因縁の相手
「侵入者だと?」
場所は再び工場内。
電話越しにカッサローニ邸での出来事を聞くカッティスは、確認するように内容を反復した。
近くにいた仲間たちも、襲撃と言うその単語にざわつき始める。
そんな光景を目の端で捉えつつも、カッティスはとりあえず詳しく聞こうと通話に集中する。
電話の向こう側の人物は言う。
『ああ。いつもシガーを売りに来ていたガキがいただろ。どういう訳かあいつがミゲルを匿っている連中と繋がっていた。危うくボスを危険に晒しちまったが、どうにか難を逃れている。それで今は奴らを捜索中だ』
「数は?」
『確認できているだけで二人だ。だが帰って来ない仲間もいてな。もしかしたら他にも何人か忍び込んでいるかもしれない』
その言葉を聞いて、カッティスの脳内に昨日の記憶が蘇る。
別の場所にある空き工場での一件。
銃を持っている大の大人達が、一人の人間に完全にしてやられ、あまつさえ全滅し掛けた、あの出来事を。
「金髪碧眼の女だ」
思わず口にするカッティス。
当然ながら電話の向こう側の人物にはちんぷんかんぷんだ。
『何?』
「髪を束ね冠を被っている。敵に今言った特徴の女がいるはずだ。一見して華奢でそうは見えないが、そいつを見つければ油断せずすぐに銃を抜け。奴は一人で何十人の戦力を誇る」
『……どういう意味だ』
考える間を開け、そう返事がきた。やはりそれだけでは伝わらないかと、気苦労するカッティス。
彼は指でチョイチョイ、とその場にいるうちの一人に付いてくるよう指示すると、自分の車が止めてある外へと向かい始めた。
「とにかく詳しい話は移動中にする。今から何人か引き連れてそちらに向かうから、それまで持ちこたえるんだ」
『そりゃ構わないが、一体何人連れてくるつもりなんだ。少なくとも相手は少数。銃の扱いにもあまり慣れていなさそうだったぞ』
「だから、敵に相当の手練れがいるんだよ」
ドアノブを回し、外に出たカッティス。
車は扉を出てすぐの場所に置いてある。携帯を左手に持ち替えズボンのポッケからリモコンキーを取り出すと、開放のボタンを押す。光沢を纏う黒いボディーからガチャ、と開除の音が自信気に鳴った。
「言っただろ。警戒すべきは金髪碧眼の女だ」
ドアを開け運転席に腰を落としながら話を続けるカッティス。イグニッションキーに鍵を差し込み回すと、三百馬力を擁するエンジンが唸りを上げる。
「昨日俺がしくじったのは他でもないその女の精だ。油断していた訳じゃない。体術も相当なもので、銃も避けられた。奴の危うさはボスも分かっているはずだ。だから絶対に一人では対峙するな。奴と向かい合ったのは一瞬だが、それでも十分脅威と分かるほどの存在だ」
『……そうなのか。分かった』
どこか懐疑的な返事。確かにまことしやかに聞こえなくない内容だが、電話の向こう側の人物はとりあえず信じた様子だった。
となれば、ここで出来ることは他にない。
「ここからだとそちらに付くのは飛ばして二十分ほど。それまでの間、何とか持ち堪えろ。娘の命をちらつかせれば、敵の動きも鈍くなるだろ」
その筋の者にとっては常套手段ともいえる助言に、分かっているよと答える男。
『とりあえず今の内容は全員に伝えておく。出来る限り固まって動いて、あんたらが来る頃には解決しているよう努力するよ』
「頼んだぞ」
勇ましい言葉を述べた男にそう言うと、カッティスは通話を終える。それから窓を開けるボタンを押し、ドア前で待機している男に話し掛ける。
「敵がボスの家に奇襲を掛けてきた」
「その様だな。で、俺達は付いていけばいいのか?」
「ああ。聞いていたとは思うが敵の中に相当ヤバいのがいる。本当は全員を連れていきたいところだが、万が一と言う事もある。娘はここに残し、それを見張る人間も三人ほど置いていく。後の人間はボスの家に戻り、向こう側の連中と合流する」
ハンドルを握るカッティス。気持ちが急いているのか知らずのうちにペダルを踏む足に力が入り、エンジンがほんのりと温められる。
「俺はひとまず先に向かう。復讐って訳じゃないが、あの女には借りがあるからな」
と低い声で言いつつ、カッティスの顔は憎しみで満たされていた。
思えば、金髪碧眼の女が現れなければ全てがうまくいったかもしれない。奴が裏で働きかけなければと考えたのは、今日だけでも一度や二度ではない。
歯を噛み締めるカッティス。
もう邪魔をされるのは、失敗を仕出かし怯えるのはうんざりだ。
冷静さを欠き、能動的な思考回路になっている男はペダルを踏む。
必要以上の力により吹かされたエンジンは、砂埃と爆音を撒き散らしながら発進する。




