表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妖美なるこの世界  作者: 桂馬
離別する思惑
44/261

約束の時間三十分前。


龍樹宅の庭園で、アテナは苦戦を強いられていた。


鷹を使い遠距離から敵を攻撃するスタイルは、予想以上に鬱陶しいものだった。

とにかく速い。

一般的な鷹の飛行速度は百三十キロだといわれている。初動によるタイムラグは仕方がないにしろ、それでも一瞬で最高速近くの滑空を繰り出せるそれは、最早一般人では眼で追うのがやっとだろう。

現に、アテナもぎりぎりで回避するのが精一杯らしかった。

「――、」

 身を屈めた。その頭上をコンマの秒数で爪を立てた鷹が通り抜けた。

 そして旋回するように――また向かってくる。 

 それだけのスピードだと、流石のアテナも的を絞れないらしく、能力である風を集める間もない。

 すると彼女は攻撃法を変える。

 その司令塔を叩く。

 再度、鷹の高速波状攻撃を避けたアテナは、風を利用したその爆発的な脚力で敵の男へと向かった。

 だが敵も、それを予想しない訳がない。

 懐から刃渡り六センチほどのダガーを引き抜いた。

 そして瞬時に迫ったアテナを迎え撃つ。

 まずは一突き。相当扱いなれているらしく、素早い手付きのそれはアテナの進撃を食い止めた。

 アテナは後方に一旦距離を取る――と見せかけて。

 ダン! と力強く地を踏んだかと思うと、進撃を再開する。

 茶髪の男の面がわずかに歪んだ。

 咄嗟に、刺し出したばかりのダガーをそのまま振るうことに成功した。

 それをアテナは薙ぎ払う。

 自分に突きつけられた鋭利な刃物を、前進しながら約二七〇度回転し裏拳を叩き込む要領で弾く。

 横からの強い衝撃に、ダガーを握る手が思わず開いた。

 茶髪の男のわずかな驚きを示す顔は、未練がましく飛んでいくダガーを眼で追っていた。

変化ビアンヘウア」 

 しかし、この程度の事では驚かない。

 弾かれ飛んでいくダガーが――一瞬にしてあの鷹に変形した。

 なんとなく、柄の部分も羽根のようなものが尾を引いていた。尖端も一般のダガーとは違い、どこか丸みを帯びた鷹の嘴にも見えた。

 それの正体が鷹だった。

 恐らく、アテナもこれは知らなかったのだろう。

 見開かれた蒼色の双眸が、今まさに迫り来る脅威を映し出す。

 ダガーから変形した鷹は、すぐさまに方向をアテナへと修正した。

 シュバッ、という、鈍い音がした。

 茶髪の男の頬に、血が飛んできた。それはとても綺麗で、透明度は人間のものとは思えないほどのものだった。

 それを指でなぞった。そして眼で確認した後、その鋭い視線を血の持ち主へと向ける。

「……やはりお前は愚か者だ」

 茶髪の男から距離を取り、前方七メートルほどの場所で膝をつくアテナ。咄嗟に挟んだ腕には血の出所となっている裂傷があった。

 茶髪の男は見下したような視線を当てながら、 

「大方、ダガーを接近に用いられた場合の近接武器だと思っていたのだろう。……甘いな。ダガーは元々切り刻む物ではなく両手を添えて突き刺したり投擲したりするものだ。私が最初に構えた時点でその異変に気付くべきだったな」

 そこで、茶髪の男の双肩に二羽の鷹が降り立った。どちらも体長は約六十センチなので、中々の重量感を誇ると思われるが、茶髪の男は特に気にしていないようだった。

 無表情で、そんな光景を見るアテナ。腕の出血も結構な量だが、彼女もさほど気にしていない様子だった。

「……あなた達の目的は一体なんなの?」

 恐らくまともに取り合われないのはアテナも承知だったのだろうが、それに対してやはり茶髪の男はさぁなと言葉を濁した。

「今はあの娘を回収するという事意外に私は答えられぬし答える必要もない」

「……あの女と同じような事を言うのね」

「あの女? ああ、ローズの事か。そろそろ捕らえていれば良いんだが……世の中はそんなに甘くないからな。絶対的な力があろうとその根底が引っくり返される事など、昨今の歴史上ままある事だ。ましてや、私はそれを肯定せねばやっていけぬのだがな」

「……どういう意味かしら?」

「気にするな、私的なものだ」

 眉を寄せるアテナなど全く気に留めない様子で、茶髪の男は話の脈略を戻す。

「問題はないと思うが、この眼で確認するまでどうも安心できん。故に、私は一刻も早く向かいたい、彼等の元へ」

「……そう、ごめんなさい。それはできないわ」

「だろうな。だからこうなっている」

 無粋な会話もこのぐらいで切り上げ、茶髪の男は鷹に命令を送るためか腕を広げようとした。

 それを瞬時に視覚したであろうアテナは、させまいと一気に接近する。

 お決まりのように腰を落し、ドン! と数メートルの距離をものの数秒で縮める。

 顔面へのフック。茶髪の男はそれをなんの事無くかわす。動いた事により飛翔した鷹二羽の羽根が、辺り一帯に撒き散らされた。

 攻防は続く。

 さながら大振りにより体勢を崩して――いるように見えるが、そこから繰り出される予想だにしない攻撃を見ればわかるように、アテナは柔軟な身体を利用し、相手に的を絞らせない、往来の格闘の枠にとらわれないアンチェイン的な攻撃を得意とする。

 さしもの茶髪の男も、防御に徹するしかできないようだ。

 体勢を崩したかと思うとそれが攻撃だったり、右からくると思ったら左からだったり、下がったかと思うと向ってきたり、非常に攻撃が読みにくい。下手に攻撃を繰り出せばそれこそカウンターをもらってしまう。

 まるで鞭と対峙しているような、そんな妙な感覚に陥っている事だろう。

 肉弾戦では、明らかにアテナが圧している。

 ガードしているとはいえ、茶髪の男にもダメージは蓄積しているはず。

 しかしそれだけではアテナに勝算はないだろう。

 その差し支えになるものは二羽の鷹。

 後方左右からの爪を立てた飛来攻撃。その予想到達速度は百キロ。

 順調だったアテナは攻撃を止めざるを得なかった。

 スウェーし、しゃがみ、間一髪でその攻撃をやりこなす。

 透き通ったツインテールの片割れが少し持っていかれたが、その攻撃はアテナ自体に傷を負わせることは無かった。

 都合が、自分のリズムを崩されたアテナは一端距離を取った。

 もちろん、落ち着く間を取り繕うためだろう。

 それは敵にだって分かっている。

 なので、そう簡単にその腹積もりは実行させない。

 距離を取ったばかりのアテナには既に、二羽の鷹が向かっていた。鉤爪を立て、主人に刃向かう女を容赦なく攻撃する。 

 わずかに歯噛みしたアテナは、避けていては埒が明かないと思ったのか、迫り来る鷹達に拳を握る。

 後方に下がる。しかし速度においては鷹達のほうが圧倒的に早い。

 すぐに追いつかれた。

 至った鷹達は先程と打って変わり、特攻するのではなく、アテナの頭上に位置取りつつくように攻撃する。

 頭上からの攻撃をなんとか腕をかませ防御し、アテナは鬱陶しい鳥を薙ぎ払うように腕を振るう。

 鷹達は危険を感じたのか距離を取った。

 いや、それは違ったのかもしれない。

 遠のいた鷹達を見上げていたアテナは前方へと視点を戻した。

 視界に広がる光景に、アテナは焦りを覚えたはず。

 目前にはいつのまにか茶髪の男が迫っていた。

 上方から完全に意識を持ってこられていないらしく、わずかながら彼女の反応が遅れた。

 ズム、と鈍い音がした。

 茶髪の男が前方に突き出す感じの蹴りを放った。それを受けたアテナはわずかに後方に追いやられる。

 だが、そこは流石のアテナ。すぐさまに構えなおした。

 そして茶髪の男の追撃の殴打を、攻撃の初動を展開しながらかわし、放とうとする。

 それを、鷹が寸断する。

 今度は横から。二羽いる内の一羽が鋭く切り込む。

 寸での所で前進を止め、また腕を引っ掻かれたものの直撃は免れるアテナ。

 痛みか苛立ちか、端正な顔を歪ませる。

 そんな回避の為に身を退けた女を、敵は見逃しなどしない。

 茶髪の男はアテナに急接近した。

「女とて」

 焦ったであろうアテナは拳を繰り出した。茶髪の男は読んでいたのか体勢を低くしてそれをやり過ごし、懐に潜り込んで、

「容赦はせぬぞ」

 その腹に容赦なく拳をめり込ませた。

「――ぐぅ、」

 思わず漏れた呻き。

 先程よりも感触が良かったのが、音からも窺える。

 痛がりたいだろうがそれよりもまず追撃を免れる必要がある。

 アテナはその場から退却を図る。

 といっても、脳に酸素が行き渡っていないのか、動きはやはり鈍っていた。

 本人にとっては精一杯距離を取った感覚なのかもしれないが、その距離は三メートルも無かった。

 茶髪の男は一歩を踏み出す。

 特にこれといって大仰なものではない。強いていうなら足を存分に前に出しただけの話。

 それだけで充分縮められる。

 女に最後の追撃を加えるための距離を。 

「終わりだ」

 手にはいつの間にかダガーが携えられていた。三本目ではなく、二羽いる内の一羽が擬似かしたもの。

 今度のは片手ではなく両手。

 つまり、ダガーで殺人能力を最大限まで引き出せる構え。

 そのまま腹を突き刺し、添えた手を回すように押しやれば内蔵は完全に破壊される。

 それが意味するのは『死』。

 裏世界では常に隣にあるもの。

 アテナも覚悟はしている――しているのだが、易々とくれてやる気は毛頭ない。

 抗う。

 全身全霊で。

 己に向かってくる刃――正確にはそれを握っている手に不安定ながらも跳び膝蹴りをかまし、軌道を逸らす。

 これには流石の茶髪の男も驚いた様子だった。

 だが、それも寸分の事。

 すぐに次へと転じる。

 ぎろり、と鋭さを一層増した眼が、アテナを捉える。

 アテナはいまだ宙を浮遊している状態。そんな彼女に、茶髪の男は空手家顔負けの上段蹴りを炸裂させた。なんとか腕を挟んだものの、まるで人形のような軽さでアテナは飛んでいった。

 飛んだ距離は五メートルにも及ぶ。その最中に身を捻り体勢を立て直そうとしているところを見ると、もしかしたらアテナはわざと間合いを取る目的で攻撃を受けたのかもしれない。

 とにかく、背から転ぶなどという無様な事をすることなく、アテナは着地した。

 茶髪の男はアテナをねめつけながら、

「大したものだ」

 称賛した。

 そしてすぐに動く。動こうとする。

 ダガーを構えなおし、敵である女へと、確実に追い込んでいるはずの女へと畳み掛ける為に距離を縮める。

 しかし、茶髪の男はなにかに気づく。

 目を見開き、そちら側へと眼の焦点を動かす。

 が、遅かった。

 

 横を向いたと同時。

 得体の知れないなにかが茶髪の男の顔面を強襲した。


 攻撃に気を取られていたのか、防御なんてものは皆無だった。

 その勢いに耐え切れず、男は繁茂した地面に倒れ込む。

 物体をぼかすほどの速度を誇ったそれは、茶髪の男をはるかに通り過ぎた場所で堂々と地に足を着けた。

「……」

 距離を置いているアテナも、何が起こったのか分かっていない表情だ。

 という事は、アテナによるものではない。

 そして、地に無様にひれ伏す茶髪の男を見た後、アテナはその正体を確認する。

 四足歩行のそれには獣耳が生えていた。色は金色に近い黄色。尻尾が三本生えており、首には注連縄の様なものが嵌められている。

 要するに狐だった。

 さりとて、姿が確認できても、状況が全く把握できないはず。

 アテナが呆然と、足で顔を掻くその狐を見据えていると

「これは一体どういう事かしら?」

 その声に振り向く。

 向こうからこちらに歩み寄ってくる影が二つ。

 一つは茶髪の男を強襲した狐と全く同じ姿かたちをしていた。

 もう一つの影は、我が家の窓が割られ、軽く耕された庭を不審そうに見ながら、アテナへと歩み寄る。

 そして、空野十與はアテナへと至って、

「傍から見たらあの男がアテナちゃんに襲い掛かっていたものだから攻撃しちゃったけど……良かったのかしら?」

 頬に手を当て、首を傾げる十與。

 対し、

「……ええ、助かったわ」

 アテナは少し間を空け、そう言った。

 

 そして。


「なるほど」


 妙に納得した声が放たれる。

 アテナ達は振り向く。

 声を放った茶髪の男が立ち上がったところだった。

 ツー、と、額から赤色の一筋が頬を伝う。それを取り払う動作もせず、男は新参者の十與に睨みを利かす。

「この家は端から妙な違和があったのだが……原因はこれか」

 茶髪の男は地面に落したダガーを拾った。

 そんな男の姿を見ながら十與は訊く。 

「龍ちゃんはどうしたのかしら?」

 流石の十與も、いつもの笑みを崩していた。彼女は現在、巫女装束ではなく、外出用の黒のカットソーに膝元までのフリルスカートという割かし落ち着いた雰囲気の恰好をしている。

「家の大事な息子……返答次第では只じゃ置かないわよ」

 普段は閉められている眼が、少しだけ開く。

 威圧感漂う彼女にも、茶髪の男が怯む事はない。

 受けて立つといったような鋭い視線で、

「案ずるな。あなたの子供が賢ければ何事も起きはしない。そうでなかった場合は諦めろ。あなたも神道を嗜むものなら惟神の道ぐらい知っていよう。人は流れに嵌まっていればそれでいい。後は神々が動かしてくれる。愚かな行動を取った者は報いを受け、日々を耐え抜き精進したものがいずれ幸福を掴む。それが世の中だ」

「……なら、あなたはここで私にぶっ飛ばされるという事になるけど」

「やれやれ言葉が荒いな」

 仁王立ちの茶髪の男の肩に、鷹が乗る。

「……アテナちゃん」

 茶髪の男を見据えたまま、十與はその者を呼ぶ。

 呼ばれたアテナは何も言わず十與を見る。そしてそれを認識したであろう十與は、こんな事を口にする。

「具体的な経緯が読めないけど、とりあえず龍ちゃんは無事なのかしら?」

「……ええ、といっても予断は許さないわ。あの男には他に仲間がいて、そいつがあの子達を追いかけているの」

「達?」

 十與は眉を寄せた。

「それは他に誰かいるという事?」

「そう、厳密に言えば、狙われているのはその娘で、あなたの息子はその娘を守る為に一緒に逃げてくれているの」

「……そう、だったら後で褒めてあげないと」

 嬉しさと心配が入り組んだ様な笑みで、十與はそう言った。

 アテナが複雑な気持ちでいるのは間違いない。

 彼女は少し俯き気味で、 

「……問題はもっと根深いはずだったのに、安直に考えてあの子達を窮地に追いやってしまった。今あの子達を追いかけている奴もあの男同様、相当な手練れ。ごめんなさい。私がもっと注意を払っていればこんな事には」

「あら、別にアテナちゃんが謝る事無いわよ。元を辿れば家の主人が悪いんだし」

 辿りすぎな気がしないでもないが……きっと十與の内で渦巻く旦那への憎悪は計り知れないものなのだろう。

 だが、今は謝るべきではないという事に関しては、それは正論だろう。

 こうしている今も、大事な息子が危険に晒されている。となると、母親としては一刻も早く助けに向かいたい。

 だから、

「アテナちゃん」

 十與はその為の最適な手段を選ぶ。

「なぜこんな事になっているかは後で教えてもらうとして、ここは私が請け負うから、あなたは龍ちゃん達の所へ向かって」

 何が起こっているかが分からない者よりも、経緯を知っている人間が動いた方が明らかに効率的。

 ましてや十與はいつ頃から龍樹達が逃走を図ったのかが分からないので、その距離範囲も不確かだ。

 状況が見えない以上、とりあえず見えるものだけを捉える。

 家庭教師として現われたあの男は偽りで、龍樹の友達を狙う悪しき者。

 概況も分からないのに一方的に悪だと決め付けるのは十與の思想に反する部分もあるが、とりあえずアテナを信じてみる事にしたのだ。

 それに対してのアテナの答えは、いかにも彼女らしものだった。

 アテナは何も言わず身を翻した。

 十與の提案を酌み、二人を助けに向かうためだろう。

 そこには当然、

「確かに合理的な判断ではあるが」

 待ったを掛ける者がいる。

「そうはさせんぞ」

 言って茶髪の男はダガーをアテナへと投げた。高速で向かうそれは速度を落す事無く、途中で鷹へと変貌し、今まさにこの場から去らんと背を向けている無防備な女へと一直線で向かう。

 気付いたであろうアテナは振り向く。対処するためか少し構える動作を取った。

 が、どうやらそれは必要なかったようだ。

「そうはさせんぞをそうはさせん」

 微笑すら乗った十與の声。

 直後、アテナへと迫っていた鷹に十與の近間にいた狐が襲い掛かる。それはまさに狩りのような獰猛な動きで、かつ動物的な動きだった。

 しかし、相手もそんじょそこらの鷹ではないらしく、間違いなく無駄がない動きだったそれを紙一重で回避した。要するに、止めさせることは出来たが捉えるのには失敗したのだ。

 だが、必要最低限の思惑は取り繕えた。

「早く行って頂戴」

 茶髪の男に警戒心を向けながら、十與は言う。

「ここは私達がなんとかするから」

「……」

 軽く頷いたアテナは、再度振り返り、その場を後にする。

 許すまじと、茶髪の男は一歩を踏み出す。

 それを阻止せんと、十與と狐が前方に位置取る。

 面倒臭そうに目を細めた後、茶髪の男は後方から追いかけようと振り返る。

 そこにも、先程自分の顔を強打した狐が行かせまいと身構えていた。

「……」

 パタパタと鷹二頭が彼の双肩に降り立った。

 まるでどうすると相談するように。

 まるでいつでもいけるといわんばかりに。

「……いいだろう」

 茶髪の男は振り返る。その先に憚るは、かつて『倭姫命やまとひめのみことの再来』とまで称された凄腕の巫女。

 それを知ってか知らずか、いや恐らくは知らないのだろうが、

「万物は相応、目的は互いにぶつかり、食い合っていく」

 茶髪の男は、淡々と語る。

「人は自分の主張を通さんと争う。本来、そこに正しいも間違いもない。自分の中での学びから算出した糊塗仕立ての『答え』という名の独善に従い行動を起こす。その末が幸福であれ不幸であれ、結果それ自体は間違いではないからな」

「あら、別に私は正しいとかそんな大層な事を考えて行動しているわけじゃないわよ。ただ大切なものを守りたい。これは母親という垣根とかそんなものすらも関係ない、率直な気持ち。例えそれが間違っていようがいまいが、そんなものは関係ない」

「とても巫女が放つ言葉とは思えんな」

「正確には元よ」

「ふん。まあ、どうだろう構わんさ」

 所詮、人の行動理由はそんなもの。

 他人の為に動こうが自分の為に動こうが、それが嫌々だろうが自ずからだろうが、結局そこには何かしらの自分の意思がある。

 起こったそれが結果であり、また歴史であり、そして――答えだ。

「いいだろう」

 相手の想いを聞き取った上で、男はもう一度そう言った。

「双方ともに引く気はない。主張を通すために力が必要。それにより生じるものがなんであれそれが答えというのなら――では、私もその流れに従うとしよう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ