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魔法と闇と絶望と  作者: 凛莉
最終章~騎士と王~
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第67話 魔法の魔力



かつんと小さな音が鳴った。

コロコロと転がって、靴にぶつかって止まった小さい球状の物。

何だろうと拾い上げると、黒い石のようだった。

じっと近づけて見てみると中が靄のように黒ずんでいて、ゆらゆらと揺れているようにも見える。

これは一体?・・・スピリーツに聞いてみようとそっちに意識を傾ければ、ユズキ達も集まっているようだった。

呪いの一部が具現化した!って感じなのかな?振り返って。


振り返って痛い程広がった光に、目の前が真っ白になった。






意識を失ったのか失っていないのか、よく分からない。

そんな曖昧な感覚の中、反射的に顔を覆っていた腕を下げると、そこは随分と見慣れた光景だった。

いや、この人数だから結構狭苦しくはなっているが。

そしてまた、目線の高さが変わっている。・・・また縮んでる。服も騎士服からあの灰色ローブに変わっているが、ポンポンと服を叩けばちゃんとネックレスやレヴィンは入っているようだった。

「うーん・・・」

せっかく元の高さに戻れたと思ったのにな・・・。何となく俯くと、光の発生源であろう物を見つけた。

光り輝く魔法陣。


しおしおと光と共に小さくなっていく足元の魔法陣は橙色をしていて、何となく彼がやったのだと確信した。

魔法は使えないはずなのに、相変わらず都合のいい。

ふっとため息を吐くと、皆も現状を把握してきたのか疑問を口に出している。



「ここって雪矢の家・・・で合ってるわよね?」

マーレが靴を脱いで部屋を歩きまわる。あ、そういえばこっちは靴を脱ぐんだったね。

小さな気遣いも出来るマーレはやっぱり凄いと、土足で動きまわるユズキやソーミィを見てこっそり思う。

星武も最初は靴のまま歩こうとしていたがマーレや靴を脱ぐ僕とスピリーツを見て、靴を脱いでいた。

「靴、玄関に持ってくぞー」

ひょいっと靴を取り上げられ、顔を上げると星武が恐らく全員分の靴を抱えて玄関へと向かっていた。

「手伝うよ」

手を差し出すと、僕とスピリーツの靴が渡される。・・あんまり量変わってないよね?

余程不満そうな顔をしていたのか、星武はふははっと豪快に笑うと、器用に手首だけ動かして扉を開けて玄関へ消えていく。


「子供に苦労は掛けさせられねぇよ」


「・・・あぁ」

何かちょっとムカつく。これでも僕は君たちと同じように生きてきたんだけど。

むしろ年上。


玄関で星武に軽く飛び蹴りをかましてリビングに戻ると、女子陣はソファに座り、思い思いの時間を過ごしていた。

そこから僕はスピリーツを呼んで、皆に断ってから少しだけ部屋を離れる。


どうしたのかと聞いてきたので早速あの小さい黒い石を見せると、スピリーツは受け取って顔の前にかざしては首を傾げていた。

ひと通り見終えると返して僕に聞いてきた。

「これは?」

「僕が聞きたいね。死体が溶けた後落ちてきたから、残った呪いの一部が結晶化したんじゃないかって思ってるんだけど」

スピリーツは僕の言葉に頷いた。

「私もそう思うわ。・・・ほとんど呪いとしての力は無くなってるみたいで、魔力の篭った石、って認識でいいんじゃないかしら」

ふぅんと相槌を打ちながら、手のひらで石をコロコロと転がす。

妙に手に馴染むその黒い石を見つめている内に、久々に色んな事があって疲れたのか、糸が切れるように自然と意識が落ちていった。



突然意識が鮮明になり、一瞬でも全身の力が抜けたせいで体勢が崩れてしまう。

「うわっと」

よろけながらも持ち直し、スピリーツにも心配されるが何でもないよと頭を振ると、スピリーツはきょとんと不思議そうな顔をした。


「・・・マスターに、戻ってる?」

「ん?うん・・・そうだね」

後ろを振り返って背中を見ても、黒から白に変わったあの翼は欠片もない。

それを見てちゃんと僕に戻ったのだと少しだけほっとした。

翼が消えたから分かったのかな?と首を傾げていると、今度はスピリーツにじっと目を見つめられてしまう。

何か返り血でも付いている?あれだけ浴びたんだし。


「マスターの目って金色だったのね」

ぽつりと呟くように言われたその言葉に目を丸くする。・・確かに今まではあの赤い目だったけど・・・・。

髪や目がリーディの元の色に戻ったことは知っていたけど、今度は僕の物に戻ってる?

「入れ替わる度に変わるってこと?・・・忙しい目の色だね」

白く戻った髪の色を何となしに弄るが、視界に入った白は何処か違和感を感じてしまうのは仕方のない事だろう。僕にとってはあっちのが長かったんだし。

そしてふと手の中の物を見つけて今までのことをさらっと思い出した。


笛を吹いていたら乗っ取られた。

そこからは夢を見ていたように覚えていた。レヴィンが壊れたことは大分キツい。

時間戻す魔法使って直せないかなぁ何て考えてみると、あれ?と疑問が浮かび上がりつい口に出してしまう。


「マスターどうしたの?」

「うー・・・ん、いや。これと・・・これ。レヴィン直すのに使えないかななんて」

案の定不審そうにスピリーツに声を掛けられ、僕は懐からレヴィンの欠片と黒い石、リーディが拾った金属の破片を見せる。

自分で言っておいて何だけど、金属は金属で色もそっくりだし、石は色は違えど魔力の篭った石という事と形と大きさが一緒だった事に驚いた。

これはもしかしたら行けるかもしれない。

スピリーツも赤い石と黒い石を交互に見つめたりしてから、頷いた。


「これなら大丈夫そうね」

「良かった」

ふっと息を吐いて、出したものを閉まってから一度皆の所に戻ろうかと声を掛けた。

待たせっぱなしも何だしとリビングに戻ると、皆ソファで喋っていたが、僕達を見つけると立ち上がる。

「そろそろ帰るよ。報告もしなきゃいけないしね」

「そっか。じゃあ気をつけてね?」

あっちもあっちで大分忙しいようだ。玄関まで見送ってから僕もリビングへ戻ってソファへ座る。


する事が無いからぼんやりと自分の手を見つめ、ぎゅっと何もない拳を握りしめ、開く。

それを何度も繰り返すと、ふるふると少しだけ手が震えるのが見えた。

うーん・・・。やはり異常だ。疲労とかじゃない。

自分を調べてみるとこれまた意外・・・には意外だけど、何となく納得してしまう事実。




魔力が無い。


ゼロじゃないけど、無限と書かれていた時に比べたら無いも同然。調べた時にまたふっと魔力が減ったのを確認できた。

そして新たに追加されている項目があった。

リーディの物だ。昔は特殊魔法として呪いが載っていただけだったけど、今はしっかりと特徴も載ってある。

そして変わっていたのはリーディの魔力量。そこにはしっかりと『無限』と書かれていた。


昔ならば魔力まで乗っ取られてたまるものかと怒るものだけど・・・と考えた所で目の前にカップが渡された。とりあえず受け取って、飲んでみる。ホットミルク美味しい。

ぼすんとスピリーツが隣りに座って、ずずっと同じようにカップに口をつけていた。

「あのさ、スピリーツ」

「んー?」

ふるりと力が入らなくなってきた腕を隠すようにテーブルにカップを置く。


「・・・ううん、やっぱり何でもないよ」

「何よーマスターらしく無いわねぇー」

スピリーツはぶーぶーと頬を膨らませながらぐいいっと豪快にホットミルクを飲み干した。


「しばらくレヴィンを直すのに集中するね」

だからご飯食べれないかもなんて言うと、分かったわと頷いてくれた。ただしあまりにも長く掛かってる時には連れ出すからとも注意された。

へらりと苦笑しつつ、スピリーツがおかわりを取りにキッチンへ言ったのを見てカップ残りを飲み干し、ゆっくり立ち上がる。


さて、何とかなるといいな。





結果として言えば・・・多分大丈夫。

黒い石の前に先にデータを起こす為に青い石を入れておく。こんな時に使うなんてね。

不幸中の幸いというか、割れたのが取り外しのできる場所で良かったと本当に思う。見た目的にも、素材的にも・・・時間的にも。


起動、っと・・・・。

しばらく機械音が鳴り響き、それから聞き慣れたあの声。

〈記録読み込み完了しました。お久しぶり、でしょうか?マスター〉

いつもと同じように言う言葉に僕は微笑んで。

「おかえり」

と返した。


その後は青い石から黒い石に取り替えてやると、黒い靄のせいか大体の事を把握したらしく説明することも無かった。

リビングに戻るとスピリーツもレヴィンを見て喜んでいて、しばらく三人で話しているとぽつり、とレヴィンが零した。

〈奇妙な不具合も起きませんね。素材の劣化が原因だったのでしょうか〉

暫く三人唸って考えたが、結局原因不明で終わった。


「ふー」

こめかみをグリグリと揉んでいると、隣でスピリーツがテレビを見ながらまた何かを食べていた。

少し疲れたかな、身体が重たい。下がってくる瞼にも逆らわず、僕は意識を沈める。それが入れ替わりなのか眠りなのかは分からないけど。

だけど意識を手放す前に一言だけ呟いた。



「僕が消える時。祝福されるのかな?」






あれから数日。雪矢が一切戻らなくなった。

最後の言葉は僕は聞いてはいなかったがスピリーツが教えてくれた。


「やっぱり雪矢は賢いね。分かってるんだ。自分の事」

「・・・流石に言われた時は驚いたわ」

〈マスターの身体が器、ですか〉

ぽつりと呟かれたレヴィンの言葉には少しだけ寂しそうな色が含まれていた。

やはり自分の主が誰かの為の容れ物だなんて言われたらそりゃ嫌だけど・・・。


「でもさ、魂が残ってるのはいい事だよ。本当、不思議な魂」

今までは何もかもが消えていて僕だけだったのにね。雪矢がいたから僕はここまで来れたのだろうけど。


〈マスターの事ですから『いいよ』と簡単に頷いて消えてしまいそうです〉

「あはは、確かに。その前には思い切り祝福してやるよ」

「・・でももう時間も無いのでしょう?」

うんと僕は頷いた。日に日に雪矢の魔力は減っていくと同時に、存在感。つまり魂が薄れていってる。

僕の中で魂が完全に消えてしまう前に、送ってやるんだ。輪廻の中に。


いつかその不思議な魂巡り巡って、新たな生命に生まれ変わる。

その時にはこんな事に巻き込まれない、平穏な人生をと。


この荒波の運命からの開放に祝福!

何てね。



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