7、美しさでは勝てないから、罠を張る
卒業式の朝、窓の外に広がる青空は、まるで僕の未来を祝福しているみたいに美しかった。
「ああ、なんて綺麗な空だろう」
思わず独り言が漏れる。鏡の中に映る僕は、期待に頬を染めて、自分でも驚くほど華やいだ表情をしている。
――完璧だ、と胸の内で小さく呟いた。
「カミユ様、今日は一段と素敵な笑顔ですね」
傍らに控えていた従者が、慈しむような笑みを浮かべて、皺ひとつなく整えられた学園の制服を差し出した。
そんな風に褒められるのが、僕はたまらなく嬉しい。
だって、僕は知っている。客観的に見て、僕のご面相がずば抜けて美しい訳ではない事を。
例えば、あのリュート。
彼が傲慢な態度で廊下を歩いていても、誰もがその美貌に目を奪われる。高く通った鼻梁、長いまつ毛が縁取る切れ長の目。最近はマスカラなんて訳のわからないものを塗ったりして妙なことになっているけれど、それでも天から与えられたような完璧な造形に、僕の胸の奥で泥のような嫉妬がじわりと広がる。
僕がどれほど愛らしく振る舞おうと、あいつが放つ「美」には到底敵わない。鏡の中の自分の笑顔が、ほんの一瞬だけ歪んだ。それが、悔しくて仕方がない。
でも、今日、僕は殊更に気分が良い。
どんなに彼が美しくても、結局彼が、殿下に選ばれることはないのだ。
殿下は、あの整いすぎたリュートの顔が「怖い」と、ぽつりと漏らしたことがある。
あれほどの美貌を持てば、誰もが惹かれ、求愛者が絶えることなどないだろう、と。
そう言ったあの時の、殿下の不安そうな視線。
僕はここに付け入る隙を見つけた。
殿下は、リュートを信じきれていないのだ。
だから僕は殿下を優しく抱きしめて、そして何度も囁く。
「リュート様は、きっと最後は“より良い方”を選ばれるのでしょうね……。でも僕は違います。最初から殿下だけです」
そう言えば、殿下は安堵したように息をついた。……僕の腕の中で。
いつしか殿下の心は、僕の指先に絡め取られている。
……少なくとも、そう信じている。
だから、リュートがどんなに着飾ろうと、どれだけ必死にメイドを使って立ち回ろうと、そんなものは無駄なあがきなんだ。
「ねえ、今日はとびっきり可愛くしてね。あのリュートが、自分の惨めさに気づいて顔を伏せたくなるくらいに」
鏡の前でねだると、メイドは楽しそうに微笑んで、僕の柔らかな髪を丁寧に梳かし始めた。
今日、リュートがどれだけ絶望し、あの美しい顔を歪めることになるのか。想像するだけで、僕の心は歓喜で震える。
ああ、早くカール殿下にお会いしたい。そして、大勢の前で「君が一番だ」と囁かれながら、いつものように甘いキスをしてもらおう。
僕は鏡の前で、最高の笑顔を浮かべて見せた。
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