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妖美なるこの世界  作者: 桂馬
イタリアへようこそ
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行間・悪魔祓い


「『ガ嗚呼ああああああああああああああああああああああああ!!』」


 人間の声帯を無視したような叫び声が、静謐だった教会内に鳴り響く。椅子に括り付けられた少年の口からは、彼本来のものと、この世のものではないものの絶叫が響いていた。蝋燭の火が激しく動いているのはその音響によるものだろう。

 他の三人は苦しそうにもがく彼を真剣な眼差しで見ていた。

 茶色いキャスケットを被った少女は祈るように手を束ね、金髪ツインテールの女はただただその行方を見守る。

 悪魔に憑かれた少年の一番身近にいる神父は、呪文を唱え、暴れ狂う少年の身体を必死に十字架で押さえ込もうとする。

 ガタガタと椅子の足を動かしながら、恐らくは降りかかっている痛みにもがいているのだろう。

 ビキビキと身体には青筋が浮かび上がり、白目を剝き、未だに天に向かって咆哮を続ける悪魔に取り憑かれた少年。

 その暴れっぷりに椅子ごと倒れ、何重にも固定した縄が解けそうになった所で、ようやく大人しくなる。

 横たわる少年。口からは涎が垂れ、焦点の戻った目は本来のものとは程遠く、殺気に満ちた鋭いものだった。

「その身体はお前のものではない。大人しく出て行くんだ」

 見下す格好の神父はそう警告する。それに対して、身体全体で息を荒げ、歯をむき出しにする少年の口を通して返答があった。

「『ふざけ.:@mるな』」

 彼が知りえないはずのイタリア語。それは悪魔の意思で放たれている事を意味する。

「『この身体は俺の/:;.kものだ。俺はここにyf8いる。もうどこにも@oplいかない;pぞ!!』」

 まるで悪あがきをしているチンピラのよう。吠える悪魔。警告を素直に受け入れないことなど、神父にも分かっている。

「出て行くんだ!」

 今度は語気強めにそう言った。手にしていた十字架で再び少年の身体を押さえ込み、説得を続ける神父。

 説得というよりは、世の中の摂理はこうだからとか、かの有名な聖母の名前を引き合いに出した呪文じみたものを唱えるなどといった、どちらかといえば恫喝。

 昨夜悪魔の正体を知り色々と準備を進めていた神父の悪魔祓いは完璧といって良かった。なんの手立ても用意できなかった悪魔としては、分が悪い。

 それから数十分の格闘を経ると、すでに勝負は決していた。

 最早暴れる体力もないようで。悪魔が要求を呑むのも時間の問題だった。

「『……わ、分かp;ogった』」

 今まさに何かしらの力が加えられているのか。その声は苦しそうだった。

「『出ていく。出て行くから……覚えておけ@aushよクソ神父。身体を手に入れてe;w次に会った時は殺す』」

 地に頬を付けながらも苦し紛れにそう言うと、神父を睨み、不適に笑う。

 これが悪魔。

 例え恫喝されようと叩き伏せられようと、反省する気など毛頭ない。

 もちろん神父はそんなものに物怖じする様子もなく、

「立ち去れ悪魔め!」

 これまでで一番の声を張り上げ十字架に力を込めると、少年の身体に更なる異変が起こる。昇天した様に白目を剝き口を大きく開け、上体を仰け反らせようとする。

 そして嗚咽するようなしぐさをいくらか見せた後。

 少年の身体が、虚脱する。

 目を瞑り眠ったかのようにぐったりとし、ぴくりとも動かない。身体中は汗だらけで、先ほど暴れまわった代償か頬や腕には掠り傷があった。

 それでも息はしているのは分かった。つまりは生きている。

「なんとか成功したよ」

 こちらも奮闘したようで、少年ほどではないが神父も汗をかいていた。額を流れたそれを手で拭う。

 教会内は再び静謐に包まれていた。狭い部屋を照らす一本の蝋燭だけがゆらゆら揺れる。今の一連を見守っていた二人も、ふぅ、と安堵の息を漏らす。

 悪魔に取り憑かれ、はるか彼方からイタリアにやってきた少年。なにせ無鉄砲だった今回の計画。期間は一週間は掛かると踏んでいたが、案外そんな事は無かったようだ。

 滞在二日目。

 悪魔祓いは首尾よくいき、空野龍樹の中にいた悪魔は彼の身体から立ち去った。



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