第59話 出発
今日もあっさりした朝食を食べ、今日こそ笛の練習をするぞと意気込んだ。
3日前は案山子と戯れ、一昨日はうっかりスピリーツに捕まって試合。
昨日はスピリーツやユズキ達の買い物の付き添い・・・もとい荷物持ち。
何だかんだで目的達成できていなかったのだ。
ユズキ達も順調だと言っているので、4日後のレクイレーチェも何とかなるだろう。
笛は昔よく吹いていたのだが、最近は全く吹いていない。
そういう事もあって、笛は新しいのに変えた。今回の笛はいつもの作業室にあった良く分からない種類の木材を使って造ってみた。
色は当然、灰色だ。あの木材は不思議で、色を塗った形跡が無いのだ。元から灰色の木なんて見たことないや。
もしかしたらレクイレーチェにあったりしてね。
そういえば・・・いや、それは今はいいか。
新しくなった笛を持ち、試しにドレミファソラシドと吹いてみる。
ホールに笛の音色が響く。澄んだ音色が出ていて問題はなさそうだ。
「レヴィン、どう?」
〈大丈夫、ですよ〉
レヴィンの声の合間合間にザザーッと不快な音がする。
「今日は特に酷そうだけど、大丈夫?」
〈そう、ですか・・・。なら、今日は少し、休ませて貰っても、いいでしょうか?〉
僕は頷きながら「勿論」と言うと、レヴィンは申し訳なさそうにしながらシャットダウン、眠りについた。
再起動まで一日。今日はレヴィンは起きてこない。
「んー・・・電波、でも無いしなぁ。劣化、にしても特に問題はないし・・データも大丈夫・・・うーん」
色んな原因と思われるモノが浮かんでは消えと繰り返し、結局「これだ」と言えるものは出なかった。
レヴィンにはノイズや途切れているという自覚が無いらしい。本当にどうしたものか・・・・。
分からない事をぐだぐだ考えてても仕方ないと思考を切り替える。
僕がいつも吹く曲はその時によって変わる。でも僕が何となく自分で即興で作ったものが多いかも。
口元まで笛を上げ、目を瞑る。手元は見えないがこの方が集中出来る。
今日は・・・
明るく、しかし派手すぎない。ルナティアで出会った一人の少女のような曲。
そしてだんだんと大人しく、暗く。尚且つ美しく。ディスティーノで別れた彼女のように。
──アンサは今、何処で何をしているのだろうか?
一度笛を口から離し、ふぅと息を吐く。
今度はどんな曲を吹こうか考えた時、何となく良さそうなモノを思いついたので、忘れないうちにと思い僕は再び笛を吹き始めた。
・
「げほっ・・・み、水・・・」
笛を吹きすぎて喉がカラカラだ。気付いたら昼になっていたようで、スピリーツにお昼だよと呼ばれてしまった。
階段を降りてスピリーツの元へ行く。今日はパンケーキか・・・とても美味しそうだけど、スピリーツに水を貰う。
「・・・マスター、集中するのも良いけど少しは休憩も挟みなさいよぉ」
「・・はい」
怒られてしまった。これからは少し気をつけるようにしよう。
ただ気をつけているだけじゃ絶対また同じことやらかしちゃうけどね。
「はい、シロップ」
「ありがと」
スピリーツにメープルシロップを貰い、パンケーキにたっぷりかける。
・・?やけに少ないな、無くなっちゃった。
「ねぇスピリーツこのしろっ・・ぷ・・・」
「ん?」
スピリーツの前にある皿には、4枚重なったパンケーキに、小さなバニラアイス。
ここまでは僕と一緒だ。
・・・しかし、それにかかっているものがちょっと。
「・・・・・」
呆然とスピリーツの前にある、バターと大量の生クリーム。そして今にも皿から溢れそうなほどのシロップ。
見ているだけで胸焼けしそうだが、スピリーツは首をかしげ、「いただきま~す」とごてごてのパンケーキを口にした。
「おいひ~!」
目をキラキラと輝かせ、パクパクと口に入れていく。
口へと運んでいく途中にもボタボタとシロップが垂れている。
・・・多少食欲が削がれてしまったが、自分も切り分けて一口食べる。
ん、美味しい。何物も程ほどが一番。絶対濃いよあれ・・・。
何とかスピリーツの前にあるブツを見ないようにして昼食を終える。
まさか残ったシロップを啜るとは・・・。
「でー?今日はどうするの?」
「そうだなぁ・・・」
特に何も考えていないのだが・・・。
暇があり過ぎても問題だねぇ。
「んー・・作戦・対策を考える、と言っても、剣で何とかなるし、姿を見ないと何とも・・・それにマスターなら何とかなっちゃうし」
「はは・・・」
苦笑いしか出ない。確かに魔法や剣で何とかならなかった事は今のところは無い。
「そういえば、最近あの子・・リーディは出ないのね。何時出てくるか分からないんでしょう?そんなんで大丈夫なの?」
「それもそっか・・・でも最近は殆ど兆候も何も無いなぁ」
戦闘中に急になられても困る。
「味方には攻撃しないように言っておこうかなぁ」
その言葉にスピリーツはピクリと眉を動かす。
「伝えられるの?」
スピリーツの言葉に頷いて返す。
「少し前からね。ただ最初は酷かったよ」
ふぅ、とため息を吐く。最初は気を抜いたら即乗っ取られていたもんだ。
ため息ついでに目を閉じてリーディに伝えようと試みる。
『リーディ』
そう心の中で呼びかけてみる。
・・
・・・
・・・・?
おかしいな、呼びかけても返事が無い。
いつもなら「何?」と返ってくるはずなのに・・・・。
こんな事は始めてだ。
彼は寝ることも出来ず、ただ僕の中で漂っている、と言っていた。
うーん・・・。
そこでずっと目を閉じている僕にスピリーツが不審に思ったのか声を掛ける。
「マスター?」
ふと目を開けると、少し心配したような顔のスピリーツが居た。
「いや、リーディからの反応が無くって」
「ううん。それはいいんだけど、ローブが・・・・」
最近所用の時以外はいつも脱いでいるローブを指す。
僕が座っている椅子の背もたれに掛けてあったそれは、胸部分が淡く光っている。
がさがさと内ポケットを探ると、一冊の本が手に当たる。
引っこ抜いてみるとやはりと言うか、あの予言が書いてあった黒い本。
スピリーツにその本を渡す。
ペラリと中を開くと、今まであった予言が書き換えられていた。
「でる、むり?これだけね。何かしら」
「それだけ?・・・あ、本当だ。文字数が少ない」
差し出された本を見る。
良く分からない文字だが、前に見たよりも明らかに文字数が少ないのがよく分かる。
いつの間にかあの謎の光は治まっている。
出る。無理・・・ねぇ。
簡単に考えると──「マスターの呼びかけにリーディが答えられないってこと?」
スピリーツがそう言葉を漏らした。
「タイミングと言葉を考えれば・・多分」
そうなんじゃないかなーとは思う。
「という事は、この本にはリーディの力が?」
「この本を初めて持ったとき、乗っ取られてたよね僕。その時に何かあった?」
そう言うとスピリーツは思い出したように早口で喋りだす。
「そういえば何かを呟いてたわ。それと持っていた本がリーディの魔力を吸い取ってたわね。
確か一般人に毛が生えたレベルまで下がってたわね」
「へぇー・・・」
「ま、細かい事は気にしないで4日後に備えましょ~」
伸びをしながらソファーへ向かうスピリーツ。
「備えるって・・・何を?」
「ごろごろする事よ!」
ぐだーっとソファーにだらしなく寝転がる。
・・・まるでニートだ」
「否定はしないけどさ。声漏れてるわよ、マスター・・・」
「おっとこれは失礼」
半分わざとである。
──今日は思う存分寝てみるのも悪くはないかな?
*
「いよいよ・・・だね」
〈マスター、くれぐれも無理はしないようにして下さい。・・・機械ながらも何か嫌な予感がします〉
「あのロボット!絶対にとっちめるんだから!!」
「はあああ・・・緊張する・・」
「シャキっとしなさいよ」
「でもまぁ、緊張してるのは私も同じだし」
「みんながいるから大丈夫だいじょお~ぶ!!何とかなるよ」
「確かに、リーディやスピリーツがいる上にユズキ達も居るんだからな」
〈それでは、皆さん準備は宜しいですか?〉
〈──では、転移陣、展開します。 転移開始します。
転移先:レクイレーチェ〉
何だかずっとだらだらしてるのもアレなので、ぎゅっと飛ばしました。
と言っても4日間だけですが。




