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妖美なるこの世界  作者: 桂馬
イタリアへようこそ
97/261

それぞれの事情

午後七時。ようやく日が落ち始め、夜の気配がやってくる。

そんな時間になっても、ミシェルは帰って来なかった。

椅子に登り、窓際から灯りで照らされる玄関口を眺めるミレーナ。

不満が全面に表れている。頬杖をつき目を細める彼女は、いかに五歳児といえど声を掛け辛い。

 その足元には例の大きな犬がいた。伏せの状態で目を瞑る様は、まるでミレーナの気が済むまで傍で待っているようだ。

「本当に好きなんだな、ミシェルさんの事」

 母親の帰りを待つ小さな背を見ながら、龍樹はぽつりと呟く。

 彼たちはリビングの食卓を囲み座っている。そこから五メートル離れた場所に、ミレーナはいる訳だ。 

 ふと記憶を辿ってみる龍樹。

 自分が五歳の頃はあんなだっただろうか?

 ……思い出せない。

 まあでも基本的に母はずっと家にいたし、そもそも男と女ではまた違うので、比べようがないと言えば比べようがない。

「すごく心配性なんだよ」

 ミレーナに向けていた視線を、その声に移す。

 そこには資料と格闘しているダニエルの姿があった。机の上に広げているプリントを精査しながら、何かを話す。

「そうは見えないだろうけど、ミシェルのやつ、実は身体が弱いんだ。生まれつき心臓が悪くてね。それで何度か病院に運ばれた事もある。ミレーナもそれを幾度か見ている。だから、心配なんだろうね」

「……なるほど」

 言葉の分からない龍樹たちを置いてけぼりに、なにやら進む会話。ぼーっとする事しか出来ない彼らに構わず、話は進む。

「そりゃ大変だよ。最近は仕事も落ち着いて発作なんかも少ないけど、昔は半年に一回は病院に運ばれた時期もあった。何分がんばりすぎる性格だからね、彼女は。前やってた仕事が軌道に乗るかならないかで毎日忙しかったのに、家事や子育てで手を抜く事はなかった。本当は僕がもっとサポートしてあげれば良かったんだけど、何分安月給だから、それも中々難しくて」

 言っている最中も、ずっとプリント片手に、資料らしきものを漁るダニエル。

 今の話を聞いて思う。恐らくこの男は仕事が好きなのではなく、家族に楽な生活をさせたいが為に必死に働いているのだろう。

「なあなんて言ってるんだよ」

 痺れを切らしたように、龍樹がアテナに問う。彼女が訳さない以上別に聞く必要なんてものはない事なのかもしれなかったが、それでもやはり気にはなってしまう。

 かくして、アテナはその内容を話してくれた。もちろんダニエルの言葉まるごとではなく、ある程度簡素にまとめた上で。

「そうなんだ。あの人身体弱いのか」

 全然そうは見えないけどな、と思う龍樹。

 でも言われてみれば、確かに性格は明るいけど、露出の多い服装から窺えた身体つきは白くて華奢だ。

 少なくとも頑丈ではないだろう。

「それにしても遅いな、ミシェルの奴」

 家の中にある鳩時計を見て、ダニエルが呟く。時刻はもうすぐ七時五分に差し掛かろうとしている。彼女と別れてから四時間近くが経とうとしていた。

「大学に行くって言っていたんだよね。おかしいなあ。いつもなら電話の一本くらいして来るはずなのに」

 怪訝な顔をするダニエル。プリントからも目を逸らし、そわそわし始める。それでもなんとか気にしまいとしているのか、またプリントを見始めた。だがやはり気になるらしく、机を指でとんとん叩き始め、無意味に傍らに置いてあった携帯の画面を見て、着信が無いか、電話を掛けようか悩んでいるようだった。

 妻が八時に帰ってこないぐらいで結構な大人がそわそわするという姿は、なんだか可愛らしい。

「あ、帰ってきた!」

 これまでに見せた事のない喜びようで、ミレーナが声を張り上げる。椅子を飛び降りると、急いで玄関口へと掛けていった。

 ドタドタという足音が鳴り響く中、

「やれやれ、女王様のご帰還だ」

 ほっとしたようなため息交じり、ダニエルは呟いた。心配したくせにこのいい様。素直じゃないのは、万国共通らしい。

 机の上に広げていた資料を片し始めるダニエル。

 家の中に仕事は持ち込んではいけないと夫婦間で取り決めているので、ミシェルに見つかるとやいやい言われるらしい。

「おーっす、ただいまあ」

 その足に縋り付くミレーナの頭を撫でながら、これまで同様明るい表情で現れたミシェル。

 手にはなにやら紙袋が携えられている。

「遅かったんだね。食事の用意は出来ているよ」

 席を立ち、台所に向かうダニエル。

「ああ、悪いね。おわびにケーキを買ってきたから許してくれ」

 言うとミシェルは机の上に紙袋を置いた。

「ミレーナの好きなお店のケーキだぞ。ご飯終わったら一緒に食べよう」

 本来なら喜ぶべき言葉。

 しかし、それを聞き複雑な表情をするミレーナ。

「……これ買ってたから遅くなったの?」

 そう思い、ややむくれる。しかしそこは子供。中身が気になるらしく、また椅子に乗って紙袋の中を確認する様は、なんというか、やはり万国共通らしい。

「もちろん皆の分もあるから、後で食べてくれ。うまいんだぞこの店のケーキは」

 アテナたちを見て、そう言ったミシェル。

 それをこれまで同様訳してもらった龍樹達。

「どうもです」

 正直甘いものはあまり好きでもないが、なによりも気持ちが嬉しい。それに本場のケーキともなると期待してしまう部分もある。

 イタリアがケーキの本場なのかどうかは知らないけど。

「はいはい。もー駄目ですよミレーナちゃん。ケーキはご飯を食べてから」

 などと、一丁前にお姉さん面する雀。

 だが彼女も彼女で、それとなくミレーナに話しかけるふりをして近づき、紙袋の中を探ろうとしている。

 なるほど、確かに感性が似ているなと龍樹は思った。

 そうこうしているうちに。

 ダニエルが机の上に夕飯の献立を並べていく。前菜にサラミの盛り合わせ。魚介をふんだんにあしらったサラダにほうれん草のリゾット。そして真ん中に堂々と鎮座したのはやはりパスタだった。

 昨日同様割かし重めの食事。そしてあまり変わっていないメニュー。

 だがもちろん龍樹たちに愚痴を言う資格なんてない。

 これがイタリアの食事スタイルなのだろうし、ましてや味は良好だから嫌いじゃない。

 食事を並べていくダニエルを見て、皆が席に着こうと動き出す。場所はすでに決まっている。自然と皆が昨日いた席へと歩を進める。

「ああ、そうだアテナ」

 ふと、ミシェルが何かを言った。

 それに振り向く龍樹たち。

「何かしら?」

 イタリア語の言葉に、イタリア語で返答するアテナ。当然ながら龍樹にはなんのこっちゃ分からない。

「ちょっと相談があるんだが……後でいいか?」

「……」

 ミシェルが何を言ったのかは、やはり龍樹には分からない。しかし何となくあまりいい話ではなそうなのは声音で分かった。

 それに、なぜかは分からないが、アテナがこちらを向いてきて目が合った。

 その時に『あ、こいつは何かを悟ったんだな』と龍樹は漠然と感じた。

 えてして、ミシェルからの何かしらの問いかけにアテナは、

「分かったわ」

 これまた分からないイタリア語で、返事らしきものをした。


  

「ふぅー食った食った」

「あ~もう動けないげぷっ」

「……汚ねえなあ」

 隣で寝転がり、げっぷした雀を怪訝な表情で見る龍樹。毎度のことながらこいつの食欲には驚かされる。

 今日もバイキング並みのあの量を半分近くは食べたのではないだろうか。

 この小さな身体のどこに入るのやら、本当に不思議だ

 夕食を食べ終え、自室となっている物置部屋に帰ってきた龍樹と雀。

 そこにアテナの姿はない。彼女はミシェルと二人で何やら話があるらしく、今はバルコニーにでもいるのだろう。

 時刻は午後十時。昨日同様神父に悪魔祓いを執り行ってもらう為には、そろそろ出なければいけないのだが……

 アテナがいない事には始まらない。

 別に彼女がいなくても悪魔祓いとやらは出来るのだろうが、心もとないというかなんというか――そう、通訳。

  通訳係りがいないと、神父とのコミュニケーションが取れない。

  決して彼女におんぶに抱っこしようとか、そういう訳はないのだ。

  気持ち的にはだけど。

「にしても、なんの話してるんだろうな、あの二人」

 気になる龍樹。あの開けっぴろげなさそうなミシェルさんがわざわざ二人きりになってする話。

 イタリア語の分からない自分たちは例外として、少なくとも家族にすら聞かれたくない秘密の話。

 そもそもなぜアテナなのだろうか。

 彼女も他人といえば他人なのに。

「なあ雀。お前はなんだと思う」

 まあ無駄だろうとは感じつつも、一応は意見を求める龍樹。腹を膨らませて寝転がる格好からは想像つかないが、こいつも一応は裏の住人。

 褐色の男やハイジャックの件しかり、中々に鋭いところもある。

「私の考えですか?」

 腹を押さえ仰向けになったまま、言葉を発する雀。

 二秒くらいの考える間を空けて、

「う~ん何でしょうね。あのミシェルさんが人に聞かれたくない話でしょ。やっぱり生理的な事なんじゃないんですか。大人になってもおねしょがやめられないとか」

「そりゃお前だろ」

「む、失敬な。流石の私でもおねしょなんて十歳のときに卒業してますよ」

 相変わらず寝転がったままの状態で、怒ったのか睨み付けてくる雀。いや十歳でおねしょも相当恥ずかしいと思うのだが……まあこの女は色々と羞恥ポイントがずれている傾向があるからと龍樹も適当に捉える。

「となると裏世界に関する何かか? いや、でもその場合ダニエルさんとかどうなるんだ。あの人も一応は裏の事も知ってるだろうし……」

 それに裏世界の事なら、雀に秘密にする意味もあまりないように思える。

 なんか前に聞いた話だと所属する団体が違うのどうのこうの言っていたが、それならそもそも本当に二人だけの時にしかコンタクトは取らないだろう。

 だとすれば一体。

(……駄目だ)

 何分出来の悪い脳みそ。思考がこんがらがり、最早修復不可能。それに他人の秘密に興味を持つのはあまりよくない。

 ましてや自分たちは今、存分にお世話になっているのだから。

「あ、分かった!」

 とここで。

 なにか重大な事に気づいたらしく、雀は勢いよく上体を起こした。それに龍樹も動揺する。

「な、何だよ。一体何が分かったんだよ」

「二人になった理由ですよ。理由」

「……本当かよ」

 世紀の大発見のような興奮気味で雀はそう言った。

 今しがたよくないと律した龍樹だったが、こうなってくると話が変わってくる。

 それに分かる。

 雀のこの眼は、鋭いverの時の眼だ。

 きっと彼女は導き出したのだろう。

 他人の秘密という、禁断の真実を。

 かくして、雀の口からその見解が解き放たれる。

「きっとあの二人、私たちに隠れてあのケーキをもう一個ずつ食べてるんですよ」

「……」 

 怒った表情で、拳をわなわなさせる雀。

 いや、はっきり言って予想はしていた事だ。

 結局この女の頭の中には、遊ぶ事と食べる事しかないのだ。

「行きましょう龍樹さん」

「……どこにだよ」

 決意を固めた勇者のように立ち上がった雀をうんざりとした表情で見上げる龍樹。一方の雀は真剣な表情で言う。

「どこにだよって、二人の場所に決まっているじゃないですか。許せるんですか? あんなにおいしいケーキを皆に黙って二人締めしてるんですよ」

「許せるもなにもないよ。別にいいじゃん。絶対に違うと思うけど、仮にそうだとして、元々あれはミシェルさんが買ってきてくれたものなんだし。そもそも俺達は居候の身だ。あれこれ意見を述べれる立場じゃないよ」

「そんな……龍樹さんはあのホイップと断層のハーモニーが恋しくないんですか」

 力説する雀。説明せずとも分かっているとは思うが、今しがた雀が言ったのはさっき食べたケーキの感想だ。

 ミシェルが買ってきたそのケーキは確かにうまかった。

 それこそこれまで食べてきたケーキで一、二位を争う程のものだ。

 食いしん坊雀のこの熱気は、その味が忘れられないところから来るものだろう。

 だがそれはそれこれはこれだ。

 その後も面倒くさいし柄でもない人道のなんたるを説く龍樹。説かれる事はあっても説く事は無いと思っていたが、上には上がいるものだ。

 訴え実ってか。

 雀の理不尽な怒りは、沈静化された。

 しゅん、とする雀。唇を突き出し俯くその姿は先ほどむくれていたミレーナを髣髴とさせる。

 まじで姉妹なんじゃねーか、と龍樹も冗談で思う。

「……分かりました」

 やがてそう言った雀。

 己の意見を真っ向から否定されてなんだか可愛そうだが、彼女だってもういい年だ。こうやって誠心誠意込めて接すれば、きっと理解だってしてくれるはず。

「じゃケーキを買ってきてくれたミシェルさんは許しますけど、アテナさんは許しません」

「いや、だからお前分かってないって」

 呆れ果てる龍樹。もうこいつには何を言っても無駄な気がしてきた。きっとこれは自分が口下手とかそういうのは一切合財関係なく、雀を言い包めるのはそれこそ一流の詐欺師でも不可能だ。

 とまあ、そんな具合に、雀と面白おかしく(?)話を進めていると、

 アテナがやってきた。

「おまたせ」

 無表情でそういう彼女はすでに、今晩も冷え込む気温に対策ばっちりの服装を羽織っていた。

 相変わらず下はミニスカートだが。

「なんの話してたんだよ」

 率直な疑問を口にする龍樹。

 しかし思ったとおりアテナは「ちょっとね」と言葉を濁すのみだった。

 そしてことそれに関しては追求させないといった具合に、動き始める。

「さあ行きましょうか。今日も相当冷え込んでるみたいだし、待たせちゃ悪いわ」

 言うとアテナはそそくさと外へと向かう。

 イタリアに来て頼りっぱなしの龍樹としては、彼女にそういう態度を取られては何も言えない。

「またお得意の秘密ですか」

 ため息交じりそう漏らし、肩を竦める龍樹。

 誰に言った訳でもない単なる愚痴。

 はっきりいって元が事なかれ主義なので、ミシェルの密事だってそこまでは気にならない。これは別にミシェルの事が嫌いだとか興味がないといった類のものではなく、所詮それを知ったところで、そりゃ確かに恩返しが出来るような内容ならいいだろうが、わざわざ他人に聞かれないような場所で話すという事は、少なくとも簡単に手助け出来るような事柄ではないだろう。

 憂慮も義理もない話だし、何よりもミシェルには悪いがそこまで恩返しというものに固執している自分ではない。

 ではなぜこんなにやきもきしているのかと、龍樹は考える。

 以前の自分だったのなら間違いなくこんな気持ちにはならなかっただろう。所詮は他人事で片付けられていただろう。

 なのに。

 なぜ。

「……」

 おおよその見当ならついている。

 アテナだ。

 あの無口で謎過ぎる女の素性とやらを、今自分は欲してしまっているのだろう。

 なぜかなんて分からない。だってこんな体験は初めてだもの。

 初めは父親の事を知りたい一環だったはずなのに、今となっては――

「変な俺」

「え? なんですか」

「あ、いや、ごめん」

 よく分からない感情に思わず声を漏らす龍樹。

 当然ながら傍にいた雀も不審そうな顔をした。後数秒もすれば『なにか言いましたか』とでも言ってきそうな顔をしている。

 まあ単細胞な雀の事だ。何もないといえばそれで納得はするだろうから問題はないだろうが、

「さ、俺たちも早く行こうぜ」 

 念には念を。

 皮肉にもアテナが使った手を使うと、龍樹たちも寒空へと身を投じる。


 

 どうやら今年のイタリア半島は近年まれにみる寒気に見舞われているようで。

 外はまだ四月中旬だというのに気温も五度を下回り、とても春とは思えない寒さだ。

 午後十一時。

 昨夜同様、いや昨夜以上に着込んだ龍樹達は教会に到着した。

 あらかたの自己紹介は昨日済ませたという事もあり、到着するや否や例の部屋へと招かれ、椅子に座らされる、

 昨夜とちょっと違うのは、手足を椅子に紐で縛られているという点だ。しかも本格的な縄なので所々ささくれて肌が痛い。

「おい、なんなんだよこの縄は」

 本来なら縛られる前にいうべきだったのだろうが、除霊に関しては全くの素人なので基本的には身を委ねていた龍樹。

 だがこれには流石に不審感を隠し切れない。

 まるで拷問にかけられるみたいではないか。

 対して、その言葉を聞いたアテナ達はというと、

「どう? 今日で終わりそうかしら」

「ああ、多少は身体に疲れが残っているようだが、精神的には随分と安定している。中々興味深い。悪魔に憑かれたともなれば普通なら不安を覚え、精神的に不安定になるというのに」

「両親が聖職者みたいだしね。その辺の耐性は培ってるみたい」

「そうか。まあこちらとしては好都合」

 ペラペラと、何やら古びた書籍を捲り始める神父。どうやら準備を始めたらしい。その後ろでは以前の失敗を踏まえ馬鹿みたいに厚着をしている雀がいて、アテナはアテナで冷たい目でこちらを見守っている。

 いよいよ除霊二日目が、始まる。

「いやいや待て。俺の疑問はどうなってるんだよ」

「……何よ」

 どことなく面倒くさそうに反応を示すアテナ。という事は、さっきの疑問は聞こえた上で無視したのだろう。

 何てやつだ。そりゃ確かに色々と恩には着るけれど、それと同じぐらい不満もある。

 秘密秘密と、これだけ言われれば。

「何よ、じゃねーよ。どう転んでも悪い予感しかしない。なんでいちいち縛る必要があるんだよ」

「縛る必要があるからよ。大丈夫。だから安心して」

「いや、だから答えになっていないって」

「言ったって無駄よ。どうせあなたは気絶するんだから」

「なおさら聞かせろよ!」

 気絶するだなんて事を聞かされて、はいそうですと納得できる訳がない。思えば昨日の気絶の件もよく分かっていないし。 

「後で説明してあげるわよ」

 まるで子供を宥めるように、アテナはそう言った。

「本当か。絶対だぞ」

そしてこれまた子供のように納得する龍樹。いや、もちろん納得はしていない。どうせここでうだうだ言ったって何も変わらないということは理解しているので、とりあえずは良しとせねば。

 妥協した、という訳だ。

「それじゃあ始めよう」

 重々しい口調で神父がそう言うと、昨日同様十字架を龍樹の額へと当てた。

 悪魔が嫌うのかどうかは知らないが、銀で出来たそれはひんやりと冷たく、そしてなんだか重い。

 段々と重さは増していって――

 ここも昨夜同様。

 龍樹の意識は、ここで途絶えた。


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