↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妖美なるこの世界  作者: 桂馬
イタリアへようこそ
110/261

悪魔の辞典 ~トラジェメリレガーナ~

 トラジェメリレガーナ。

 起源は西欧のとある小さな牧場。

 幼少から家族同然の付き合いをしていた馬が寿命で長くないと知り、少年はひどく落胆していた。

 日々弱まっていく馬は虫の息になり、ついに峠を迎えてしまう。

 少年は家族に言った。 

 一番仲の良かった自分が最後を看取る。

 だから最後は二人だけにしてほしい、と。

 邪魔だとか、そんな意味があっての発言ではない。

 ただ泣き顔を見られたくなかった。

 家族もそれを見透かし、少年の言う通りにしたのだろう。

 暗い、暗い小屋。

 揺らめく蝋燭だけが、馬と少年を照らす。

 ここで産まれ、ここで死を迎える。

 瞳は開いているものの全く動かなくなった馬を見て、果たしてそれは幸せな事なのだろうかと少年は考えた。

 どれだけ仲が良かろうと、どれだけ一緒に居る期間が長かろうと、言葉の壁は越えられない。

 せめて会話さえできれば、幾分か気持ちに整理がついたかもしれない。

 もっと生きたかっただろう。

 もっと生かしてあげたかった。

 死というものを目の前に、少年はひどく悩み始める。

 本当にもう方法はないのだろうか。

 頭を抱え、真剣にそれを考える。

『与エテヤロウ』

 どこからともなく声が聞こえた。

 暗闇には自分と馬しかいない。

 しかし明確に聞こえるその声は、自らを悪魔と名乗った。

 悪魔は言った。

 双方に芽生えた絆が強ければ強いほど、それで大切な者をこの世に繋ぎ止める事ができると。

 運命共同体になり、意思の疎通が可能になる。

 自分に素直になり、本当の幸せを手に入れろ。

 悪魔の口から放たれる言葉はどれも魅力的で、かつ正論のように聞こえてしまう。

 少年は迷わなかった。

 悪魔の囁きに対し二つ返事で判を押したその日を境に、馬の体調は奇跡的な回復を見せ、元気な姿に家族全員が喜んだ。

 これで良かったんだ。

 また元気に走り回る馬を見て、少年も満足げにそう思った。

 しかし同時に奇妙な現象が起こり始める。

 牧場で飼っていた他の馬や豚などが謎の死を遂げ始めた。

 それは徐々に範囲を拡大し、最終的には州全体で巻き起こる怪奇現象として地元紙にも大々的に取り上げられるようになる。

 少年は薄々気づいていた。

 朝起きると血まみれに染まる自分の身体に異様なまでに飛躍した身体能力。

 家畜殺しの犯人は自分ではないのかと。

 そして悲劇は起こってしまう。

 夜な夜な家畜を無意識なうちに殺していた少年は、その姿を家族に見られてしまう。

 すでに悪魔に蝕まれ過ぎた少年に抑制力などあり得ず、結局少年は大切な家族を自らの手で殺してしまった。

 意識が戻ると傍らには血まみれの家族と、一頭の馬。

 遅ればせながら、全てを察した少年。

 大切なモノを選んでしまったが為に、より大切なモノを失ってしまった。

 悪魔に縋ったばっかりに、然るべき罰を受けたのだろう。

 そう解釈し絶望した少年は自殺した。

 鋭い爪に薄気味悪い青筋。変わり果ててしまった己の右手で喉を掻っ切り、出血多量で死亡した。

 この世に繋ぎとめられる媒介を失った馬もすぐさま後を追う。

 とある街で起きた悲劇は怪奇事件として処理され、その真相は闇の中へと埋もれていった。 

 


               悪魔の辞典 ~トラジェメリレガーナ~


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。