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ベルセルクの冠 〜ハズレ聖女はすべてを暴力で解決する〜  作者: 友ヶ見狗々


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第27話 先触れ

 それから二週間ほどかけて、私は領内の至るところに巨大な溜め池を掘りまくった。

 溜め池を掘れば、次はそこから畑に水を引くための水路の整備が必要になる。

 ベルローズ領軍の兵士をその作業に投入することで、ついでに検地と戸籍の作成を行う。

 そうしてわずかひと月足らずの間に、ラプラド地方の検地はほとんど完了したのだった。


「というわけで、こいつがルブルトン地区の報告書だ。パスマールの検地も明日には終わるから、明後日には資料を持ってこられると思う」


 検地の責任者を任せたドナさんが、分厚い紙の束を私の前に積み上げる。

 なんとなく粗暴な印象のあるドナさんだけど、意外に几帳面で真面目なんだよね。若いのに兵長を任されているのは、それなりの理由があるということか。


「ありがとうございます。早かったですね」

「おう。領民たちが、姫さんのあれを見てビビりまくってたからな。めちゃめちゃ協力的で捗った」

「あー……さすがに少しやり過ぎましたかね?」


 私のあれというのは、バーサーカーのスキルを使った溜め池掘りのことだろう。

 最初に派手なパフォーマンスをしたほうが領民の印象に残るだろうと計算してやったことだけど、思ったよりも刺激が強かったみたいで、最後のほうは領民からの恐怖の眼差しがちょっとつらかった。


「俺はいいと思うぜ。領主なんてのは、舐められるよりもビビられるくらいのほうが威厳があって」


 ドナさんはそう言って、ウシシシ、と笑う。


「私としては、ビビらせるつもりはなかったんですけどね。むしろ親しみを持ってもらえればと」

「いや、あんなものを見せつけておいて、親しみを感じろというのは無理があるだろ。俺たちでも最初に見たときは度肝を抜かれたからな。まあ、頼もしくはあったけども」

「そうだったんですか……?」


 私が〝バーサーカーの聖女〟だという噂は遅かれ早かれ広まるだろうから、バーサーカーの加護を平和利用するところを最初に見せつけることで、親近感を持ってもらうつもりだったのだ。


「まあ、領民たちが協力的だったのは、姫さんが気前よく金をばらまいたおかげもあると思うけどな。美味い飯まで喰わせてくれるってのが噂になって、ほかの村から働きにきた連中も大勢いたし」

「働いた人間が報酬を受け取るのは当然のことですよ」


 そう。水路の整備を手伝ってくれた領民には、全員にそこそこの日当と食事を配ったのだ。

 この振る舞いが、前の領主の重税で困窮していた領民たちに好評だった。

 自分たちの畑に使うための水路を掘って賃金とお弁当がもらえるんだから、それに文句を言う領民はさすがにいなかった。この国では領主の命令で領民がタダ働きさせられることなんか日常茶飯事だから、それに比べれば信じられないくらいの好待遇だからね。

 おかげで新しく領主になったベルローズ家に対する領民の好感度は上がったみたいだ。

 まあ、領主代行である私自身は、恐れられてるままなんだけど。


「過去の隠し畑や税のごまかしについては咎めないというのは、ちゃんと伝えてくれましたか?」

「ああ。今後は許さないって話も一緒にしておいたから、だいたいみんな素直に申告してくれたよ」

「そうですか。それはよかったです」


 検地が無事に終われば、正確な収穫量の予測が立てられる。土地の実情に合わせた作物の選定や農法の指導もできる。領地経営の最初の一歩って感じかな。

 問題は、このままのんびり領地を経営している余裕がなさそうということなんだ。


「ところで、ドナさんの意見を聞かせて欲しいんですけど——もし今のラプラド地方で兵士を集めたら、どれくらい集まると思います?」


 私は、ちょいちょい、とドナさんを近くに呼び寄せて、声を潜めて質問した。

 ドナさんがギョッとしたように目を見張る。


「兵を集めるって、姫さん、どこに攻めこむ気だ? やっぱシャルヴェンカか?」

「どうして私が攻めこむ前提なんですか。うちから戦争をしかける予定なんかありませんよ」


 私は半眼になってドナさんを見る。

 最初に顔を合わせたときの状況が状況だから仕方がないが、どうやら私は、ドナさんにめちゃめちゃ好戦的な人間だと思われているらしい。


「ただ、ザーズとアリデイの間でキナ臭い空気が漂ってるという情報があるんです。場合によっては、戦になるかもしれません」

「ザーズとアリデイ? って、そうか。そいつはまずいな」

「はい。ベルローズはその両方と領地を接してますからね。戦争に巻きこまれる可能性は充分にあります」


 直接的に戦争にかかわらなくても、戦で土地を失った領民たちが難民としてベルローズ領に押し寄せて来たり、敗残兵が逃げこんできて山賊化する可能性もある。それに対する備えも必要だ。


「ラプラド郡の人口は、全部で一万二千ってところか。集めようと思えば四百……五百は集められると思うんだが、こないだの戦でけっこう死人が出てるからな」


 そうだね。殺したのは主に私たちだけどね。

 まあ、そのせいで兵士が足りないというのも事実なんだ。


「それにこのあたりの兵士ってのは農民兵だろ? ベルローズの領軍の主体は常備兵だからな。同じ扱いってわけにはいかないよな……」

「ザーズとアリデイが戦を起こすとすれば、農繁期が終わってからという話でしたからね」


 国境防衛のために王家から予算をもらっているベルローズ領軍と違って、ザーズやアリデイに大規模な常備軍は必要ない。それはこのラプラド地方も同じだ。つまり戦のたびに領民から兵士を募ることになる。


「もしザーズとアリデイが本当に戦になったら、うちはどうする気なんだ?」

「そのあたりの判断は、大叔父様に任せますよ。私が決めることじゃないです」

「そりゃそうか」


 親父殿の判断なら間違いないからな、とドナさんが納得する。

 うちの大叔父様は、長年にわたって聖王国の国境を守ってきたベテランだ。少なくとも戦のことに関して、彼を差し置いて私がなにかする必要は感じない。


「とはいえ、前もって準備は必要ですよね」

「そうだな。戦場に連れ出すにしても領地の守りに残すにしても、最低限の調練くらいは済ませとかないと使い物にならねえ」

「それにはどれくらいの時間がかかりますか?」

「欲を言えば三月みつきくらいは欲しいが、最低限のことを仕込むだけならひと月あればなんとかするんじゃねえかな、バルナベの旦那が」


 さすがはバルナベ大隊長。ドナさんから見ても有能なんだな。

 しかし最低限の調練に必要な時間はひと月か。

 間に合うかどうか微妙な数字だな。まあ、やるしかないんだけど。


「ドナさん、人集めをお願いします。できるだけ早く調練を開始できるように」

「おう。任せとけ。兵の数は何人いる?」

「ここは少数精鋭で行きましょう。百人で。その代わり彼らは常備兵として雇います」

「いいのか? けっこう金がかかるぞ?」

「うーん、それはなんとかしますよ」


 私が使っているバロワンの領主舘を残して、ほかの五爵の領主舘は取り潰す予定だからね。そこにある家財を処分すれば、多少はお金になるだろう。


「その間に私は大叔父様に交渉して、バルナベ大隊長を派遣してもらいます」

「わかった。じゃあ、旦那が来るまでに人を集めないとだな」


 ドナさんが、そう言って勢いよく立ち上がる。うん。話が早くて助かるよ。

 そして彼が部屋を出て行き、私が書類仕事に戻ろうとしたとき、入れ替わりに赤みを帯びた黒髪の美青年が執務室に入ってきた。


「お嬢様——」

「あれ、ロジェ? どうしたの?」

「お客様がお見えです。お嬢様にお会いになりたいと」

「お客? 予定にはなかったよね?」

「はい。ですので、まずは先触れの使者が」


 来訪の意思を告げるために、わざわざ部下を先に送ってきたということか?

 ということは、それなりの立場のある偉い人間ということだけど、問題はベルローズ領にそんな人物はいないということだ。代官である大叔父様だって、わざわざ私に使者を立てたりしない。むしろいきなり押しかけてきて、私を驚かせようとするだろう。


「ちなみにその使者は、誰の使いか名乗ったのかな?」

「はい。ザーズ子爵に命じられて来たと」

「…………」


 おい。よりによって、私を今いちばん悩ませている戦争の当事者の片割れかよ。

 子爵自ら私に会いに来たの?

 正式な代官ですらない、領主代行の私に?

 絶対にろくな用件ではないという、嫌な確信だけが広がっていく。

 仮病を使って会わないってのはダメかな。ダメか。


「わかったよ。子爵の来訪をお待ちしているとお伝えして」


 なけなしの自制心を振り絞って、私はどうにかロジェにそう告げた。

 そして唐突な厄介事の襲来に、頭痛を感じながらぐったりと項垂れるのだった。


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