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妖美なるこの世界  作者: 桂馬
嵐の前の日常
21/261

暗がりの侵入者

 合堂達は懐中電灯のわずかな灯りを頼りに、旧校舎の奥へと進んで行く。

 洞窟の中にいるような暗がりだった。外はまだ太陽が昇っているというのに足元すらおぼつかない視界の悪さ。

 ここまで光の侵入を許さないのは造りの所為ではない。

 取り壊しが決まっている為外には単管足場が設置され、灰色の防音シートが全体を覆っていた。

 それも生徒たちの万が一の妨げにならないようにと考慮されての完全防音。

 そこからもいかにこの学校が学力向上というものに神経を使っているかが窺える。

 

 随分と深入りしたらしかった。

 後ろを振り返れば入ってきた場所がほんのりと見える距離。

 両サイドには一年前まで使われていた教室の扉が展開されている。

 そこを通り抜ける度に生まれる風が窓を揺らし、合堂の装備品が不気味な静寂を木霊する。


「……分かるぞ。人の気配を微かに感じる」


 ささやかな異変を汲み取った合堂の顔付きが険しくなる。

 光景ではない。

 肉眼では見えない変化。

 それでも確信が持てた。

 彼女の家系は古くから代々伝わる気高き宗家の血筋を引いている。

 なので、その昔戦国時代に名を馳せた武士の嫡流ちゃくりゅうという事もあり、幼少から武術を叩き込まれ、並みはずれた運動能力、感覚を養われてきた。


 その本能が囁いてくる。

 この建屋内に誰かいる、と。


「合堂さん。我々の後ろへ」


 斉藤が言った。

 お言葉に甘え下がる合堂。


「気を付けろ。何か普通とは違う、嫌な感じがする」

「嫌な感じ? どういったものです?」


 数メートル先は闇、の前を見据えながら渡辺が尋ねた。


「……よく分からないが」

「警戒しすぎですよ。誰か居たとしても、どうせ喫煙目的の生徒か、乳繰り合い目的の淫乱野朗なんでしょうから……校内の風紀を乱すふしだらな奴。見つけたらタダじゃおかねぇぞ」

 

 後半はいまだ見えない侵入者を脳裏に浮かべ、斉藤は合堂の気をほぐす。


「……だといいんだが」


 それでも合堂の心のしこりは取れなかった。

 原因は破壊された錠前。

 上がっているツルの先端に歪みが生じていた、南京式の錠。


 あんな壊し方はどこか不気味だ。

 ボルトクリッパで切断したとすればツルの先端が穴に埋まっているはず。次にピッキングの可能性も考えたが、だとすれば先端が曲がっているのは不自然だ。

 となると、方法は自然と絞られてくる。

 常識としては考えにくいが、錠の状態を単純に見て有り得る可能性。

 それは腕力に頼って力任せに開けたという推測だ。

 

「合堂さん」 


 思案していた合堂は名を呼ばれ、反応した。


「何だ?」


 気付けば鮫島、渡辺、斉藤の三人が立ち止まり、ある一点を見据えている様だった。

 渡辺が隣に来て耳打ちしてくる。


「(左の三つ先にある教室のドア前にまた血痕が)」

「(血痕だと?)」


 言われてすぐに確認に入る合堂。

 確かに。

 前に居る鮫島が照らした問題の教室前の地面に、血らしきものが無数あるようにも見て取れる。

 が、今はまだ〝見て取れる〟である。

 少し近づかないと何ともいえない。


「あ、ちょっと」

「大丈夫だ」


 何が大丈夫か言えと言われたら詰まるところがあるのだが――とにかく、合堂はそう言った。

 鮫島から懐中電灯を奪い、血痕に接近し、しゃがみ込んでそれを観察してみる。

 入り口付近と同じ形状。

 棘が生えたような円形の血痕。

 それが意味するのはここに立ち止まり、そこから滴り落ちた、だ。

 それも見たところまだ新しらしかった。

 大きさは直径四センチ。

 かなり大まかな予想だが、腕から下の部位からの出血だと想定すると、その人物の身長は結構なものだろうか。

 そこまで仮定した上で、屈んだ状態の合堂は上方を見上げた。


(……これは)


 教室と廊下を隔てるドア。その取っ手にも血が付いていた。


 確認できた幾つかのピース。

 それを脳内で組み立て、合堂は推理していく。


 入り口付近を最後に、ここに来るまで血痕は無かった。

 ということは、周囲にバレぬよう流血部分を押さえてここまで至ったのだろう。

 門扉の鍵を開ける際に溢れた血には気付いているのかは知らないが、人気の無いここでそれほどの念の入れよう、まだ見ぬ侵入者は中々の神経質な性格の持ち主のようだ。

 そしてここまで来て気が緩んだのか。

 それとも、


(ここでもまたドアを開ける時の反動で零れた、か)


 立ち上がる合堂。

 妙な音が鳴らぬよう防護用具を押さえるところが、彼女の内で渦巻く緊張感を物語る。

 合堂は目を瞑り、精神を尖らせる。


 ……居る。


 押し殺そうとしているようだが聞こえる、荒い息。

 ドア一枚隔てた向こう側の教室から感じ取れる、無理に隠そうとしている気配。

 先程斉藤が言ったように、ただの喫煙目的か思春期の盛り行為なら良かったと思っていたのだが、残念な事に状況はもっと深刻なもののようだ。

 高鳴り始めた心音を落ち着かせようと、ふぅ、と息を吐く合堂。


「この中ですか?」


 暗闇も手伝ってか鮫島の声にも真剣みが増す。

 気付けば護衛連中が歩み寄っていた。


「ああ、間違いない。中に誰か居る」

「では、我々が行きましょう」

「合堂さんは下がっていてください」


 斉藤、渡辺に促され、下がる合堂。


「気を付けろ」


 合堂のいましめにこくっ、と全員が頷いた。

 そして。

 鮫島が取っ手に手を掛けた。

 どうやらそこで付着した血に気付いたらしく、顔を歪ませる鮫島。

 あまり触れた事の無い血の感触に思わず身の毛が弥立つ。

 しかし意を決し、横開き式のドアを勢い良く開ける。

 ガラガラガラガラ、と、溝との噛み具合が悪い木製の扉が生んだ音が、教室内を反響した。


「……」


 その場に居た全員が息を呑んだのが分かる。

 開けて気付いたが、どうやらここは理科室のようだ。

 整然と並ぶ長方形の机が六つ。

 恐らく、フラスコや人体模型などが入っていたとおぼしき棚達。

 去年の廃校により、現在は物資など入っていないらしかった。


「……」


 残滓のような息遣いが消えた。

 まるで唐突にどこぞへとワープした様に、確かに感じ取れていた人の気配が無くなった。

 懐中電灯で辺りを照らし、おかしな点がないかを探す鮫島。

 ドアを開けた時に感ずかれ、存在を無理やり押し殺しているのか。

 それとも。  


(……気のせい)


 違った。


「!?」 


 鮫島の顔色が一瞬で蒼白に染まる。

 突如横合いに現われた気配を感じ取った鮫島は横に顔を向ける。

 影に紛れるように、拳を握った何者かがこちらに迫って来ていた。

 手にする懐中電灯の明かりが照らし出した凶悪な人相。

 出来事を解釈する間など与えられない。

 当然、動作を実行するなど、自分では不可能。


「危ない!!」


 仲間が居て本当に良かったと思う。

 合堂が寸でのところで気付き、鮫島の襟首を掴み引っ張った。


 直後、乾いた音がした。

 壮大な音量のそれは辺り一面を震わし、その場に居た全員に戦慄を与える。


 態勢を崩し、床に倒れ込む鮫島と、彼を引っ張った時に生まれた反動で後退する合堂。

 戦闘態勢に入るため腰を落とす彼女の頭に何かが激突した。

 それでも兜がその使途しとを果たし、ダメージは生まれなかった。

 現象を確認するため、何かが当たり、ずり下がった兜をすぐに押し上げる。


「何奴!?」


 そしてそれを目撃した合堂その他もろもろの連中は――唖然とした。


 確かに肉眼で確認できるその人間が鮫島に放った殴打の威力は凄まじく、絶大だった。


 教室の入り口のドアに面していた壁際が、何か巨大な怪物にでも食い千切られたように抉れていた。

 兜にヒットしたのはどうやらその破片らしい。


 当事者の人物を見据える合堂。


 仁王立ち。

 間違いなく巨躯と呼べる体型。暗闇に浮かぶスキンヘッドは不気味なシルエットを帯び、着衣は周囲に溶け込む漆黒の外套。

 あまりに珍妙な風貌に、合堂は思わず腰にある竹刀へと手を伸ばす。

 腰を落としいつでも引き抜けるようにはしているが、男の力をまざまざと見せつけられた身としては一歩が踏み出せない。

 額から流れた汗が頬から顎へと流れ、地面へと落ちた。


 戦闘の火ぶたが切られるのなら、それは男が攻撃を仕掛けてきた時だろうと腹を決める合堂。

 単純な腕力でくるのか、何か武器を持っているのか。

 合堂がそんな風にあれこれ策を練っていると、教室の出入り口で立ち尽くす男はのそりと動き始めた。 

 警戒レベルを一気に引き上げる。竹刀に掛けた手にも力が入り、目付きが変わる。

 今まさに竹刀を抜かんとする彼女に対し、脅威と感じていないのか構え一つ取っていない男はというと――逃げた。


「!? な、待て!!」


 制止を促す合堂、固まっている男連中になど目もくれず、その巨体をかなぐり捨てんとばかりに揺らしながら、謎の男は暗闇の廊下を駆け抜けていく。


 一体なぜこんなところにいたんだという疑問が脳内に渦巻くが、公に出ると厄介なことになりそうだ。

 そう考えた合堂はすぐさま後を追い掛ける。


「ま、待ってください!」


 腰が抜けている鮫島以外の二人もそれに続く。

 息を乱しながらも、斉藤が尋ねる。


「どうするつもりです合堂さん。今の破壊力を見るに、相手は何か武器を持っていると思われます」

「そうですよ。このまま真正面から対峙するのは、あまりにも危険かと――」  

「ええい、うるさいうるさいうるさいうるさい!!」

 

 忠告なのだろうが、合堂は拒絶する。


「どうするのか考えるのは動きながらだ。戦況というものは常に動くものだからな。いかに無駄なく、そつなく、中身の濃い戦略を練るかが勝敗を分ける」


 こんな緊迫した状況でも、この人は何かとに物事を戦事に例える癖があるんだよな、と斉藤と渡辺は思った。


「くそっ! どこの生徒だあれは」

「いや、絶対に生徒じゃないですよ!」


 声を張らす斉藤。


「きっと何らかの目的で校内に潜伏してきた侵入者と思われます」

「何!?」


 渡辺のその推測におっかなびっくりする合堂。だったら益々放っては置けない。


(まずい! このままだと校内へと出てしまう!!) 


 未だ放課後を過ごす、生徒達のいる広場へと。

 合堂は己の足を急き立てる。

 一刻も早く、あの者を止めなければ。


「あ、合堂さん、危険ですって待ってください!」


 しつこいのは重々承知だが、それでもやはり心配だった。

 しかし渡辺のそんな誠意も実らず。ならぬ! と合堂は一喝した。


「あんな奇怪な者を野放しにして置けばきっと惨事が起こる。それだけは絶対に食い止めなければならない」


 名誉のため。恩恵のためでは無い。


「校内の風紀を乱す者。そんな賊の芽を絶やす事こそが我々の存在意義。私の目が黒い内は妙なマネはさせぬ。不協和音断固拒否! 皆を不安にめようとする悪しき者は成敗してくれる!」


 微塵の揺るぎも感じさせない正義感。心の底からそれを願う気持ちが、放たれた言葉には滲み出ていた。

 己を鼓舞させた合堂は気合の咆哮を上げながらその速度を上げていく。

 その速さは体育会系の男達を置いてけぼりにするほどのものだった。


「あ、待ってくださいって……聞いちゃいねぇ」

「あの人は先が見えなくなる傾向があるからなぁ……」


 心労し、息を荒げる二人は、それでもなんとか付いていく。



 

 出口付近。

 誰かが駆けてくる足音がした。それは段々増幅されていき、近づいて来る。


「……帰ってきたのか?」

 

 落選し、見張り役を任命された三人はそう思った。

 一人の男が扉の奥を覗き込む。

 不可視の奥をより明確に捉えるためか、目を眇め、本当の覗き魔みたいな格好になっている。


「ああ、誰か来るみたいだ」


 まだ距離はあるようだが、何かが動いているのが見て取れた。

 男の報告を受けたもう一人の男は「合堂さん達か?」と言った。

 疑問文だったが、携帯で時刻を確認する様を見たところ、そうに違いないと思っているのだろう。


「……いや、何か変だ」


 変? と返ってきた答えに、他の二人は眉を寄せる。


「何が変なんだよ。合堂さんの格好がか?」


 ちょっとしたジョーク、のような感じで男は言った。

 それを情熱的なもう一人の大柄な男は真摯に受け止めてしまった。

 想いを寄せる先輩の暴言を吐いたと勘違いすると、その男につっかかる。


「貴様! 合堂さんの斬新かつ、需用性抜群の兜を馬鹿にしているのか!!」


 詰め寄る男。

 その真剣さに言葉を放った男は思わず身を後退させる。


「ち、違げーよ。別に変わっているとは思った事はあったが、それは侮蔑じゃ無い。つまり、今のは言葉の綾だ」

「嘘付け! 今の発言は内に秘めていたものが思わず漏れた、といった感じのニュアンスだったぞ。さては貴様、風紀委員長の座を狙っているのか」

「訳わかんねぇよ、お前馬鹿じゃねぇの」


 何だと! とかなんとか言って言い争う二人を尻目に、旧校舎を覗いていた男の顔が強張る。

 近づいて来ていた者の正体が判明した。


(合堂さん達じゃ……ない?)


 彼らにしてはやけに身体つきのシルエットが大きい。

 なぜか走っているそれが近づくにつれ、容姿が鮮明になってくる。

 褐色の肌でスキンヘッド。黒い外套を着た、間違いなく異端と呼べるであろうそんな不審人物がいままさに――突進してきた。


 あまりの唐突さに、回避という行動に移るのには時間が掛かった。

 まるで乗用車が突っ込んだかの如き衝撃。

 ドゴシャンッッ!! という大きな音が周囲を揺らす。


 取っ組み合っていた二人、寸での所で身をひいた男は、驚いた様子でそちらを見る。


 明かりに晒されたその者はやはりでかかった。

 全身を覆う黒い外套の上からでも分かる筋肉体質。その強面はただでさえ威圧感があるがそれをスキンヘッドの頭が何倍にも押し上げている。


 突然の衝撃に三人とも声すら出ない。

 何が起こったのか未だ理解が出来ず、その場に固まっている。


 豪快な音と共に現われたその者はじろりとそんな彼らを見た。

 三人はその鋭い眼光に委縮する。


 大柄な男は柔道を嗜み、他の二人も空手やレスリングといった体育会系に属する腕自慢だ。

 だがそんな彼らを持ってしても、本物の威圧の前では成す術も無かった。

 試合以外で暴力を振るわないだとかそんな武士道の話ではない。

 武を学ぶものだからこそ分かる部分もあり、その本能が語り掛けてくるのだ。

 この男はヤバい、と。


 しかしそれはこちら側の都合だ。

 逆に言えば闘争心の無い相手ほど怖くないものはない。

 だからそれを気取られては駄目だと、三人はすぐさま構え直す。

 自分達だって攻撃を加えられたら反撃する。それを相手に知らしめる。  

 だが結果から言えば杞憂だった。

 脚を震わせながらも構えを展開した彼らを見ても、男は特に何を言うでもなく何をするでもなく目を逸らし、東側――三人とは反対方面へと、脱兎の如く駆けていった。


「……なんだ、あれ?」


 ようやく出た第一声がそれだった。


「さ、さあ」


 最前で今の一部を目撃した男は、そのまま先程まで自分が覗いていた方を見る。

 そこに広がっていた光景に唖然とした。

 侵入を防ぐ為に隔てていた分厚さ五センチという強固なはずのドアが横倒しになっている。

 若干の劣化が見られていたとはいえ、腐っても封鎖の意味を持つ障壁だ。その強度は原付のフルスロットルくらいなら耐えられるものだと思っていた。

 少なくとも、人間という霊長類単体の力では、せいぜい凹ますのが限度だろうと。

 それがドミノ倒しのように意図も簡単に倒れた。

 事実確認をすればするほど、少年の顔は青ざめていく。 

 もしあと少し避けるのが遅かったらと考えただけでゾッとする。


 他の二人も溝から外されたドアを見る。

 中央がへしゃがっていた。

 断言は出来ないが、へこみ具合からしてそれは靴底に見えないこともない。

 だとすれば、出てきた謎の人物は、蹴りでこの強固な扉を蹴破った、桁外れの筋力の持ち主という事になる。

 いや、まず前提としてあれは誰なのだろう? 

 場に居る全員がそんなことを言いたそうに、話題の中心である男の背を見送る。

 男はすでに五十メートルほど先に差し掛かっており、そこを左折して姿が見えなくなった。

 ぽかんとする三人。

 そしていまだ驚きが尾を曳く中、視界を見覚えのある者が遮った。


 憧れの先輩。

 このご時勢で兜というレトロな防護品を被った――合堂 朱愛羅という名の女。


「くそ! 速いな」


 合堂は出てくるや否やそう吐き捨てる。この時点ですでに男の姿は無かったが、何かしらの直感が働いたのだろう。

 こちらも固まっている三人には目もくれず、合堂は謎の人物が向かった方角へと猛スピードで追走する。

 次いで。


「あっ、もうあんなに距離が空いてやがる」


 扉が壊され、中が露わになった出口から出て来た斉藤は息を切らしながら、合堂が向かった方向を眺めた。

 続けざまに渡辺が出て来た。

 そして鮫島が――と、一連の流れではそういう展開なのだが、残念な事に彼は腰を抜かした為絶賛置き去り中である。

 斉藤、渡辺は合堂と同じく、三人とは何の交流もせず、


「遅れを取るな、行くぞ渡辺!」

「ええ! ちょ、ちょっと待ってくれ。俺、息が……」

「ぐずぐずするな、置いていくぞ」

「……くそ、こんなだったら走り込みサボんなきゃ良かった」


 二人は合堂の背を頼りに、東側――新校舎がある方面へと駆けていった。

 しばらく、遠のいていく彼等を見てもみる。

 といってもその背たちもすぐに見えなくなってしまう。

 完全に置いてけぼりの三人は、やがて互いに顔を合わせた。


 いきなり現われた謎の人物。

 それを追いかける仲間達。

 なぜか欠けている一人の男。

 状況が、全く把握できない。


「……」


 言葉に出さずとも、三人の意見は一致した。

 とりあえずもう少しだけ呆けるとしよう。

 混乱した思考を治めるためには、それが一番効果的なのかもしれない。

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