第50話 実行
ユズキとマーレが此処に来てから3日経った。
今僕の目の前には、星武が立っていた。
「望月雪矢。 死刑執行の為、来てもらう」
彼はとても冷たい顔でそう言った。
流石。普通の職員が見たら顔真っ青になるかも。
そして星武は、牢の鍵を開け、扉を開くと、直ぐに僕の手に
手錠を掛け、繋がっている鎖を引っ張り、星武が牢から出ようとする。
引っ張られて僕もその後を歩いていく。
そこには知り合いとしての情も何も無かった。
まあ実際付き合い殆ど無いし、仕方ないのかも知れないけど。
暗い廊下をただ無言で歩いていく僕と星武の二人。
足は自由だから、結構何とでもなるんだけど、する気もないし、
やってもできる気はしない。
隙がどこにも無いのも流石だよ。
「転生者」なだけあるね。
あっ、そういえば星武って転生者だった。
違和感が無いからすっかり忘れてたよ。
この世界、物語から造られたのか、それとも別な世界で物語を造られたのか。
まあどっちでもいいや、現実に変わりは無いし。
「着いたぞ。 中に入れば、目と口、耳が塞がれる。最後に言う事は無いか?」
前には大きく頑丈そうな金属で出来た扉が、徐々に開いていく。
星武はいつの間にか後ろへ移動していた。
最後に言う事・・・ね。
じゃあ犯罪者らしく・・・・
星武の方をくるりと振り返って、
「アハハッ。もうちょっと、殺したかった!」
ニッコリと笑って見せた。
多分その顔は酷く歪んでいただろう。
それを見た星武は、呆れたような顔をしている。
・・まあ呆れられるとは思ってたけど、そこまで露骨に呆れられるとは思ってなかったよ。
星武が「行くぞ」と言うと、後ろから押されて前に歩き出す。
丁度ガコンと扉が開ききる。
部屋に入ると、凄い勢いで扉が閉まった。
よく壊れないよねぇ・・・
すると目を布で塞がれ、耳にヘッドフォンの様なもの、口には布を噛ませられた。
これで何も分からない・・か
確かにちょっと怖いね。何も聞こえないし何も見えない、何も言う事が出来ないなんて。
少し歩いていくと、背中をグイと下へと押される。
多分跪けとか、伏せろみたいな感じだと思う。
僕は素直に伏せる。
首の部分にはちょうど、粗末な木で出来た少し厚い板が置いてあった。
するとカチンと首輪が外される。
そして何か首に当たる。同じような木の板。
カッチリ固定されているようで、少し息苦しい。
これは動けないなぁ。
何となく察しては居たけど・・・
これ、断頭台・・・だよね。
すっと気配が遠のく。
多分星武が僕から離れたのだろう。
そして新たに数人が入ってきた・・と思う
うーん、マリオネットの魔力が尽きたかなぁ・・・
一般人レベルでしか感じられないや。
でも僕の勘だと、ユズキと、アール・・いや、ソーミィかな。
突然するりと何かが身体に入り込み、力が湧いてくる。
多分魔力を貰ったのだろう。
いくら死体といっても、すぐに魔力は消えない。
魔力が空っぽだったら怪しまれるからだろう。
何分くらい経っただろうか?
布越しなはずなのに、全く聞こえず、光さえ感じられない。
コーティングされてるのかな。
そのせいで時間の感覚が狂っていく。
その時、ガタンと首元が揺れる。
断頭台が揺れたのだ。 何か動きがありそうだ。
数秒後、何かが首に突き刺さり、そのまま
僕の 首を 落とした。
そこで視界が真っ赤になり、プツンと途切れる。
ハッと目を開けると、そこには知っている天井。
3日ぶりに戻ったなぁ。
「ハァ・・・ やっぱり普通が一番だなぁ」
僕は、他の人から見れば普通じゃないけど、僕にはこれが普通。
「でもこれで、いいかな」
〈お疲れ様です〉
突然奥からゴゴゴンと連続して鈍い音がする。
「何!?」
「あれは・・多分、スピリーツが居る場所のハズ。 どう思う?」
〈間違いなく、スピリーツさんでしょう。 本でも、落としたんじゃないでしょうか〉
あぁ・・成る程・・・・。
「あれ?レヴィン、少し途切れ途切れが多くなったけど、大丈夫?」
そこまでプツプツという訳でもないが、読点が少し多い気がする。
〈いえ、全く問題ありませんよ〉
「そう?」
とりあえずスピリーツの元へ行こうと、リビングを出る。
先に図書室へ向かったが、人の気配がしなかったので、魔導書室へ行く。
「さて・・・。 スピリーツ、さっきの音、大丈夫だった?」
「あっごめんなさいマスター。ちょっと読みたい本を積んで歩いてたら崩れちゃって」
スピリーツが指差す先にあった物は、何列かに分けて積み重なれた魔導書達。
しかしその量が尋常じゃない。
魔導書タワーが1、2、3、4・・・・
10!?
えっと、5冊づつだから・・50冊かぁ・・・
「これで最後なんだけど・・・あ、気になるものがあるの。
これ何だけど・・・魔力反応が無くて、魔力を流し込んでもダメ。
中は全部白紙なのよ。 魔導書であるのは間違いない筈なんだけど・・・・」
そう言って取り出したのは一冊の灰色の本。
僕が着ているローブよりも黒っぽくて、表紙と思われる白い逆十字が描かれている。
スピリーツから受け取って、裏を見てみると、小さめに白い剣が書いてあった。
何だろう。
「何か禍々しい雰囲気だね」
「そうなのよ・・・。 何か、何かに似ているのだけれど思い出せないわ」
うーん、と首を傾げ、頬に手を当てるスピリーツ。
視界が突然ぼんやりとし始める。
やがて何も見えなくなり、真っ暗になる。
そこで意識は途切れた───
目の前には、光の無い濁った目をしたリーディがその場に立っていた。
──その眼は悲しみに埋まっていた。
~ユズキSide~
「へううううぅ・・・」
私は間抜けな声を出しながら机に突っ伏する。
「間抜けよ。ユズキ」
「どぅあってぇ・・・ あんなにリアルだなんて思わなかったんだもん!!」
マーレちゃんに涙目で訴える。
最後まで私はヒモ役を渋っていたが、覚悟を決めて実行した!はいいけど・・
「まさかあんなに返り血浴びるなんて思わなかったよ!」
「臭かったしベトベトだったし大変だったわね。 音もそっくりだったんでしょう?
それに星武が上に報告してソーミィが嬉々として死体を塵にしてたからもう終わりよ」
そうだけど・・・
「うう。まだちょっと臭い」
「この期に髪の毛少し切ったら?」
むっ。
「それはダメ!サラサラなロングヘアーは私のチャームポイントなんだから!!」
「はいはい」
軽く流された。
「お茶入れてきたよー ・・あれ、またユズキショボくれてる。今日何度目?」
アールちゃんまで・・・
「何でアールちゃんはそんなに平気なの!?ソーミィちゃんに気使って血を綺麗に洗ってたのに!!
死体に触れたりしてたじゃん!」
そうだよ。
アールちゃんは死体に触って水で血を流したりしてた!
一番近くで死体を見てた筈なのに・・・
「小さい頃から慣れてるからね。 まぁ、これでも飲んでスッキリしなよ」
目の前に置かれたマグカップ。
あ、この臭いホットミルクだ
「それがいいって」
「ふぅ・・・俺にもくれないか? 上の奴ら面倒くさいの何の」
ソーミィちゃんと星武君が私と向かい側のソファーに座る。
「全員分作ってあるから。 ほら、マーレも座って座って」
「そうね。 少し休憩しましょ」
マーレちゃんは私の横に、アールちゃんはお盆を持ってソーミィちゃんの隣に。
「マーレは紅茶。ソーミィはココア、星武はコーヒー。あ、ブラックね。
ユズキは・・・まぁ、分かってると思うけど、ホットミルク」
アールちゃんはそれぞれの前にカップを置く。
「ユズキの嗅覚って犬並みだからな」
「星武君!!」
「ハハハハ、冗談だって冗談!!」
もう!
ホットミルクを一口飲む。
「美味しい」
「あ、クッキー作ってきたんだ。食うか?」
「食べる食べる!星武って男の癖に料理凄い美味しいんだもん」
「上手いもんは好きだからな」
ごそごそとポケットから取り出したのは、袋いっぱいに詰められたクッキー。
甘さ控えめクッキーが丁度良くて美味しいんだよねー
「ユズキも少しは料理を覚えなさいよ」
「う、マーレちゃん・・・ だったら教えてよぉ」
「嫌よ。 死にたくないわ」
「酷いっ」
ううっ・・・
料理が壊滅的にダメなのは私も知ってるんだけど・・・
「何だろうな、あの味。 何て表現したらいいのか困るが兎に角クソ不味い」
「本当にね。 ほら、星武に教えてもらったらいいじゃん」
星武君とアールちゃんはモグモグとクッキーを食べている。
「私もっかい食べてみたいなーユズキの手料理」
ゴクリとココアを飲んで、テーブルにカップを置いたソーミィちゃんはそう呟いた。
『嘘ぉっ!?』
「何か・・・癖になる味じゃん」
ソーミィちゃんの言葉に戦慄が走る私たち。
「今度作って見ようかな」
「ならお前まずはクッキー作りな。 包丁なんて危なっかしくて見てられん」
「はーい」
後日、星武君に教えられクッキーを作って見た。
卵ってレンジにいれちゃダメなんだね!
後、甘さ控えめだからって塩は大量に入れちゃダメみたい。
・・砂糖はあんなにあるんだからその位入れてもいいんじゃないの?




