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ベルセルクの冠 〜ハズレ聖女はすべてを暴力で解決する〜  作者: 友ヶ見狗々


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第26話 検地していいかな(いいよ)

 がっつりとお昼ご飯を食べたゼリエは、最初に領主舘に来たときよりも明らかに元気になっていた。

 そんなゼリエとレオンスさん、そして私の三人で、午後からはせっせと溜まっていた書類を片付ける。


 揉め事の裁定などの領主の判断が必要な案件は私。法律の知識が必要な業務はレオンスさん。そして税務などの計算仕事はゼリエという分担で、黙々と書類を片付ける。

 ここで嬉しい誤算だったのは、ゼリエの事務処理能力が、私の想定よりも高かったことだった。


「アルセリカ様、こちらの報告書の計算、終わりました……」

「え? もう?」

「は、はい。検算もしたので、間違いないと思います……あとこれ、たぶん隠し帳簿です……」

「うぇ?」


 ゼリエが怖ず怖ずと差し出してきた帳簿を受け取って、彼女が計算した正しい数字と見比べる。

 実にわかりやすい典型的な二重帳簿。しかし隠蔽工作はかなり巧妙だ。


「ああ……これは酷いね。けっこうな額を誤魔化してるなあ」

「五爵全員で示し合わせてやってたんですね。しかし、この裏帳簿、手が込んでますね。よくこれに気づいたものです」


 皮肉屋のレオンスさんが、珍しく素直に感心したようにゼリエを見る。

 ゼリエは、照れたように俯いて身を縮こまらせた。


「どうしよう? いちおう王家に報告する?」

「無視しておけばいいでしょう。責任を取るべき五爵は全員、墓の下か、国外です」


 レオンスさんは私の相談に、一秒たりとも迷わずに答えた。


「それもそうか。そもそもこれって、領民から余分に絞り取った税だもんね」

「そうですね。どうします? 領民に返しますか?」

「領民の暮らし向きを確認してから決めるよ。ただ、麦をそのまま返すようなことはしないよ。もし喰うに困ってる人たちがいるなら、労役を課して、その賃金という形で配ろうと思ってる」

「いい思案ですね。領主の気まぐれで配られた金よりも、働いて得た金のほうが領民たちの身になるでしょう」


 レオンスさんが、私の意見に賛同する。

 不思議な話だけど、領主からのほどこしをただ受けただけの領民よりも、領主のために働いた領民のほうが、領主に対する好感度は上がるのだ。行動心理学とやらについて語る異世界の動画で、そういう内容のことをやっていた。


「今年の税についてはどうします? 無難なのはベルローズ領の税率に合わせることですが、正直それはお薦めできませんね」

「そうなの?」

「ええ。実はこのあたりは、去年、一昨年とけっこうな凶作だったんですよ。水不足だったり、逆に水害だったりで」


 そういえばゼリエもそんなことを言ってたな。

 彼女の実家の経営が傾いたのも、獣人たちの集落が凶作で貧しくなったからだって。


「でも、大叔父様からはそんな報告は上がってなかったけど……?」

「うちの領地は問題なかったんです。まずは農具が違います。ベルローズ領の農民は、アルセリカ様が考案した新型の農具を使ってますからね。あとは肥料と農薬も」

「あー……」


 黒水晶モリオンで得た知識を手紙に書いて、大叔父様にまとめて送りつけたからなー。本当に凄いのは私ではなくて、私の適当なアドバイスを実直に実行してくれた大叔父様と領民のみんなだけど。


「それにベルローズ領の領民は、麦だけでなく米やイモの栽培に力を入れていますから、税を取られても餓えるようなことはありません。それもアルセリカ様のアドバイスでしたね」

「ああ、うん……まあね」


 それは私が美味しいものを食べたかったからであって、べつに領民のためを思ってしたアドバイスじゃないんだ。ゼリエのキラキラとした尊敬の視線が心に痛い。


「うーん、レオンスさんの言ってることもわかるけど、同じベルローズの領内で税率が違うと不満が出ない?」

「ええ、その心配はありますね」

「それに、この二重帳簿を見て思ったんだけど、これ、領民の側も隠し畑を作ってるんじゃないかな? あとは収穫を過小に申告したりね」

「それは……」


 レオンスさんが真剣に考えこむ。あり得ることだと思っているのだろう。

 ベルローズ領に、大規模な隠し畑がある可能性は低い。国境沿いの防衛線と魔の森に囲まれたベルローズ領は、領軍が隅々まで地形を熟知しており、兵士による見回りも盛んだからだ。

 しかし新たに領地になったラプラド地方はそうではない。元いた領主の統治も杜撰ずさんだし、税率も不当に高かった。こんな状況では領民が自衛のために隠し畑を作るのは、むしろ当然の流れだと思う。


「というわけで、税率を決める前に検地をしたほうがいいかもね」

「検地……ですか……」


 検地というのは、耕作地の広さや所有者などを把握するための詳しい調査だ。

 土地の広さがわかれば収穫量の予想が立てられるし、公平な課税ができるようになる。税の二重取りなども防げるので、領民にとってもメリットがある。

 ただし、隠し畑や収穫量の誤魔化しで、私服を肥やすような行為は不可能になる。

 当然、領民からの反発は出るだろう。


「検地のついでに領民の戸籍も作っちゃおう。今なら領内の地形調査と、五爵に雇われていた傭兵たちの残党狩りを兼ねて、ベルローズ領の領軍を投入できるからね。一石三鳥、いや、四鳥かな」

「たしかにそれが出来れば、税収の問題だけでなく、領地の防衛などの面でも恩恵は計り知れませんけどね。しかし領民が素直に従いますかね……?」


 レオンスさんが険しい表情を浮かべて言う。

 まあ、それはね。隠し畑を取り上げられるとわかっていて、喜ぶ領民はいないよね。彼らも生きていくために必死なのだ。

 最悪、領主に対する反乱すら起きかねない。

 新しい領地を併合した直後に反乱が起きたら、王家だってベルローズ家の統治能力に疑念を抱くだろう。

 だが——


「うーん、それはたぶん大丈夫だと思う。私にいい考えがあるんだよ」

「いい考え……ですか?」


 自信に満ちた私の態度に、レオンスさんがいぶかるような表情を浮かべる。

 そして私の性格を知るキトリーは、どこか諦めたようにこっそりと溜息を漏らしていたのだった。


 ■■■■


「というわけで、今日は溜め池を掘りまーす」


 翌日——

 領主舘にいちばん近い村を訪れた私は、集まってきた領民たちを前にして宣言した。


「し、失礼ですが、あなた様が新しい領主様なのでしょうか?」


 村長とおぼしき老人が、私の前に跪きながら恐る恐る尋ねてくる。

 まあ、数え年十歳の小娘がやってきて、いきなり領主を名乗られても困るよね。


「ベルローズ男爵家のアルセリカといいます。領主代行として、この土地を治めることになりました」


 よろしくね、と私はにこやかに手を振ってみせる。

 領民たちの顔に浮かぶのは困惑と不安。そしてかすかなあなどりの表情だ。

 そんな領民たちの反応を見て、私の護衛としてやってきたドナさんたちが苛ついているのが伝わってくる。


「あの、溜め池を掘るというのは、この土地にでしょうか?」


 私の背後にある斜面を眺めて、領民たちが困惑する。

 溜め池造りの候補地として私が選んだのは、岩だらけの荒れ果てた土地である。鉄製の農具をもってしても、簡単に掘り返せるような地形ではない。


「溜め池、あったらいいと思いませんか? 大雨で山からの水が流れこんできて畑が水浸しになるのも防げますし、水不足のときにはここから畑に水を引けますよ?」

「そりゃここに溜め池があったらどんなに助かるかわかりませんが、わしらにはこの岩肌を掘り返すような余裕はねえっす」


 村長が、悲愴な表情を浮かべて言った。

 溜め池の有用性は、彼らだって理解しているのだ。しかし現実問題として、この土地に溜め池を作ることは彼らには不可能だった。それを今更、溜め池を掘れと領主に命令されても、ふざけんな、としか思わないだろう。


「あー、安心してくださいね。今から私がちゃっちゃと掘っちゃうんで」

「は?」


 私の言葉の意味が理解できなかったのか、領民たちが固まった。


「え……と、溜息を掘るというのは、領主様がご自分で……ですか?」

「領主代行ですけど、そうですよ。危ないから、皆さんは離れていてくださいね。ドナさん、誘導をお願いします」

「おっしゃ! 聞いたな、おまえら。姫さんの命令だ! あの木の向こうまで離れてろ! 言うことを聞かねえやつはぶっ飛ばす!」


 ドナさんと彼の部下たちが、領民たちを私から遠ざける。

 彼らとの距離が充分と判断したところで、私はスキルを発動した。


「〝暴装バーサーク〟!」


 濃厚な魔力の糸で紡がれた着ぐるみパジャマが私の全身を包みこみ、それを見た領民たちが目を見張る。

 要領としては、魔物の死体を埋める穴を掘ったときと同じだ。

 ただ、こっちは地面が固そうなので、あのときよりも力を入れていいかもしれない。

 そんなことを考えながら、私は地面に爪を立てる。


 ドゴン、という巨大な爆発音とともに、地面が揺れた。

 そして凄まじい爆風が巻き起こる。

 分厚い岩盤がめくれ上がり、ひと抱えほどもありそうな巨大な岩塊が、小石のように撒き散らされる。

 その衝撃は、五十公尺(メートル)以上も離れた領民たちのところまで到達し、彼らを一斉に薙ぎ倒した。

 念のために連れてきていたロジェが土属性魔法の結界を張り、飛び散る砂礫から領民たちを守る。

 それでも領民たちは顔面を引き攣らせ、互いに抱き合いながら震えている。

 やがて、もうもうと立ちこめた土煙が収まると、私の眼前には深さ十五公尺(メートル)ほどの巨大な穴ぼこが生まれていた。これはもう立派な溜め池だ。


「こんなものでどうですか、村長さん。もう二、三発、いっときますか?」


 避難していた領民たちのほうを振り返って、私は訊く。

 腰を抜かしていた村長さんは、しゃかしゃかと這いずってその場に平伏し、額をグリグリと地面に押し当てた。


「い、いえ。もう充分でございます、領主様。これだけの立派な溜め池があれば、日照りや大雨の被害に遭うことも減りましょう」

「そうですか?」


 せっかくスキルを発動したのに、あっさりと終わってしまって私としては少々欲求不満だ。

 ただまあ、この穴もけっこうでかいしね。当事者がもういいと言う以上、勝手に穴を拡げるわけにもいかないだろう。


「では、このあと皆さんの畑に向かって、うちの土魔法使いと領軍の兵士が水路を掘っていきますね。畑の所有者の方はそのときに、立ち会いをよろしくお願いします」


 私はちゃっかりとそう言って、実質的な検地を行うことを告知する。

 領民たちはそれに文句を言うことなく、深々と頭を下げるのだった。


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