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ベルセルクの冠 〜ハズレ聖女はすべてを暴力で解決する〜  作者: 友ヶ見狗々


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第9話 スキル発動編

 もともと人型の魔物は、全体的に知能が高いと言われている。それは野狗子ヤクシも例外ではなかった。

 固まっていると危険だと判断したのか、野狗子ヤクシたちは、すぐにばらけて四方から取り囲むように私たちを襲ってきた。

 そうなってくると人数の少ない〝暁の鷹〟は、圧倒的に不利になる。


 しかも野狗子ヤクシたちは明確な意図を持って、弱い者に狙いを定めてきた。

 真っ先に狙われたのは、近距離での戦闘手段に乏しい後衛のノエミさんとリュカさんである。

 ノエミさんは水魔法の〈水弾〉で、リュカさんは連弩で牽制するが、明らかに野狗子ヤクシの勢いに押されている。


 遊撃であるソフィーさんが二人の援護に回ろうとするが、それをほかの野狗子ヤクシたちが妨害する。

 エグルさんたち前衛組は、正面から突っこんでくる野狗子ヤクシを防ぐだけで精いっぱいで、背後までは手が回らない。

 護衛対象になっている私たちのところまで魔物が辿り着くのも、このままでは時間の問題だ。


「……ていうか、魔物の数、増えてない?」


 エグルさんたちはすでに四十体近い野狗子ヤクシを倒しているはずなのに、襲ってくる魔物の数が一向に減った気がしない。むしろ増えているまである。気のせいか、野狗子ヤクシ以外の魔物もちらほら混じっているようだ。


「どうやら、倒された野狗子ヤクシの血の臭いを嗅ぎつけて、異なる群れの野狗子ヤクシや、ほかの魔物も集まってきたようですね」


 キトリーの口調は、こんなときも冷静だ。


「お嬢様、そろそろ壁の中に」


 ロジェが私に避難を促す。気持ちはありがたいけど、それは悪手だよ、ロジェ。


「駄目だよ、ロジェ。援軍のあてのない籠城の末路は悲惨だよ?」


 時間をかければエグルさんたちが野狗子ヤクシを追い払ってくれるなら、土壁の中で待つのもいいだろう。

 だが、状況はそう甘くない。

 私たちが隠れている間にエグルさんたちが全滅してしまったら、私たちは野狗子ヤクシに囲まれたまま、完全に逃げ場をなくしてしまう。


「というわけで、私たちも加勢しよう」


 私はもこもこの外套コートを脱ぎ捨てて、準備運動代わりにぐるぐると腕を回した。

 ごはんをたらふく食べた直後に運動するのは不安だが、そんな贅沢を言ってる場合ではない。


「まさか、戦闘に参加なさるおつもりですか?」


 キトリーの頰が不安で引き攣る。


「うん。ロジェはなるべく魔力を温存しながら、エグルさんたちを援護して。キトリーはロジェの護衛をよろしくね」


 二人は強いが、魔物相手に戦った経験はあまり多くないはずだ。安全重視で戦ってもらおう。


「ですが、私たちはお嬢様の護衛を——」

「要らないよ。というか、危ないから私からは離れてて」

「まさか、お嬢様のスキルをお使いに?」

「こんなときに使わないでいつ使うのさ」


 バーサーカーの加護なんか、こういう状況でもないと使い途がないのだ。

 ここなら地面に穴ぼこをいくら空けても、誰にも文句を言われない。せっかくだから、いろいろ試してみようと思う。


「お嬢様!」

「はいはい、二人とも離れて離れて! とうっ! 暴装バーサーク!」


 いつもの芝居がかったポーズを決めながら、私は【暴装】スキルを発動した。

 まだ二回目なのできちんと発動するか不安だったけど、問題なく私の全身を狼の着ぐるみが包みこむ。


 唐突に撒き散らされた魔力の暴風に驚いて、野狗子ヤクシたちが動きを止めていた。

 今なら簡単に殴れそうだな。

 だけど、着ぐるみ越しとはいえ、素手であれを殴るのは嫌だな。


 なにか武器になりそうなものはないか、と周囲を見回して、私は防水布タープを支えている二本の支柱に目を留めた。あの支柱、たしか適当なパイプがなかったから、槍の柄で代用したんだよね。

 だったらこの際、あれでいいか。長さもちょうどいいし、頑丈さも申し分ない。


「よっと」


 私は地面に突き立ててあった支柱を二本とも引っこ抜き、太鼓のバチの要領でそれを両手に握った。

 そしてそのまま目についた野狗子ヤクシに殴りかかる。

 私が振り回した支柱は、立ち尽くす野狗子ヤクシの胴体を狙いどおりに直撃し、


「あっ……」


 その直後、私に殴られた野狗子ヤクシの胴体が爆散した。

 さらにはその衝撃で、殴られた野狗子ヤクシの背後の魔物たちまで、まとめて十体ばかり吹き飛んでしまう。


「あっ……危なっ……!」


 想定外の攻撃範囲の広さに、私はたらりと冷や汗を流した。ヤバかった。

 たまたま今は味方のいない方角だったからいいけど、もしも誰かいたら攻撃に巻きこむところだった。


 これって、下手したらリュカさんの火薬壺よりも攻撃範囲が広いんじゃないだろうか。

 唐突に自分たちの背後で発生した大惨事を見て、振り返ったエグルさんたちがドン引きしている。


 ちなみに私が攻撃に使った支柱は、見事に砕け散ってしまっていた。

 私の力に、武器である支柱のほうが耐えられなかったのだ。

 これって普通の槍と同じ材質なんだが。

 つまり、ちゃんとした武器があっても私には使えないということか。


 残る支柱はあと一本。それも壊れたら、あとは素手で殴るしかないのか。嫌だなあ。

 誰か代わりに殴ってくれないかな。


 私が心の底からそんなことを願ったとき、私の中でなにかがカチリと嵌まる感覚があった。

 あ……。

 この感覚は知っている。スキルが発動するときのやつだ。


 そして次の瞬間、私の全身からは大量の魔力が、無数の細い糸のように流れ出したのだった。


 無意識にスキルを発動させてしまって一瞬ヒヤリとした私だが、特になにか変化が起きたわけではなかった。

 そのことに束の間、安堵する。


 しかし異変が起きたのは私ではなく、私の周囲にいる味方の人々のほうだった。


「あははははは! 見える! 見えるぞ! ボクにはすべてが見える!」


 真っ先に行動が変化したのは、私にいちばん近い位置にいたリュカさんだ。

 それまで魔物に包囲されないように慎重に立ち回っていたリュカさんが、自ら野狗子ヤクシの群れに突っこんでいって、至近距離から連弩を撃ちまくり始めたのだ。


 その射撃は異様に正確で、確実に一撃で野狗子ヤクシたちの急所を捉えている。

 五体の野狗子ヤクシを瞬く間に殲滅し、それでも彼の攻撃は終わらなかった。

 撃ち尽くした連弩の箭箱を交換すると、リュカさんは再び新たな魔物の群れへと絶え間なく矢を射続ける。

 瞳を爛々と輝かせて笑い続ける彼の表情がめっちゃ怖い。

 異世界で言うところの〝とりがーはっぴー〟というやつだ。連弩に〝とりがー〟はないけどね。


「——凍刃フロストエッジ!」


 次に異変が起きたのは、ノエミさん。野狗子ヤクシに包囲されて危機に陥っていた彼女は、魔力の節約を度外視して、攻撃魔法を乱射し始めた。


凍刃フロストエッジ! 凍刃フロストエッジ! 凍刃フロストエッジ! 凍刃フロストエッジ! 氷嵐アイスストーム!」


凍刃フロストエッジ〉は、刃渡り十公分(センチ)ほどのナイフのような氷塊を撃ち出す魔法。発動が速くて使い勝手のいい攻撃魔法だが、威力のわりに魔力の消費量が大きいと聞いたことがある。 

 そんな〈凍刃フロストエッジ〉を、ノエミさんは湯水のようにばら撒いて、野狗子ヤクシの群れを蹂躙していく。

 さらには上位魔法の〈氷嵐アイスストーム〉まで使って、倒れた野狗子ヤクシたちにしっかりとどめを刺した。完全にオーバーキルである。

 白い頰をほんのりと赤く上気させ、荒い息をついている彼女の姿が妙に色っぽい。


 そのころになると、〝暁の鷹〟のほかのメンバーたちの様子もすっかりおかしくなっていた。


「わはははははは!」

「ふんっ!」

「おらおらぁっ!」

「ふふっ! うふふふふふふっ!」


 大剣をぶんぶんと振り回して、野狗子ヤクシたちを両断していくエグルさん。マルタンさんは大盾で目につく魔物を片っ端からぶん殴り、ゴーチェさんは両手に握った短剣で野狗子ヤクシたちの喉を斬り裂いていく。

 そしてにこやかに微笑みながら、槍で突きまくるソフィーさん。

 疲れているはずの彼らの動きが、見違えるように素早く、そして力強くなっている。さっきまで魔物の数の圧力に押されていたのが噓のようだ。


 おそらく、かなり高レベルの身体強化が彼らにかかっている。

 しかも彼らが魔力切れを起こす気配はない。


 その魔力の出所がどこかといえば、それは間違いなく私だった。

 私の身体から糸のように伸びる魔力線がエグルさんたちにつながって、彼らの能力を底上げしているのだ。


 しかしエグルさんたちがそのことに、戸惑っている様子はない。

 むしろ彼らは、嬉々として戦い続けている。

 これはあれだな。〝らんなーずはい〟というかなんというか、それに近いやつだな。

 悪く言えば、暴走一歩手前の状況だ。


 そんな〝暁の鷹〟の奮戦によって、あれだけいたはずの魔物たちは、瞬く間に数を減らしていった。

 そして生き残った魔物たちも、恐怖に駆られて逃走を始める。

 一度そういう流れになってしまうと、魔物たちが逃げ去るのは速かった。

 始まったときと同様にあっという間に戦いは終わり、あとに残されたのは数え切れないほどの魔物の屍体だけだ。

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