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魔法と闇と絶望と  作者: 凛莉
最終章~騎士と王~
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第66話 闇を振り払って


全員一休みして、落ち着いたようだ。


「落ち着いた?」

「ごめん」

スピリーツの謝罪に「ううん」とだけ返しておく。

この惨状には言葉も出ない。巻き込まれるかと思った。

あの後しばらくして突然スピリーツが暴走したのだ。その理由は『何となく自分の情報を見たら体重の部分が増えていた』らしい。

そりゃああれだけ飲み食いすれば太るんじゃない?って、そういえばスピリーツって昔からだったね・・・。


昔のことを少し思い出していたら口元が緩んでいたのかスピリーツに責められる。

「何で笑ってるの?」

「レディーのスタイル話に冗談は禁物だよぉ?リーディ」

ムッと幼子のように頬を膨らませるスピリーツにクスクスとソーミィが笑って僕をからかってくる。


「いいのよ・・・ええ。いいの」

真剣な表情で何かを決意したスピリーツはソーミィのからかいに特に反応しなかった。

「大丈夫だよ。体重見て増えちゃってて我を忘れちゃう事くらいあるよ!」

「ううっ・・・・」

数秒前の決意した表情が思い切り崩れてがくっとうなだれた。ソーミィはやるねぇとユズキに絡んでいる。

自分でもアレは無いだろうと思っているのだろう。


「あー・・・アール。これどう思う?」

「ほっといていいんじゃないかな?うん。とりあえずソーミィはほら遠慮とかさ、覚えよう?」

それを少し離れた所で見ていたマーレやアールは呆れ顔。アールはソーミィを引き剥がして、マーレはユズキを連れて行った。まるで保護者だ。

一気に風が止んだように静かになってしまい、僕とスピリーツはふと顔を見合わせた。それもどうやら同時だったようで、何かおかしくてクスクスとお互いに笑いあった。

そこにひょこっと星武がやって来た。何だろう?


「せっかく良い雰囲気な所悪いが、そろそろ何があったのか言ってもらえないか?」

「おっと、そういえばそうだった。僕としたことが」

ほのぼのしててすっかり忘れてた。わお、と大げさに口元に手を当ててやると星武は呆れて額に手を当てた。

はぁ、とため息を吐いているに違いない。

会話を聞いていたユズキはマーレ達と一緒に僕達の元へ近寄り、自然と円のような形になる。


さて、どこから話したらいいかな?

僕は合流するまで起こったことを出来るだけ細やかに説明した。


「・・・で、外から響く音がするなぁーって思って出たらアレだよ」

「アイツを見れないのは残念だけど。大体分かったわ」

どっちのアイツかなーなんて思ったけど、殺気が込められているのを感じて何となくわかった。あの少女の方だ。


「へー。リーディが騎士ねぇ」

「あり得ないね」

顔を見合わせて「ねー」と頷き合うそっくりな双子。周りも同じような反応だ。

そりゃ僕だって似合わないとは思ってるけどねー。それに今までは意識ほぼ乗っ取られてたしぃ?あれ雪矢と呪いだしぃ?


「にしても成長すると結構背伸びるんだな、お前」

まぁ俺よりは小さいけど?とさり気なく嫌味を言ってくる星武の腹にパンチをかます。

「そこそこね。昔も今も普通サイズだよ。君は態度や下心が小さい頃からデカかったらしいけど」

「やめろおおおっ!」


うわあああと両手で顔を覆う星武。彼って意外と乙女チックというか・・・なんというか・・・。良い奴だとは思うよ?


そんな後ろでマーレとスピリーツはコソッと短い会話をしていた。

「スピリーツ」

「ん?」

「アイツってこういう奴だった?」

「・・・ええ」

「・・・」


二人同時のため息が聞こえた気がする。


「そうだ、お城に行ってみない?」

突然のアールの提案に皆の動きが止まる。ん?そういえば雪矢とレヴィンがそんな会話をしていたような・・・。


「皆と合流する前にねスピリーツが、リーディが行った北の方に城があるんだって。さっきの話だとまだ行ってないんでしょ?」

「んー・・・多分。レヴィンが『嫌な予感がするから皆で行こう』って言うからやめておいたんだけど」

「だったらチラッと見に行ってみない?レヴィンのその赤い石の代わり、ってわけにはいかないけどさ、何かあるかも」

アールの言葉に頷く。全く同じものがあるとは思わないが、確かに何かあるかもしれない。

皆も賛成らしいがスピリーツだけがちらりとこちらを気まずそうに見ている。何かあったのかな?早速城へと歩き出した皆に置いていかれないようにしつつスピリーツに声を掛けた。


「どうしたの?」

「・・・いや、片付けたけど」

「片付けたけど?」

目を逸らすので、ささっとその逸らした方向へ走って行くと露骨に顔をしかめて、口を開いた。


「リーディにはやっぱり影響あるかなって」

何のことだと口にする前にスピリーツは重ねるように再び言葉を出す。


「貴方やポプラリスが・・・その、死んだ場所よ。その呪いの発生源」

言われてやっぱりと口をへの字に曲げる。別に覚えていなかった訳でもない。

忘れられるはずがないのだ。だけどスピリーツ。


「そんな悲しい顔しないで」

とん、とステップを踏むように一歩前に出る。畳んでいた白い翼を広げた。


「僕はもう大丈夫。大丈夫なんだ」

くるりくるりと踊るように回ってやる。血に汚れた身体だけど、もう大丈夫。

もう何があろうと大丈夫。もう呪ったりしないさ。服の中にある一つの誓いの証。これさえあれば。

きっと絶望はしないさ。


「ほら、スピリーツ。ぼけっとしてるから置いて行かれた」

くすくす笑って僕はそのまま笑って翼をひろげて宙に浮いた。

後ろから「待ちなさい」と聞こえているけれど聞こえないフリ。

「あははっ」


徐々にスピードを上げて、あっという間に先行していたユズキ達に追いついて、ちょうど上を飛ぶ。

皆にズルいと怒られてしまい、そのまま着地すると、上から降ってくるようにスピリーツが着地した。つまり下敷きにされた。

「うえぇっ」

「さ、行くわよ」


何事もなかったかのようにスピリーツは立ち上がり真っ直ぐ城へと突き進む。

迫力に圧倒されたのか呆れたのか星武とマーレはそのままスピリーツの後を着いて行った。


ケィレリーム城。じっとあの時僕がしたことを思い出してから見ると、確かに嫌な感じにはなる。

そして入る前にスピリーツに「呪いって残ってるの?」と聞いてみると「呪いというよりも最早お化け屋敷と言えばいいかしら」と返って来た。なるほどね。

もう殆ど残っては居ないらしい。ただまだ何かあるかもしれないから油断は禁物と。



「お邪魔しまーす」

ガランとした広間は、あの日とは変わって古びてしまい、所々に血の跡や戦闘の跡が残っているだけで、死体は一切残っていなかった。

歴代の王様も何だってこんな攻められやすい場所に謁見の間を置いたんだか。ポプラリスも私室と距離が遠くて往復が面倒だとボヤいていたのを思い出した。

もう思い出すことしか出来ないけど、今は穏やかに思い出せる。


皆も辺りをうろうろと探しているがここには特に何もなさそうという事だった。

探すにしても固まって探していたら時間がかかりすぎるとの事で、手分けして探すことになったのだが。

「ねぇ、リーディ」

皆の後を追うように奥へ進もうとする僕を呼び止めたのはスピリーツ。

どうしたの、と振り返ると着いて来て、と言われる。


何だろうか?


「片付けたって言ったけど、その・・・残ってるのよ」

言いにくそうにしながらもピタリと歩みを止めたそこはスピリーツが探していた場所。ちょうど柱に隠れた隅。

顔をしかめて俯いたスピリーツの様子に首を傾げ横に立って、足元にあったモノの光景を見て僕は身体を強ばらせた。


「死体」


あの時僕が『バケモノ』と呼び、僕が『バケモノ』になった切っ掛け。

その人達がここに小さな山のように転がっている。何処かしらが欠損していたり、傷口から肉が覗いていたり、血がこびり付いていたりと案外グロテスクな光景に顔をしかめる。

免疫がない人が見たら確実にトラウマ物だ。10人近くの人間が重なりつつ転がっている。皆一様に黒い服に包まれていて、乾いた血の色も相まってそこだけ闇に包まれているようにも感じる。

そして見たところポプラリスの死体は無いようだった。


「腐敗もしてないんだ?・・・こんなに経ってるのなら骨になってなきゃおかしいよね」

死体の状態を確かめて、城のくたびれた具合を見て、もう一度死体と向き直ると、重なっていた死体の一つと目が合った。

その目は恐怖と絶望に満ち溢れている。あの時と同じ目だ。僕が破壊した世界の人々もこんな絶望を抱えて死んだのだろうか。

駄目だ、この事は考えてもどうしようもない。謝ったって、償いで死んだって戻らない。脇道に逸れかけた思考を戻す。


じっと死体の顔を見つめて動かなくなった僕を不審に思ったのか、スピリーツは遠慮がちに声をかけてくれる。

「せめて燃やすか埋めようかしようかとも思ったのだけど・・・燃えないのよ」

「燃えない?」

スピリーツの言葉の意味が分からなくて、死体から目を逸らしてスピリーツの顔を見つめる。

燃えないとはどういうことだろうか。ただ単に魔法が使えないから火が出せないという訳ではないだろう。ライターを持ってくればいいだけだ。

だけどスピリーツの顔はそれだけじゃないというのがすぐに分かる顔をしていて、僕の言葉にこくんと頷いた。


「魔法を使わず燃やした時もあったわ。・・・というより、それで彼を、ポプラリスを弔ったのよ。勿論別々でだけど」

「でも駄目だったんだ?」

「えぇ。服すら燃えない。すぐ炎が黒くなって消えちゃうのよ」

ごそごそとスピリーツはいつの間に用意していたのか、ライターを取り出して死体の山に火を付ける。


燃えやすくしているのか、燃えやすかったのかすぐに火は広がっていき、今のところ何もおかしいところは無い。

そう思っていたのだけども、案外すぐに変化は訪れた。

炎が表面を覆い尽くした時、ゆらりと炎が揺らめいて、下の方から黒い靄が出て来た途端炎を覆い尽くしたと思ったら、ふっと炎が消えてしまった。

残ったのは焦げ臭い臭いと黒い煙。


・・・正直、よく分からなかった。説明を求めるようにスピリーツを見ると、スピリーツは一度だけ頷いた。

「有りがちな話だけれど、怨念とか、呪いの影響じゃないかと私は思ってるの」

「んー・・あの靄多分というか絶対僕のだよ。流石にずっとこのままってのも嫌だし、どうにかしたいんだけど・・・」

そのどうにかする方法を僕は知らない。何時になっても僕はスピリーツに頼りっぱなしだ。

自分に内心苦笑しつつ、ぱたぱたと軽く翼をはためかせる。

スピリーツはそんな僕を見て目を丸くして、僕の顔を見つめる。何かついてる?

首を傾げると、はっと気づいたのか頭を軽く振って否定する。


「ううん、久しぶりにその緑色の目を見たと思って」

「目?」

思わず目を細める。今は赤黒かったはずじゃ?

「髪の毛も白に戻ってるわよ。まさか気づいてなかった?」

「・・・うーん。何かスッキリしたなー程度」

全然気づかなかった。髪を引っ張って視界に入れると、確かに灰色から真っ白に戻っているのが分かった。

やっぱりこっちの方が落ち着く。


「話が逸れちゃったわね。それで私はあの時と同じような状況になればいいんじゃないかと思っているのだけれど」

「あの時と?」

あの時と言えば、いい思い出は無いが・・・。死体を殴ったりして喜ぶ趣味はもう無いし。

「恨みもないのに」

そう言うとスピリーツはいいえと頭を横に振って否定した。どういうことだろう?


「逆に祝福してやるのよ」


・・・祝福?

「お疲れ様、来世も頑張れ、みたいな」

凄くポジティブ。


「殺した所にはノータッチ?」

「そこはシーッ」

本当ポジティブ。


「さ、早くしないと見つかって皆を泣かせちゃうわよー?」

「う・・・それは流石に勘弁」

ぐるりと死体に向き直って、さっさと終わらせようと深く息を吐く。

スピリーツが後ろに下がったのを確認して、大きく翼を広げ、死体の山へ歩み寄る。

すぐ目の前まで歩み寄ってから膝を折り両腕を広げて大胆に死体の山を抱きしめた。

その上から白い翼もやんわりと被さる。黒い靄がその白い光と反発しているのが、目を閉じていても分かる。


もう、おやすみ。

小さくそう言ってやると、黒い靄がさっと散った気がした。


眠って、休んで。


またいつか。

次はきっと幸せに。

この白い光が祝福してくれるだろう。


だから・・・おやすみなさい。


本当は言う資格なんてこれっぽちも無いのだろうけど。慈母のように包んで、子守唄のように口ずさんでいく。

流石にずっと野ざらしには出来ない。だから、これしか方法が無いのなら。

偽りすら本心に変えて。願われるのなら、この命が続く限りこの言葉を吐き続けよう。

心なしか怯えていたあの瞳が和らいでいるような気がした。


虚空に消えていく黒い靄となった死体を眺めつつ僕はそんな事をぼんやりと考えていた。


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