ピクニック日和
「うへぇー。結構いるな」
辺りを見渡し、少しだけ驚嘆した様子の龍樹。
場所は近所にある公園。天然芝が敷かれ所々根付いた樹が影を落とすそこには、日本の花見のように人がたくさん集まっていた。
だが面積は広大なので、ピクニックシート一つ広げるぐらいのスペースはあちらこちらに見受けられる。
流石に日陰や噴水近くの好位置は、押さえられているみたいだったが。
「思ったよりもいるな……もっと早く来れば良かった」
例年よりも多い人に、ミシェルもついぼやいてしまう。
その反応を見るに、彼女的にはもっといい場所を確保できると思っていたようだ。
「どこかに日陰の場所があると思うんだが……この分だと結構奥までいかなきゃ駄目だな」
料理の入ったピクニックバスケットを持ち、すっかりなじんだ様子のミゲル。深めの帽子にライトブラウンのスーツジャケット。昨日の晩シャワーを借りた際、そこからずっとダニエルの服を拝借している感じだ。
男に取っては好都合だ。
髭も剃り身嗜みを一変させた彼をミゲルだと瞬時に見抜くのは、そこまで顔合わせの無いカッサロー二の部下達には難しいはずだ。
とはいえ見るものが見れば、髪の長さも同じで、全く気づかないという訳ではないのだが。
「それじゃもう少し歩くか。龍樹君たちは平気かな?」
ちらっと、彼らの方を見たミシェル。最早言うまでもないが、龍樹とは言葉が通じない。なので、今言ったミシェルの言葉も彼らには届いておらず、龍樹は周囲の喧騒が気になるのかきょろきょろと辺りを見回し落ち着きがない。
そこで助けになるのが彼の頭に乗っている梟だ。
「大丈夫だってよ」
今しがたのミシェルの言葉を伝え、その答えを聞いたパードリッジ。
実際のところ彼はそこらの鳥よりもふくよかだ。まあ普段から高タンパクな人間のものを口にしているのだから当然と言えば当然なのかもしれないが、頭に乗られる人間は堪ったものではない。
パードリッジの重さに渋い表情をする龍樹。
アテナは自分よりも華奢なのによく耐えれるよなと感心しつつ、やはり通訳を担ってくれている手前文句は言えない。
パードリッジは暑いのが苦手らしく、朝から少しばかり機嫌が悪いからなおさらだ。
今しがたのやりとりからも分かる様に、彼がいなければ龍樹はミシェル達とはまともに会話もできない。
「この辺りでいいか」
しばらく歩くと、大きな木の下に影がある場所を見つける。風通しもよく周りは静かで、なぜ誰も手付かずなのだろうかと疑ってしまうほどの好立地だ。
迷うことなく腰を落ち着ける。
シートを広げ、バスケットの中からサンドイッチやらを取り出す。時刻はすでに正午過ぎ。到着早々ではあるが、何らおかしな時間帯でもない。
「よし、それじゃあ早速食べるとするか」
お腹が減っていたのか、ミシェルはサンドイッチへと真っ先に手を伸ばす。
少し形が歪なパン生地だった。具は収まりきらずはみ出ていて、有体に言えば見栄えは悪い。しかしミシェルは気にする素振りもなくそれを口に運ぶ。傍らでは心配そうな顔をするミレーナ。どうやらそのサンドイッチを作ったのは彼女のようだ。
「うん、うまく出来てるじゃないか」
出来栄えは上々のようで、頷くミシェル。別に事の真相を確かめる訳ではないが、釣られるようにミゲルや龍樹達も歪なサンドイッチに手を伸ばす。
「うん、うまいよ。ピリ辛でマスタードも絶妙だ。これは酒のつまみに合いそうだ」
ミレーナに向かってサムズアップするミゲル。それを受けたミレーナは気を張っていたのか、ホッとしたようにどこか胸を撫で下ろしたように見えた。
「どうだい。うちの娘が作ったサンドイッチの味は?」
まるで自分の事かのようにその評価を気にするミシェルは彼らに向かいそう問うた。
パードリッジづてにそれを聞いた龍樹は、
「え? これミレーナちゃんが作ったの」
と驚いた様子だった。
ミシェルからパードリッジが聞いた話によると、レタスを剥がすところから水洗い、味付け、トマトの切り分け、全てミレーナが一人でやったと言う。
とはいえ、恐らく傍らでミシェルが口を出したのかもしれないが、それにしたって五歳という年齢を考えれば大したものだ。
「へえーこんな美味しいもの作れるだなんて。凄いねミレーナちゃん」
絵に描いたような優しい態度で、ミレーナに微笑みかける龍樹。もちろん言葉は通じないのでパードリッジに訳してもらう。するとミレーナは照れ笑いをし、それをごまかす為か自分もサンドイッチを口に運ぶ。
明確な言葉は述べなかったようだが味には満足したようで、小さく頷きながら、ミレーナはサンドイッチを咀嚼していく。
丘の上だからか風通りもよく、今日は絶好のピクニック日和。
賑やかな、のんびりとした午後の一時は、こうしてゆったりと流れていくのだった。




