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ベルセルクの冠 〜ハズレ聖女はすべてを暴力で解決する〜  作者: 友ヶ見狗々


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第31話 ミステリー?

 大叔父様との話し合いを終えた私が次に向かったのは、ラシーヌ商会の商隊長、バルダーヌさんの宿泊先だった。

 ラシーヌ商会はベルローズ領の領都に倉庫を持っており、商隊の人々はそこで寝泊まりしているらしい。

 倉庫は煉瓦造りの三階建てで、領主舘にも匹敵する大きさだ。

 倉庫前の広場には商隊の馬車がぎっしりと並んで、休みなく荷物の積み下ろし作業が行われている。


「ようこそいらっしゃいました、アルセリカ様。このような場所ですので、ろくなおもてなしもできませんが」


 倉庫に着いて馬車を降りた私を、バルダーヌさんが慇懃いんぎんに出迎える。

 商隊を護衛する用心棒たちは、どこか怯えたような表情でそれを遠巻きに眺めていた。

 なぜかこの商隊の人々は、私のことを異常に恐れているんだよな。

 王都で広まっていた私の悪評を理由に、護衛を拒否した負い目を感じているのかもしれない。べつに復讐したりしないから安心して欲しい。


「お忙しいところをすみません。今日はバルダーヌさんにお願いがあって参りました」


 事務所の商談室らしき場所に通された私は、軽い世間話を済ませたあとそう切り出した。


「お願い……ですか? 私どもでお力になれることなら良いのですが……」

「そんなに難しいお願いではありません。傭兵の方々への口利きをお願いしたいのです」


 王都や伯爵領クラスの大都市になら傭兵ギルドの支部があるのだが、当然ながらベルローズ領にそんな立派なものはない。新規に傭兵を雇うには、傭兵団に個人的なコネを持つ誰かに紹介してもらう必要があるのだ。


「口利き……ですか。それはもちろん構わないのですが……」


 バルダーヌさんが、歯切れの悪い口調で言う。


「なにか問題がありますか?」

「私と付き合いのある傭兵たちは皆、その……アルセリカ様のことを恐れておりまして……果たしてアルセリカ様の依頼を受けてくれるかどうか……」

「ああ」


 そういうことか、と私は思わず目元を覆った。

 たしかに私にビビり散らしている連中が、わざわざ私の依頼を受けて仕事をしようとは思わないよな。異世界のことわざで言うところの、触らぬ神に祟りなしってやつだ。

 今にして思えば、私に怯えることなく普通に接してくれた〝暁の鷹〟の皆さんは、信じられないくらい貴重な人材だったんだな。


「あの……依頼といっても私と一緒に行動する必要はないんですが、それでも難しいですかね?」

「それは具体的にどういう内容なのでしょうか?」

「主に情報収集ですね。あとは噂を流してもらうこともあるかもしれません」

「噂……ですか?」


 バルダーヌさんが怪訝な顔をした。そんなことのために傭兵を雇うのか、と言いたげな表情だ。


「それは、アルセリカ様をたたえるような噂を領内に広めるということでしょうか?」

「なんでですか。違いますよ」


 なんで傭兵にお金を払って、自分を褒め称えなければならないんだよ。悲しすぎるだろ。


「そうではなくて、アリデイの領都に噂を広めて欲しいんです。〝バーサーカーの聖女〟である私が、従叔母いとこおばを幽閉されて怒っていると」

「アリデイに……」


 バルダーヌさんの瞳に驚きの色が広がった。私が、そんな搦め手でアリデイに干渉しようとするとは想像していなかったのだろう。


「アルセリカ様の従叔母いとこおばというのは、アリデイに嫁がれたマリエット様のことでしょうか?」

「バルダーヌさんは従叔母をご存じなんですか?」

「はい。彼女の婚礼の品を手配したのは、我々ラシーヌ商会でしたので」

「そうだったんですね」


 ほうほう。ということは、バルダーヌさんはマリエットさんと面識があるということか。


「えーと……では、彼女の嫁ぎ先である伯爵家の次男が殺されたという話は?」

「存じ上げています。その情報をアルセリカ様にご報告するべきかどうか迷っていたのですが……」


 そういえばバルダーヌさん、アリデイの情報を調べてくれるって言ってたんだよな。それっきり音沙汰がなかったけど。


「ですが、その……ドルレアック卿に口止めをされてしまいまして」

「え? そうなんですか?」


 まさかの大叔父様が原因だった。

 いや、そうか。大叔父様、マリエットさんから手紙を受け取ったって言ってたもんな。

 伯爵家のお家騒動についても、前から知ってたってことか。黙っていたのは、自分の娘のことで、私を煩わせたくなかったからなんだろうな。


「実は今、アリデイに乗りこむ計画を立てているのです」

「乗りこむというと、アルセリカ様が直接出向かれるということですか?」

「はい。目的は、囚われている従叔母いとこおばの奪還ですね。ついでに、お家騒動を起こした伯爵家の長男とやらの評判を下げてやろうかと」

「伯爵家の長男……ドミニク様ですか。すると、ベルローズ男爵家は親ザーズ派に協力するということでしょうか?」

「は? 親ザーズ?」


 なんだそれ。初めて聞いたぞ、そんな派閥。


「アリデイには、大きく分けて二つの派閥があるんです。ひとつはザーズと対立関係にある主戦派。もうひとつは、ザーズと友好関係にある融和派ですね」

「それが長男派と次男派ということですか?」

「正確に言えば、お二人の母君とその実家ですね。反ザーズ派の筆頭はドミニク様の母君である第一夫人、親ザーズ派の筆頭は亡きエティエンヌ様の母君である第二夫人です」

「もしかして長男と次男の対立は、単純な後継者争いではなかったりします?」

「それもないとは言えませんが、どちらかといえば家臣団の新旧勢力の利権争いという面が大きいかと」

「そうなんですか?」


 待って、なにそれ。どういうこと?

 ザーズ子爵はそんなこと、ひと言も言ってなかったぞ。

 いや、わかるよ。子爵にとって都合がいいのは、親ザーズ派がアリデイの主導権を取ることだもんね。

 彼にとっては反ザーズ派は明確な敵だし、長男のことをよく言う理由もないよな。

 ということで、子爵から聞いた情報の信憑性が、いきなり怪しくなってきたんだが。


「えーと……私、ドミニクという人物は、虚栄心が強くて、横暴で、思慮が浅いと聞いていたんですけど、もしかしてその情報も間違ってたりしますかね?」

「いえ、その評価自体は事実です」


 事実なんかい……


「ですが、それは見方によるとも言えます。虚栄心が強いというのは貴族の誇りを大切にしているとも言えますし、果断な性格は、ときに思慮が浅く見えることもあるでしょう」

「長所と短所は表裏一体ということですか……」


 それはよくわかる話だな。私のこの見た目だって、よく言えば儚げな美少女という評価になるし、逆に頼りない小娘と言われてしまうこともあるだろう。


「アリデイは大きな領地ですが、経済面ではザーズに搾取されているという一面があります。貿易で稼ぐことができないアリデイからは、財貨が流出するばかりですからね。それに対して港からの収入を得られるザーズは税が安く、そのこともアリデイの領民にとっては不満でしょう」

「もしかして、その不満を戦で解消しようという勢力がある?」

「ええ。それが反ザーズ派ですね。一方で、裕福なザーズの支援を受けた親ザーズ派がアリデイの領内で勢力を伸ばしているという現実もあります」


 うーん、なんというか、想像以上に面倒くさい状況だな。

 このままではいずれアリデイは、経済的に恵まれたザーズに従属することになりかねない。

 そうなる前にザーズを叩いて、ついでにザーズが持っている利権も手に入れてしまおう、というのが反ザーズ派の目論見か。一方、親ザーズ派は、その戦争をどうにかしかやめさせたい、と。


「もしかして伯爵家の次男が殺されたのは、戦争を止めようとしたからですか?」

「その可能性は高いです。ただ、その話にも裏がありまして、エティエンヌ様を殺したのはドミニク様ではなかったという噂があります」

「え? そうなんです?」


 次男殺しの犯人は、長男じゃない?


「エティエンヌ様の死因は毒殺だったのですが、そのやり方がドミニク様らしくないといわれています。ドミニク様は剣士のスキル持ちですし、毒殺のような回りくどいやり方を好む方ではありませんので」

「ですが、弟が死んでいちばん得をしたのが、ドミニク様なのも事実ですよね?」

「一概にそうとも言えません。エティエンヌ様が亡くなったことで、ドミニク様を非難する声も高まっていますので」


 うーん、なるほど。ミステリーだな。私はミステリー系の動画も好きなんだ。

 わざわざ他人の家に乗りこんで、探偵役をやりたいとはさすがに思わないけど。

 でも従叔母様が事件に巻きこまれてるんだよな。


「そういうことなら、私は下手に動かないほうがいいですね。ドミニク様についての噂を流すのはやめておきます」

「ええ。そのほうがよろしいかと」

「ただ、いずれにしても情報収集は必要なんですよね。ドミニク様に会わないわけにもいきませんし」


 従叔母様の件があるからね。本人に直接会う前に、得られる情報は手に入れておきたい。


「情報収集というのは、たとえばどのようなやり方をお考えですか?」

「ひとまず酒場や夜のお店に入り浸ってもらえたらいいですよ。そのための予算はこちらで用意します」

「それだけ……ですか?」

「とりあえず、そのあたりが無難かな、と」


 酒場での情報収集は基本だよ。知らんけど。酒場なんて異世界の動画でしか見たことないし。


「いえ、そうですね。そういうことなら、話に乗ってくる傭兵もいるかもしれません」


 そうでしょう、そうでしょう。タダ酒が飲めて、噂話を集めてくるだけで報酬までもらえるんだよ。ダメ?


「話に乗ってきそうな連中に、いちおう声は掛けてみますが……」


 バルダーヌさんが自信なさげに語尾を濁す。

 うーん、なんとなく望み薄っぽいな。

 そんなこんなで私のアリデイ訪問計画は、なんとも不安な感じで進んでいくのだった。


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