表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<スカスカ> (:D)  作者: 連星霊
1-1 余拍【on the 0th beat】
4/13

第4話【余拍】

 カーテンの隙間から僅かな光が部屋に射し込んでいた。


 今現在7時30分を指している時計の秒針が動く音と、ふたりの少女の寝息が、静かにビートを刻んでいる。


「……ん……」


 最初に目覚めたのは蒼だった。

 蒼は小さくうめきながら緋を抱きしめ、布団に引き摺り込む。


 そしてそこから1時間近く経ってから、緋も目を覚ました。


「おはよう、緋」

「……ぁぉぃ……」


 蒼のおはように、緋は本当に小さな掠れた声で反応した。


「まだ眠たい?」

「……ぅぅ…」

「……可愛い。寝てていいわよ。土曜日だもの」


 そこから緋がちゃんと起きるまでには約30分かかり、その間、蒼は緋を撫で続けた。




◇◇◇




 起きて顔を洗い、緋と蒼は遅い朝食。


 冷凍されていたご飯を電子レンジで解凍し茶碗に盛り、お茶漬けの素をかけ、やかんで沸かしていた熱湯を注げば完成。


「ごめんなさい、簡単なものしか用意できなくて。食材を使い切ってたところなのよ」

「いいよ。お茶漬け好きだし。それに、蒼に文句とか言えないよ」

「ありがとう。……いただきます」

「ん。いただきます」


 ふぅーっと息を吹きかけて冷ましながら口に運ぶ。


「……ん」

 美味しさに口角が上がる。

 緋はしばらくは少しづつ口に運び、ある程度食べやすい温かさになるとかき込んだ。


「ご馳走様でした」

「ええ。足りなくなかった?大丈夫?」

「大丈夫。ありがとう」


 2人とも食べ終え、茶碗を流しへ。


「私が洗うわ。緋は好きにしてて」

「ん。ありがとう」


 とりあえず歯を磨くことにした。



◇◇◇



「……ねぇ緋」

「んゅ?」


 緋がリビングに戻ると、蒼が両手の指を合わせながら寄ってきた。


「なに?」

「……これからも、一緒に暮らさない?」

「……ここで?」

「ええ」


 緋は少し考えようと間を置いたが、結局即決だった。


「……うん。わかった。一緒に暮らそう、蒼」

「本当!?ありがとう!嬉しい……」

「私も嬉しい。蒼が誘ってくれて。……でもそうだな……一旦荷物取りに家帰らないと。着替えとかも必要だし」

「そうよね」




◇◇◇




 県境を跨ぎ相模原へ。

 都市部からは少し外れた所に、かなり大きな家があった。敷地は塀に囲まれており、鉄の門の先に少しの通路を経て玄関がある。


「ここが緋の家?」

「うん。……音立てずにね」


 門の鍵を開け、緋は蒼と共にそっと中へ入る。

 玄関の鍵は空いていた。できるだけゆっくり扉を開く。靴は、女物のブーツやスニーカーがあるだけ。


「お父さんはいないみたいだけど、お母さんはいるっぽい」


 緋は囁き声で蒼に伝えた。


「……多分部屋にいると思うけど……私の部屋、2階の1番奥で、お母さんの部屋がその1個手前なの……バレずに行けると思う?」

「バレたらマズい?……って、マズいわよね」


 なんとなく察した蒼は呟く。


「……そうね、正直バレそうなものだと思うけど」

「そっか。蒼を嫌な気持ちにさせたくないし……外で待っててくれる?必ず戻るから」

「……大丈夫なの?」

「大丈夫。すぐ戻ってくるから」


 靴を脱いで中へ。


 少し進むと開けたリビング。クラシカルな内装で、天井には綺麗なシャンデリアがつり下がっている。

 その横の階段を、できるだけ足音を立てないように気を付けながら登る。


 廊下を奥まで進み、緋の部屋へ。


 扉を開けるときに少し軋む音がしてビビる。


「……?」


 そして部屋に入った時、緋は少し混乱した。


 緋の記憶の中では、部屋は雑に散らかった状態だった。中学校の制服のセイラー服も脱ぎ捨てたままで、登校用のカバンも投げ捨てるように部屋の真ん中に置いた。机の上は書きなぐっては没にしてきた楽譜が散乱していたはず。

 それが、綺麗に片づけられていた。

 制服はハンガーにかけられており、汚れやシワも消えていた。ベッドの布団も綺麗に整えられていた。


「……」


 緋はタンスを開け、洋服などをカバンに詰める。そして小型のシンセサイザー、部屋の隅にあるアコースティックギターもケースに入れて背負い、制服とカバンも持つ。


「……よし。いこ」


 緋は部屋を出る。



「——緋?」


「っ……!」


 ――廊下にでると、そこには緋と瓜二つの母『あかね』の姿があった。


「どこ行ってたの…?」

「別にどこ行ったっていいでしょ」

「よくないよ、私心配で――」


「——助けてくれないくせに口ばっかり。お望み通り私出てくから。どいて」


「あっ……緋っ……!」


 緋は茜の手を振り払い、駆け足で玄関まで逃げ、靴を履いて家を出る。


「蒼、おまたせ。いこ!」

「え、ええ」


 緋は蒼の手を引いて走り出した。




◇◇◇




 ──土日が過ぎ去り、月曜日。天気は快晴。


 緋と蒼は別々の制服に着替え、中学校へと登校しようとしていた。


「離れたくないけど、仕方ないわね」

「うん。……でも、高校は同じところに行くから。それまでの辛抱……かな」

「ええ」


 家を出て少しの間一緒に歩き、緋は電車に乗るために蒼と別れた。


「……」


 ホームに来た緋は視線を落とし、唇をかみしめながら、電車が来るのを待った。




◇◇◇




「──おはようゴミカス。そのスッカスカな脳みそでも入れる高校は見つかった?」


 教室に入れば、無駄に態度の大きなクラスメイトたち6人に囲まれた。


「……うるさい」

「うるさくないし。立場弁えて口聞けよゴミ」

「ぁッ……」


 誰の目にも留まる教室の入口付近で、緋は肩を捕まれて壁際に押され、乱暴に叩きつけられた。

 見ている人は何も言わない。これがいつも通りの光景であり、何の疑問も抱かない。


「なんだっけ?シンガーソングライター?なるんだっけ?誰にも聴いて貰えない惨めな歌歌ってんでしょ?いい加減諦めたら?」


「……」


 緋は無反応を決め込んだ。ただ飛んでくる暴力を、唇を噛み締めながら、なんとか痛くないように腕でガードするのみの抵抗。


「みんな、そろそろチャイムなるよ」

「お、そっか。みどりナイス。座ろ座ろ」


 取り巻きのうちの一人、みどりの一言で、緋を囲んでいたいじめっ子たちは解散し、自分の席へ戻っていく。

 緋はその場でへたり込んだ。

 そしてチャイムがなり、担任の教師が教室に入ってくる。


つい。席に着け。遅刻扱いにするぞ」


「……」




 ────これが、中学校での終緋だった。




◇◇◇




 学校を終え、緋は蒼の家に帰ってきた。玄関の扉を開け、中へ入る。


「緋!おかえりなさい」


 その音が聞こえたのか、蒼が玄関まで早足でやってきた。


「うん。……ただいま」

「緋……どうしたのよ、それ……!」


 玄関まで来た蒼は、緋の姿を見て驚いた顔をした。


 今日は一日中晴れていたにも関わらず、緋は水に濡れていた。若干乾いてはいるがそれでも濡れたまま。水を吸った制服のセイラー服は緋の体に張り付いて、12月の冷たい空気と協力して緋の体温を奪い続けていた。


「……ちょっとね」

「……ちょっとねじゃないわよ。……とにかくまず着替えましょ。お風呂もすぐ沸かしてくるから。風邪を引いちゃうわ」

「ごめん、ありがとう」


 靴を脱いで上がり、脱衣所でセイラー服を脱ぎ、体をタオルで拭く。


「……ねぇ緋、それ……」


 蒼は、緋の脇腹の辺りにあるアザを見て聞いた。


「……後で話すね」



 緋が着替えている間に、蒼は風呂を洗いお湯張りのボタンを押した。


「……話して、緋」

「……うん」


 リビングに戻り、緋は蒼に話し始めた。


「まぁ……簡単に言うと、いじめ。私嫌われ者だからさ」

「……」


 蒼の表情も曇る。


「……いつから?」

「蒼がいなくなった時くらいから。……私、興味が無いことにはとことん無関心だからさ。……だから、浮いてたんだと思う」

「……誰か、味方は……?」

「いない」

「……そう……」

「……でも、大丈夫だから。心配してくれてありがとう、蒼」

「だめよ。私は許せない。誰がいじめたの?なんで教員は助けてくれないの?……誰かを傷つけて…そんな人間がのうのうと生きてていいわけがないわ。何か……何かできないの?」

「ありがと、怒ってくれて。……でも、できることはあるから。私次第なんだけど」

「なに?」


「私が大スターになって、全員見返す。私を見下してきた奴ら全員、私は大きなステージに立って見下してやるの。だから大丈夫。私は負けてないから」


「……緋……」

「……ふふっ。心配してくれてありがと蒼。ほんとに私は大丈夫だから。ね?」

「……ええ。貴女が大丈夫だって言うなら信じるけど、辛い時は辛いって言うのよ?嘘つきは泥棒の始まりなんだから」

「うん」


 緋は静かに頷き、蒼にもたれかかった。




 余拍【on the 0th beat】


 ──End

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ