↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妖美なるこの世界  作者: 桂馬
異国からの来訪者
22/261

学校までの経緯

 誰かが後を自分をつけていた。

 その理由もなんとなしではあるが見当は付く。


 きっと、自分が所属する組織の情報を聞きだすためだろう。


 最近は色々と動き過ぎた。

 その一端が連中の情報網に触れ、現在の状況――追われる羽目に繋がったと思われる。

 朝に捜索を開始したのは完全に落ち度だった。

 いや、準備が足りなかったと言うべきか。

 これまでの戦場に比べ、この国の危機に対してのあまりに低い意識に感化されてしまっていたというのは、残念ながら否定は出来ないだろう。

 おまけに隠密用にと纏った黒いローブもこの国ではかえって目立ってしまうらしく、事前情報の収集を怠ったという点も否めない。

 そのツケがたたったのか二日前の朝、敵に見つかってしまった。


 金髪碧眼ツインテールで愛想の悪い目付き。

 忘れもしない、凍てついた人相。


 異国の地でなるべく人目につかないよう路地裏を歩いていた時に地元民じゃない人間とすれ違う確率なんざ、標的の後をつけ人目の付かない場所で敵が接触を試みてくる可能性よりもずっと低いからすぐに分かった。


 勘違いでも構わない。人の法の下で生きたのは過去の話だ。

 すれ違いざまに常軌を逸した腕力を持ってしてブチ殺す。

 そう考えていた。


 だがその殺意を悟られたのだろう。

 こちらよりも先に女が仕掛けてきた。 

 

 不自然な風が吹いたかと思えば、それが全身を叩いてきた。何が起こったのかは分からなかった。ただ、瞬時にそれが異能の力だと悟ると抗戦に打って出る。

 しかしその女は強かった。

 攻撃を繰り出しても当たらず、狭隘な地形を活かした戦い方を持ってしてこちらの体力を削いでいく。

 あまりにも理不尽な展開にマズいと防衛本能が働き、逃げた。

 道中にいたガキのお陰かあの時はどうにかした逃げられたが、次に会った時は更に難しい展開を強いられると感じたのを覚えている。


 そして白昼過ぎ、この三日間と同じように街中に存在する廃墟に潜伏していた時の事。


 足音も聞こえなかった。

 気付いた時にはもう遅かった。


 唐突に現われた後方からの気配。

 もちろん、潜伏中に見付かるというのがどれほどの意味を持っているかは分かっているつもりだ。

 

 振り返ったと同時。

 謎の攻撃を受けた。


 確認できたのは拳。

 ただの、何の変哲もなく、何の動きも見せない女の小さな拳が、前に突き出されていた。

 たったそれだけだというのに。

 自分で言うのもなんだが、褐色の巨体が飛んだ。

 風に押される奇妙な感覚があったかと思うと、強制的に運動を施され、視界が転がっていった。

 四秒ほど、上下の区別が付かなかった。

 何が起こったかなんて分からない。

 壁際に面した窓ガラスを突き抜け、地面を三回転ほど転がってようやく勢いが止まる威力だったようだ。


 何をしたんだ? 等と訊くほど呑気でもない。

 少なくとも攻撃を受けたのだ。

 威力も、ダメージも、相当なもの。


 腹をやられた。

 胃が捻られる感覚。息の軌道がしばらく出来なかった。

 それでも長年の経験が蓄積された体はすぐに行動に移る。

 女相手に不本意ではあったが、本能がそうさせたのだから仕方がない。

 逃げた。

 全速力で背を見せる事に対して恥らうことなく、二度目の逃走。

 後ろなど振り返らない。ただ前を見据え、逃走するのみ。

 逃げた。逃げた逃げた逃げた逃げた。必死に――逃げた。

 別に勝てないと思ったからじゃない。敵の数も判らない以上、下手な行動は慎まなくてはならないと思った。


 それに足には自信があった。

 振り切る要素は持っていた。

 だが、そこに現われた新たな邪魔者。


「おっと、待ちな」 


 危惧したとおり、追跡してきたのは一人ではなかった。

 が、二人でもない。

 何せ逃走の進路を断ったのは、一匹の鳥だったのだから。


「!?」


 そりゃ驚いたさ。

 言葉を喋る鳥だったからではない。

 突如視覚の上方からバタバタと翼を羽ばたかせながら降り立って来たからだ。

 それはまさに弊害物。

 逃走を図っている今は構っている場合ではないのだが、目前をバタバタと忙しく飛んでいるので無視しようにもうまくいかない。

 なので、致し方ない。

 ある契約により得た、常軌を逸した筋力を持ってして、その弊害物を壊そうと、勢いを付ける為に拳を後方へと振りかぶった――が、それを誰かに掴まれた。


 背筋が凍りつく。

 運動により流れ出た汗が、冷や汗に塗り替えられていった。

 振り返らなくとも分かる。

 さっきの女だ。

 もう追いつかれたとは。

 この鳥もきっと女の仲間なのだろう。


「おい兄ちゃん」


 俺に言っているのか? 

 とりあえず、言葉を放った鳥に視線をやる。

 鳥は宙でホバリングしたままの状態で用件を述べる。


「あんたが日本に来た理由も、あんたがある組織に属する者だって事も、とっくにネタは上がってるんだよ」


 驚いた。

 どこからか情報が漏洩(リーク)したようだ。

 まあ考えても見れば、だからこそこんな展開になっているのだろう。

 抜かりはないといっていたのに、連中はなにをやっているんだか。

 鳥は発言を続ける。


「悪いがあんたには色々と訊きたい事がある。なーに。素直になれば痛い目には合わなくて済む……協力してくれるよな」


 明らかな上から目線。舐められたものだ。そんなちんけな脅しではい分かりましたと言うはずがない。


「……やっぱりな」


 予想通り、と言わんばかりの微笑の乗った声で言ってやった。


「お前らの目的はそれか。全くご苦労なこった。こんな島国にまで追いかけてくるとは……だが残念、ハズレだ。俺は下っ端でな。そんな奴を追いかけて来たところで何も得るものが無いって訳だ」

「……それを決めるのは私達よ」

 

 自分の腕を掴む女がようやく口を開いた。

 それはとても冷静で、冷徹そうな声色だった。


「あなた達のしようとしている事については大方の予想は付いている。諦めて、大人しく言う通りにしなさい」

 

 まるで自分の方が立場は上と言わんばかりの命令形だった。

 心底不愉快ではあるが、


「大方の予想は付いている?」


 ハンッ、と愉快そうに笑ってやった。


「嘘を吐くな。だったらなぜ俺を追う? 分かるんだぜ、あんたらは今回の計画の冒頭部分しか……いや、それすらも掴めていない筈だ」

「……なぜ、そう思うの?」


 眉を曲げる女。

 放った言葉の、どこか滲み出た確信に疑問を持ったのだろう。


「なぜかって? そうだなぁ、それは……」


 先刻の焦りが拭われていく。

 掴まれている手首の筋肉が固く――太くなっていく。これもこの力の作用なのだろう。

 そして答えを教えてやった。


「俺すらも今回の計画の内容を知らないからさ!!」


 哄笑の乗った叫びと同時。

 空いている右拳を女へと振るった。

 瞬時にそれに気付いたであろう女は掴んでいた腕を放し、体勢を低くしてやり過ごした。

 ビュンッ! というバットを思いっきり振ったような風切り音がする。

 速度がそれで、規模が丸太ほどのこの腕なら、喰らえば大ダメージは必至だ。

 そんな威力を秘めた拳を、今度は屈んでいる女に振り下ろすように放った。


 相変わらず、その威力には惚れ惚れした。


 破壊しか連想されないような音が発生し、コンクリートであるはずの地面に、一メートルほどのクレーターが創作された。


 普通は有り得ないだろう。

 人間という霊長類の根底を引っくり返す光景。こんなのを見せ付けられたら怯まない者はいないはず。


 予想通り、女は距離を取った。

 やっぱり死ぬのは怖いらしい。

 明らかに畏怖を覚えているそれに、悪い気はしない。

 と思いきや、


「知らない、とはどういう意味かしら?」

「ああん?」


 距離を取った女は服のポッケに手を入れ、今しがたの攻撃に対してなんの印象も覚えない様子で、普通に話しかけてきた。


「計画の内容を知らないなんておかしな話ね。あなたは自分が今何をしているのか分かっていないの? それとも金銭目的で動いているとか」

「馬鹿にしてんじゃねーよ。そんなタマに見えるか? 俺を今動かしているのは金なんかじゃなく己の信念だ」

「そう。だとして、不満じゃないの? 何も知らされずこき使われるだなんて」

「それが信仰ってもんだろうよ」


 地面を――捲りあげる。

 流石に重かったが、それでもこの力は底なしだった。

 

 ずざざざざざざざ、と生まれた衝撃は進行方向にあるあらゆるものを巻き込み、地面を進む。


 それはやがて壁際に到達すると爆発音のような大きな音が鳴り響き、抉れた地面からは煙が昇る。

 前方は粉塵で支配され、女がどうなったのかは窺えない。

 こうなった以上、このままここで壊しちまっても構わないが……。


「!? 待て!!」


 待てだと? おいおいまだ上から目線で言葉を放つ気か。全く持ってムカつく鳥だ。

 だが――今は逃げるのが最優先。

 もし、増援なんかが来やがったら厄介だからな。

 なぁに、例えあの女が生きていたとしても、あれだけの力を見せ付けたんだ。

 そう簡単には追っては来ないは――


「風の弾丸(Proiettile di vento)」


 後方からのそんな単語が、場の空気を揺らした。

 直後、粉塵を切り裂きながら何かがこちらに向かってくる音がした。

 何事かと身を捻る。

 少し、遅かったようだ。


「がはッ!?」


 放たれたそれは左腕に激突した。

 はっきりとは認識できなかったが、直撃したのは風の球体だったと思う。

 それもただの風ではない。

 圧縮させ、重みを兼ね、凶器と化した風。

 瞬時に気付き、左の二の腕を畳み、何とか威力は緩和できたものの、それでも球威は完璧には殺せなかった。

 衝撃を受けた左腕は腫れあがっていた。


(くあっ、――やっぱり、あいつも俺と同じ!!)


 ほぼ間違いないと、その時に確信を持った。

 始めてあったときもそうだ。幾度と無く見たあの力。

 だったらまずい。

 同じ力。


《契約者》


 その可能性は頭にあった。

 はっきりって一目散に逃げたのもそれが一番の原因でもある。

 とはいえやみくもに逃げ回る気もない。

 こちらの攻撃を一発でもぶち込めればそれで勝負は確実に決まる。

 つまり、逃げるフリをして隙を窺っていた訳なのだが……

 問題が発生した。


(くそッ! 左腕がやられた)


 負傷。

 利き腕の左が痺れて、思うように動かない。

 痛みが額から汗を出現させる。

 出血の量は大した事は無い。

 だからこそ危険だ。屈強な筋肉の壁が流血を阻んでいるのだろう。

 きっと内出血している。

 一刻も早く血を抜き出さねば。

 治癒能力が常人よりかは優れているといっても、やはり最低限の時間は必要だ。

 おまけに相手が契約者とくれば手負いで戦うのは避けるべき。

 一発で伸せるといっても、万が一という事もある。

 力の怖さは使用する己がよく分かっている。


 ならどうすべきか。

 今後の予定を掲げていく。


 まず第一にどこかに身を隠さねばならない。

 そう思いながら走って、走った。

 基本的に潜伏している建物の構造は頭には入れるようにはしている。これはプロなら当たり前の作業だ。

 廃墟と化した建物を縦横無尽に、何の迷いも無く退出し――人混みに紛れ、時には避けながら逃走。

 街に繰り出し、その雲隠れをより顕著にする。

 そしてしばらく駆けた後、


(……学校か)


 どうにか見つけた新たな潜伏場所。

 恐らく、ここならあいつも大きな行動は起こせないはず。

 早くせねば。

 焦りながらもとりあえず、追いつかれる前に侵入させてもらうとしよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。