第58話 案山子
笛を探そうとすると、ある事に思い出す。
「そういえば剣ってどこやったっけ?」
昔訓練で使った時の剣。
あれは暇つぶし程度に作ったモノなんだけど、今からまた作るのも面倒だし、
初めて作った武器と言うこともあって多少愛着が湧いているのだ。
黒い柄と鍔に、黒と白の鞘。そして真っ白な刃。やっぱり黒と白って似合うよね。
ロングソードで大体全長80cm程。この身長だと少し長い気もするが、特に気にしてはいない。
〈剣、ですか?・・・・マスターの、部屋にありますよ〉
「僕の?・・全部僕の家なんだけど・・・寝室かな?」
〈そういえば、そうでしたね。寝室で、合ってますよ〉
「最近ちょっとノイズとか途切れが酷いね」
〈そうですか? 原因は、何なんでしょうか・・・?〉
「さぁ・・。後でもう一回調べてみようか」
〈お願いします〉
最近レヴィンが話す度にノイズが混じっている気がする。
微かなものもあれば、ジッとはっきり聞こえるときもある。
途切れはそこまで気にするものでもないけど、少し心配だ。
小さいときにある物だけで作ったから、新品かも分からなかったし、そろそろ材料が寿命だったりするのかなぁ・・・。
レヴィンは昔からの親友であり、相棒。何も無い僕にとっては掛け替えの無い者でもある。
出来れば・・いや、絶対失いたくは無い。
データ保存の為にコピーでも取っておこうかな・・・
うん。そうしよう。
そう決めたのでいつもの部屋へ向かい、机の引き出しの中にあった小さな箱から丸く青い石を取り出す。
それはレヴィンにある五つの赤い石、マジックソルチェと同じ大きさ、形のものだ。
昔はマジックソルチェを取り出す事はできなかったが、最近取り外しが出来るようにした。
・・と言っても、取れなくなったのは僕のせいでもあるし、取る事が出来るのは一個だけなんだけどね。
5つのマジックソルチェの中から一つ取り外す。そして変わりに青い石を嵌める。
これはマジックソルチェに似せたモノだ。レヴィンにはメモリーチップ等の装着口も無いので、代わりにこれを作ったのだ。
「レヴィン。これにデータコピーお願い」
〈畏まりました。・・地味に、初めての使用ですね〉
「うん・・・作ったは良いけど、使う所も無かったし」
結構大きさとか形を作るのに苦労したんだけどなぁ・・・。
ここまでキッチリ正確に作らないと駄目だなんて・・あの時の集中力は凄かったと思う。
後半殆ど覚えて無いから。
〈それも、そうですね・・っと。マスター、終了しました〉
「あれ、もう終わった?」
結構アッサリしていた。僕が思っていたのとは少し違ってたみたい。
「じゃあ、戻すね」
青い石を取り、再びマジックソルチェへ戻す。
その青い石は失くしたりしないように、小さな箱の中に入れて、机の引き出しに仕舞う。
〈ただ、そのデータは先程までのデータに、なっていますので、
小まめに保存した方が、宜しいかと〉
そっか。いざ使おうとした時に、記憶・・というよりデータに誤差が生じちゃうのか。
まぁ、一日単位とか、一週間毎くらいで大丈夫でしょ。
──っと、そうそう。剣、剣。
僕は部屋を後にして、寝室へ向かう。
確かに使ってる部屋って殆どあそことさっきの所だもんねぇ。
寝室に着いてすぐにウロウロと目当てのものを探し始めるが、中々見つからない。
〈あの、マスター・・・。 そこの、ベッドの脇に、ありますよ?〉
えっ
レヴィンに言われて振り返ると、空気のように存在感が無い剣が立てかけられていた。
その黒と白の鞘に、レヴィンの赤い光が虚しく映っていた。
「・・・・・うん、レヴィン。ありがとう・・・」
何だか僕も凄く虚しくなった。
一通り落ち込んでスッキリした後、閉めたカーテンから外をのぞいてみる。
「結構曇ってるなぁ」
そろそろ雨でも降りそうだ。 暗いからあんまり分からないけど。
「えぇと、今は・・・21時か。少し剣の手入れでもして置かないと」
剣を取り、鞘を抜き、ローブから布を取り出す。
んー、パッと見た感じはそんなに傷も付いて無いけど・・・
よく見ると傷が見つかった。少しだから問題は無いだろうけど。
試作品だったけど・・・まぁ何とかなるかな。レヴィンだって今も何とかなってるし。
布でキュッと一拭き。小さな傷が全て消えている。
ん、上手く出来たみたい。 この布は魔力で作ったモノだ。一拭きで布の魔力がコーティングされ、強度や切れ味が増す。
よっぽど傷や刃こぼれが酷くない限りはね。
露骨なヒビが入ったものは流石に難しいと思う。素直に変えたほうがいいと思うな。
もう一度よく見回す。大丈夫そうだね。
「どこか広い部屋って無かったっけ・・・・」
ぼそりと呟く。 少し剣にも触れておかないとね。
何か練習室として使えそうな場所って無いかなぁ・・
レヴィンがいつものようにピピッと音を鳴らす。
〈そういう事は私に、お任せください! 3階のホール、なんていかがでしょうか?〉
「そういえば3階あったね」
〈まぁ分かりづらいですもんね、階段の場所〉
そういえばこの家は3階建てだった。3階は一室しかなく、3階全てがホール、何も無い。
でも一回も使った事は無い。 天井もそれなりに高い・・・はずだし、大丈夫でしょ。
寝室から出ようとして、剣を忘れていたことに気付き慌てて剣を持つ。
「・・っと。案内お願い、レヴィン」
〈畏まりました〉
腕時計を見るように腕を胸元に出すと、ローブ越しから赤い光が床を照らした。
これに沿っていけば着くだろう。
歩き出そうとするとレヴィンが、
〈あ、ごめんなさい。マスター、そっちじゃありません。逆です。逆〉
「うぇ?あ、ありがと」
ふと前を見ると、その先は行き止まり。・・・・まちがうことなんてたくさんあるよねー。
・・ふぅ。
レヴィンの案内に従いながら進んでいく。どうしてもリビングを通る事になるので、テレビを見ていたスピリーツに遭遇する。
「あれ、マスターどうしたの?」
無地の白いTシャツと、いつ買ったのか、半ズボンジャージをだらしなく着ている。
その手には煎餅が握られている。
金髪と青の瞳を持った美しい美女が、テレビを見ながらバリバリと煎餅を食べている。
なんておっさんな・・・・。
「いや、ちょっと3階に行こうと思って」
「へぇ。ここ3階あったんだぁ」
バリバリと煎餅を食べながら、いやらしい単語が飛び交い始めたテレビのチャンネルを替える。
スピリーツもこういうのはあまり好きじゃないようだ。
よし、そろそろ行こう。
まずはリビングの先の階段を上る。2階はスピリーツの部屋の一室以外、空き部屋。
家具類は結構あったけど、めぼしい物はなかった。
奥へと進んでいくと、隠れているかのようにひっそりと上へ続く階段が見えた。
〈この上、ですね〉
「ありがとう」
レヴィンは「どういたしまして」と返すと、赤い光を消した。
物々しい雰囲気を漂わせてるが、いたって普通の階段。
端っこにあるせいなのか、電気の光が届かないのか、真っ暗だ。
この階段だけは古いのか、そういう造りなのか、一段上がるたびにギシ、ミシ・・と軋む音がする。
階段を上がりきると、数歩先に一枚の扉。迷わず扉を開くと、そこにはとても広いホールになっていた。
パーティー用のホールだったのか、上を見ると高価そうなシャンデリアが3つ。
キレイだとは思うけど、普通の蛍光灯でもいいんじゃないかなぁ・・・学校にあるようなやつ。
〈それで、どうします?〉
「んー・・・適当に傷が付かないように部屋を囲って、そして適当な強さの案山子かなにかがいいかな」
〈こんな感じで、宜しいですか?〉
部屋全体に結界が張られ、床からは魔力で出来た案山子が5体生え出て来た。大きさは僕と同じ位かそれより上。
何の変哲も無い案山子だが、結構な堅さだろう。
ま、軽くやりますか。
剣を鞘から抜いて、鞘を後ろへと投げる。後ろからカランカランと鞘が転がる音がした。
その音が止むと同時に剣を構え、走り出す。
そのまま目の前に居た案山子を横にバッサリと切る。切れた藁がハラハラと落ちていくと、案山子は沈み込むように消えてしまった。
僕は気にせず右に居た案山子も切る。後ろに気配を感じたので、振り返り様に剣を振るうと、やはり案山子が迫っていて、真っ二つになっていた。
これで3体・・・後2体。ちょうどホール中央に僕は居る。周りを確認すると、左奥と右後ろに1体ずつ。不規則な動きで徐々に此方へ攻めてきている。
少し遠い左奥の案山子を睨む。部屋の中はとても静かで、コンコンと1体の案山子が近づいてくる。
右後ろを振り返る時、視界の端に崩れ落ちる何かが見えた気がした。
「んー・・・もうちょっとこう、強いのが良いな」
思ったよりも近くまで来ていた最後の案山子を斜めに切る。
ずるりと案山子が二つにずれていき、床に落ちる前に消え去った。
〈そうですね・・・もう少し量多くしましょうか〉
「後攻撃するようにしておいて」
〈あ、はい〉
案山子がまた薄っすらと生え出てきたと思ったら、僕の言葉を聞き慌てたように案山子は消え、また新たに数十体の案山子が現れた。
先ほどと形は変わっていないが、案山子一体一体に魔力が感じられた。
それと同時位に、・・・・21体の案山子達が一斉に魔力で造った弾を打ち出してきた。
案山子達に込められている魔力の量が余り多くない為、その弾はとても小さいものだった。
だけど、幾ら小さいとはいえ、前後左右全てから結構なスピードで21の弾が来るのだ。
上にジャンプ、もしくはしゃがめば避けれるかもしれないが、恐らく追尾してくるだろう。
当たっても大したダメージにはならないだろうけど、攻撃は出来るだけ避けたい。
・・・しかし、周りをぐるっと囲まれた状態で、その輪にはもう隙間が見当たらない。
ここは飛ぶしかない。そう思って床を蹴り飛び上がった所で弾同士がぶつかる音がした。
戸惑わずにそのまま前へ進む。後ろから弾同士がくっ付いて大きくなった弾が追いかけてくる音がする。
先ほどよりもそんなに早くなく、これなら簡単に避けれそうだ。
目の前には壁。僕はそのまま身体を壁に足を向けるようにして進む。
壁に足が付いた所で、僕はそのまま走り出す。壁走りだ。
ちょうど良く目の前に案山子が居たので、衝突寸前の所でそのままジャンプをするように避ける。
精度が悪く、そのまま案山子に当たるかと思ったが、結構精度が良いらしく、弾が5つに分裂して各方向に避けていった。
結局案山子には当たらず、カツンと此方を向いた。
「ちっ」
つい舌打ちをしてしまう。結構面倒臭いなぁ・・。
しかも分裂したからか、最初よりも劣るものの、結構避けるのが面倒くさくなっている。
んん・・・避けずに受け止めたり打ち消したり。そのまま受けてたりしてた事が多かったからかな・・・回避するのが面倒だ。
しかし一週間後のレクイレーチェでは、何があるか分からないしね・・・あれ、剣の練習っていうよりも、普通の特訓になってる。
まぁいいや。
何とかかわしながら順調に案山子を切っていく。
「ふっ!」
5つの弾の内1つに追いつかれて、当たる前に後ろを向いて横になぎ払うように剣を振るった。
ボールのようにぐにんとへこみながらも、弾を真っ二つにできた。
てっきりそのまま向かってくるかと思っていたのだが、そのまま空気のように消えてしまった。
んー・・もしかして剣にコーティングした魔力と反応して打ち消したかな。
魔法はそれよりも強い魔法、もしくは魔力で打ち消す事が出来る・・・と思ってる。
そうと分かればさっさと弾を打ち消す・・・!1、2、3・・・4!
よし。これで全部。残った案山子もさっさと・・・・!?
「げぇっ!!」
すっかり油断していた。
いつの間にかレヴィンは魔力を持たない・・先ほどのような案山子を大量に量産していたのだ。
前から後ろから山のように案山子案山子案山子!!
ぐらりと壁が倒れるように押し寄せてくる案山子達。
横に・・右は壁か。幸い左の方が空いていたので抜け出す。
山積みになった案山子達。一度倒れたらすぐには襲ってこないだろう。僕は剣に魔力を流し込む。
魔力は一点にぎゅうっっと凝縮される。プラスチックのように薄っすらと魔力が見える。
これで片手剣が両手剣よりも長い剣になった・・・はず。上手くいっていれば、剣の長さの制限が無くなったと言っても良いだろう。
「せええぇいっ!!」
重さは余り変わっていないが、気分として声を出し、その長い剣を振り回す。
案山子の山をまず纏めて横に切る。すると切った部分の案山子が消え、上にいた案山子が下の案山子の上に落ちてくる。
気分はだるま落としだ。
後は斜めに切ったり縦に切ったりと遊んでいたら、いつの間にか案山子の山は無くなり、残ったのは1体の案山子のみ。
魔力で出来た長い刃も消し、元の長さに戻す。
残った案山子は起き上がり、困ったように左右を確認している。仲間が居ないか探しているのだろう。
「ファイア!」
魔法陣が一瞬だけ足元で光り、剣に炎が点く。
声や魔法陣を出す意味は本当は無いのだが、黙っていてもつまらない。
案山子は怯えたように後ろに下がっていくが、そこは壁。
「っどーん!!」
僕は思いっきり案山子の胸を突いた。案山子は燃え上がり、ボロボロと崩れて消えてしまった。
「ふー・・・レヴィン、結構性格悪い?」
汗を拭うように額に腕を当てる。
〈何のことでしょうか〉
レヴィンは機械らしく棒読みで答えた。何故かいつも聞こえるノイズが一切聞こえなかった。
・・・結構性格悪い。
「こんなもんでいっかな・・・」
一番最初の目的である笛もといオカリナを吹こうかと思ったが、レヴィンに〈もう22時ですよ〉と言われ、今日は諦める事にした。
やろうと思えば出来るのだが、最近はレヴィンやスピリーツに「早く寝て早く起きろ」と言われているのだ。
レヴィンはともかく、スピリーツに見つかると面倒くさい。今日は大人しく寝ることにした。




