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<スカスカ> (:D)  作者: 連星霊
1-1 余拍【on the 0th beat】
3/13

第3話【結成】

 洗い合いっこでそこそこ時間が溶けていたため、洗濯は乾燥含め終わっていた。


 緋は蒼の部屋着を貸してもらい、それを着る。ELLEGARDENのバンドTシャツだった。


「蒼、そういえば昔からエルレ好きだったよね」

「ええ。まあ、お母さんが好きだったのを私も聴いてた、ってだけなんだけど。……でも好きよ」

「今もまだ聴くの?」

「ええ。音楽の趣味は変わらないわ。貴女と細美さんだけ」

「大変恐れ多い……」

「お世辞じゃないわよ。貴女の歌に惹かれたのは事実なんだから」

「会ったときの話?」

「そうよ。保育所の部屋の隅っこで貴女が歌っていた」

「蒼が寄ってきてくれたんだよね」

「でも、私はいつまでたっても話しかけられなくて。最初に話しかけてくれたのは貴女だった。……すごく可愛かったわ」

「もう。……あの時の私が死ぬほど緊張してたこと知らないでしょ」

「すごく可愛かった」

「……」


 蒼に何度も可愛いと言われ、緋は照れくさそうに目をキョロキョロさせた。


「……さ、夜ご飯にしましょ。本当はできたてを食べさせてあげたいんだけど、残り物とインスタントでもいいかしら」

「いいよ。ごはんまでごちそうになっちゃって悪いね」

「いいのよ。貴女といられることが何よりうれしいの」

「ありがと。手伝えることがあったら言ってよ。手伝うから」

「ありがとう」


 ふたりで準備を進める。

 蒼が冷蔵庫から取り出したタッパーの中身の唐揚げを皿に盛り付け、電子レンジで加熱。ご飯も同様。インスタントの味噌汁は熱湯を注いで出来上がりだ。


「すぐできたね」

「ええ。いただきましょ」

「うん。いただきます」


 ふたりで食卓を囲み、手を合わせる。


「おいしい」

「おいしい?よかった」


 残り物とインスタントでも十分美味しい。緋はすぐに平らげてしまった。


「ご馳走様でした」

「お粗末様でした」


 蒼も少し遅れて完食し、ふたりは食器を片付ける。


「私が洗うから、緋はゆっくりしてて」

「いいの?」

「ええ。たった2人分だしすぐ終わるわ」

「わかった」


 緋はダイニングキッチンの前にある畳の部屋へ行くと、座布団の上に座る。


「……あ、そうだ携帯」


 蒼と会えたことが嬉しすぎて、全く触っていなかった。

 上着のポケットから携帯を取り出し、画面を付ける。すると、LINEのメッセージが何通か来ていた。


「…………」


 送り主は、『あかね』。緋の母だった。


『どこにいるの?』

『帰り遅くなる?』

『不在着信』

『返事して』

『不在着信』

『不在着信』

『不在着信』

『お願い』


「……なんなの今更。母親ぶっても遅いんだから」


 緋は『天気悪いから友達の家に泊まることにした』とだけ伝え、携帯の電源を切った。


「はぁ……」


 緋は大きくため息をついた。


 するとそこへ、皿洗いを終えた蒼が戻ってきた。


「……疲れた?」

「……まあ、うん」

「……もう9時半だものね」

「え、もうそんな時間?」


 緋は壁にかけてある時計を見た。確かに、時計は9時30分を指していた。


「……時間気にしてなかった」

「仕方ないわ。私もさっき皿洗い中に気づいたんだもの。……楽しい時間って、一瞬で過ぎていくわね」

「だね。……もっと蒼といたい」

「これからもいられるわよ。そのための約束でしょ」

「うん」

「……少しゆっくりしたら、歯を磨いて寝ましょ」

「うん」



◇◇◇



 玄関から見えていた階段から2階へと上がり、すぐ右の部屋が蒼の部屋だった。


「入って」

「ん」


 蒼の部屋は、あまり物が置かれておらずシンプルだった。目立った家具はベッドと勉強机くらい。棚もスカスカで、ELLEGARDENのアルバムが飾ってあるくらい。しかしそんな部屋で、すみの方ではなく絨毯じゅうたんのすぐ横の手に取りやすい位置に置かれたベースが存在感を放っていた。ブルーメタリックカラーの、ジャズベースタイプのエレキベースだった。


「え、蒼のベース?」

「ええ。驚いた?」

「うん。ベース……蒼にピッタリだと思う」

「そう?ありがとう。とはいっても、部屋でひとりで弾いてるだけなんだけど」

「それでも、かっこいい。……ねぇ、なんか弾いてよ」

「ルート弾きしかできないわよ?」

「十分だよ」

「……そうね。じゃあ、少しだけ」


 蒼はジャズベースを手に取り、ストラップを肩にかける。ストラップはかなり長く、ベースのボディは太もものあたりに位置していた。

 シールドでアンプと繋ぎ、アンプの電源を入れる。ヘッドにくっ付けてあるチューナーを見ながら、4本ある弦を順番にチューニングしていく。


「……」


 蒼は目を閉じ、だらんと下げた右手の細い指で弦を弾く。

 中指と人差し指を使う、シンプルなルート弾きで、A、D、Eを中心とした8ビートを刻む。

 疾走感とメロディアスさを両立したベースライン。


 心臓にまで響く低音。ただ、優しい音色。


 優しく寄り添ってくれるような、そんな音色。


 時々入る細かいフィルイン。


 指弾きでは難易度が高めな高速刻みをもやってのけ、そして全体を通して勢いを保ちながら、最後まで正確に弾ききってみせた。


「……どう?」


「上手い!蒼凄いよ!?」


「そんな褒められると少し照れるわね。……さ、もう寝ましょ」


 蒼はアンプの電源を切り、シールドを外しジャズベースをスタンドに置く。


「……少し狭いかもしれないけど、一緒に寝ましょ。先に入って。私は明かり消すから」

「うん」


 緋は蒼のベッドに上がる。

 蒼の匂いがする。


 部屋の照明が落とされ、そこへ蒼もやってきた。


「……やっぱり少し狭いわね」

「いいよ。……くっつけばいい」

「……ええ」


 ふたりで向かい合って布団に潜る。緋は蒼の胸の中へ。


「……あったかい」

「ええ」


 蒼に抱きしめられた緋は、その体温を全身で感じていた。



「……あのさ、蒼」

「なに?緋」


 緋は囁き声で蒼に話しかけ、蒼も囁き声で返した。


「蒼は、夢ってある?」


「……そうね。貴女とずっと一緒にいること。これだけ」


「そっか。……私はさ。……もちろん蒼と一緒にいたいって気持ちもあるんだけど、もうひとつ。スターになりたいって夢があって」


「だから、シンガーソングライターに?」


「うん。……だけど、やっぱり少し難しくて。私ひとりじゃ、ちょっと辛くて」


「緋……」


「だから……だからね?……もしよかったら、私と……バンド……組んでくれないかな」


「……バンド……?」


「うん。私ひとりじゃ正直きつい。けど、蒼と一緒なら……。……蒼のベース、趣味で終わらせるのはもったいないよ。……それにさ。約束のことも……バンドで叶えようよ。高校も、その先……仕事も。同じにして、ずっと一緒にいようって約束。バンドなら、ずっと一緒にいられる」


「…………」


 蒼の抱きしめる手に、少し力が入った。


「……そうね。いいわよ。やりましょ、バンド」


「ほんと……!?」


「ええ。他にやりたいことも無いし。それに、緋からの誘いだもの。断るなんて、そんなこと、絶対にしちゃいけないわ」


「蒼……!」


「……貴女がいてくれさえすれば、私は何だってできる。私からもお願いするわ。貴女の隣でベースを弾かせてくれないかしら」


「うん。ありがとう。……これからもよろしく、蒼っ」

「ええ。よろしく、緋……」


 ふたりは、お互いに強く抱き締め合った。


「じゃぁ……おやすみ、緋」

「ん。……おやすみ、蒼」


 そして誘われてゆく。


 温かいまどろみの中へ。




……To be continued

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