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<スカスカ> (:D)  作者: 連星霊
1-1 余拍【on the 0th beat】
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第2話【同棲】

 抱きしめ合った腕をほどき、ひいろは彼女『霜夜しもよあおい』と改めて目を合わせた。


「お互い背伸びたね」

「ええ。すっかり大人っぽくなって」

「6年ぶりになるのかな。蒼が転校してった日から」

「そうね。6年と半年くらいかしら」

「小3だったもんね」

「ええ。……あの頃の緋も可愛かったけど、今はもっと可愛い」

「やだなぁ、蒼こそ」

「ふふっ」


 ふたりで笑い合う。気付けば雨も止んでいた。


「……あ、立ち話もなんだし……すぐ片付けるからちょっと待ってて」

「あ、ええ。手伝えることはあるかしら」

「あ、じゃあ、シールド纏めてくれる?」

「わかったわ」


 蒼に手伝ってもらいながら機材を片付け、緋はキャリーカートの持ち手を握った。


「よし!片付け終了っと」

「手馴れてるのね」

「まぁね。路上ライブ初めて2ヶ月くらいだし」

「そう。……凄いわね、緋は。もうすっかりアーティストって感じ」

「全然、まだまだだよ。2ヶ月やっても全然人こないし、YouTubeも伸びないし。スターには程遠い所にいる」

「緋なら大丈夫よ。私は惹き付けられたわ。貴女の歌に」

「ありがと。……それじゃあ、これからどうしよっか。せっかく会えたんだし、解散なんてしたくないよね」

「ええ。私ももっと緋といたい」

「じゃあ……どうする?どっか行くとこある?」

「じゃあ……うち……来る?」

「いいの?」

「ええ。親もいないから、気を使う必要も無いわ」

「あ、うん。じゃあ、お邪魔しちゃおっかな」


 ──そうして、緋は蒼と共に、蒼の家を目指して歩くことに。


「蒼は、なんであそこにいたの?」

「塾の帰りだったの」

「優等生じゃん」

「別にいい高校入ろうとしてる訳じゃないのよ?ただ、親が『心配だから』って、半ば強制的に行かされただけ。たまにサボってるけど、今日はちゃんと頑張ったわ」

「そっか。偉いね、ちゃんと頑張ったんだ」

「そのご褒美が、こんなに嬉しいものだとは思わなかったけど」

「だね。私も路上ライブ雨天決行の覚悟で来てよかった」

「ええ」


 ふたりは靴音のリズムを重ねて、歩き続ける。


「蒼の家って今はこの辺なの?」

「ええ。ちょっと離れたところだけど」

「そっか」


 ふたりは静かに歩き続けた。




◇◇◇




 街中から外れた、東京の中でも田舎の山の方。周りを木に囲まれた一軒家がぽつんと建っていた。


「ここよ」

「いいね、立派」

「ありがとう」


 緋は蒼に案内されるまま、玄関前の屋根の下へ入る。すると、空がタイミングを待ってくれていたのか、雨が降り始めた。


「あぶな……ギリギリ降られなかったね」

「そうね。濡れずにすんでよかったわ」


 蒼が鍵を開け、ドアを開ける。


「入って」

「ん。お邪魔します」


 蒼に連れられて、中へ入った。


 三和土たたきには1足も靴が無い。

 入って左側の収納上にも物が何も無くまるで生活感が無い。

 淡い照明に照らされたフローリングの床は線キズもほとんど無い。まるで新築。


「いい家だね」

「ありがとう。2年前、中学に上がった時に建てたんだけど、その後お父さんがまた転勤になってしまって。今は私だけ取り残されている状態」

「蒼だけ?」

「ええ。1人暮らし」

「大変だね……」

「そうね。塾には入らされたけど、自由でいいわよ」


 蒼に案内され、靴を脱いで上がりすぐ左側に見える扉を開いて居間へ。かなり広いフローリングの部屋で、右側にはダイニングキッチン。左側には1段の段差の上に畳の部屋がある。


「荷物は適当に置いていいわ。なにか飲む?お茶でいい?」

「あ、うん。ありがとう」

 蒼はエアコンのリモコンを操作し暖房をつけると、キッチンの方へと歩いていく。

 緋は蒼に言われた通り、荷物を下ろして、上着を脱ぎ、畳に座って楽にしていることにした。少し待っていると、蒼が戻ってきた。


「おまたせ」

「ありがとう」


 緋は蒼から湯のみを受け取る。温かい緑茶だ。


「あったまる……」

「日が落ちて寒くなってきたものね」

「だね」


 まだ気温には秋の面影が残り、昼間は温かいが、日が落ちると一気に冷え込むのだ。


「それで、今更だけど、緋はその……時間大丈夫?もう暗いけど」

「あー、大丈夫」

「そうなの?」

「うん。……心配とかしてくんないし」

「……なら、緋……」

「ん?」


 蒼は恥ずかしそうに目を逸らしながら、呟くように伝えた。


「と……泊まっていかない?」

「……ぇ、いいの?」

「ええ。私も、そのほうが嬉しいんだけど……」

「……じゃあ……お言葉に甘えちゃおっかな」

「本当!?ありがとう!」


 蒼の顔が目に見えて明るくなった。


「お風呂沸かしてくるわね。着替えは私のを貸そうと思うけど……ブラのサイズは合いそうにないわね」

「あー……うん。そうかも」

「脱いだらすぐに洗濯機回して乾燥もかけましょうか」

「うん。ありがと、蒼」


 蒼は微笑むと、風呂を沸かしに風呂場へ。緋は畳の部屋の座布団にちょこんと座って待っていた。


「おまたせ。15分くらいで沸くと思う」


 蒼が戻ってきた。


「そっか。じゃあ、それまで少しお話でもする?」

「ええ。そうしましょ」


 緋の隣に、蒼が座る。


「……緋」

「ん?」

「私がいなくなってから……その……友達とか……できたの?」

「ううん。全然。蒼は?」

「1人もできなかった。……緋だけが、私の友達」

「そっか。一緒だね」

「ええ。……我儘かもしれないけど、少し安心したわ。緋も同じで」

「私もだよ。……蒼が誰のものにもなってなくてよかった」

「……」


 蒼は無言で距離を詰めた。それに気付いた緋も、距離を詰め、肩を寄せた。



◇◇◇



 蒼との時間を静かに過ごしていると、「お風呂が湧きました」のチャイムが鳴った。


「……入りましょうか」

「うん」


 蒼に誘われるまま、緋は脱衣所へと向かう。


「……一緒に?」

「そのつもりだったんだけど、嫌だった?」

「ううん。でもちょっと恥ずかしいね」


 昔は、よく蒼の家で一緒にお風呂に入っていた。あの頃は2人とも同じような体型だったが、今はお互い身長も伸びて体の凹凸も大きくなった。

 緋は蒼の体をあまりまじまじと見ないように気を付けながら、自分のブラウスのボタンをはずしていく。しかしながら、綺麗に成長した蒼の姿にどうしても目線を引っ張られてしまい、ついついチラ見してしまっていた。そしてそれは蒼も同じだった。ふたりとも服を脱げずにいた。


「なんかやっぱり恥ずかしいね」

「そうね。……昔はなんとも思わなかったはずなのに」

「ね」


 しかし、このままもじもじしていても埒が明かないので、緋は思い切ってスカートとブラウスを脱ぎ捨てる。


「蒼も脱いで」

 そう言って下着も脱いだ。

「え、ええ……。わ、私は洗濯回してくるから、先入ってて」

「うん、わかった。早く来てよ」

「ええ」


 蒼も恥ずかしそうにしながら服を脱いで、緋の脱いだ服を持って脱衣所から出て行く。


「……見られなくてよかった」

 緋は脇腹のあたりにあるアザを見て呟いた。


「……じゃ、寒いし先入らせてもらおっと」


 緋は風呂場の扉を開ける。ごく普通の家庭の風呂場だ。ふたりで入るには少し狭そうだが、まあ無理はない程度。

 続けて、湯船の蓋を開けた。白い湯けむりが一気に舞い上がる。

 シャワーを使ってみると、最初は冷たい水が出てきたが、すぐに熱いお湯へと変わる。


 シャワーを浴びていると、扉が開いて蒼が入ってきた。


「待たせてごめんなさい」

「ううん。大丈夫」

「……緋、座って。髪を洗ってあげるわ」

「え?あ、うん。じゃあ……お願いしようかな」


 緋は蒼に言われたように椅子に座り、シャワーヘッドを蒼に渡す。

 蒼は緋の髪を濡らし、優しく撫で始める。


「綺麗な髪」

「ありがと。蒼も綺麗だよ」

「ありがとう」


 緋はシャンプーが目に入らないように目を瞑る。蒼は優しく髪を洗ってくれていた。


「次は私が洗ってあげる、蒼」

「あ、え、ええ……」


 緋は慣れない手つきで、できるだけ優しく洗ってあげる。蒼の綺麗な髪を傷めないように。

 そして、髪を長く触っていたい気持ちから、トリートメントは無駄に長い間馴染ませていた。

 シャワーで流すのが少し名残惜しいが、我慢するしかない。


「ありがとう、緋」

「どういたしまして」


「次は体かしら」

「かっ……体は流石に自分で洗う」




◇◇◇




「ふぅ……」


 ふたりで温かいお湯に浸かる。浴槽があまり大きくもないので、ふたり身を寄せ合って入ることになった。

 ふたりの肌と肌が触れ、その柔らかさに緋の心臓は大きく跳ねていた。


「……」


 ただ、もうすこし触れたい欲求に逆らえず、緋は蒼に体を預けに行く。


「蒼……」

「……緋……」


「……あのさ」

「なに?」

「……約束……覚えてる?」

「覚えてるわ。忘れたことなんて一瞬たりともない。……中学も高校も、その先も。ずっと一緒にいようって約束した」

「ちゃんと覚えててくれたんだね……。嬉しい」

「……でも、破ってしまったのは私なのよね」

「小学生だもん。仕方なかったと思う。…でも、もう一度会えたんだからさ。もう一回約束しない?」

「……ええ。約束しましょう」

「まず、高校。同じ高校にしようよ」

「わかったわ。同じ高校にしましょ」

「やった。……もう少ししたら上がろっか」

「ええ」



 十分に体を温めて風呂から上がり、体を拭いて、お互いの髪を乾かす。


 まずは緋が蒼に髪を乾かしてもらい、その後で緋が蒼の髪を乾かしてあげる。


「蒼の髪すごくきれい。柔らかい……」


 ドライヤーの音で掻き消されたので、この言葉が蒼に届くことは無かった。




……To be continued

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