第45話 運命-再開
「・・・う、ゲホッ!!」
目が覚めると、水の中では無く、地面の上に寝ていた。
今は夜のようで辺りは暗く、ちょうど真上には三日月が輝いていた。
「ゲホ・・」
水の中に入っちゃったから水飲み込んじゃったかな・・・
うえぇ・・
あれ?
何で僕はここに居るんだろう?
川に落ちた筈なんだけど・・・・・
それに、毛布が掛かってる。
此処は崖の上・・だよね?
レヴィンは・・再起動中だし・・・
再起動に丸1日掛かるのをどうにかしたいなぁ・・今度のメンテナンスでちょっと弄ってみようかな?
僕は起き上がり、辺りを見回す。
「・・起きた?」
!
誰か居る!
この位置からちょうど見えない所から人が来た。
・・もしかしてこの人が助けてくれたのかな?
「警戒すると思って。 ここじゃ暗いからこっちに・・」
その人はくるりと元来た場所へと戻っていく。
暗くて顔はよく見えないけど・・・声は女の人だね。
まぁ危なければ殺ればいっか。
僕は起き上がるが、いつもより体の動きが鈍い。
ずっと寝てたからかな?
僕はさっきの人が入っていった場所に向かう。
そこは火が点いていて明るかった。
焚き火かぁ・・
何かキャンプでもしてる見たい。
「その辺、座って」
さっきの人に言われ、その人の焚き火を挟んだ向かい側に座る。
その人は暗くて見えなかったけど、かなりの美人だ。
長い金の髪、火で少し赤い、澄んだ青の目。橙色の質素なワンピース。
昼とかに見たらもっと綺麗なんだろうな。
・・あれ。この組み合わせ、エアリのお店にあった人形と同じ・・・
「あっ!」
すっかり忘れてた!!
ま、魔導書! どこに行った?
「魔導書なら心配しないで」
何で魔導書の事を・・・?
怪しい・・
僕はいつでも戦えるように身構える。
「・・無理しないで」
う・・
確かに僕は少し無理をしている。
風邪でも引いたかな?
僕は大人しく座っている事にした。
「あなたは?」
「・・・・」
無反応・・・
「私は、スピリーツ。 神の魔導書」
「え?あの魔導書?」
「そうよ。 少し油断したら本体から魂を離されちゃって」
そうなんだ・・・
神の魔導書か・・神って位だから、やっぱり人化も出来るよね。
「それで、そっちは? 私が名前教えたんだから、教えてくれるでしょう?」
あ、それもそっか。
「僕の名前は望月雪矢。 それで、スピリーツはどうするの?」
「んー、アナタに着いて行こうかしら。アイツにお返しもしたいしね」
うわ・・ドス黒いオーラが・・・
「それじゃ、宜しくね。マスター」
「僕がマスター?!」
スピリーツはウィンクして言った。
「そ、頑張りましょ」
まぁ、いっか。
「そういえば、魂って言ってたけど・・魂って?」
「あ、それね。魔導書は魔力がある事が前提。そしてその魔力を創るのが、魔導書の魂よ。
魂は魔導書それぞれ、全部違うわ。形は無い、光の珠よ。その光の大きさ、色が違うの。
まぁ普通の魔導書は魂と言っても、機械ね。感情が無いから。
私はその魂を離され、何か・・魔法で造られた猫、かしら?それに移されちゃって」
「おまけに記憶まで封じられてた見たいだから、動けなかったのよねぇ」とため息を吐く。
「大変だったんだね」
「えぇ。何とかマスターのお陰で元に戻れたわ。 私の魔力はタダでさえ尋常じゃない量なのに、
活動再開までの魔力はそれの1.5倍よ。多分並の魔導士3,4万人分位あるんじゃないかしら?」
こんな一気に魔力を使うことってあんまり無いからなぁ・・・
「うわぁ・・・通りで疲れた訳だ」
「さすが底無し魔力のマスターね」
「別に好きで底無しになったわけじゃないよ・・・」
ふぅ、と息を吐くと、同時に僕、雪矢の意識も抜けていった。
「スピリーツ・・!」
長い翼を折り畳み、焚き火を飛び越えてスピリーツの元へと駆け寄る。
「!」
リーディはボロボロと大粒の涙を流した。
「生きてて・・・良かったっ・・・」
「・・・リーディ」
スピリーツも涙を流している。
「良かった・・・!」
リーディはボロボロと溢れる涙を拭い、蹲る。
スピリーツはそんなリーディの背中を摩る。
「リーディ・・・ごめん」
「スピリーツが・・・生きていてくれただけで・・いい・・っ」
「そんな。・・・・私、人間じゃないのよ?」
リーディは顔を上げた。
「人間だろうが、そうじゃなかろうが、スピリーツはスピリーツだよ。
本当にっ、生きてて・・良かった・・・」
リーディはふらりと倒れ、翼は消えたが、目覚める事は無かった。
しかしリーディ・・雪矢はすやすやと寝息を立てていた。
「・・・少し、魔力を使いすぎたわね。もう少し、休んで。
リーディ、ありがと」
そう言うと、焚き火の火は消え、スピリーツの姿は薄くなっていき、魔導書へと変わった。




