第65話 絶望を砕いた-03
「───で、まだ倒れないの?」
目の前には皮を全て剥がされた人面樹を見る。
それでも尚動き続ける人面樹にため息を吐いて、木屑が付いた剣を振って木屑を落とす。
動きは大分大人しくなり、やってくる針や枝の数も少なくなっている。
「やっぱり顔部分が鍵?」
疲れた身体を動かして、走りだす。穴が空き、亀裂が走る地面は足が取られるが、根は出てこない。
しかし近づかれるのは困るのかゴゴゴと音を立てて足元から太い根が飛び出てくる。
バランスを取りつつスピードを落とさないように走り、人面樹に近づく。
「・・・っは」
いつの間にかちょうどいい足場となった根を元に、避けれる針は避けて避けれないものは左腕で受ける。
枝は剣で斬り落とし、正面へ周る。顔は醜く歪み見るに耐えない。僕も早くこの戦いを終わらせたい。
そんな人面樹の顔を眺めつつジャンプし、剣を大きく振り上げてまっすぐに振り下ろす。手応えは重く、しかし意外にもスパッと軽く刃が通った。
中が空洞なのかもしれない。中をちらりと覗いてみると真っ暗で、中に何か詰まっているのかも分からなかったがギッシリというわけではなさそうだった。
ギャアと耳に痛い悲鳴を聞き流す。皮を剥ぐ時には感じられなかった軽くも重い不思議な手応えに不審に思いつつも剣を引き抜いた。
木屑がバラバラと地面に落ちると同時にカツンと金属が落ちる音も聞こえる。
目線が高くなった身体では物を拾うのにも少し違和感があるが、ひょいと拾っていく。何の変哲のない金属片らしい。どこかに使われていた部品の一部だろう。
「金色か・・・」
素材が合えばレヴィンを直すのに使えるかもしれないと考えて懐に入れて動きが止まった人面樹に目を向ける。
「やっぱりここが弱点?」
もう一度上からすっと斬り裂くが、さっきよりも柔らかく感じる。
両端を掴んで開いていったほうが早いだろうか。そう考えて開いていって、中にあったのは木でもなく怪物でもなく。
「・・・人?」
・・・違う。
中にはうなだれているように入っている人。それはよく見ればあの戦いの直前に見た少女。
くすんだ淡い桃色の髪は肩口で切りそろえられ、灰色のワンピースを身に纏っている。目は覚ましそうにない。
あれだけ顔や体から木を伸ばしていたというのに今は傷一つ無く肌の色も金属色に変わっている。それが肌色ならば、人間に見えたのかもしれない。
もしかしたら、あの肌色は人間で言う皮膚だったのかもしれない。あの少女の世界はどんなだったのか少し興味が湧いたがもう会うことも無いだろう。
少女の胸元に剣を当てる。
また動いて暴れられても困る。
何でもかんでも救えるわけじゃない。守れるものには限りがあるし、こんなに暴れられた物を救おうとも思わない。
彼にも消してと言われたのだから。それは絶対に果たすべき。
そして僕は音もなく剣を振りぬいて、刺した。
金属で出来た体にしては柔らかく、脆いそれは酷く簡単に貫くことが出来た。グシュッ、と金属や布だけではあり得ない音を無視して、深く剣を突き刺した。
その衝撃でガクンと少女の頭が落ちる。何かに引っかからない内に剣を一気に引き抜くと赤い液体が辺りに飛び散った。
それは当然、正面に立っていた僕に多く掛かるわけで。
「・・・・・」
顔に掛かったものを腕で拭うと、硬めの布で出来ている騎士制服が赤茶色に染まった。これは紛れも無く血だ。
「バラしておこう」
胸を刺したって、胸には何もなくて頭に全部あれば意味が無い。彼女は人間じゃないのだから。
こういう時は何も出来ないように、パーツごとに分解して、重要なものを持っていって調べてそして他は────壊してしまおう。
潰して、投げて埋めて燃やして・・・。色んな事が浮かんで泡のように弾けて消える。
昔の僕はこんな事を考える人だっただろうか・・・。
「・・・はぁ」
ため息一つ吐いてガキンと金属らしい硬さの首を落として頭を渾身の力で踏みつけると、バキンと音がして電気がバチバチと走ったが、すぐに消えてしまった。
やはりこのアンドロイドはちぐはぐだ。柔らかいと思ったら金属のように硬く、硬いと思ったら人間のように柔らかく。
血が出るかと思いきや電気が走り、血が出て。金属が出ると思えば木が飛び出してきた。
ひと通り全身を破壊して、何となく少女の欠片を着ていた服で包んで、戦っている間は足場や隠れ場にしかならなかった祭壇へと向かう。
低い数段の階段を上って祭壇の裏へ立って今一度そこを見回してみた。
今は動かないが、あの白い綺麗な石造りの床の面影はなく、至る所に根が盛り上がり、床がが砕けている。最初は異質だったあの十字架も、今は何処にあるのか、もしかしたら巻き込まれて壊れているのかも分からない。
ふと祭壇の後ろの更に隅に目を向ける。そして何となく。何となくネジやどうでもいい金属片の欠片をざらざらと捨てた。このまま持っていても仕方がないし、そのまま野ざらしにするのもあれだから。
狂って、壊れてしまった彼女も、もしかしたら昔は幸せな人生があったのかもしれない。
僕は少女の亡骸をじっと見つめながらそんな無駄なことを考えていた。
そしてしばらくして、遠くからカンカンと何かが響く音がする。
今までの事でいっぱいいっぱいですっかり忘れていた。雪矢の大事な仲間。
「皆の所に戻ろう」
でこぼこの地面に足を取られないように駆け足で外に出る。
背中に付いている翼を使えばいいなんて思ったけれど、自分は普通の人間なのだ。出来る限りこの二本の足で歩いていきたい。
それに少し黒い翼の時の後ろめたさもあるのだ。
そんな変なことを考えながら外に出ると思ったよりも壮絶な光景が広がっていた。
「何これ?」
呆けたような声がこぼれ落ちた。
雪矢の記憶にある木で出来た木兵。恐らくあの少女が僕と戦う前に用意していたのだろうが・・・。
「流石に多すぎ・・・」
うようよと波のように群れているそれは、さっき戦ったあれとはまた別な意味で気持ち悪い。
そしてそれに立ち向かって戦っているのは見覚えのある5人の男女。紛れも無い、ユズキ達だ。あれ、スピリーツは?そう思ったが後ろのほうに金髪の女性、スピリーつが見えた。
遠くからでもしっかり聞いていたのか、青髪の女性が声を上げた。マーレだ。
「だったらっ!早くこっち来て、戦いなさいよっ!」
アンタが一番の戦力なんだから、と叫ぶのは槍を持ったマーレ。叫びながら敵を薙ぎ払っている。元気だなぁ。
「了解!」
にっと笑って加勢するために駆け出した。
そして皆の戦いを見てやっぱり一際目立つのは星武だった。
さりげなく皆のフォローに入っていたりするのだが、星武にだって結構な数の木兵が群がってる。
まぁ全て蹴散らしているので心配はなさそうだが・・・。流石にユズキやマーレ、アールにソーミィ達はキツそうだ。
僕は敵の後ろで数を減らしているスピリーツの元へ駆けつけるか迷って、敵中に突っ込むことにした。
「突っ込め!」
地面を蹴りあげ、更に翼を少し広げて速度を上げる。
ちょうど開いていた隙間に突っ込んで木兵の波に飲まれて行く。それを見たユズキが叫んでいた気がしたが、気にしない。
さっきは嫌な相手だったのだ。レヴィンも壊されて、魔法も使えないし・・・。
ああーもうっ。
「ストレス溜まるなあー・・・!」
迷惑をかけない程度に思い切り暴れてやるとそれだけで木兵は吹っ飛んで機能を停止させる。
近くに居たソーミィは荒れてるねぇ、なんて言って自らも敵中に突っ込んではふっ飛ばしていく。
「吹っ飛べ!」
ポーンと手頃な木兵をボールのように思い切り打つと、空へと飛んでいった。
遠くからスピリーツが「ホームラーン」と叫ぶとまたその方向から同じように木兵が空を飛んだ。
しばらくすると誰が一番高く飛ばせるか、多く飛ばせるかの大会になり木兵はあっという間に数を減らしたのだった。




