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災華の縁 ~龍が人に恋をしたとき~  作者: エージ/多部 栄次
第二章 一節 一人の友
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3.召使の日常

《ウォーク》

 王宮がはっきりと見えるこの城下町「王都サンディーノ」は人口が多い、活気溢れた中心区。僕はその王都の第2大通りにいる。住宅街や店が左右に立ち並び、間の幅広い道にはたくさんの歩行者と馬車が足を進め、それぞれの目的地へと向かっていく。

 今日も日差しが強い。もう夏間近である。そろそろ衣替えしないと。

 自分で言うのもなんだが、僕は顔が広いと自覚している。この中心区「王都」の住民の殆どは僕の事を知っていることだろう。他の街でも結構知り合いが多い。そのため、色々な情報が得られるのだ。

 そして今日、王女が専属の教師に教わっている間、侍女長に許可を貰い、僕が王宮を出てきたのには理由がある。

 その理由はーー

「あら、ウォーク君じゃない。今日も買い出し? ……にしてはまだ早いわね」


 話しかけてきたのはここらじゃ有名な本屋の店主、アミ―おばさんだった。いつものように気軽に話しかけてくれるので、僕としても話しやすい。

「はい、ちょっと調べたいことや知り合いに聞きたいことがあるので」

「調べたいこと?」

 アミ―おばさんは首をかしげていた。情報の倉庫ともいえる本屋の店主でも、さすがに王女の召使が調べようとすることはわからないか、と思ったとき、店主は僕の知りたいことが分かったのか、しわを寄せ、ニッと笑った。


「大きく2つ。その2つの事を知りたいんでしょ。まぁ本屋に来るなら尚更ね」

「ま、まだなにも言ってませんが、わかっちゃったんですか」

「もちろん、わかっちゃった。ウォーク君は分かりやすいもの」

「そ、そうですか……」

 わかりやすいという理由で、相手のほしい本がなんなのかわかるのか。僕から見ればただの超能力者だ。


「まぁとりあえず、中に入りなさい。こんな入り口前に突っ立っていても暑いだけでしょう」

「はい、そうですね」

 僕はおばさんと共にその本屋「第1書店」に入ることにした。



 中は広く、古くも新しいその本屋は、幾千ものの販売用書物が至る所に並べてあった。木材でできたその空間は、ジャズ風の音楽が今にも流れてきそうな雰囲気を漂わせる。昼の2時の為か人は結構いた。僕はその空間の中、本を探しながらアミーおばさんと話す。


「まず、ウォーク君の知りたいことのひとつめは"龍"。それも伝説級の。そこまでしか解らないけど、あってるわよね?」

「はい、その通りです。黒龍神ミラネスとそれに関わる龍についてを少し……」

「へー、そんなことをね~。なんで黒龍なんか知らべようと思ったんだい」

「え、そ、それは……」

「まぁ、言えない理由なら聞かないけど」


 誤魔化す前に話を終えたので僕はほっとした。

 黒龍がここに来ることをまだ民間人に公表されていないんだよな。そろそろ公表されるとは聞いたけど、実際はいつになるのだろう。

 おばさんは龍についての本が並んである棚から、何冊かの本を取っては、ページをパラパラと見、探していた。探しながら僕の話に耳を傾ける。

「にしても、あんたが知らないこともあるんだねぇ~」

「いや、僕が知っていることはすべて街から聞いたことなので……」

「あ~、この本の内容は定番か。これもそうだし……」

 相変わらずアミーおばさんは人の話を最後まで聞かずに話し出す。話の切り上げがある意味、何気なく上手い。


「ごめんね~、黒龍とかについての本はだいたい見たけど、あんたの知ってそうなことばっかりだったわ~。龍についての新刊もここのところないし……他をあたってもらえないかしら」

「わかりました。ありがとうございます」

 おばさんは本をもとに戻したあと、違うところへと歩き始めた。僕はそれについていく。


「もうひとつあったわね。それもあんたが竜のことよりも欲しい情報だと思うわ。ウォーク君も大人になったのね~」

「あ、あの、そういうわけじゃ……」

 ある本棚の前に着き、おばさんが一冊の本を取り出し、僕に渡した。

「はい、これ。好きな子を純粋に虜にするにはこの本を読みなさい。恋愛を知らない人でもこれを読めばあっという間に恋愛マスターになれるわよ。恋のスタートからフィニッシュまできちんと書かれてあるわ」

「あ、ありがとうございます」

 率直な話、おばさんは人の心を読めるんじゃないかと思う。そう考えると結構怖かったりする。


「でも、まさかあのウォーク君が恋をするなんてね~。それもあの高嶺の華ともいえるサクラ王女様に」

 渡された本を落としかける。一瞬だけ固まってしまった。

「え? ど、どうして僕が王女の事を……」

 おばさんは得意げな顔で、

「やっぱりねぇ~。そもそも王女様の側近のあなたが、あのかわいらしい女の子に恋をしないわけないでしょう。ウォーク君がハンターだったときは、それはもう立派といえるほどの唐変木だったのに、見事に王女の魅力に惹かれちゃってねぇ~」

「は、はぁ……」

「だけど、毎日王女の傍にいて仲良くなっているんだから、別にこの本買う必要ないと思うんだけどねぇ」

「い、いやそれでもですね――」


「あのときは知らなかったと思うけど、あんた、巷ではけっこう女性の間で人気だったのよ。そして今もね。けっこう競争率高いのよウォーク君は。けど、あんたは全くその様子に気づかないし、鈍感にも程があったわねぇ」

「そ、そうだったんですか。知らなかったです」

「かつて名の知れたドラゴンハンターで、やさしくて面倒見がよくて、謙虚で尽くしてくれるし、性格もほぼ理想的、今は王族の下で働く超エリート、なにより童顔系のイケメン。そんな要素を持っていて狙わない女の子なんていないでしょう」

「ええと、みなさんいろいろと誤解していますけど……」

「そういうとこも魅力だと思われてんの」

「もう何も言えない……」

「周り見てみなさい。ウォーク君のこと見てる女性が何人かいるわよ」

 僕は周りを見渡す。すると、同じ年くらいの3人の若い女性がここから数メートル離れたところに集まっていて、ひそひそと何かを話しながら僕の方をちらちらと見る。目が合うと顔を赤くし、とたとたとその場を去っていった。


「あの、なんか避けられている気がするんですが」

「あら、そこはまだ鈍感なのね。あの3人の内、2人は数か月前からウォーク君のことを想っている人、もう一人は今日初めてウォーク君を見て、恋に落ちた人ね」

「なんでそんなに分かるんですか」

「キャリアが長いのよ。相手の目や動きを見ると、相手の思っていることや望んでいることがわかるのよ」

 もう超能力だ。ただのおばさんじゃない。

「す、すごいですね」

「煽てだって何も出てこないわよ」

「ははは、そういうわけではないですよ」

 談笑をした後、その一冊の本を買った。


 この本を読んでその通りにすれば彼女は少しでも気を惹いてくれるかな。でも内容通りにやれる勇気が、僕にはあるのだろうか。そもそも彼女は恋愛対象として僕といられるようになることを望んでいるのだろうか。今のままがいいのでは、と思ったりもする。

「それでは、また今度買いにきます」

 アミーおばさんにそう言い、受付から離れたとき、聞き覚えのある声が僕を呼んでいた。


「ウォーク? ウォークじゃねえか!」

 声の聞こえる方へ振り返ると、赤い髪をした20代後半あたりの男性。知った顔だった。

「おっ、アーカイド。久しぶりだな。竜材の売り上げは順調か?」

 僕がそう聞くと、アーカイドは「にっひひ」と歯を見せて笑う。


「まぁな。あのあと、俺は有言実行してばっちり繁盛させたぜ! これで少し贅沢な生活が送れる。セトの治療費も払えるしな」

「セトの容態はどうなんだ?」

「意識は戻った。けど、まだ対面はできないそうだ。危篤状態に変わりはないし」

「そうか……。ところで、アーカイドは何の本を買ったんだ?」

 僕は彼の右手に提げている紙袋に指をさした。

「『月刊ハンティング』と、新刊『武器製錬』12号と、『百科調合書』の第7巻だ」

「結構買ってるね」

「まぁな。ウォークはなにを買ったんだ?」

「えっいや、これは人見知り脱却32のツボっていう……」

「なるほど、サルでもわかる恋愛法とか気になる子を落とす方法みたいな内容のやつか」

「ぁ……」

 アミーおばさんといい、アーカイドといい、なんで僕の心を読めるんだ!

「はい、図星☆」

 ビシッと両方の人差し指を僕に指し、ニッと爽やかに笑う。

「い、いいだろ別に! 人の買った本に文句つけるなよ」

「オレまだなんにもいってないけど。つうかお前の嘘のクオリティが相変わらずすぎて笑っちまう」

 そう言い、思い出したのか、再び吹き出す。おまえの礼儀の無さも相変わらずだけどな。

「あ、そうだ。せっかく会ったんだし、近くの酒場で軽い世間話でもしとくか?」

「いやそう笑顔で言われても僕はまだ未成年だし、時間も限られているから……」

「いいからいこうぜ! ついでにお前に話したいこともあるしな」

「話したいこと?」

「とにかく来い」

 少しだけ目の色が変わる。わずかに感じ取れた真剣さ。

 なにかあるのか?

 僕は彼についていき、飲めもしないのに酒屋へと向かった。


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