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ベルセルクの冠 〜ハズレ聖女はすべてを暴力で解決する〜  作者: 友ヶ見狗々


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第6話 遙かなる旅路、さらば王都よ

 開門直後の検問所前には、王都を出ようとする人々の長い列が出来ていた。

 どこか殺気立った人混みの中を、私たちを乗せた馬車が悠々と進んでいく。

 

 検問所には貴族家の馬車だけが使える優先窓口があるからね。

 ちょっと申し訳ないような気持ちもありつつ、優越感なんだ。

 検問所の衛兵としても、面倒くさい貴族が平民の列に並んで揉め事を起こすより、さっさと出て行ってくれって感じなんだろうな。


 だけど私たちの馬車の審査があっさり終わったのは、実はそれだけが理由ではなかった。

 なぜなら馬車に掲げられた我が家の紋章を見た途端、人々が我先にと逃げるように道を空けたからだ。

 どうやら〝バーサーカーの聖女〟であるベルローズ家の令嬢が追放されるという噂は、この数日の間に王都中に広まっていたらしい。

 だからといって私を見ただけで、パニックになって逃げ惑うのはやめていただきたい。私は見境なしに暴れる魔物かなにかか?

 やはり王都の屋敷の庭に、馬鹿でかい穴を開けたのが駄目だったのか?

 まあ、待たずに王都の外に出られるのは面倒がなくていいけども。


「嬢ちゃんと一緒にいると楽ができるな」

 私と同じ馬車に乗りこんでいるエグルさんが、笑いをこらえているような顔で言う。


 私の護衛として同行することになったエグルさんのパーティー〝暁の鷹〟のメンバーは六人。

 男性四人と女性二人のパーティーだ。


 現在はエグルさんともう一人、マルタンさんという男性が我が家の馬車に同乗しており、残る四人は、もう一台の馬車に乗っている。フリーの傭兵にしてはめずらしく、エグルさんのパーティーは自前で馬車を持っているらしい。


 全員が馬車で移動できるので、私たちの一日あたりの移動距離は最初の予定よりもずいぶん伸びた。

 商隊の荷馬車の足は遅いし、護衛の傭兵の多くは徒歩で移動することになるからね。

 同じ距離を進むには、今の私たちの倍以上の時間が必要になっていたはずだ。


 我が家の馬車の御者席にはロジェとマルタンさんが座っており、客室には私と私の侍女であるキトリー、そしてエグルさんという組み合わせだ。


 本来なら男性のエグルさんが、未婚の貴族令嬢である私と同じ馬車に乗るべきではないのかもしれない。王国の貴族には、そういう面倒なマナーがあるのだ。

 だが、女性のパーティーメンバー二人はほかの仕事があるので、今日のところは勘弁してくれと言われていた。

 彼女たちは地図を見て宿泊地点を決めたり、物資の買い出しの計画を立てたりするのに忙しいらしい。

 そういうのはパーティーリーダーの仕事ではないかと私が言うと、適材適所だ、とエグルさんは笑った。


 まあ、私の侍女であるキトリーも同乗しているので、マナー的にはギリギリ問題ない。

 それにエグルさんの話は面白いので、私としては歓迎である。

 そもそもバーサーカーの聖女である私の貴族令嬢としての評判はすでに地に落ちているので、今さら悪評のひとつやふたつ増えたところで、ぶっちゃけどうということはないのだ。


「エグルさん、ベルローズ領に行ったことはあるんですか?」

「おう。何度もあるぞ」

「エグルさんの印象を聞かせてもらってもいいですか?」

「まあ、なんというか……田舎だな」

「ですよねえ」


 ド辺境だもんな。


「ただまあ、面白い土地ではあるな。何気に交通の要所だし、異国のめずらしい品が手に入る。バルダーヌの旦那が定期的に交易に行くのも、そういう掘り出し物が目当てなんだろう。食い物も美味いしな」

「そうですか。それは楽しみです」

「嬢ちゃんは本当に変わってるよな」


 失敬だな。どうせなら食べ物は、まずいより美味しいほうがいいに決まってるだろう。

 主人である私を変わり者扱いするせいで、キトリーに睨まれてますよ、エグルさん。


「シャルヴェンカとの関係はどうですか?」

「隣国か……今のところは落ち着いてるが、あの国もそろそろ代替わりが近いって話だからな」

「そぅなんですか?」


 代替わり。つまり今の国王が退位して、世代交代するということか。


「代替わりがあるとどうなるんです?」

「国内がまとまってればいいが、そうでないなら、国王としての武威を配下の貴族に見せつけるために、よそに戦争を仕掛ける可能性がある」

「なんですかそれ。めちゃめちゃ迷惑ですね」

「そうやって手に入れた領地や戦利品をばら撒いて、人気を取るんだよ」


 なるほど。それなら新国王は、タダで部下に褒美を配れるわけか。

 完璧な計画だね。実現可能かどうかは知らんけど。


「戦争で負けたらどうなるんです?」

「反乱を起こしそうな反抗的な貴族は、負けたときに真っ先に死にそうなところに配置しておくから問題ない」

「うわ……」


 新国王としてはどちらに転んでも、国内の反乱の芽を摘めるわけだ。それは戦争を仕掛ける気になるわけだ。


「また聖王国うちのほうに攻めてきたりしますかね?」

「わからんな。だが、本当に戦争が始まるなら、その前に商人たちが騒ぐだろ」

「ああ、それがありましたね」


 国境を越えて商売を行う商人たちは、戦争の気配に敏感だ。彼らは独自の情報網を通じて、他国の動向を王都にいる貴族などよりもよっぽど正確につかんでいる。

 バルダーヌさんのラシーヌ商会がベルローズ領に商隊を派遣したのも、当面は戦争の心配はないと判断したからなのだろう。


「まあ、仮にシャルヴェンカが攻めてきたとしても、ドルレアック卿がいれば大丈夫だ。あの爺さんはガチで強ェからな」

「大叔父のことをご存じなんですか?」

「十年前の戦争のときに、同じ戦場で戦ったんだ。まあ、そのころの俺は駆け出しの見習い傭兵だったから、チラッと見かけただけだけどな。あんときはビビったぜ。たった三十人の騎兵を率いて五百の大群に突っこんでいって、そのまま相手の包囲をぶち破っちまったんだからな」


 それはうちの大叔父様の有名な武功話だな。たしかそのときの功績で、騎士爵に任じられたんだっけ。


「あれは大叔父が森の中で迷って敵の正面に出てしまったから、仕方なく突っこんだらしいですよ」

「マジか」

「マジです」


 うちの父上が本人から聞いた話だからね。信憑性はかなり高いと思うよ。


「なんか、そっちのほうが化け物臭いな」

「そうかもしれませんね」


 たしかにそうだね。うっかり十倍以上の数の敵と正面から鉢合わせしたら、いくら魔力持ちでも普通は死ぬ。相手にだって魔力持ちはいるからだ。


「そんなわけだから、あの爺さんが元気なうちは心配要らねえよ。最悪、あんたが逃げる時間くらいは稼いでくれるだろ」

「それは頼もしいですね。毎年せっせと手紙を出していた甲斐がありました」


 大叔父様は毎年律儀に私に誕生日の贈り物をくれるので、私もお礼状を書いていたのだ。

 好きで書いていたわけではなく母上に無理やり書かされていたのだが、黙っていればバレないからいいだろう。


「それにしても嬢ちゃんちの馬車は乗り心地がいいな。音も静かだし、どうなってるんだ?」

「ふふふ、これは我が男爵家の目玉商品です」

「目玉商品?」

「お抱えの技術者に作らせて、ほかの貴族家に売りこんでるんですよ。王家にも献上しましたしね」


 エグルさんを驚かせたのは、商品名〝ベルローズの黒輪〟。その正体はなんとゴムタイヤだ。

 正確に言うとゴムではなくて、ゴムっぽい魔物素材なのだが、この国にゴムの木が存在するかどうか知らないので、私は勝手にその魔物素材で造ったタイヤをゴムタイヤと呼んでいる。


 実のところ、クッション性のある魔物素材を馬車の車輪に使うという発想は昔からあった。

 だがそれは魔物素材を車輪に貼りつけただけの、原始的なソリッドタイヤだ。

 乗り心地はそれほど良くないし、耐久性も低い。せいぜい王都の街中を走るくらいしか使えない。


 それに対して〝ベルローズの黒輪〟の画期的なところは、車輪内部に格子状の構造体を詰めこんでいることだ。

 フリックスのいた異世界で、エアレスタイヤと呼ばれていた代物である。

 あちらの世界では比較的新しい発明品らしいが、こちらの世界では加工技術の関係で、空気を詰めこんだチューブタイヤよりも作るのが簡単だったのだ。空気入れなどの設備も必要ないしね。


 木製の車輪よりも遥かにクッション性が高く、それでいてパンクの心配もない。

 耐久性も高く、長距離を走っても問題ない。

 この世界の馬車の乗り心地はマジでよくないからね。

 大聖女としてのお勤めのために移動の多い母上の腰とお尻の健康を守るためにも、馬車の改良は急務だったのだ。


「振動が少なく、荷物が傷まない。馬への負担も少なく、速度も出るのか……軍の輜重隊にこれが導入されたら、行軍の常識がひっくり返るな……」


 エグルさんがぼそりと独り言のように呟く。

 おっと、それに気づいたか。正規の軍人でもないのに鋭いな。というか、それって将軍や参謀クラスの視点じゃないか。なんでこの人、フリーの傭兵なんかをやってるんだろう?


「こいつを嬢ちゃんが考えたのか?」

「いや、ですから、作ったのはうちのお抱え技術者ですって」

「そいつらに作れと命令したのは嬢ちゃんだろ? 神童って噂もあながち噓じゃなさそうだな」

「いやいや、それは買い被りですよ。お菓子食べます?」

「おう、いただくぜ」


 お褒めの言葉に気を良くした私は、エグルさんに秘蔵のクッキーを景気よく振る舞った。

 私の隣ではキトリーが、無表情なまま呆れている。


「けど、嬢ちゃんはよかったのか? そんだけの才能があったのに辺境の領地に追いやられて」

「文句を言っても仕方ないですからね。まあ、人生、こういうこともありますよ」


 望まない結婚や、面倒な社交に忙殺されるくらいなら、辺境でのんびりするのは悪くない。私はもともと面倒くさがりの引きこもり体質なのだ。

 黒水晶モリオンで異世界の動画を見てれば、暇なんかいくらでも潰せるしね。

 そうそう。私の好きな〝どらま〟のシーズン2がまだ途中だったんだ。どうせ昼間は馬車に乗ってるだけだし、今夜はキトリーに内緒で夜更かしして一気見だな。


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