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ベルセルクの冠 〜ハズレ聖女はすべてを暴力で解決する〜  作者: 友ヶ見狗々


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第4話 初めての暴装

 バーサーカーのスキルを確かめるために、私は運動着に着替えて庭に出た。

 弱小男爵家といえども、いちおう貴族。ベルローズ家の王都の屋敷には、剣術の練習ができる広さの庭があるんだよ。

 さすがに大規模な攻撃加護魔法を使ったりしたら近所迷惑だろうけど、加護に目覚めたばかりのバーサーカーが少しくらい暴れても、どこからも苦情は出ないはずだ。


 訓練のお伴は、キトリーとロジェ。

 侍女のキトリーは十八歳。従僕のロジェは十六歳。

 赤みを帯びた黒髪が特徴の、なかなかの美形姉弟だ。


 二人はテオー子爵家に生まれた貴族の子だった。

 しかし子爵家は過去の大規模な魔物災害で子爵本人を含めた多くの親族を失っており、経済的にも困窮していた。王家に爵位と領地を返上しても、なお借金が残るような有様だったらしい。


 そんな没落貴族の子である二人が、ベルローズ男爵家を訪ねてきたのは四年前のこと。

 当時のロジェは身体が弱く、その治療のために大聖女である私の母上を頼ってきたのだ。


 しかし母上のスキルでも、ロジェの病気を治すことはできなかった。

 そのロジェの病気の原因を突き止めて元気にしたのが、まさかの私。

 いや、実はロジェは小麦アレルギーだったんだよね。

 普通にパンを食べているだけでも、呼吸が苦しくなって倒れることがある。その原因がわからないのだから尚更つらいよね。つまり食物アレルギーについての知識は、この世界にはなかったのだ。

 そして私は黒水晶モリオンで見られる異世界の動画で、その存在と対処法を知っていた。


 アレルギーの原因物質を避けるように指示して、代わりにお米や雑穀粉を買い集め、代替食品のレシピを考案し、一緒にそれを食してみせた。

 結果、ロジェの健康状態は劇的に改善。そのことに恩義を感じた二人は、それ以来、ベルローズ男爵家で働くことを望み、私に忠義を尽くしてくれている。

 二人の弱みにつけこんだみたいで少々後ろめたくはあるけれど、ロジェたちの借金はベルローズ家が肩代わりして返済したし、我が家としても貴重な魔力持ちの使用人が二人も手に入ったのだから、お互い幸せな結末に落ち着いたと信じたい。

 

 ちなみにキトリーが持っているスキルは斥候スカウト系、ロジェのスキルは土魔法関連だ。

 どちらも応用が利いて使い勝手が良く、就職先には困らない人気のスキル体系である。私のハズレ加護とは大違いだよ。


「そんなわけで、バーサーカーの加護についてきた【暴装】スキルを試してみたいんだけど、スキルってどうやって発動すればいいのかな?」


 私は、傍に控えているキトリーたちに二人に訊いた。


「スキルの発動方法は千差万別ですからね……それはスキル次第としか……」


 いつもクールなキトリーが、めずらしく困ったような表情を浮かべて言う。


「そもそもスキルというのは、才能に恵まれた人間が何年も訓練してようやく習得できるものですから」

「そっか。普通はスキルを手に入れてから使い方を訓練するんじゃなくて、もともと訓練してる人間にスキルが生えるのか……」

「そうですね。私の場合は、父に連れられて幼いころから狩りに出ていましたから、【隠形】や【索敵】などの斥候スカウト系のスキルは、そうやって身についたものだと思います。ロジェは身体が弱かったので、屋敷で母と魔法の練習を——」


 キトリーの説明に、ロジェが無言でうなずいた。

 なるほど。そういう地道な積み重ねがあって、二人はスキルを手に入れたわけか。

 それに比べると鑑定の儀式一発でスキルを手に入れた私は、加護の恩恵とはいえ、ズルをしたような気になってしまうな。


「一般的には攻撃魔法や剣技のような、効果がわかりやすいスキルのほうが発動は簡単だと言われています。逆に身体強化のような、外から見えづらいスキルはコツをつかむのが難しいとか」

「じゃあ、もしかしてキトリーも苦労した?」

「そうですね。スカウトのスキルには感覚的なものが多いので。完全にスキルを制御できるようになるまで、二年近くかかったかもしれません」

「二年か。キトリーも頑張ったんだね」


 私が褒めると、キトリーは表情をほとんど変えないまま、それでも嬉しそうな顔をした。

 うんうん、わかるよ。努力が報われると嬉しいもんね。


 魔力持ちの貴族令嬢だからといって、スキルを身に着けることなく一生を終える者は少なくない。

 戦闘系のスキルを習得して危険な戦場に出るくらいなら、社交に精を出していいところに嫁ぎたいというのが貴族令嬢としてはわりと一般的な価値感なのだ。

 それを考えると、貴族令嬢としてのマナーや教養を身につけつつ、スキルの訓練もしていたキトリーは相当優秀だ。子爵家が窮乏する中で残された家族を守るために、彼女が努力した結果なのだろう。


「お嬢様のバーサーカーもおそらく身体強化系の加護ですから、スキルの習得には苦労されるかもしれませんね」

「うん。普通に考えたら、そうなんだけどね」


 効果が目で見えるスキルのほうが習得しやすいということは、スキルの発動には想像力が大切なのだろう。発動過程を明確にイメージできなければ、スキルの効果が出ないのだ。

 それを考えると、バーサーカーのスキルというのはますます不利だ。

 ただでさえ発動が難しい身体強化系スキルな上に、無駄に稀少性レアリティが高いせいで、この【暴装】というスキルの効果がどういうものかまったくわかっていないのだ。


 しかし何事にも例外はあるんだよ。

 実は私はバーサーカーのスキルについて、かなり具体的にイメージできるのだ。

 なぜなら黒水晶モリオンに映る映画や〝あにめ〟で、バーサーカーの活躍を見たことがあるからだ。


 バーサーカーという存在はもともと、異国の神話に登場する戦士のことらしい。

 鎧の代わりに熊や狼などの毛皮を身にまとって、人間離れした力を発揮し、死すら恐れず獰猛どうもうに戦ったと聞いている。一種の憑霊ひょうれい、トランス状態みたいな感じかな。

 毛皮を被ったらパワーアップするということは、変身ヒーローみたいなものか。

 むしろ凄くイメージしやすいな。そして変身といえば、やっぱりあれでしょう。


「とうっ! 暴装バーサーク!」


 うろ覚えの変身ポーズを決めた私は、ステータス鑑定時に表示されたスキル名を、なるべく恰好よく叫んでみた。

 イメージとしては生身の肉体の上に、強化服を纏う感じだ。


 その瞬間、私の中でなにかがカチリと音を立てて嵌まるような感覚があった。

 そこからの変化は劇的だった。


 これまでほとんど使い途のなかった膨大な魔力があふれ出し、私の周囲を輝きに包んだ。

 その光が次第に圧力を増して、私の全身を覆っていく。


 身体が軽い。それでいて力が漲っている。

 重い荷物を投げ出した直後のような解放感。少し怖いくらいの昂揚を覚える。

 今ならどんな障害物でも、軽々と叩き壊せるような気がしている。


 これはちょっと気をつけないといけないな。

 バーサーカー特有の暴走状態というやつかもしれない。

 そのくせ頭の芯はひどく冷静だ。

 視界もクリアで、普段は見えないようなものまでよく見える。


「お嬢様……そのお姿は……?」


 キトリーが驚きの表情で私を見つめている。

 うん。変身ヒーローのイメージでスキルを発動したからね。

 私の見た目もちょっと変わるんだよ。


「バーサーカーは鎧の代わりに、獣の毛皮を被ってるらしいよ」

然様さようですか……ですが、それは毛皮というよりも、着ぐるみでは……?」

「私もそんな気がしてたよ」


 キトリーの鋭い突っこみに、私は曖昧に微笑んだ。

 そう。変身した私が着ているのは、どう見ても毛皮じゃなくて狼の着ぐるみなんだ。


 それも異世界の動画で見かけた、着ぐるみパジャマというやつだ。

 だって狼の毛皮を被った自分なんて、イメージしたくなかったんだよ。なんかゴワゴワしてそうだし、臭そうだし。


 その結果、今の私の見た目はバーサーカーというより、おかしな恰好をしたただの浮かれた小娘だ。

 この場にいるのが、キトリーとロジェだけで良かったよ。もしこんな姿をセシリー夫人あたりに見られたら、あっという間に噂をばら撒かれて王都中の笑いものになることろだ。


 今更ながらバーサーカーのスキルって、これで本当に合ってるんだろうか。

 こんな恰好で戦場をうろついていたらふざけた小娘だと思われて、味方からも叱られそうで不安なんだけど。


「スキル発動おめでとうございます、お嬢様」

「ありがとう、ロジェ」


 淡々と祝福してくれるロジェに、私は感謝の笑顔を向ける。

 ロジェはいいことを言ってくれた。さすがだよ。


 そう、私は鑑定の儀式を終えた当日に、スキルを発動することができたのだ。

 それも私の加護は身体強化系の稀少レアスキルだ。これは誇っていいんじゃないかな。

 たとえスキルの見た目がちょっとアレだとしてもね。


「そうだ、ロジェ。このスキルの性能を見てみたいから、適当な標的を出してくれないかな」

「標的……クレイゴーレムでいいですか?」

「うん、ばっちり。それで私を攻撃してみて。手加減は無用だよ」

「わかりました」


 ロジェは短い呪文を唱えると、私の正面に三体のゴーレムを作り出した。

 全高三公尺(メートル)ほどの角張った土製のゴーレムだ。

 土の塊とはいえ、魔力で強化されてそれなりに頑丈だし、これだけ大きければ殴ってもそう簡単には壊れない。

 バーサーカーの攻撃力を確かめるには、ちょうどいい相手だろう。


 しかし硬そうだな、あのゴーレム。いくら着ぐるみでガードされているとはいえ、あんなものを殴ったら、反動で怪我したりしないかな。

 まあ、我が家には〝癒しの聖女〟である母上がいるから、骨折くらいならすぐに治してもらえるだろうけど。

 それを考えたらやはり王都にいる今のうちに、いろいろ試しておいたほうがいいだろうね。

 そう思って、私はゴーレムを思いっきり殴る覚悟を決めた。


 もちろんロジェが操るゴーレムも、黙って殴られてくれるわけではない。

 思ったよりも俊敏な動きで私を捕らえようと手を伸ばしてくる。

 ゴーレムって鈍重なイメージがあるけど、サイズがでかいから移動速度そのものはけっこう速いんだ。

 普段のとろい私なら、簡単に捕まっていたかもしれない。


 だけど、【暴装】スキルを発動した今ならば、相手の動きはほとんど止まって見える。

 私は、伸びてきたゴーレムの腕にひょいと飛び乗った。

 肩の部分に足をかけると、目の前には無防備なゴーレムの顔がある。

 どこか愛嬌のあるその顔面へと、私は拳を叩きつけた。

 本気で殴ったわけではなかった。

 やっぱり荒事に慣れてないからね。いざとなったら踏ん切りがつかなかったんだ。

 着ぐるみの掌の肉球部分で、ペチッと上からはたいただけだ。


 その直後、轟音とともに地面が陥没した。


「っっ⁉︎」


 私の足下でゴーレムの巨体が砕け散り、まき散らされた衝撃波が、隣にいた残り二体のゴーレムを粉砕した。

 爆風が屋敷の庭を駆け抜け、木々の枝が悲鳴を上げた。

 ちぎれた無数の花びらが、土煙とともに空へと舞い上がる。

 私が投げ出された地面には、半球型のクレーターがぽっかりと口を開けていた。

 もちろん爆心地にいるのは私である。


 ちょっと待ってよ。なにがあった?

 私は軽く、本当に軽ーく、ゴーレムを叩いただけのはずですが……?


 しかしその攻撃で穿たれたクレーターの直径は七、八公尺(メートル)ほど。周囲の地面に刻まれた深い亀裂を見て、私の背筋に冷たい汗が伝う。ロジェが事前に張りめぐらせていた防御結界がなかったら、うちの屋敷だけでなく周囲の建物にも被害が出ていたかもしれない。


 ロジェとキトリーの姉弟が、クレーターの中心で途方に暮れる私を、唖然とした表情で見つめている。

 うん。二人の気持ちはよくわかるよ。


 なるほど、これがバーサーカーの加護。

 どうやら私が手に入れた神秘アルカナは、思ったよりも厄介なものだったみたいだ。

 これは辺境送りになるのも当然だね。


 やれやれだよ、まったく。


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