとリオラは空を見上げる。
傍に聳え立っていた火山岩尖という火山内で固まった溶岩の柱が押し上げられたものを引っこ抜き、すぐそこまで来ている王龍に向けて振りかぶる。
王龍の動きを予測し、見切った上で岩尖をバットのように振り回し、王龍を叩きつける。
が、岩尖は王龍の硬さで見事に粉々になる。だが、伝わった衝撃が相当だったのか、王龍が墜落した。溶岩の池に落ちるも、腕をかざし、少しばかり膨張させては、手のひらの孔から炎熱線を噴出させる。それはハイドロキャノンに匹敵し、大爆発を引き起こす。
それによって起きる表面性地震に伴い、周辺地帯の噴火、爆発が起きる。足場が地滑りし、傾き、足場が溶岩に浸かっていく。
溶岩から這い出てきた王龍は、口から自己反応性の火炎ブレスを白いレーザー状にして噴出させた。
ドォォォォォォオ! と爆発音と放出音を轟かせる。
「――っ!? ただの火じゃねぇ!」
一瞬の判断。それがリオラの命を救った。
それがすべて熱である以上、リオラは全てのブレスを吸収するつもりだったが、すぐさま避けた。
火炎レーザーが向こう側の火山に衝突した瞬間。
半径十キロだろうか、それほどの範囲で巨大な爆発が起きた。その爆発はリオラが今まで経験してきた熱ではなかった。
核融合による放射能の爆発。そして放射線と高熱でも変性しない新種の沈殿性毒素。二種の異なった危険物質が爆破地点で蔓延していた。
熱も凄まじく、着弾発火点は太陽の表面温度を誇る六千℃超。周辺の鉱物が熱で溶けるどころか、蒸発していった。
爆発が消えたと同時にそこにあった火山も消え、大規模なマール(爆発によってできる火口状のくぼ地)ができる。
「……」
リオラでさえも唖然する威力。万が一受け止めていたら、と考えたときだった。
次の瞬間、王龍の肘部の噴出孔が火を噴き、豪速での左拳を天より繰り出した。
「のぁ!」
叩き潰されそうになったリオラは対抗し、拳を真上に振り上げ、真下へ来る王龍の拳とぶつけ合う。
音にならないほどの音――超音波を越えた音が二つの拳の間に真空圧と斬撃を生み出し、周りの火山や岩を両断させる。
「ぐっ……あぁ畜生が」
王龍の毒を浴びた為、リオラは力が劣化している。故にリオラは王龍の拳に負け、地面に深くめり込む。地面が砕け、その隙間を溶岩が侵食する。天体衝突の如く攻撃地点を中心に巨大な爆発が起こり、周りの地形が捲れあがる。マールを越え、クレーターができる。
大地が叫ぶような轟音を立て、地面を揺らす。アミューダ地方全域のみならず、隣接する他地方をも揺るがしたことだろう。
そして、エルベス火山は麓の森ごとなくなり、ただの溶岩と流氷のように流れる火山岩が漂うマグマの海と化した。
煉黒の空で王龍は翼を羽ばたかせながら、無機質で不快な咆哮を轟かせる。
音沙汰ない真っ赤な海の中央で突如巨大な火柱が立つ。その中に、何かがいた。
その姿は人型でもなく蟲型でもなく鳥型でもない。犀竜の如き一角の頭部を持ち、大猩猩の如き剛健な鋼の肉体、そして巨象の如き鈍重にして剛強正大。
それらが合わさったような体構造と、老王ラシオンに似た鋼山型霊長龍――竜化したリオラはアロワナのように火柱と共に跳び上がり、王龍と大差ない巨腕を振るい、吹き飛ばす。飛ばされつつ、そのまま王龍はその場から離れようと翼を羽ばたかせる。
竜化しているリオラは全身を発火させ、先程の真紅の炎翼を纏う不死鳥龍へと瞬く間に変貌し、ジェット機のように王龍を追いかける。
追いついた瞬間、舞うように回転しながら赤い鳥型の龍から、炎を纏った人型に変貌し、業火の蹴りを放つ。王龍も脚を表面融解化させ、回し蹴りで対抗する。
空中で放った蹴りのぶつけ合い。液相に近い密度で放ったそれは、より広範囲にして鋭い斬撃を生じさせ、マグマの大海が割れる。
だが、勝ったのはまたもや王龍。足を弾かれたリオラは、もう一発蹴りを喰らい、空気を貫くような摩擦音と共に、マッハ単位で吹き飛ばされる。
*
一瞬意識を失いつつも、気が付いたとき、リオラは目を疑った。空いた腹部をさすっては再生しつつ、千切れた脊髄を修復させては起き上がる。
さっきまでの地獄絵図から一気に転変し、自然の絶景が色鮮やかに太陽の優しい光に照らされていた。
「……今度はシェイダか……」
かつてサルト国王女サクラと一緒に訪れた場所。ふと、そのときの思い出を思い返してしまう。
エルベス火山帯からは近い地域。とはいえ、ここから見渡しても火山の片鱗すら見えないほどの距離がある。
さっきまでの激戦がまるでウソだったみたいに、緑がリオラを優しく包んでいる。安らかな温かさ。今まで起きたことは夢だったのかもしれない。そう思わせる程、ここは平和としか言いようがない場所だった。
しかし、その幻想は瞬く間に打ち砕かれる。
「――まだ来るかっ! ンの野郎が!」
頭上から蒼黒い落雷と共に王龍アポラネスが降臨する。翼から七色様々な電流がバチバチと奏でていた。各元素の炎色反応によるものか、それともまた、王龍独自で体内で作り上げた物質によるものか。リオラは危機一髪で回避できた。
翼と、翼下部から生えている触覚のようなものから七色の雷がバチバチと放電される。
「ハッ、もうなんでもありって感じだな」
息が多少乱れるも、リオラは発電器官である筋繊維を駆使し、放電を開始する。網目状に広がり、天に枝を伸ばし、地に根を張るように、細かな雷が侵食する。
その瞬間、リオラはリヒテンベルグ図形状の放電と共に龍化した。牙狼竜のような四足歩行に発達した前肢を特徴とした体つきを基盤に、碧の甲殻に黄金色の毛。虎の猛威を表すような勇ましい腕と爪、豹よりも速く走れる筋肉構造をしている両脚。そして獅子のような鬣が背中まで流れている。
絶対王者の品格。それほどの威圧感と気迫、電撃を纏っていた。
狼のような遠吠えを上げた後、電光石化の如く王龍の頭部へ一瞬で移動した。
眉間に剛爪と腕力による一撃が激突する。人間時よりもかなり重い一撃だったが、蛹代わりであったルデオスのように頭蓋骨ごと砕けることはなく、シュ~……と摩擦による煙が漂うだけであった。
次の瞬間、王龍の九つある尻尾に血管らしきものが浮き出てきて、根菜類のようにぼこぼこと血管から塊がさらに目立って浮き出てくる。そして、尻尾の先端から液体弾をマシンガン且つ散弾銃且つ大砲のように放出し始める。
地面や岩、木に被弾した途端、溶解性なのだろう、蒸発音を立ててはたちまちに溶けていった。
――まずいな、避けきれない。
そう察したリオラも目には目を、巨体であるがゆえに不利な龍化を解除し、同じく毒という名の防御分泌物で対抗した。
横殴りの毒の豪雨は最早壁そのもの。リオラは全身を防御分泌物で体を包み込み、同時に別種の分泌物を前方へ放出することで、毒雨の威力を軽減させる。
瀑布の勢いで過ぎ去った王龍の毒はリオラの後方を毒沼へと変えた。何もかもが溶け、腐臭が漂う。防御物質の鎧で守られたリオラは、表皮を生分解脱皮し、前へ進む。
次に王龍は眩い日光を翼に集め、光と熱エネルギーを口へと集める。そして、閃光と共に一気に放出する。
緑の大地は抉れ、木々が舞い上がる。激しく光りながら襲い掛かってくるそのソーラービームをリオラは手のひらで撥ね返す。その手は、瞬時に体表の細胞を変性させ、光熱反射性の鉱物に変換したもの。焦がされることはなかったが、びりびりと痺れる。
だが、王龍は返ってきたエネルギーを避けた。その結果、リオラは後悔することになる。
その先には、この位置からでも小さく見えるグリス国領土があった。
「しまっ――」
もう手遅れだった。ソーラービームはカルデラ地形であるグリス国を囲う森丘グリス山脈を直撃し、盛大な爆発を遂げた。爆発と共に発生した燃焼反応は太陽よりも眩しく光る。
国自体に被害はないか。国民は無事なのか。どうなった。
その様子を見る猶予を王龍は与えることもなく、華麗なフットワークで動きながらガトリング砲のように殴打を繰り出した。
まるで巨人が小人を全力で殴りつけている様。王龍の腕とリオラの全身の大きさに大差はなかった。拳の流星群はすべてリオラに直撃する。
岩を砕き、小さな滝の流れる崖まで飛ばされては身を半ば埋められる形になる。リオラの視界はぼやけていた。
王龍は翼を扇いで後退しては体勢を立て直し、狙いを定めて波動を纏った放射熱線を口から吐く。もろに直撃したリオラはその熱線の流動に従い、レーザー級の速さで吹き飛ばされる。
王龍は身体の全噴出孔から燃焼した液体水素が排出され、翼の発電によるイオンエンジン――電気推進も加え、光線の如く吹き飛んでいるリオラに追いついては鎧麟の拳で地面に叩きつける。隕石が墜落したかのように大陸が波打ち、地面に大穴が空く。底まで叩き潰されたリオラの肉体は、未だ原形を保っている。
「――ああああっ! くそったれ!」
天災並みの威力を喰らい続けても相手は天災を操る天災。厄神ゲナと畏れられてきた虚無の伝説。どんな不利に陥っても決して精神と肉体が屈することはない。
かつてイダヌス山の麓だった森。薄暗いクレーターの中心。ふらりと立ち上がったリオラの視界は土一色。だが、その目には土壌だけではない何かが見えていた。
「……決めた、こいつを喰う」
その言葉を吐き捨てた瞬間、リオラの意志は一度死ぬ。そして、生まれ変わる。
本能に委ね、本能のままに肉体を動かすことを決意する。この世界を救う義務、「神殺し」の責任、大切な人を守る願望。
それらを切り捨て、ただリオラは食す、嘱す、蝕す。
生きるために、王に君臨する黒神の龍を「捕蝕」する。この受け継がれてきた血に誓って、食欲に委ねる。
理性を最小限に抑え、本能を最大限に発揮する。故、最高のパフォーマンスを生み出す。
突然、天に君臨していた王龍の身体に罅が入る。否、王龍の眼前の空間に罅が入ったのだ。その罅の原点には、飛び上がってきたリオラの右拳があった。
とても表現しがたい音が轟いた瞬間、王龍の身体が吹き跳ぶ。王龍は意識を一瞬失いつつも翼を大きく広げ、吹き飛ぶスピードを緩めた。
が、その行為は間違っていたことをリオラは押しつける。
リオラの踵落としが王龍の脳天に炸裂し、再び空間に罅を生じさせる。その原点は踵――王龍の脳天。
空間地震以上の威力を前に王龍は手も出ず、ただ上空からグリス第一半島に墜落した。
空間地震を越えた空間破壊により海が粉砕し、山が崩れ、王龍の急落下により更なる被害を齎す。
リオラは上空から縦回転とスピードをつけて降り、踵落としを喰らわそうとした。しかし、王龍は起き上がり、回転して数百メートル先の山へと瞬時に避けては向かう。
「どうせならこの半島から逃げればよかったのによ」
リオラは落下の勢いを殺さずに、地面にズボッと右足を膝まで食い込め、同時に両腕を地面へバン! と叩いた。そのとき、両腕によって地面はピシィッ、と横一直線に罅が入る。
「うおおおおおおおおおおおあああああああああああああ」
左足を踏ん張り、地面に刺さった右足を上げようとする。
すると、両腕によって罅が入った地面の外側の陸地が持ち上がる。踏ん張っている左足の足場はベコッと重みによって地面が砕けていた。
「――ァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
腕によって斬り、裂け、割った半島を右足で持ち上げ、サマーソルトキックの動きで半島を内側のシェイダ地帯に乗せた。王龍を陸と陸でサンドする。
その結果として、緑一帯の大地は標高の高い岩山と化した。
近くの岩礁に降り立ったリオラは「疲れた」とため息混じりに呟く。
そのとき、サンドした大陸の一部の半島が噴火のように砕けた瞬間、その砕けた数多の岩がぐるぐると回転しながら浮き上がっていた。
おそらく磁力渦中による現象。シェイダの地質は鉄分が多く含まれているためにできた技だろうとリオラは判断する。
「若いくせして、無駄に偉そうだなアイツ」
その磁力渦中の中央には勿論の如く王龍がこの地を支配したかのように、威風堂々と君臨していた。
王龍は磁場によって浮いている岩を7割近くの数で飛ばす。まるで流星群のように飛んでくる鉄分の多い岩盤ミサイルは、シェイダ半島の臨海の岩礁――リオラのいる場所へと向かってくる。
戦艦からの一斉砲撃を彷彿とさせる光景。だが、リオラが振るった拳ひとつで、悉く粉砕された。宙を舞っていた防壁も崩れ落ちる。王龍もその衝撃圧に押され、びりびりと甲殻を伝導し、筋繊維にまで衝撃が伝わる。
王龍が一度瞬きをする。
目の前1m以内に災龍はいた。
その攻撃手順に、意味などない。
より速く。より重く。より多く。より強く。
そして、一撃一撃に殺気を込めて殴り続ける。ただ、それだけ。
その一方的な肉弾戦は数秒で終わらなかった。
10秒。王龍は抵抗しようにも衝撃と痛みにより反抗できず。
20秒。リオラは一切攻撃を緩めることなく拳をガドリングのように振り続ける。
30秒。王龍は一切声も出なくなる。瞳も虚空を見つめている。
40秒。リオラに過剰な疲れが出る。100発毎秒から30発毎秒単位になる。
50秒。王龍はもう為す術もなく勢いのままに殴られ続ける。
60秒。リオラは最後の一撃として空間破壊を、王龍の顔面に繰り出す。
王龍は爆音と共に頭が吹っ飛ばされたかと思うほど、勢いよく仰け反りかえる。
王龍は遂には体も仰け反りかえり、空高く吹っ飛び続けた。二十数秒後、空高くから墜ちてきた。
地に着陸したリオラは、最後にもう一発だけ空間破壊を繰り出そうと跳び上がったときだった。落ちてきた王龍の全身の噴出孔から黒いガスが噴き出され、それを吸ってしまう。
「――っ!?」
その瞬間、リオラは空中でもがきはじめ、滞空体勢が崩れる。王龍は跳んでくるリオラとすれ違ったときに、9の尻尾に棘層を逆立たせる。
――ピッ、と一閃に薙いだ尾は背景の山ごとリオラを斬り裂き、遥か彼方へ打ち飛ばした。




